Σ(゜д゜lll) 一達の推理
一達は順を追って説明していく。
海箱ユユによる、先日の『役者連館』前でのパントマイム。
「もしもあれが、初めてのドーピング事例だったなら、と考えた」
あの能力は、非常に便利だ。好きな時に身体能力を強化できるとなれば、それ以前にも、ユユには使う機会があっただろう。
しかし、そういう事例は、特に記憶になかった。あの時が最初だったと仮定しても、問題ないように感じる。
その場合、他人の身体能力を強化できる『異世界転生者』は誰か、かなり絞り込むことができそうだ。
なにせ、組合の記録には存在しない能力だ。
過去の『異世界転生者』が、組合には加入せず、自分の能力を隠している。そんな可能性もあるが、それよりもありそうなのは、新たにやって来た『異世界転生者』の能力だということ。
一達の推理だと、後者の可能性は、九〇パーセントくらいある。
「あの日、この街には、複数の『異世界転生者』が現れた」
蔵王アヤト。
峰谷モトナ。
百瀬メモリ。
真鈴野マユハ。
いずれも、峰谷マノを追ってきた者たちだ。
この四人の中に、問題の『異世界転生者』がいるに違いない。
ただし、一人は簡単に除外できる。
「『異世界転生者』の能力は、基本的に一人一つずつだ」
過去の記録によると、ごくごくたまに無能力の者はいたが、二つ以上の能力を有していた者は存在しない。
したがって、百瀬メモリは除外できる。彼女はすでに、鎧の能力を見せているのだ。
アコンプリスが笑いながら尋ねてきた。
「〈彼女を闇討ちしようとすれば、どうなると思う?〉」
「こちらが返り討ちだろうな」
「〈同感だ〉」
「だから、放っておくのが一番だ」
「〈それも同感だ〉」
なおもアコンプリスは笑っている。
こちらが放った刺客を、鎧状態の百瀬メモリが、楽しそうにボコボコにしている。そんな光景でも、想像しているのだろうか。
同じ絵面を思い浮かべて、一達も吹き出しかけたが、どうにか堪えて先を続ける。
問題の『異世界転生者』は誰か。
次に除外できるのは、真鈴野マユハだ。
一達が集めた情報によれば、海箱ユユが『役者連館』前で行ったパントマイム、あの時点で、ユユとマユハはまだ出会っていない。能力を使用するのは不可能だ。
よって、残りは二人になる。
蔵王アヤト。
峰谷モトナ。
あの時点で、ユユと出会っている二人だ。
こちらの計画遂行上、最大の危険要素となり得るのは、このどちらかだろう。
ここで注目しておきたい事実がある。
模擬戦の一戦目、蔵王アヤトは海箱ユユと戦っているのだ。
あの状況で、格上と思われる対戦相手の身体能力を、わざわざ強化しようとするだろうか?
「〈ないな〉」
アコンプリスも認めた。
これで残りは一人だけ。
「峰谷モトナを誘拐するぞ」
一達は提案した。最大の危険要素は、事前に排除しておくに限る。
それに対して、アコンプリスは慎重だった。
「〈もしも違っていたら、どうする?〉」
問題の『異世界転生者』が、峰谷モトナではなかった場合。
「その時は、その時だ」
大雑把に言う一達だが、頭の中では、人違いだった場合に備えて、もしもの時の修正プランを考え始めていた。




