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のんびり魔法使いは楽しく生きていきたい  作者: らんたろう
第九章 ハムシンカム教国
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199話 大聖堂

前回のお話:ぐへへ、ええ金持ってますやん。それ、わてにくれまへんか、とフーテンが思ったらしい。


  ???:「吾輩はそんなこと……思ってないニャン!」


 色々と街の様子を見て回って、そろそろ宿にでも戻ろうかという雰囲気になったころ、近くにあった教会を見てカナンカが話を切りだした。


 「せっかくじゃから観光客らしく教会も見て見ようではないか」

 「それは……止めた方がよろしいのではないでしょうか?」


 突然のカナンカの言葉に、せっかくお忍びで来ているというのになぜ堂々と目立つようなことをするのかと呆れた様子でウィステリアが止めに入る。


 「どのような感じで天竜が祭り上げられているのか我としては気になるところじゃ。天竜が母上かどうか確かめる手掛かりになるかもしれぬしの」

 「ふむ、俺も少し気になる」

 「でしたらせめて姿を隠して入りましょう。堂々と行くのは流石に危険です」


 ちゃんとした理由があるとわかるとウィステリアも渋々承諾したが、昼間でなくてもよいのではという疑問はカナンカに言っても無駄であろうと追及はしなかった。


 「流石にいきなり宮殿へ忍び込むのも悪くないとは思うけど、リスクを下げられるなら俺も反対はしない。どうせ隠れていくんだから大きい教会の方がいいかもしれないね。予行演習にもなるし」

 「旦那様なら予行演習などせずとも宮殿へそのまま忍び込んでも問題ない気もしますが……」

 「俺って臆病だからさ、ここでカナンカのお母さんじゃないとわかれば無理に宮殿に行く必要はなくなるじゃん」

 「旦那様が臆病って、下手な冗談ですね」

 「おい、どういう意味だ」

 「痛いです、でも……いいっ!」


 ランドルフがアプスの顔を掴んで拳をグリグリと押し当てたのだが、受けている何故か本人は悦んでいる……。


 「外から見た宮殿の様子ではやはり総本山だけあって、警備の人数が多く厳重です。ですが、やはりランドルフ様の仰られたように空からの警戒は甘いようです。中から監視している者達は皆前を向くか庭や通路を見下ろしていました」

 「だったらカレンと一緒に私たちでも楽に忍び込めるんじゃない?」

 「あのねアプス、確かにそうかもしれないけど、相手の装備も間取りも何もわかっていないのよ? 油断は禁物」

 「旦那様とカナンカ様なら問題なさそうだけど……そうね、らしく無い事を言っちゃったかも」

 「他国に来たからってちょっと浮かれてるんじゃない?」

 「そんなつもりはないんだけど……ちょっぴり反省します」


 相変わらず仲がよろしいようで。

 二人のやり取りを見ているといつも微笑ましい気分になるんだよな~。


 カナンカもニヤニヤと二人の様子を見ていて、ランドルフと同じような気持ちになっているようだ。


 「んじゃ目的は決まったし、行きますか」


 目の前にある教会ではなく、街の人に訪ねてもう少し大きい教会へと向かうことにした。






 流石に三回目ともなる為か、警備は厳重だろうとフーテンは思っていた。

 『二度ある事は三度ある』とも言うが、これは今回、襲撃される側が警戒しているだろうと思っていた。

 しかし、いざ下調べをしてみると逆側だったようで、夕暮れ時だったこともあってか、ちょうど警備の交代時と重なって感じ取れる人の気配はまばらであり、屋敷から出ていく傭兵たちはこれから飲みに行こうなどと同僚たちと話し合っている姿が見られた。

 フーテンにしてみればまたも警戒が薄いと感じていて、これはチャンスだと直ぐに忍び込める準備をする。


 「三度目があるとは思っていなかったのか?」


 拍子抜けしたフーテンが屋敷の中へとあっさり侵入するが、以前まで金銀財宝が置いてあった宝物庫は流石に空っぽであり、流石にどこかへ移動したのだとわかると、懐から間取り図を取り出してじっと眺める。


 あの取引現場で見せたメロファクトの焦るような表情……。大事なものは手元に置いておきたいという心理が働くと考えて寝室か仕事部屋を調べてみるか。はずれだったら教会の方を調べよう。


 行動を開始すると、寝室には予想通り鍵のかかった鉄の箱が置いてあり、鍵を破壊して中を開けると袋に入った金貨がジャラジャラと音を立てた。


 見た目と重さ……ざっと千枚か。取引予定で使用される金貨だな。

 だがこの程度ではまだまだ軽い、もう少し取引を潰せる程の金を持っていきたいところだが……。

 しかし、連日こうもあっさり侵入できるのは最早罠と疑ってしまうな。

 もしそうであっても取引を潰すために奪わねばならないのだけれども……。


 移動された財宝がどこに行ったか調べている時間はないので、この金貨を部下に預けたら次はメロファクトが勤める教会だろうと目星を付ける。

 さっさと脱出して次の獲物を狙おうと考えている時であった。


 「いたぞっ! 屋根の上だっ!」

 「ちっ!」


 いつの間にか外には屋敷を囲むように傭兵や教団の戦士たちが集まっていた。


 「やはり罠だったか」


 フーテンは屋根の上から跳躍して庭の木に降り立つと、枝をバネのように反動を利用して外壁の上へと素早く飛び乗った。


 「追えっ! 追えっ!」 「網を投げろっ!」 「今度こそ逃がすなっ!」


 交代で外に出ていったように見せかけて、実は様子を見ながら包囲していたか。

 ちょっとは考えたが、この程度では吾輩の速さには追い付けんよ。


 通行人たちも戦士たちの動きを見てフーテンが現れたのだとわかると、噂を聞いてそこかしこから人々が集まり始めた。

 夕飯の買いだしや仕事を終えて帰っている人、はたまた飲みに出かける人などか大勢集まり、それを見たフーテンが金貨をバラまき始めた。


 「皆さんお勤めご苦労様ですニャ!」


 そう言ってフーテンがばら撒いた金貨を集まった人々が我先にと拾おうとする。


 「どけっ! 邪魔だっ!」 「その金貨はメロファクト様のものだぞ! 勝手に拾うんじゃない!」


 拾い集めた人々が邪魔で戦士や傭兵たちの行動にばらつきが出始め、追跡の手が緩くなる。


 「ニャ~ッハッハ~!」


 外壁を走ったまま金をバラまき続け、屋根の上に逃げてもまだばら撒き続ける。

 追手も屋根に上って追跡しようとするが、人が邪魔で登れている数は少ない。

 最初から屋根の上で待機していた者たちがフーテンの後ろを追うが、フーテンが金貨を顔に投げつけてくるので避けようとしてバランスを崩して落下する。


 「頑張れフーテン!」 「ありがと~!」 「カッコイイ~!」


 声援に答えて手を上げると声援が歓声に変わり、応援してくれているであろう数人が戦士たちの行く手をわざとらしく妨害する者まで現れ始めた。

 このまま順調に逃げ切れるだろうと気を緩めず後方を確認すると、屋根の上を行く追手の数は片手で数えるほどしか残っていなかった。

 それらも金貨を投げつけて撃退すると、大きく迂回して下に降り、脱出の算段を付けようと思って辺りの様子を観察していた。

 しかし、そこでこの騒ぎに巻き込まれたのか、親とはぐれてしまったであろう子供が泣きながら母親を呼んでいた。


 ……吾輩は弱きものの味方であるならば見過ごすことはできないか。

 こういう事も騒ぎを起こせば起こりうるであろうとは思っていたが……。


 追手には注意しなければならないので、建物の隙間から下に降りて騒ぎから外れた安全なところで誰かに金を掴ませて預けようと考えた。


 「え~んっ! おがぁ~さ~んっ!」

 「少年、お母さんとはぐれたのかニャ?」


 突然の黒ずくめの男登場に子供がピタリと泣き止む。


 「……怪盗フーテン?」

 「義賊だニャ!」

 「本物なの?」

 「本物だニャ。吾輩は今追われているのでお母さんを見つけることはできないが、少年を安全な所まで運ぶニャ。さっ、おいで」

 「わ~い! フーテンだっ!」

 「あまり騒がないでほしい……ニャッ!?」


 フーテンが手招きをして嬉しさのあまりに大声で叫ぶ子供を近くに寄せたのだが……。


 「本物のフーテンだよね? だったら……捕まえなきゃ」

 「お前はいったい……」


 ……ドサッ


 いつの間にかフーテンの懐には五寸釘のような太さの針が刺されており、意識が朦朧としてくることから何らかの即効性の毒が塗られているとわかったところで意識を失った。

 冷ややかな笑みを浮かべている子供は赤いフードを被ると魔法を空へ飛ばして仲間を呼び寄せた。







 「中は神秘的な感じで綺麗なんだねぇ」


 ステンドグラスの窓に白い内装。所々金色や青色が映えて目立つ様相と落ち着く色合いが複雑に混じっている。


 「中も確かに良い感じじゃが、外の竜の石像が我には好印象じゃな」

 「人がいるので礼拝中かと思いきや、子供たちが勉強していたようですね」


 その子供たちの保護者達と思われる人々が扉を開けて中に入ると同時にランドルフ達も姿を消して、話し声が漏れないように小さく結界を張って宙に浮かびながら中へと入った。


 宮殿があるのでランドルフ達がいる場所というのはいらないと思われがちかもしれないが、宮殿はお偉い方の住居であり大きな神事の時にだけ開かれるもので、普段は各区域の教会などで一般人に教えを説く事になっている。

 

 「さっ、皆さん、今日はもう終わりですよ」

 「え~、まだ司教様と一緒に勉強する~」 「司教様と一緒に勉強したい~」 「お話の続き聞かせて~」

 「困りましたねぇ。お父さんお母さんがお迎えに来てますよ?」


 一人の司教と呼ばれた竜人の若い男性が子供たちに囲まれて困ったような表情をしている。

 保護者がその司教から子供を離してお礼を言って去っていくが、子供は駄々を捏ねて今度は微笑ましい顔の保護者を困らせていた。


 「ハフィード司教様、先程取ったお野菜ですがお納めください」

 「これはこれは、瑞々しいお野菜をいつもありがとうございます」

 「子供の面倒を見てくださっている司教様やこの大聖堂の方々へのせめてものお礼です」

 「貴女方の行いにはきっと天竜様が見守り喜んでおられることでしょう。ありがたく頂戴いたします」


 その後も次々と喜捨をするものやお礼を言うものが現れ、駄々を捏ねる子供たちが保護者に連れて帰られる。


 大きい教会じゃなくて大聖堂だったか。


 ランドルフは認識を改めた。


 「なんだか街の人々との評判とここで働く教団の人達は評価が違うようですね」

 「でかい組織ほど派閥があって、一部の者が悪さをしてるだけなんだろう。みんながみんな悪い人じゃないという事さ」

 「我々も派閥ができたとしても悪しき存在にはなりたくないものです」

 「皆がそう思っているうちは大丈夫さ」

 「しかし、子供が言っておったお話とやらは我としても聞きたかったところじゃな。何か手掛かりになる話だったかもしれぬし」

 「そうだねぇ~」


 今のハムシンカム教国の興りはレスタイト王国での勉強で大体の事は知っている。

 だがランドルフ達が気にしている竜天女の事については何も記されてはいなかった。


 「どこかに資料室みたいなところはないかな? 大聖堂ならあると思うし」

 「調べてきましょう」

 「しばらくここで様子を見てるから頼もうかな」

 「かしこまりました」


 ウィステリアが姿の消せるマフラーに魔力を流して地面へと降ろしてもらうと、素早く壁の方へ移動して物陰に隠れながら大聖堂の奥へと消えていった。


 「司教様、最近何かと怪盗フーテンの話題が溢れかえっていますけど、ここでは何か盗まれた物とかございませんか? もし困るような事があれば微力ではございますが何かお手伝いをできればと思っております」


 昨今の街の様子を気にした保護者が心配そうに尋ねてきた。


 「殊勝な心掛けに感謝申し上げたいところではございますが、今のところ何か盗まれた物はございませんし、噂ではどうもフーテンとやらは不正の疑いがある屋敷ばかりに忍び込んでいる様子。それは商人であろうと我々教団側であろうと、もちろん一般人であろうとも貴賤なく行われているようですが、このカティドライヤ大聖堂が襲われていないというところを見ると、フーテンには我々の行いは悪くないものと認めてもらえているようですね」

 「ハフィード司教様、フーテンが認めているなどという発言はあまりよろしくないかと思われますが」


 司教の付き人らしい人物がそっと諫言する。


 「そうですね、失言だったかもしれません。例え仮に悪人を懲らしめる為の行いであったとしても盗みを働いている者なのですから」

 「自由への解放は人々の望み。虐げられてきた故人を想えばフーテンの行いは故人の思想に通じる部分はあると思います」


 今度は保護者の一人が意見を言った。付き人もそれを言われると、と弱った顔をしている。


 「私もそれは感じています。虐げられている者がいないと思いたいところではありますが、ペレシュド島の人々を思うとそういうわけではないのでしょう。悪人がいるという事は悲しんでいる人もいるという事です。貧しくとも幸せだと感じている人もいるでしょう。ですが、フーテンは悲しんでいる人々を無くそうと行動し、その活躍は人々を笑顔にしています。行いはあまり褒められたものではありませんが……難しい問題ではありますがね。ですので私はフーテンとは違うやり方でこうして子供たちに教育を通してより良い未来に導いて行ければと思っています」

 「流石司教様です。フーテンの行いを咎め、認めつつも深い考え方に感服しました。私も自分でできることを模索して天竜様のお考えに添いたいと思います」

 「それは素晴らしい事です。きっと天竜様もお喜びになるでしょう。貴方達に天竜様のご加護があらんことを」

 「ご加護があらんことを」


 両手で自分の頭を胸をお腹を順に触った後に胸の前で手を組んで感謝をささげるポーズを取ったあと、保護者達は帰っていった。


 「ふ~ん、教義についてはよく分からんな」


 ランドルフはどうでもいいような冷めた目で様子を眺めていた。


 「結局は時代や立場や国によってものの見方が変わるわけだし、そういうものなんだと受け止めるしかないと思うけどね」

 「私たちを救ってくださった旦那様にはそれはもう言葉では言い表せられない感謝をささげていますよっ」


 アプスが腕に抱き着きながら言った。


 「日頃の行いでそれは理解しているさ」

 「旦那様ッ!」


 アプスが抱き着く力を強めた。


 「でもそれも俺の都合でしかないわけだ。アプス達がそう受け止めるのは自由だけど、こっちとしては別の思いがあったからね」

 「それでも確かに私たちは救われたんです」

 「……止めよ止めよ。もうこの話は何回もしてるし、今や明日が幸せに暮らせるならそれでいいさ」

 「ふむ、きっと、その天竜とやらもランドルフとアプスのような同じような状況ではなかったのかと思うのじゃ」

 「というと?」


 カナンカが冷静に言った。


 「正直なところ、人間など我々にとって蟻にも等しい存在であるからな。大方、魔物と一括りにして噛みついてきたのをやり返したことが偶々彼らの先祖を救ったというところにつながるのじゃろう」

 「ありえなくはない」

 「そんな蟻にも等しいと思っている種族の旦那様を好きになっちゃったカナンカ様だったのでした」

 「なんじゃ、何が言いたいのじゃアプス?」


 アプスの発言にイラっと来たカナンカが怒気を飛ばす。


 「別に~?」


 アプスはその怒気をランドルフの陰に隠れることで難なく受け流した。


 「ふんっ、ランドルフは別じゃ。蟻ごときが一匹で我を追い詰められるでも思っておるのか? きっとランドルフは姿こそ人族であるがきっと別の存在じゃと今では思うておる。でなければそれほどの魔力を内包できるわけがない。普通なら身体が魔力に蝕まれて弾け飛ぶじゃろう」


 そう言ってカナンカがアプスとは反対側からランドルフの腕に抱き着いた。


 「まぁ、確かに旦那様の魔力は異常ですけど」

 「蟻ではなく、少なくとも我以上に強い存在じゃ。そこに何とも表現できぬ魅力を感じる」

 「抜けてる所も多々ありますけど、そこがまた異常な存在の中で人間らしいと言いますか、可愛らしいんですよね。基本的に優しいですし、いざという時はやはり頼りになりますし」


 うっとりした顔でアプスが語りだした。カナンカも頷いている。


 「君たち、自分でも魔力についてはおかしいと思ってるけど、人じゃないとか異常だとかはっきり言われると恥ずかしいしちょっと傷つくな~」

 「「……嘘ですね」じゃな」

 「ばれた?」


 自分が何者であるかの考えを放棄しているランドルフが気にしているわけがないと二人は思っている。


 そんな話をしていると、司教と付き人達が後片付けをして奥へと消えていった。

 ランドルフ達は司教を追いかけることもなく床に降り立って近くにあった椅子に座った。


 「……目立つ行動か」

 「どうしたんですか突然」

 「いや、フーテンが目立って裏では証拠集めや徐々に人々の心を掴んでるじゃない?」

 「そですね」

 「ランクイロ達に目立ってもらおうかなって思ってさ」

 「そうすれば監視の目がそっちに行って我々は自由に動き回れるというわけですね?」

 「そうだねぇ~。うちから来たって事がばれなかったら普通にレスタイト王国からの観光客って事で欺けるんじゃない?」

 「ランクイロ達にはそういう事も起こりうるとは伝えて心づもりはさせています」

 「そうなのか」

 「そうなんです」

 「だからランクイロはあんなに緊張してたのか」

 「知らなかったんですか? てっきり最初から旦那様は考えていらっしゃるものだとばかり」

 「いや~、俺ってポンコツだね~!」

 「そういう所が可愛らしいのですが……」


 ランドルフがそう言って笑うがアプスはどうも信じていないようだ。


 「勘違いだとわかった連中は気が抜けて監視の手を緩めてくれるかもしれない」

 「そもそも旦那様なら今すぐにでも忍び込んでも問題ないと思いますが」

 「さっきウィステリアに言われてたじゃん、油断はいけないよ」


 ランドルフはそう言うが、アプスとしては油断でもなんでもなく単純にできると思っているから言っているだけだった。


 そんな話をしているとウィステリアが戻ってきたようだ。

 ウィステリアの姿は見えないが魔力や空間把握で感知していてすぐにわかった。

 だがウィステリアにもこちらの姿が見えないので辺りをきょろきょろしているので、少し驚かそうと背後から忍び寄って肩を叩く。


 「ッ!?」


 カンッ!


 驚いたウィステリアが素早く抜いたナイフが見えない壁にあたり甲高い音がなると、それで察したウィステリアが警戒しながらもランドルフが自分の空間を広げた事で見えるようになり、ホッとしたのもつかの間、ランドルフを咎めるような視線で睨んできた。


 「ランドルフ様、お戯れが過ぎます」

 「ごめんごめん、いい動きしてるなと思って」


 適当なことを言ってウィステリアのお小言を受け流すが、ウィステリアは許してくれないようだ。


 「攻撃してしまい申し訳ありません。ですがこういう場ではやめていただけるようにお願いします」

 「クックック、今のはランドルフがどう考えても悪いの」

 「そんなお茶目なところも好きです」

 「あのね、やられた方は堪ったもんじゃないの! アプスもわかるでしょ!」

 「ホントごめんって。何かお詫びするから許して」

 「ほんとにもう……。でしたらこの麒麟の短剣と似たような効果の短剣をもう一本ください」


 ここぞとばかりにウィステリアが強請った。

 彼女たちはいつも戦闘時には二本の短剣を使って攻撃するので、片方だけ良い武器だとどうもバランスが悪いようだ。


 「うげっ、高くついた!」

 「クックック、自分で言ったのじゃから約束は守るんじゃぞ」

 「仕方ないか~」

 「これに懲りたら悪戯は止めてくださいね」

 「はい……」

 「旦那様、私には……?」

 「お前にはこの前、魔法ライフル上げたじゃん」

 「私には悪戯いっぱいしてくれでかまいませんのでお願いします! ウィステリアだけなんて狡いです!」


 ウィステリアが呆れた表情をする。


 「だが断るね」

 「そんな~」

 「それよりどうだった?」

 「書庫の場所はわかりましたが、ざっと見た感じ歴史書や管理書ばかりでした。案内します」

 「無視された~」


 ピッキングで書庫のカギを開けたのだろう、ウィステリアの案内で中に入ると確かに羊皮紙製の本がたくさん並んでいた。

 ざっと見て歩いたが竜天女の事に関するタイトルはなさそうである。

 歴史書をざっと読んでみたが竜天女の事は書かれていなかった。


 「ハズレか」

 「結局直接会いに行くしかないか」

 「う~む、できれば母上でないと良いのじゃが……」

 「そんなに怖いの?」

 「別に怖くないぞっ!」

 「声を張って即答するところが怪しいですね」

 「やかましいぞっ!」

 「痛てててっ!」


 カナンカがアプスの耳を引っ張って黙らせる。


 「じゃあ、ランクイロ達に今晩わざと見つかるように仕向けないとね」

 「作戦変更ですか?」


 離れていて会話を聞いていなかったウィステリアが尋ねた。


 「今晩忍び込んじゃおうかなと」

 「まだ巡回する戦士たちの装備や間取りもわかっていませんが……」

 「偉い人っていうのは大抵高い位置に寝泊まりしてる者なんだよ」

 「そんないい加減な……。でもあながち間違いではないですね。ランドルフ様なら空から容易に侵入できますし、結界もありますから大丈夫でしょうけど……命令なら従いますが……」


 納得がいっていないのか渋い顔をするウィステリア。


 「大胆なのか臆病なのか……。はたまた面倒くさい?」


 それが正解なのかもしれない。


 「ちょっとっ! 問題があっても補佐するのが私たちの仕事よウィステリア」

 「問題が無いように準備するのも私たちの仕事よアプス」

 「仲がよろしいようで」

 「「当然ですっ!」」

 「きっちり声を揃えおった、クックック」


 二人の仲の良さをアピールしたところで大聖堂から抜け出し、建物の影に隠れて宿へと帰る。

 辺りはすっかり日が沈んでいて、街の明かりが勝っていた。







 「ご主人、どうす……しますか?」

 「いきなり尋ねられても何のことかわからないよ」


 お互いに情報交換しようとウィステリアを遣わしてカレンを伝言係として呼んでもらった。

 今回はちゃんと夕食を食べ終えた後であるので、カレンのお腹が鳴る事はないだろう……多分。


 「昨日の人、捕まりました」

 「……フーテンが捕まったって事?」


 コクリと頷くカレン。


 「……どうしよう?」


 ランドルフがアプス、カナンカ、ウィステリアを見て言った。

お読みくださいましてありがとうございます!

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