第2話 リベンジ・島根ワイナリー
3話で完結予定です
観光案内板を見て、バス乗り場を探して、時刻表を確認する。誰とも相談せず、好きなタイミングで行動できるというだけで、もう半分くらいは満ち足りている。
バスに揺られていると、窓の外に見覚えのある看板が現れる。
島根ワイナリー。
十年前とほとんど変わらない外観を見た瞬間、胸の奥が少し高鳴った。
中に入ると、試飲コーナーは記憶どおり、いや、むしろ十年前よりも充実しているように見えた。
ワインが並ぶカウンターの前には、小さな透明カップがずらりと用意されている。
「一口ずつ、どうぞ」と書かれたポップ。色とりどりのボトル。
ワインが大好きな私は、もうそれだけでテンションが上がってしまう。
カップを手に取り、赤、白、ロゼと順番に注いでは、少しずつ口に運ぶ。
酸味の強いもの、フルーティーなもの、香りがふわりと広がるもの。
舌の上で転がして、喉の奥に落としていくたびに、「ああ、やっと来られた」と小さくため息が漏れる。
数種類を試したころには、すっかりいい気分になっていた。足元がほんの少しだけふわつく。
売店で名物のコロッケを買い、ベンチに腰掛けて、ひとり宴会を続行する。
熱々のコロッケをかじると、衣のサクッという音と一緒に、十年前の映像が脳裏に浮かんできた。
あのときの私は、試飲カウンターの前で、カップを持ったまま立ち尽くしていた。
「わあ、すごい。全部飲んでみたい」
そう言いかけて、横目でめぐみとテルさんを見る。
「いいなあ、俺も飲みたいなあ」
テルさんが半分冗談みたいな声でつぶやく。
「だめよ、運転手なんだから」
めぐみが笑いながら肘でつつく。その仕草が、じゃれあいの延長なのだと分かる。
その光景を見ながら、私は、運転してくれている人が一滴も飲めないのに、
自分だけ飲むのは悪い気がした。
そして、気づくと手に持った試飲カップをテーブルに戻していた。
本当は思い切り飲みたかった。
でも私は、いつも誰かに遠慮して、自分の「したいこと」を後回しにしてしまう。
「今度はバスでひとりで来て、思い切り試飲して、気に入ったワインを1本だけ買おう」
と決めたことを、今でもはっきり覚えている。
コロッケを食べ終え、私は結局、ワインを一本だけ購入した。
「重いから」と自分に言い訳するが、荷物が増えるのが面倒なだけなのだ。
アルコールで頬が少し火照ったまま、島根ワイナリーをあとにする。
10年前のリベンジをひとつ果たした私は、もう一つ心残りだった場所へ向かう。




