Σ(゜д゜lll) 最終兵器は進化する(その一)
赤の回廊内に、極大の緊張が走り抜けた。
回廊の奥、『役者連館』側にある赤い衝立、そこから出てきた役者たちの数は二百人以上だ。
彼らは一斉に突撃してくるのではなく、その場で「準備」を始めた。
この時、赤の回廊内にいたのは、アヤトとメモリではなかった。マユハ突破のあと、二人は交替して休憩をとっていたのだ。
代わりに出ていたのが、二人組の女の子だった。どちらも真っ白なジャージを着ているが、つけているエプロンの色が違う。片方がピンクで、もう片方がオレンジだ。
二百人を超える《役者勢》の登場に、彼女たちは顔を真っ青にして、『奥館』側まで走ってくる。
「私たちじゃ無理です!」
「交替してください!」
この行為を、無様だとか、臆病だとか言って、笑い飛ばす《劇番衆》は一人もいなかった。
アヤトははっきりと感じる。その場にいる者たちの視線が、自分たちに集まってきているのを。
さらには、『役者連館』の方から、こんな声も聞こえてくる。
「《狂王》、出てこい!」
この展開に、白いジャージ姿のメモリが、にやにやしながら囁いてくる。
「アヤトのこと、呼んでるっぽいね」
そこで聞こえてくる。「《無法少女》も出てこい!」という声。
「メモリのことも、お呼びっぽいぞ」
「ンナワケ、ナイデショーガ」
白目になり、ロボット口調で返してくる彼女。
しかし、すぐに元の表情に戻ると、
「二つ名をつけるなら、もっとかわいいやつにしてくれないと。ちっちゃくてかわいい私に、失礼だと思わんのかね」
そう話しながら、メモリがバズーカ砲を肩に担いだ。
「それじゃあ、ちょっくら遊んでこようか。《狂王》さん」
「だな。《無法少女》さん」
アヤトはメモリとグータッチをする。壁に立てかけていたハリセンを握ると、彼女と一緒に赤の回廊へと足を踏み入れた。
回廊の反対側では、役者たちの大半が、二人一組になって肩車をつくっている。
その状態で、彼らは一塊に集合しつつあった。
見た目から判断して、あっちの「準備」は九割方、終わっているようだ。
アヤトは一人で、回廊の先へと歩いていく。
自分は前衛として、できる限り多くの役者たちを、このハリセンで迎撃するのだ。叩けなかった分は、後衛のメモリに任せればいい。
回廊の『奥館』側から「三十三メートルの位置」、白いラインが引かれている場所まで進んでいく。
ラインの少し手前、そこで足を止めると、アヤトは緑色のハリセンを構えた。
直後に、役者たちが声を揃えて叫んでくる。
「新型《空中戦艦》、発進!」
その巨体がゆっくりと動き出した。
と同時に、「せーの」の掛け声がして、白い物体が十数個、『役者連館』側から赤の回廊に投げ込まれてくる。
トイレットペーパーだ。
それらは途中で切れることなく、白い軌跡を描きながら、回廊の真ん中付近まで飛んできていた。
トイレットペーパーは床に落ちてもなお、大きく波打っている。『役者連館』側で、そうなるように揺らしているのだ。
白い波を従えて、《役者勢》の最終兵器が迫ってくる。
アヤトは頭の中で、自分自身を鼓舞する。
が、その一方で耳の奥では、ある不安が引っかかっていた。
さっき役者たちは言っていた。新型《空中戦艦》と。
(新型?)
その単語が何を意味するのか、この時のアヤトはまだ知らない。




