Σ(゜д゜lll) 赤の回廊で激突(マユハ視点 その一)
マユハは心の中で、少し笑っていた。
アヤトは本気だ。
だから、こっちも全力で、回廊突破に挑戦するまで。
今さら迷いはない。赤の回廊を一歩ずつ、『奥館』側へと進んでいく。
それに合わせるように、集中力が前に向かって、研ぎ澄まされていく。
アヤトがいる場所まで、残り数メートルになった。まだハリセンの届かない位置だ。
そこで立ち止まると、彼を見据える。
数日前の『橋舞台』で見たのと同じ姿を、アヤトはしていた。
白いジャージの上に、金色の法被。ユユさんの『時空回廊』に一人で立ち向かった、あの日の雄姿が、自然と脳裏に甦ってくる。
正直言って、アヤトは強い。
でも、負けるつもりはなかった。
視線だけで想いを伝える。「必ず突破する」と。
アヤトの両目は、「絶対に阻止する」と返してきている。
この無言の会話が、マユハには嬉しかった。
瞳を閉じて、呼吸を整える。
背後からは、《役者勢》の声援が聞こえてきていた。
アヤトは初陣で、《空中戦艦》を連続撃破している。《役者勢》にとっての難敵だ。
だが、あの時の彼を、自分は突破している。しかも単騎で。
だからこそ、他の役者たちは期待しているに違いない。あの時の再現になるか。本日はまだ誰一人として、回廊を突破していないのだ。
そのことに重圧は感じていなかった。ここまできたら、自分にできることをするだけ。回廊を突破して『奥館』にたどり着き、《閣下隊》から託された手紙を、ユユさんに届けるのだ。
マユハは瞳を見開く。
(いくよ、アヤト)
素早く脚を曲げると、勢い良く飛び出した。
瞬時にアヤトも動く。
すかさずマユハは、左右への小刻みな移動に切り替えた。
二人の間には、回廊の白線がある。
この線を踏む、または越えてしまうと、《劇番衆》は迎撃能力を失う。そうなった状態で、《役者勢》をいくらハリセンで叩いても、「無効」となるのだ。
失った迎撃能力を回復するためには、三秒間の『待機』が必要になる。この間、役者たちの進行を妨げないよう、違反した《劇番衆》は、横によけておかなくてはならない。
マユハは初陣で、このルールをうまく利用し、アヤトを突破していた。
しかし、今回も同じ方法が通用する、とは思っていない。
アヤトの反復横とび、以前よりも鋭さを増している。その動きに対応するので精一杯だ。
つい考えてしまう。過去に彼を突破できたのは、たまたまだったのかも。
ただし、活路はある。




