第三話 結論から書け
視線を行ったり来たりさせてスプレッドシートと格闘していると、先ほど送ったメールへの返信を知らせるポップアップが、画面の右上に表示された。
『Re:【重要】提供サーバーのご利用状況と負荷に関するお問い合わせ』
差出人は星野創。送信時刻を見るに、私が送ってからわずか数十分での回答だ。
「案外、レスポンスは早いのね」
私は少しだけ安堵して、メールを開いた。
これで用途がはっきりすれば、さっさとリソース制限をかけて、この件はクローズできる。
そう思っていたのだが――本文に目を通した瞬間、私の眉間には深いシワが刻まれることになった。
『お世話になっております。星野です。この度は規定値を超過してしまい、大変申し訳ありません。
用途についてですが、化石の地層から採取したデータの解析を行っておりまして、最初は単なるモデリングのつもりだったのですが、その配列自体がまるで貴社のAIモデルを構築する際のアルゴリズムのような規則性を持っており、つまり生命の起源というものは何らかのプログラムの実行結果に酷似している可能性があり、それがどういうことかと言うと、人がAIを作るアプローチと生命誕生のプロセスが交差する点を探るための重要な演算を……』
私はマウスから手を放し、こめかみを強く揉んだ。
結論から書け、結論から。
主語と述語が完全に迷子になっている。普段からビジネス文書を書き慣れていない人間の、典型的な悪文だ。
平謝りしていることだけは伝わってくる。だが、肝心の「何の処理に、どれだけのリソースを、いつまで使うのか」という具体性が、一切ない。
かろうじて読み取れるのは、「生命の起源」だの「AIモデルとの類似性」だのといった、意味不明な釈明だけだった。
「……だめだ。まったく意味がわからない」
こんなオカルトじみた言い訳の解読に、私の貴重な時間を割いている暇はない。
すぐにでもサーバーの電源を強制的に落としてやりたい衝動に駆られたが、相手は一応、CSR枠で提携している大学の研究室だ。ここで手荒な真似をして大学側からクレームでも入れば、対応工数が増えて、余計に自分の首を絞めることになる。
テキストでのやり取りは、かえって時間の無駄だ。
私は深くため息をつき、感情を完全に排除した事務的なトーンでキーボードを叩き返した。
『星野様
ご返信ありがとうございます。用途の概要については拝受いたしました。
しかしながら、現状の負荷が弊社のシステム運用に影響を及ぼす懸念があるため、詳細な状況と今後のリソース調整について、一度WEB会議にて直接お伺いしたく存じます。
下記の日程で、十五分ほどお時間をいただけないでしょうか』
自動生成したWEB会議のURLを貼り付け、送信ボタンをターンッと叩く。
この得体の知れない研究者を十五分で論破し、即刻サーバーを明け渡してもらう。
ただでさえ限界まで膨らんでいる今日のタスクリストに、また一つ、落とせない仕事が積み上がった。




