Σ(゜д゜lll) 頭の整理
アノン監督の話を聞いて、海箱ユユは考える。
彼女の話が本当かどうかは、遊園地に確認すればいい。
さっそく電話をかけてみる。
それで遊園地のスタッフ数人に話を聞いたところ、次のような証言を得ることができた。
その日、アノン監督は一人で、遊園地を訪れていたらしい。ごく短い滞在時間だったそうだ。行きも帰りも、何だかこそこそしていたという。
また、アノン監督が来る少し前に、《アンゴール会》の姿も園内で目撃されていた。彼らは、行きはこそこそしていたが、帰りはものすごく上機嫌だったとか。
そのことを証言したスタッフは、《アンゴール会》が帰りに何を持っていたのかまでは、覚えていなかった。
海箱ユユは受話器を置く。
(アノン監督の話は本当のようですね)
ここで一旦、頭を整理しておく。
先ほど午後五時過ぎに、抱いた疑念。この『海箱座』の中に、アコンプリスの内通者がいるかもしれない。
その可能性を疑った時、真っ先に浮かんだのが、《アンゴール会》だった。
こういうことを最もやりそうなのが、彼らなのだ。他にも、怪しいと感じた理由は色々とある。
この推理が正しく、《アンゴール会》が内通者だったなら・・・・・・。
海箱ユユは表情を険しくする。
アコンプリスから届いた二回の暗号、《アンゴール会》が解読した内容を、無条件に信用することはできなくなる。
たとえば、ウソの内容に改竄すれば、こちらを攪乱することができてしまう。また、暗号の中で何らかの指示を出していた、そんな可能性だって・・・・・・。
そこで問題となるのが、アノン監督だった。
彼女にも同じ暗号の解読を頼んだのだ。その解読内容は、《アンゴール会》と一致している。
片方がウソをついているのなら、もう片方もウソをついている状況。常識的に考えるなら、アノン監督も内通者?
とはいえ、あれら二回の暗号解読において、《アンゴール会》がウソを一切ついていない、そんな可能性もなくはない。
が、可能性だけを根拠に、アノン監督への疑いが、すべて解消されるわけでもなかった。
この件を最大限に警戒するなら、今すぐにでも彼女の身柄を抑えるべきだろう。
けれども、困ったことがある。
アノン監督は本日の舞台監督だ。
そして彼女の《無無劇》は、他の曜日の監督たちと違って、当たり外れが非常に大きい反面、予想外の舞台になりやすく、そこに強い魅力を感じているお客さまも、少なくないのだ。
彼女が監督する舞台だからこそ見たい。なのに突然、別の監督に変更となったら、楽しみにしていたお客さまたちを、失望させてしまうことになる。
アコンプリスを捕まえることも大事だが、本日の舞台を見にきたお客さまも大事だ。
どちらも大事だからこそ、その時の状況に応じて、臨機応変な対応が必要になってくる。
これは面倒なことになりそうだ。
(優先順位を間違えないようにしないと)
海箱ユユは深いため息をつく。
午後五時過ぎの時点で、アノン監督が内通者だという、確たる証拠はなかった。
そのあと、マユハが回廊の突破に成功した。あれに関する要望を伝えに、アノン監督が代表支配人室に来るという。
それでひとまず、彼女に話を聞いてみようと思ったのだ。特に、暗号解読の件。
アノン監督が《劇番衆》の大部屋でシャワーを浴びている間に、マユハが運んできた《閣下隊》の手紙には目を通していた。
あの手紙によると、《アンゴール会》は今朝、不審な荷物を、『役者連館』に運び込んでいたらしい。
しかも現在、地下三階にある猫巫女ユスズの研究施設を、頑丈なシャッターで閉鎖しているのだとか。
彼らはアコンプリス側に立って行動している、そう断定してもいいだろう。
片や、アノン監督には今のところ、そのような「利敵行為」は見られない。
暗号解読の件では、《アンゴール会》と解読内容が一致しているものの、それだけで、アコンプリスの内通者と決めつけるのは、性急すぎるかもしれない。
仮にそうだとしても、《アンゴール会》ほどの共犯関係にないのでは・・・・・・。
海箱ユユは熟考の末、自分の中での方針を定めた。
これからアノン監督に話を聞いた結果、容疑が晴れるようなら、本日の舞台は予定通り、彼女に任せる。
容疑が晴れないようなら、その時は仕方がない。代わりの舞台監督は、千座一達にやってもらおう。
ただし、アノン監督に聞き取り調査をしたとしても、すぐに事実を白状してくれるとは限らない。彼女にやましいことがあるなら、黙秘してくることだって・・・・・・。
一方で、今日の舞台の開演時間が迫ってきている。
それで一計を案じてみた。手品用のペンを使った、あのハッタリがそうだ。
おかげで、ごく短時間に、彼女の口を割らせることに成功した。
(と、こんな感じでしょうか)
海箱ユユは頭の整理を一区切りすると、アノン監督への聞き取り調査を再開した。




