196話 義賊フーテン
前回のお話:酔っぱらいに話しかけられた。
「何故だ、何故初日にして早速トラブルが発生するんだ……」
ランドルフは目の前の状況に納得がいかずに頭を抱えていた。
アプス達が見守る中、目の前には黒ずくめの人物がカレンの伸びた手で簀巻きにされて転がされていた。
直接口を塞がれて喋る事はできないが、こちらを険しい表情で威嚇しながらどうにかできないかと視線をきょろきょろとさせている。
カレンのもう片方の腕には気絶しているウィステリアが抱え込まれていて、アプスが介抱するようにそっと受け取ると抱きかかえてベッドに運んだ。
「どうしてこうなった……」
ランドルフががっくりと肩を落としながら呟くと、カレンは報告しろと問われていると思ったのか喋り始めた。
「ウィステリア様がやられたから……。ご主人が、人は無暗に殺すなって。訓練でもそう教わったので、連れてきました」
色々と言葉が抜けて理解しずらいが、何となく状況を察する。
「別に連れてこなくてもよくないか? 倒して放置していたらこちらの事を知られることもなかったのに……」
「判断に、困ったので……。次は、そうします」
「いや、状況に応じてはそうしろという意味だ。その辺はもっと訓練を積んでくれ」
俯き加減にシュンとするカレン。
それと同時にカレンのお腹が音を立ててた。
「はぁ~、まあいい、よくウィステリアを助けてくれた。その点は褒めるべきだ」
「そうですね、ウィステリアを無事に連れて来てくれてありがとう。よくやったわ」
「うむ、よくやってくれたのじゃ」
三人に褒められてちょっぴり照れくさそうにするが、すぐにまたお腹の音が鳴った。
「腹が減ってる所悪いけど、もう少しちゃんと説明してくれ。どういう状況だったんだ?」
ランドルフがもう一度問いかけると同時に空間魔法で部屋を包み込みこんで外に音が漏れないようにした。
部屋の中の空気が変わったことに黒ずくめの人物が反応を示すが、何も起きないとわかると大人しくなった。
「宮殿の、様子を見た帰りでした」
カレンがゆっくりとした口調で話し出す。
やはり所々言葉が抜けていてわかりにくかったのだが話をまとめると、宮殿の下見を終えた二人は人混みから外れて裏路地に入り、屋根に上って人混みを避けて帰ることにした。
屋根を飛び次いで移動するウィステリアと、鳥に変身して並走していたカレンだったが、突然目の前に大きな風呂敷を抱えた黒ずくめが屋根の上へと飛び上がってきた。
黒ずくめの人物も飛び乗った屋根で走る音がするまさかの事態に警戒したようだが周りには誰もいなかった。
姿を消しているウィステリアは慌てて急停止して黒ずくめの人物をやり過ごそうとしたのだが、感覚が鋭いのか黒ずくめの男があろうことか見えていないはずのウィステリアに向けて殴りかかってきたのだ。
「それだけでウィステリアが気絶させられるとは思わないけど」
ランドルフの疑問に対して、カレンが黒ずくめの人物の口の手を放して喋らせる。
「吾輩は風の流れを捉えることができるニャ」
「にゃ?」
「今、にゃ、って言いましたね。声からして男ですか」
「自分の事を吾輩という言う奴を初めて見たのじゃ」
カナンカの一言にランドルフ達が一斉に振り向き視線が突き刺さる。
「な、なんじゃ? お主たち」
「何でもない。話の腰を折ってしまった。続きをどうぞ」
「……吾輩は俊敏で感覚も鋭いのニャ。その女性はなかなかの手練れだったニャ。けど吾輩にはまだまだ及ばなかったニャ」
男が自慢げな顔をするとアプスの顔がひきつる。
「それよりもその幼女はいったい何なのニャ? いきなり空から現れて吾輩があっさり捕まってしまったニャ。油断したニャ! ありえないニャ!」
黒ずくめの男がギャーギャー騒ぎ始める。
落ち着くのを待った後に話をまとめると、ウィステリアも応戦したが見えていないはずの攻撃がかわされて、逆に相手の攻撃はウィステリアの居場所を正確に捉えたかのような素早い攻撃で防戦一方になったそうだ。最後にはスピードの乗った蹴りを食らって気絶してしまった。
空からその様子を眺めていたカレンは、ウィステリアが倒され後に黒ずくめの男が近づいたのを見て、止めを刺そうと思っているのではないかと考えて変身を解除して直上から猛スピードで背中に蹴りをかましたらしい。
その際に家をちょっぴり壊してしまったとか。
「最初はこの男も気絶してましたが、運んでる途中に起きたので、口を塞いで連れてきました」
「おかしいニャ! 何で手が伸びるニャ! 縛り付けられていた時は身体中の骨が折れそうなほど力が強かったニャ! 痛かったニャ! 謝罪するニャ!」
「ご、ごめんなさい?」
「謝らなくていいのよ? 元はと言えばこの男がウィステリアを攻撃した事が発端なんだから」
理不尽な要求に素直なカレンは謝ってしまい、襲撃犯が目の前にいるにもかかわらず緩い空気が出来上がっていた。
名前をそのまま呼び合っているのも気にしていない様である。
「で、なんで攻撃したの。ってかその頭の布を取って」
「や、やめるニャ! 吾輩の正体はばれてはいけないニャ!」
「そう言われると余計に知りたくなるなぁ~」
ニヤニヤと悪巧みする顔のランドルフ。
正体を知る前に武器の類をチェックしようと男に近づいて外套などを脱がせた後、頭の布を剥ごうとする。
「へぇ~、シャムセームか。いい趣味してるね。見たところ鍛造っぽいな」
ランドルフはアプスが剥ぎ取った武器を見て興味深そうに調べている。
「なんと! 抜いてもいないのに見ただけでわかるのかニャ!?」
「まあね」
空間魔法と錬金術の組み合わせで解析しただけなんだけどね。
「ちょ!? や、やめっ、だめニャ! 柔らかっ、あ、あぁ~!」
「お前結構ノリノリなんじゃないの?」
「そんなことっ、あっ、ニャー!」
アプスが無理矢理布を剥ぎ取ると、ぴょっこりと猫の耳が立った。
「猫の獣人ね~。まぁ、話の語尾からして知ってたけど」
「だめニャ! 見ちゃだめニャー! 義賊フーテンの正体は誰にも知られちゃだめなのニャ!」
最後の抵抗とばかりに顔を高速で左右に振るが、アプスが顔をしっかりと掴んで止めさせる。
それでばれないと思ってるのかな?
なんて見苦しい……。
「というかフーテンって……怪盗フーテンか」
「怪盗じゃないニャ、義賊ニャ!」
「そこは拘るところなのか」
正直どうでもいいな。それにしても並みいる傭兵たちを薙ぎ倒したって言うからもっと屈強な奴かと思ったけど意外と細身なんだな。それに若く見える。
「おぬしがフーテンか」
「くっ、ばれてしまってはしょうがないニャ。ハムシンカム教の不正を暴き、弱き者の味方をする。その名も、義賊フーテンだニャ!」
「そういうのいいから。簀巻き状態で顔をキリッとされても締まらないよ」
「ニャニャ!? そうだニャ! いい加減放すニャ!」
カレンがどうするのかと問いかけで見てくるので小さく首を振ってまだ駄目だと合図しておく。
「で、なんで攻撃してきたの。こっちは何もしなかったんだから放っておけばいいものを」
「追手かと思ったニャ。とうとうそこまでやるようになったかと感心していたニャ。まさか違ったとは思わなかったニャ」
「本音は?」
「気になって手を出してしまったニャ!」
「「「……」」」
ドヤ顔で言うフーテンに全員が呆れた顔をする。
「好奇心、猫をも殺す……か。猫の獣人だけに」
「あんたも吾輩の正体を知ろうと無理矢理顔をさらけさすニャンて人の事言えないニャ」
「確かに」
「納得しないでください。これは必要な処置です」
苦笑するランドルフだが、好奇心で仲間を攻撃されたとあってアプスは怒りがこみあげてきた。
「いきなり攻撃した吾輩も悪かったと思ってるニャ。でも一般人は屋根の上を走りまわってなんかいないニャ! じょーじょーしゃくりょーのよちがあるニャ!」
「そんなものはありません! 死刑確定です。よくもやってくれましたね!」
「薄情ニャ!」
「白状するのはあなたです!」
「上手い事言うのぉ」
「旦那様のが移りました」
テヘッとポーズを決めるアプス。
先ほどまでの怒りはどこへやら……。やっぱり薄情なんじゃないか?
アプスの気持ちの切り替え方は異常だった。
「一言いいかな? というかそろそろ言いたい。この流れなら言える」
「なんニャ?」
「男がニャーニャー語尾に付けたってちっとも可愛くないんだよ! むしろ気持ち悪いわっ!」
「ニャ!? 心外ニャ! これは癖のようなものニャ! 方言と言ってもいいニャ! 馬鹿にするニャンて酷いニャ!」
「あ~、うざったいわ~」
「落ち着いてください旦那様。あなたまでこの雰囲気に乗せられてどうするんですかニャ? それよりもこの男の処分をどうするんですかニャ?」
「最初に流れを作り出したお前が言うな、って語尾にニャを付けるな」
「旦那様の可愛い基準に含まれてると思いましてニャ」
アプスが片足を折り曲げて手を頭の上に持っていき猫耳のポーズをする。
「あざとい。それにどちらかというとウサギの耳って感じがするな。可愛いけど……」
「やった、やりました!」
今度は拳を握って喜ぶアプス。
可愛いけど、の部分は小声で言ったのだが、耳のいいダークエルフにはしっかりと聞こえていたようだ。
「ランドルフや」
「なに?」
「ニャ?」
カナンカまで照れくさそうに真似をし始めてしまった。
「うぐっ、お前まで乗せられるなよ」
「ど、どうなのじゃニャ?」
「か、可愛いとは思うけど、語尾が滅茶苦茶になっとるぞ」
照れている姿にやられたランドルフも恥ずかしそうにしている。
いらない空気を読んだのか、カレンも流れに乗って頭からひょっこり猫耳を生やした。
「「カレンはずるい」のじゃ!」
ずるいと言われてもランドルフが優しく愛でるように見てくるので調子に乗ってピョコピョコと動かしてアピールする。
すると、カナンカが妬ましそうに睨みつけてくるのでこれ以上は不味いと猫耳をひっこめた。
「カレンの能力を私にも下さい! 旦那様をもっと誘惑するのです」
「わ、我には不要じゃが? ランドルフが気に入るというのなら変身魔法を研究するというのも吝かではないぞ?」
アプスがカレンの肩を掴んで激しく揺さぶり、カナンカがランドルフの方を照れくさそうにチラチラと見てくる。
そんな、どうじゃ? みたいな顔で見られても……。どうしてこうなった……。
もはや襲撃者がいるという緊張感は……最初からなかったのかもしれない。
「お~い、皆さん吾輩の事忘れてませんか~」
「ごめん、もうちょっと彼女らの気が済むまで待ってくれ」
「ニャ~……」
ついでにウィステリアの事も忘れられていた。
気絶しているウィステリアに治療を施して再び横にした後、三人の気が済んだところで話を再開する。
「そう言えば盗んだ荷物はどこいったにゃ? おいてきたかニャ?」
「おいてきました」
「フーテンに取りに行かせるわけにもいかない。カレン、取ってきたら夕食を取りに戻っていいから持ってきて」
「はい!」
やっと夕食にありつけるとカレンはフーテンをその場に捨て置いて素早く窓から部屋を飛び出そうとした。
「ぶぎっ!?」
だが開けられると思っていた窓は見えない壁によって阻まれていた。
激突したカレンの上半身が水滴のように床に滑り落ちてゆくというグロテスクなようでコミカルな状態になってしまった。
「ごめん、今解除したから行ってきて」
すぐに上半身が元の状態に戻ると、今度こそ窓から飛び出して夜影に消えていった。
カレンが出ていった後、アプスがすぐに窓を閉めてランドルフが念のために再び結界で逃げ道を塞ぐ。
「ところで、元の持ち主に返してこいとは言わないんですね」
「「……」」
「クックック」
だって違う国の金銀財宝って興味あるじゃん?
別にどうこうしようなんて……思ってない……よ?
「決して、今なら横取りしてもフーテンに罪を全部押し付けられるとかなんて、思ってるわけないじゃん!」
「声が漏れてますよ」
「結構酷いお兄さんだったニャ。余計なことを言ってしまったニャ」
フーテンから侮蔑の視線が向けられる。
身柄が自由になったからといって抵抗する意思はなさそうだ。
「しかし、やはり部屋に何かしてたニャ。あの子も気になるところだけど、あんたも大概だニャ」
「気づいてたのか」
「吾輩は空気の流れを読めると先ほど言ったニャ。あんたがこの部屋に何かした後、吾輩等が動く以外に空気の流れが全くなくなったニャ。それで閉じ込められたと気づいたニャ」
「ほほぉ~、面白い察知の仕方じゃな、クックック」
「それほどでもないのニャ。それよりも詠唱も予備動作もなく発動させるニャンて恐ろしいニャ。気が付いた時には終わってたにゃ。先ほどの治療もいきなりやってたニャ? 魔法なのかニャ?」
「そうかもしれないね~」
「そう簡単には教えてくれないニャ~?」
小首をかしげるフーテンにアプスも先ほどまでの事が頭から離れないのか、猫の真似をして小首をかしげる。
ウィステリアに危害を加えた怒りはもう無いようだ。無事だとわかっていても薄情である。
「……まあ今はそれは置いといて、聞きたいことがある」
「何かニャ? 無事に帰してくれるならできるだけお答えするニャ」
「昼間盗んだのにさっきも盗んできたの?」
「そうにゃ。しかも同じところから盗んでやったニャ。メロファクトの怒って悔しがる顔が目に浮かぶニャ! ニャ~ッハッハッハ!」
「よくやるなぁ~」
「昼間に盗まれたのですから、警備の人間は増えてるんじゃないんですか? 警邏の人間も来てるでしょうし」
「チッチッチ、お嬢さん。奴らはバカだから吾輩の捜索に人手を思いっきり割いたニャ。しかも同じ日の同じところに忍び込まれるとは思ってなかったニャ。油断した時が狙い時ニャ」
「お嬢さん……」
ちょっぴりと嬉しそうにするアプス。
「そりゃそうだろ。粗方盗んだんだから獲物なんてないはずだ、もう来ないと思うのが普通じゃないかな」
「一度忍び込んだだけで済む量の財しか蓄えてなかったらそうかもしれないニャ。でも奴はそれはもうたっぷりとため込んでたニャ」
「確かに一人だと持てる量に限界があるか」
「そうだニャ。まあ、外はまだ警備の人数はいたニャ。でも実際に忍び込んでみると、屋敷の中を巡回してる警備の人間は全くと言っていいほどいなかったニャ。しかも財を移動させようとしてたのか、盗ってくださいと言わんばかりにご丁寧に宝物庫が開いてたニャ! 馬鹿だニャ!」
「馬鹿じゃな……」
「確かに馬鹿ですね……」
「ふ~ん、まあ油断していたという考えには一理あるな。でも手に入れた財宝を換金したり使えなかったら意味ないんじゃない? いきなり金貨銀貨が大量に流通したら気付かれると思うけどね」
「吾輩は弱きものの味方ニャ。いいように騙されてこき使われている市民にお金を還元しているニャ」
「という言い訳を元にばら撒いたお金は市民が使ってしまうから多少なりともお金が動くわけだ」
「言い訳じゃないにゃ、事実ニャ。でもお兄さん賢いニャ。結果的にはその通りだニャ」
「没収されない限りは、という条件は付くけどね」
「今のところ没収はされてる感じはないニャ。そんなことをすれば人々の信仰心が揺らぐニャ。だから吾輩が欲をかかない限りは少し使ったところでばれないニャ」
「へ~、考えてるんですね」
「吾輩は奴らみたいに馬鹿じゃないニャ!」
いい感じに話が盛り上がっていると、カレンが帰ってきたようで窓から顔を覗かせていた。
中に入らせると、風呂敷を置いた途端にすぐに去っていった。
「カレンの奴、よっぽど腹が減ってたんだな」
「この国の料理が気になるというのもあるじゃろう」
「あ~、楽しみにしてたもんね」
「ニャニャ? あんたらこの国の人間じゃないのニャ?」
「「「………」」」
うっかりカナンカの口走った事に反応してしまったフーテン。
三人が黙ってしまった事で聞いてはいけないことを聞いてしまったと後悔した。
「殺しますか?」
一瞬の沈黙の後、すぐさまナイフを取り出して素早く近づきフーテンの首筋に当てるアプス。
「ニャニャ!? 吾輩、何も聞いてないし気付いてないニャ!」
「言いふらさないなら別にいいよ。面白い人だし殺すほどの事じゃない。俺たちはただの観光客だからな」
「胡散臭いニャ」
「殺しますか?」
「信じる! 信じますニャ! あなた方はただの観光客ニャ!」
アプスが首元のナイフをチラつかせると直ぐに自分の考えを捻じ曲げる。
「というか、俺の部下にならない?」
「ニャ?」
「ほほ~、それはよい考えじゃ。姿を消したウィステリアを倒すほどの手練れであるからな」
「しかも相手の考えている裏をかく考え方も面白いし実行してみせる度胸もある」
「て、照れるニャ~」
先ほどからナイフを突きつけられているにも関わらず余裕のあるフーテン。
その態度にアプスは自分の事などなんとでもなると思われているようで腹が立った。
「ちょちょちょ! お嬢さん、それ以上近づけては血が出るニャ! やめてほしいニャ!」
「腹が立ったので」
「クックック、余裕のある態度、気に入ったぞ。ランドルフの元に下るのじゃ」
「ニャ~、あなた方の元に居れば面白そうだとは思うニャ。でも吾輩はやらないといけない事があるニャ」
「派手な泥棒演出の裏に隠された何かって事?」
にっこりと笑っているランドルフがやんわり言うと、今度はフーテンの目が鋭くなって殺気を飛ばしてきた。
「図星だったかな」
「動くな」
今にもランドルフに襲い掛かりそうな殺気にアプスが今度こそは油断なく刃を首筋に当てる。
「おやおや? もしかして不正の証拠でも一緒に盗んだのかな?」
「……」
「教皇選定に絡んだ事だったりして」
「っ!」
「正解だったみたいだね。まあ、選定の時期になって活発に動き出すんだからちょっと考えたらわかるけどね。お偉いさんの中に教皇になってもらっては困る人物がいるのかどうなのか。とすると、義賊なんてしてるあなたとしては許せない行いをしている………いや、これ以上首を突っ込むのはやめておこう。面倒だし」
「……お兄さん、考えが鋭いのも困ったものだニャ」
フーテンが凄みのある声で言う。
「これも当たったかな? ウィステリアを襲った仕返しだよ。なめられちゃいけないと過去に学んだんだから、おいたをした猫の首は掴んでおかないとね」
そこまで言うとさらに殺気が強まった。
「クックック、なかなか心地よい殺気を飛ばしおるの~。どうじゃ? 我と少し遊んでみぬか?」
「………ふ~、悪かったニャ」
状況的に不利、且つ、目の前の人族と竜人には自分の殺気を受け流すわけでもなく、余裕をもって受け止められている。
刃を首に当てている女を人質にとれば立場が逆転するかと考えたが、男が怒って一瞬で発動する魔法か何かを放たれるかもしれない。
殺気を無くすと、やれやれと首を振って諦めた表情をした。
「敵わないニャ。吾輩の負けニャ。お嬢さんも吾輩は何も抵抗しないから許してほしいニャ」
「アプス」
ランドルフに言われて警戒しながらもゆっくりとフーテンの元から離れた。
「お兄さんには悪いけど、さっきの話は忘れてほしいニャ」
「もとより首を突っ込む気はないけどね」
「ならいいニャ。それと、そこのお嬢さんと遊ぶのも勘弁してほしいニャ。何かで上手く誤魔化しているけど吾輩の中の勘が危険だと鐘を鳴らしているのニャ」
「カッカッカッ! よいぞ! 益々ランドルフの元に集うに相応しい人材じゃ!」
興奮気味にフーテンの近くにやってきて肩をバシバシと叩き始める。
それを嫌って距離をとると、ランドルフに向かってどうにかしろと視線を投げかける。
「何なのニャこの人。さっきから別の意味で怖いのニャ」
「こう言う奴なんだよ」
「苦労してるのニャ」
「わかる?」
「わかるニャ。吾輩の部下にも似たような奴がいるのニャ……ニャニャ!? そろそろ帰らニャいといけないニャ! 心配した部下がやって来ちゃうのニャ!」
「それはまた面倒事になりそうだねぇ~」
「だから帰っていいかニャ?」
フーテンはダメ元で言ってみた。
大人しく帰らせることに不満があるのか、だめだと言いたげなアプスは不機嫌そうな顔をしていて、カナンカは折角の人材をみすみす帰らせるのかと勿体ないという顔をしている。
「もうちょっと話をしたかったけど……許可します!」
「良いのかニャ!?」
「旦那様っ! よろしいのですか!?」
「事なかれ主義万歳」
「殺気を飛ばされてる時点で事なかれも何もないじゃろうに……」
「いいからいいから」
「済まないニャ、恩に着るニャ!」
そう言って風呂敷を抱えて窓の方へ向かうフーテン。
「あ、ちょっと待って」
「何ニャ?」
「まだ解除してないから。それと、俺たちはただの観光客で、偶然怪盗フーテンとぶつかってしまった。そういう事でいいよね?」
「わかったにゃ。あと義賊だニャ。吾輩が迷惑をかけてしまったので送り届けたという事にするニャ」
「ならちょっと時間がかかっても仕方がなかったことだよね?」
「仕方なかったニャ」
「フーテンの行いの裏にある事は言いふらさない。だから俺たちにも余計な干渉はしない」
「ここで見た事話したことは自分の中だけのことニャ」
「それでいいよ。あと、ちょっとだけ風呂敷の検分をさせてくれ」
「……まあいいけどニャ」
床に置いた風呂敷を漁りだすランドルフに何とも言えない顔をする。
「二人とも財布貸して。ウィステリアのも持ってきてくれ」
疑問に思いながらも二人がランドルフに財布を差し出す。
「これは迷惑料という事で一部を没収しますね」
「ニャニャ!?」
銀貨九割金貨一割といった割合でそれぞれの財布がいっぱいになるまで詰め込んだ。
「お兄さん、せこいのニャ。でも欲があるのかないのか……派手にならないように金貨はあまり取らずに銀貨ばかり……強かだニャ……」
「自分の国である程度両替はしてたけど、もう少しこっちでの貨幣を持っておきたかったから、どうしようか悩んでたんだよね。助かったよ。後でカレンにもお金を分けてあげよう」
買い食いをたくさんしそうだからな。ちょっとしたボーナスという事で。
財布から溢れてさらに床に数枚カレンの分の銀貨を置いて行く。それをフーテンは困った顔で眺めるしかなく、アプスとカナンカはマイペースなランドルフにクスクスと笑っている。
「武器の類はいらないのかニャ?」
「アプス、いる?」
「慣れない武器は遠慮しておきます。それにできるだけ身軽でいたいので」
「じゃあいらない。……終わり、帰っていいよ~」
「……何とも緩いお兄さんだニャ~。そのおかげで今回は助かったけど。寝ているお嬢さんには済まなかったと伝えてほしいニャ」
「わかったよ。また会ったとしても今度はいきなり殴りかからないでね……」
と、話を区切ってにっこりしているランドルフから威圧感を感じたフーテンが真顔になる。
「次は許すことができなくなっちゃうかも」
ランドルフが一瞬だけ己の魔力を解放する。
「……吾輩は……追われる身。努力はしてみるニャ」
魔力を当てられたフーテンが固まって冷や汗を流しながらなんとか絞り出すように答えた。
「気が向いたら部下になりに来てもいいから~」
魔力の解放をやめて気の抜けたような口調に戻す。
「……気が向いたらニャ」
そう言って緊張したままフーテンは逃げるように屋根に上ってどこかへと去ってしまった。
「ちょっと脅しすぎたかな?」
「好奇心には負けぬようになったかもしれぬな」
「それはどうだろう?」
「……面倒事を抱えてそうですけど、もし部下になると言いに来たらどうします?」
「状況次第では部下に向かえるさ。さ~て、無理のない程度に魔法でフーテンを追跡しますか」
「っ!? 流石旦那様です!」
「クックック、追い打ちをかけるのか?」
「彼も言ってたじゃない? 油断した時が狙い時だってさ。ここから離れることができて気が抜けてるだろうし、俺もおいたをした猫の首は掴んでおかないとって言ったでしょ? 首を突っ込むつもりはないけど居場所だけでも知っておこうかと」
「流石じゃな。クックック」
「ふふふっ」
空間魔法でフーテンの行方を捉えつつ、不気味に笑う二人から離れてウィステリアの様子を看るランドルフだった。
お読みくださいましてありがとうございます!




