Σ(゜д゜lll) ここは絶対に通さない!
午後五時十八分。
蔵王アヤトは前方に視線を向けたまま、
「とんでもないことになったな」
声をかけた相手は、百瀬メモリだ。彼女がいるのは、前衛のアヤトがいる位置から、三十メートルほど後方にあたる。
現在、《ゲキバン》の真っ只中だ。が、開始直後からの《役者勢》の猛攻、それに一時的な空白が生まれていた。
この時間を利用して、アヤトは少しだけ緊張を緩めておく。
開始直前にアノン監督から発せられた、全回廊への完封指示。
さらには、今日の《ゲキバン》における、二つの特殊ルール。
――《役者勢》は何回でも再挑戦可能!
――本日の《ゲキバン》が終了するのは、舞台の幕が完全に降りきった時!
それらのせいで、今日は数時間の戦いになることが予想される。
おそらくは、四時間ないし五時間。その間ずっと、倒しても倒しても、役者たちは際限なく「復活」してくる。
ただし、《役者勢》が再出撃可能な分、こっちも自由な交替が可能だ。
今日のシフトに入っていない《劇番衆》が現在、ここ『奥館』に集結しつつある。
赤の回廊を担当している者たちも、すでに数名が到着していた。回廊のすぐ外側で、アヤトとメモリの戦いぶりを眺めている。
こうして赤の回廊の戦力が厚みを増していく中、アヤトは今の状況について考えていた。
この異変、黒幕が何かをしてきたに違いない。『役者連館』の一階で爆発が起きたらしい、という声も耳にしている。
黒幕側にいる先輩は、大丈夫だろうか。
あと、『役者連館』で待機中の、マユハのことも心配だ。
他にも、気になることがある。
今日の《役者勢》の気迫は、これまで以上だ。この勢いで、もしも《空中戦艦》を使ってきたら・・・・・・。
想像するだけで、冷や汗が流れる。
メモリの武器がバズーカ砲に変わったので、回廊内の壁を跳ね返りまくって役者たちを叩いて回る、あの「回廊エアホッケー」は使うことができなくなった。
不利になったのは、それだけじゃない。
アヤトは思い出す。今日の《ゲキバン》が始まる少し前だ。
メモリが早口で話していた。
あの専用武器、射程はおよそ八十メートルだとか。装填できるペイント弾は、最大で八発まで。
そのため、戦闘スタイルが大幅に変わるらしい。メモリが後衛なのは相変わらずだが、『奥館』近くの白いラインぎりぎりに構え、弾を撃ちつつ、こまめに補給する戦い方になるそうだ。
なお、補給の際には毎回、回廊の外に出なければならない。
したがって、二百人以上が一斉に押し寄せてくる《空中戦艦》、あれとの相性は悪すぎた。
もしも《役者勢》が《空中戦艦》を使ってきたら、アヤト一人で、相手のほぼ全員を迎撃することが要求される。
後衛に任せていいのは、最大で八人まで。それ以上になると、ペイント弾が足りなくなるのだ。
今日の場合、メモリが補給している間、一時的に他の《劇番衆》と交替する、そんなことも可能だが・・・・・・。
突然、回廊の向こう側で、役者たちの歓声が上がった。
アヤトは警戒の視線を、急いで飛ばす。
(《空中戦艦》では、なさそうだけど)
さらに歓声が一段と大きくなり、『役者連館』側にある赤い衝立、その奥から、黒いジャージ姿の女の子が現れる。
マユハの登場に、アヤトは驚いた。
(今日の《ゲキバン》には、参加しないはずじゃ)
けれども、彼女の表情は真剣だ。『役者連館』で何かあったらしい。
それで回廊の突破を挑んできている。
しかし、アヤトの方にも「完封指示」が出ているのだ。
ゴーグルの通信機で指示を仰ぐが、アノン監督からの返事はない。
となると、「完封指示」の継続・・・・・・。
アヤトはハリセンを握る手に力を込める。
マユハの事情はわからないが、これは《ゲキバン》で、ここは《関所回廊》。
そして、自分は《劇番衆》で、彼女は《役者勢》だ。
この場所で、こうして対峙してしまった以上、本気で相手をするまで。
(ここは絶対に通さない!)




