195話 怪盗
前回のお話:アプスは突然見知らぬ男に壁ドンしなかった。
「怪盗?」
「今日もまたって言ってましたね」
「頻繁に活躍しているようじゃのぉ」
酒場の中はお祭り騒ぎだが、ランドルフ達は訳が分からず事態を静観していた。
情報を持ってきた男が客たちに囲まれながら経緯を話して得意気になっている。
「―――そこで俺は見たのよ。屋根の上を颯爽と去ってゆく怪盗フーテンの姿を!」
「「「おぉ~!」」」
大きな声で話男の話にランドルフ達も耳を傾ける。
「で? 逃走劇はどんなだったんだ?」
「雇われた傭兵や戦士たちはもう必死だった。そりゃそうだ、なんせ自分たちの無能を晒したんだからな。面子にかけて何とか捕えようと人数固めて追い付くが、フーテンは掴んでくる腕をするりとかわし鋭い蹴りを当てて傭兵たちをバッタバッタとなぎ倒して逃げ続ける。大きな風呂敷抱えてあれだけ素早い動きができるってのは大したもんだ」
「「ひゅ~!!」」
饒舌な男の話に口笛を吹いて囃す人々。お客だけでなく店の従業員も仕事をほっぽりだして話を聞いている。
「――――それで最後に煙をまき散らしたんだ。そして煙が風で吹き飛ばされるとフーテンの姿はもうどこにもなかった。昼間で明るいはずなのに追いかけてきた戦士や傭兵の奴らは見失っちまったんだ。かくいう俺も見失ったが、あれだけ屋根の上も下の道も人だらけなのにいったいどこへ行ったのか。いなくなった後には役人がため込んでいたであろう金貨銀貨がばら撒かれてあったぜ」
「くそ~、俺も昼間っから飲んでないで現場を見たかったぜ!」
「流石フーテン、神出鬼没の怪盗だな」
「大勢を相手に素敵ねっ! かっこいいわ~。一度でいいからお酌してみたいわ~」
「これに懲りて腐った役人どもも改心すればいいけどな」
「あ~、無理無理。一度覚えた贅沢を止められるほど人ができてるわけないだろ」
「そりゃそうだ」
怪盗フーテンを褒めたたえ、腐った役人を貶す人々。
男の話が終わると、それからまた客たちは気分がいいのか次々とお酒を注文し、店もまた嬉しい悲鳴を上げていた。
「ふ~ん」
「気になりますか? なんなら調査しますが」
「いや、興味ない」
「我はちょっと興味があるぞ」
冷めたランドルフに対してカナンカはワクワク感を隠せず、何かを期待する目をしていた。
「行くなよ」
「むぅ~、ちょっとだけならよいじゃろ?」
「だめ~」
「屋根に上って街を見渡すだけじゃから」
「だ~めっ」
「けちなのじゃっ!」
「旦那様のその否定する言い方、可愛らしいですっ!」
ランドルフ達はランドルフ達で話に盛り上がっていた。
すると、酔った雰囲気の竜人の男客がこちらに話しかけてきた。
この男も教国のシンボルが入った服を着ている。
「おぅ、兄ちゃん、盛り上がってっか? おっ、綺麗どころを二人連れて羨ましいな」
うわぁ、めんどくさいな~。
三人は飲食の為に口元のフードを取っていたので顔が見えている状態だった。
「でしょ? 自慢の嫁さんなんだよ」
「だ、旦那様っ!?」
ランドルフがアプスの肩を抱いて引き寄せると、アプスの顔が酔ってもいないのに赤くなる。
カナンカも得意げな顔だ。
「けっ、いいご身分なことで」
あわよくば二人とお近づきになりたかったのだろうか。男は目の前で惚気られて酔いが醒めてしまったように真顔になって嫉むようにランドルフを見てくる。
話しかけてきたのはそっちだろうに……。
「で、なんです?」
「怪盗フーテンだよ。美人を二人も連れてるんだ、お友達って雰囲気でもなさそうだし、どこかの金持ちか?」
「ええ、まあそんなところです」
「あくどいことしてっと、怪盗フーテンに全部金盗まれちまうぞ」
「自分はコツコツと真面目にやってますので大丈夫ですよ、ご丁寧にどうも。それにしても凄い人気ですね、怪盗フーテン」
「そりゃ、なんたって無償で信徒をこき使っている奴らから金を巻き上げてばら撒いてるんだから人気もでるだろう」
「へ~、話を聞くに大胆で豪胆なんですね」
「はっは~! そうともさっ! 知らないって事はさてはあんたら、最近ここに来たんだな?」
「そうなんですよ。良ければ教えていただけませんか?」
ランドルフは男から話を聞くために空いていた席に男を座らせ、おごりですからと酒を勧めた。
男も美人二人と飲めるとあってか、気前よくペラペラと喋ってくれた。
特にカナンカから質問が相次ぐと、ほんのりと赤かった顔を真っ赤にしながら話してくれた。
「ここ最近活動が活発になったんですか」
「10年か? もっと前だったか? それくらい前からいたのはいたんだ。けど年に1回か2回活動するかどうかって程度だった。それが今年に入ってもうすでに10回は超えてると思うぜ」
「へぇ~」
「どうぞ」
「へへっ、すまねぇな奥さん」
「奥さん……」
奥さんといわれてニヤニヤしっぱなしのアプスからお酒を注がれた男が気分良く一気にお酒を呷る。
信徒ってのはもっと敬虔なものだと思ってたけど、なんかだらしね~な~。
けど、気楽で自由って感じがして嫌いじゃないけどね。
「どこに逃げているのか大体予想は付くのかの?」
「ペレシュド島だって言われてるがなぁ~。実際の所はわからないな」
「ペレシュド島ってここから南にあるあの貧困層が住んでる?」
「そうだ。あそこの奴らが盗んでるって話だが、偽装の為にってのもあるんだろうが、奴らなら盗んだ金をばら撒かずに全部持っていくだろうしなぁ~。俺は違うと思ってる」
「ふ~ん。噂が事実かもしれないならお役人さんは捜査に乗り出すと思うけど」
「馬鹿言え、あそこに乗り込んだらいくら戦士たちが強くても被害が大きいだろうさ。なんたってあの島を支配している奴がいるって話だからな」
「あぁ~、いましたね、そういう人たち」
適当に相槌を打ちつつ情報を引き出していると、男が飲みすぎて舌足らずになってしまったで介抱する形でお開きとなった。
「取り調べのような質問攻めを止めて酔っぱらった人を介抱してお開きにする。これが本当の開放……なんつって」
「どちらかと言えば解放が正しいのでは?」
「こんな取り調べなら我はいつでも受けたいぞ」
「……」
素っ気ない二人にランドルフはやるせない気持ちになった。
酒場から出たランドルフが伸びをする。
アプスとカナンカはフードで口元を隠して暮れてきた差し込む光を眩しそうにしている。
「さ~て、ウィステリアは宿とれたかな?」
「そう言えばこちらの場所を伝える手段がありませんでしたね」
「念話でも飛ばすか」
居場所を伝えて合流したウィステリアに宿の場所まで案内してもらった。
案内してもらっている間にウィステリアとカナンカが何やら話し合っていたが、部屋へと入ると早速アプスが警戒するように窓の外を覗き、その後部屋の壁をノックして様子を探り始めた。
そしてカナンカとの話を止めてじっとランドルフを見つめてくるウィステリアは真剣な顔で道中で気になったことをランドルフに報告し始めた
「ランドルフ様、どうもこちらの様子を探ってそうな影がいくつかあります」
「ん? 何でだ?」
「それはわかりませんが、二人組の男が複数、店や道行く人々にレスタイト王国の商船から降りた人が来ていないかと声をかけているところを目撃しました」
「おかしいな。この国との貿易は普通に行われているはずでそんなに珍しいものじゃないだろう?」
「そのはずですが……」
「もしかしてカナンカが乗ってたってのばれてたりするのかな?」
「調べますか?」
部屋の様子を探っていたアプスがこちらを向く。
「ランクイロ達は?」
「斜め向かいの宿に泊まっています」
「あら、意外と近いところに泊ったんだな。一応身元を特定されるような話はしないように警戒するように伝えて。情報収集はしばらく港だけで行うように。こちらから動くのは必要最低限にしよう」
「わかりました」
魔道具店に行くときにも注意が必要だな。
ランドルフも自らを戒めた。
姿を消せるフードに魔力を流したウィステリアの姿が見えなくなり、窓から出てランクイロ達のいる宿へと向かった。
「そうですか。わかりました。我々は船の近くの港で情報を集めましょう。街の様子は私の友人を当たってみます。それでよろしいですか?」
ウィステリアがランドルフの伝言を伝えると、ハーディが話をまとめてランクイロの確認をとる。
「ご友人というのは現地に住む竜人の方ですか?」
「守護龍様を信奉する現地の友人です」
「わかりました。ランドルフ様にもそうしますと伝えてください」
「わかったわ。くれぐれもどこから来たとか本当の事を言わないように。すぐばれる嘘も駄目よ?」
「は、はい」
釘を刺されて固まるランクイロ。
「ほらほら、あなた、また硬くなってるよ? あたしやハーディさんがいるんだからもう少し気を楽にして」
「そうは言っても初めての事ばかりで慣れないよ」
「観光に来たんだから楽しみましょうよ」
「そういう気持ちになれればいんだけどね」
「笑って笑って、まずは下の食堂で慣れていきましょう?」
狼狽えているランクイロをスゥープレティが宥めている姿にウィステリアがクスッと笑う。
「ところで、怪盗騒ぎについてランドルフ様は何か言っておられましたか?」
「いいえ、興味なさそうにしておられたわ。けど、カナンカ様がこっそり私に調べてきてほしいと言われて困ってるのよ。ご友人は何か知らない?」
「次の機会に聞いておきます」
「無用な人との接触は避けたいけど……」
「心中お察しします。警戒して私も友人との連絡を取る回数をできるだけ減らします」
「お願いね。この後宮殿の様子も探ってくるわ。カレンも来なさい」
「え? この後、夕食……」
「周りの様子をちょっと見てくるだけよ。すぐに戻ってこれるわ」
「……はい」
有無を言わせないウィステリアの言葉に返事をしたはいいが、明らかにしょぼくれた顔をするカレン。
スゥープレティに弄ばれているランクイロを見てため息をついたウィステリアは、二人はいいコンビなのかもしれないと思いながらカレンを連れて去っていった。
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