Σ(゜д゜lll) 最終兵器は進化する(その二)
新型《空中戦艦》が赤の回廊に登場するよりも前、『役者連館』は歓喜の渦に包まれていた。
期待の新人、真鈴野マユハが回廊を突破したのだ。
この朗報に、役者たちの士気は、目に見えて高まっていく。
しかも、《役者勢》にはまだ、最強の秘密兵器があるのだ。そう、新型《空中戦艦》が。
ところが、マユハ以降は誰一人として回廊を突破できない、そんな状況がしばらく続く。
士気が高まっていた分だけ、反動は大きかった。楽勝だと思っていたのに、大苦戦を強いられるなんて・・・・・・。
役者たちの中に、焦る者が増え始める。
(まずは戦力を小出しにして様子を見るという《閣下隊》の方針、あれに従っていて、本当に大丈夫なのか?)
(貴重な残り時間を、浪費しているだけじゃないのか?)
(ひょっとして、《閣下隊》には別の計画があって、自分たちだけ逃げようとしているんじゃ・・・・・・)
次々と芽生えてくる猜疑心。
役者たちの間で暴発の気運が高まりつつあることを、《閣下隊》も強く感じとっていた。
焦っている者たちは欲しているのだ。今一度の戦果を。
ならば、新たに回廊を突破する者が現れればいい。その人選を急いで話し合う。
ところが、それが実現するよりも先に、さらに追い打ちをかける出来事が起きてしまう。
一部の役者たちの焦りが、「役者以外の者たち」にも伝染してしまったのだ。
そもそも、役者たちと違って、衣装係・大道具係・小道具係には、《ゲキバン》の経験がないのだ。
一方で、本日の《無無劇》、その幕が完全に降りきるまでに、ここ『役者連館』から「全員」が脱出しなければならない。
この事実を、《閣下隊》は無視していたわけではなかった。
先に説明してある。ここにいる「全員」を必ず脱出させると。
その方法として挙げていたのが、新型《空中戦艦》だった。あれの内部に、役者以外の者たちを十人前後「保護」して、少しずつ『奥館』へと逃がす作戦だ。
しかし、新型《空中戦艦》は秘密主義を徹底している。同じ《役者勢》の《閣下隊》ですら、一部の者にしか、その正体は知らされていない。
衣装係・大道具係・小道具係のほとんどにとって、新型《空中戦艦》は未知の存在だ。彼らが不安になるのも当然だろう。かつての《空中戦艦》は初陣で、無惨な大敗北を喫している。しかも相手は、新人の《劇番衆》だった。
この状況下で、裏方の者たちは噂し合う。
(役者たちはひょっとして、自分たちを見捨てるつもりじゃ・・・・・・)
そんな不安が拭えない。だから、ぜひとも見せて欲しい。新型《空中戦艦》の実力を。
早く戦果が欲しい役者たちは、これで完全に勢いづいた。裏方からの要望を武器にして、声高に主張する。新型《空中戦艦》を使うべきだ。
ここにきて、《閣下隊》は苦しい決断を迫られることになった。
無理に抑え込もうとすれば、一部の役者たちが暴動を起こしかねない。
それに連動して、衣装係・大道具係・小道具係による、大規模なサボタージュが起きる可能性もあった。彼ら裏方の協力なくして、この窮地は乗り切れない。
ならば、認めるしかないだろう。
「新型《空中戦艦》を使用する!」
ただし、条件をつけた。
「まずは、赤の回廊で雪辱を果たすべし!」
マユハの回廊突破によって、こちらの情報はすでに、『奥館』へ伝えているのだ。もう少し先延ばしにできれば良かったが、あとは期待するしかない。この状況を、代表支配人がどうにかしてくれることを。
そんな《閣下隊》の苦しい心境はつゆ知らず。新型《空中戦艦》投入の指示に、赤の回廊周辺にいる役者たちからは、大きな歓声が上がった。
すぐさま二百人以上が、赤い衝立を飛び出し、回廊内に雪崩れ込む。
彼らの一人が号令を発した。
「新型《空中戦艦》、発進準備!」
この一番艦は、《役者勢》のみで運用する。衣装係・大道具係・小道具係は同行させない。
まず、四十五人の役者たちが、所定の位置に着いた。
その周囲では、残りの役者たちが、二人一組で肩車をつくる。
それらが一塊に集まり、築き上がった外観は、まさしく「人間防壁」だ。
要した人数は、二百八十五人。
最初の「新型」が完成する。
その先で待ち受けているのは、かつて《空中戦艦》を屠りまくった二人だ。《千手の狂王》と《爆轢の無法少女》。こちらからの呼びかけに応じて、最高の相手が立ち塞がっている。
これで雪辱を果たす舞台は整った。
役者たちは信じている。《劇番衆》の最終兵器が《ゲート・シャッター》なら、《役者勢》の最終兵器は、この新型《空中戦艦》だと。
さぁ、今こそ力を合わせて、赤の回廊を突破する時!
二百八十五人の役者たちが、声を揃えて叫んだ。
「新型《空中戦艦》、発進!」




