表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
232/389

Σ(゜д゜lll)  もしもの場合に備えて

「もしもの時には、責任を取ります」


 海箱ユユは真剣だった。


「このことは、『八人座会』でも触れるつもりです。劇場にお越しのお客さまに危険のともなう方法を、あえて選択するわけですから。最悪の場合、現在の『奥館おくかん』を失う可能性だって・・・・・・」


 その時には、お客さまにも、かなりの被害が出るだろう。三年前の大火災では、お客さまとスタッフに、一人の死者も重傷者も出さずに済んだが、今回も同じとは限らない。


「お前さんが指揮をる限り、そうひどいことにはならないと思うがな。仮に、最悪の事態になったとしても、次の代表支配人、その候補なら他にもたくさんいるだろう。よそを当たってくれ」


 渋る一達に対して、海箱ユユはきっぱりと言った。


「いいえ、あなた以外に考えられません」


 もともと、自分が『海箱座』の代表支配人になれたのは、一達の言葉による後押しが大きい。


 ――新しい代表支配人は、新しい『奥館』とともに、新しい風を『海箱座』に吹き込める人物にすべきだ。


 そういう経緯があるだけに、「せっかく若い人に任せてみたのに、大失敗して辞任した」となったら、「次の代表支配人も若い人に」とはならないだろう。


 当然、反動はあるはずだ。


 それは、代表支配人という役職に限定されない。


 たとえば、《劇番衆げきばんしゅう》や《役者勢やくしゃぜい》、その他の裏方においても、若手を軽視しベテランを重視する、そんな風潮に変わることも考えられる。


 ある程度は仕方がないことかもしれないが、それが苛烈かれつを極めるものになっては困るのだ。


 いざという時、『海箱座』の若手たちを守ってあげられるのは、千座一達以外に考えられない。


 だから、自分が辞任することになったら、次の代表支配人をお願いしたいのだ。


 一達はしばらく沈黙していたが、


「返事は保留する。今は、それでいいか?」


「十分です」


 海箱ユユは微笑する。断ってこなかった、それだけでも意味がある。


「ところでユユよ、一つ聞いておきたいのだが」


「何でしょう?」


「次の『赤曜日』、舞台監督は誰に任せるんだ?」


「そのままアノン監督にお任せしよう、と思っているのですが・・・・・・」


 もともと『赤曜日』の担当は彼女だし、暗号解読を頼んだ関係上、今回の件について、色々と事情を知っている。


 とはいえ、この大一番を、彼女一人に任せるのは、どうにも心もとない。


 だから、お願いしようと思っていたのだ。この話題が、相手の口から出たのは好都合。


「次の『赤曜日』、もしもの場合に備えて、『奥館』に待機していてもらえますか?」


「やだ」


 そうくるのは予測済みだ。すでに、このあとの行動は決めてある。


「次の『赤曜日』、もしもの場合に備えて、『奥館』に待機していてもらえますか?」


 同じ内容をリピートした。


「・・・・・・」


 沈黙しても駄目。「はい」と言うまで、何度でも♪


「次の『赤曜日』、もしもの場合に備えて、『奥館』に待機していてもらえますか?」


「おいおい、こっちは病人だぞ。『八人座会』にも出席するというのに、その上さらにか」


「問題ありません。先ほどお医者さんに会って、許可をもらっておきました。だいたい、病気はもう治っているそうじゃないですか。そういうわけで、『奥館』待機よろしく!」


「なんてことだ。昔はあんなに愛らしかったユユが、今では冷酷非道な女になってしまった。こんな老人をこき使うなんて・・・・・・」


 ウソ泣きだとわかる演技をしてくる。


 海箱ユユは冷ややかな視線を向けた。


 それで、この戦法は通用しないと理解したらしい。


「しかし、あの子は納得したのか? 自分の舞台に、他の監督が口出ししてくる可能性があるんだぞ。しかも、その相手が・・・・・・」


 弱り顔で、自らを指差す一達。


 それについては、海箱ユユも少しだけ心配している。


 とはいえ、ここは強気に答えた。


「まだですが、そこは私が何とかします」


「無理だと思うぞ。あの子とは、あれだし。お前さんとルックナーの関係みたいなもんだから」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ