Σ(゜д゜lll) タイムリミットが迫って来ている
海箱ユユは『奥館』の代表支配人室にいた。
横長の高級机に向かって、お菓子を片手に、思考を巡らせていた。
海王丸邸のある島では現在も、港の封鎖、小型艇による包囲網を続けている。
しかしながら、島内の捜索では、隠れ家から逃げた人物を、未だ発見できていなかった。現場から届くのは、お決まりの定時連絡のみだ。
海箱ユユは視線を飛ばす。机の上には、お菓子のお皿やティーセット一式の他に、電話や置き時計があった。
普段なら時間を知るのに、『役者連館』壁面の巨大時計を見ることが多いのだが、今は夜だ。外は暗い。だから、置き時計の方を頼った。
間もなく夜の一時だ。タイムリミットが刻々と迫って来ている。
海王丸邸のある島は、半分が別荘地だ。島内には大勢の観光客がいる。島の出入りを制限する措置を、長くは続けられない。
そのため、すでに関係各所へ通達していた。朝の六時になったら、港の封鎖、及び、小型艇による包囲網を解除する、と。
したがって、残り五時間。
島内の捜索だけは、規模を落としてでも続けるつもりだ。でも、あまり期待できそうにない。
(最善の手を尽くしたつもりだったんですが・・・・・・)
海箱ユユはため息を吐こうとして、その途中で自制した。
モトナの姿が、視界に入ったのだ。
模擬戦のあとで彼女には、ホテルへ戻るよう勧めたのだが、
――お姉ちゃんが見つかった時、すぐに知りたいんです。
ほんの少し前まで、かなりがんばって起きていたけれど、さすがに疲れたのだろう。モトナはソファーベッドの上で、ぐっすりと眠っていた。
彼女の『異世界転生者』としての能力、『あれ』のおかげで、模擬戦は最高に楽しめた。
ただし、あの能力には反動がある。朝になる頃には、おそらく・・・・・・。そっちの方のタイムリミットも迫って来ている。
(点滴スタンドが一つだけだと、たぶん足りないですね。石化少女たちとの勝負は、余計だったかもしれません)
あの戦いも楽しかったが、能力による反動を考えると、
(自重しておくべきだったかも)
ほんの少しだけ後悔する。
とはいえ、《劇番衆》を統括する身としては、本当に実りある結果だった。
アヤト、ケイリィ、鈴木一億、石化少女たち、そして・・・・・・。
彼らは強くなっている。
さらなる成長も期待できる。
実に、頼もしい後輩たちだ。
机の引き出しの一つに、海箱ユユは視線を移動させた。
そこには、入っている。《劇番衆》時代に使っていた、自分の武器・・・・・・。
この部屋から《ゲキバン》を見ていて、たまに思うことがある。「また戦ってみたいな」と。《劇番衆》としてのブランクは長いけれど、モトナの能力を使えば、それを補えるはず。『風陣八式』の技だって使い放題だ。
迫り来る役者たちを迎撃する。そんな自分の姿を想像して、にこにこしていると、卓上の電話が鳴り出した。
慌てて受話器を取る。
と同時に、モトナの方をちらりと見た。
彼女はよく眠っている。起こさなかったことに安心して、海箱ユユは電話の声に耳を傾けた。
「代表支配人、夜分失礼します」
きりっとした声。警備チームの隊長からだ。
あの大火災の翌日、劇場の焼け跡で大怪盗のカードを見つけた時、彼も一緒にいたので、今回の件でも、色々と事情を話してある。黒幕のこと、峰谷マノのこと・・・・・・。
現在は『奥館』の警備から外れてもらい、五十人の隊員たちを指揮。警察と連携して、『志歌島』内をパトロールしてもらっている。
隠れ家を失った黒幕サイドが、騒ぎを起こすとしたら、ここ『志歌島』を狙ってくる可能性が高い。その予防策だ。
受話器を握ったまま、海箱ユユは横目で置き時計を見る。定時連絡の時間ではない。
(ひょっとして、何かあったんでしょうか)
そうだとしたら、この電話、良い知らせなのか、悪い知らせなのか。
「北の港湾エリアで、先ほど不審人物を発見しまして」
海箱ユユは思わず、身を乗り出した。
(それって、もしかして・・・・・・)
峰谷マノという可能性もゼロではない。今夜、黒幕サイドが行動を起こすとしたら、変身能力を持つ彼女は打ってつけだ。
それでパトロールに見つかったのかも。たとえ姿を変えていても、怪しげな行動をしていれば、職務質問の対象になる。
海箱ユユは期待しながら尋ねる。
「その不審人物、捕まえましたか!」
「もちろんです!」




