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リサのゆるふわ学園生活   作者: 武内ゆり
第二章 プライドお嬢様の鬱憤
11/19

2-3

 「いただきまーす」

今日のお昼は牛肉のオリーブ焼きに各種サラダ、フルーツである。食堂の席に座ると舌鼓を打ちながら、なんとなく周りを見渡す。


 入学してから2週間が経った頃、リサはちょっとした変化を感じていた。

(……また来ていない)

べヤードとの口論の後、アリーチェの姿を見なくなった。授業にも来ていないし、休日を挟んでも現れない。

(いやいや、あたしなんで心配してるんだろ。あんなにひどいこと言われたのに?)

と慌てて首を振ってみたものの、やっぱり気になるのだった。


「どうされましたか?」

「——へ!? い、いや、なんでもないよ!?」

浮かない顔で勢いよく首を振ったせいで、レレムに心配される。


「……そうですか」

リサの奇行に見慣れてきたのか、レレムはそれ以上、追及しようとはしない。

「ううん、違うの。最近アリーチェちゃん、見かけないなって……風邪ひいちゃったのかな」

ちょっとだけ恥ずかしい思いになって、小声でボソボソ伝える。

「アリーチェさんなら、あそこにいますよ」

「ええ、どこ!?」

「出入り口の近くに」

レレムに指摘されて目線を移すと、本当にいた。なんで気がつかなかったの、とリサは気持ちが動転して、自分の目は節穴なのかと不安になってきた。

 

 背が高く、身分も高そうな紳士と何か話し込んでいる。

(何を話してるのかな)

リサは眺める。その答えはまもなく分かった。


 午後の授業が始まる直前、教室にアリーチェが突然入ってきた。かと思うと、

「私、学校をやめるわ」

と高らかに宣言した。


 友達同士での談笑が止み、全員の視線が一点に集まる。アリーチェはそれを望んでいたように、高慢にせせら笑った。

「分かったのよ。こんな学園にいたって、何にもなれない。ダンスや社交界のない世界にどんな魅力があって? 勉強より実力よ。閉じ込められた場所で、せいぜい這いつくばって頑張ってなさいな」

あまりの見下した発言に、場の空気が固まった。

「ふふ。みんな愚かすぎて何もいえないみたいね」

と満足げにいうと、立ち去ろうとする。その背中に、


「べヤードに言い負かされて気に食わないからって、やめる馬鹿がいるかよ」

と誰かが言った。

「なんですって」

アリーチェは振り返った。人を見下す割には、人の評価を気にしているらしい。

「今言ったのは誰?」

と問い詰めようとするが、誰も答えない。


 一体どうなるのかと固唾を飲んでいると、廊下から、

「あのぅ、お父様がお呼びですぅ」

恐る恐る伝える召使の声があった。

「——チッ、今行くわ。……とにかく、私に歯向かおうなんて思わないことね」

アリーチェは捨て台詞を吐いてさっていく。廊下に足跡だけが聞こえてくる。

「何あれ」

と一人の女子がつぶやいたのを皮切りに、みんな思い思いにざわつき始めた。


「マジやばくない?」

「とりあえず、うるさい奴がいなくなるってことか。ハハ、寂しくなるな」

「おい、本気で思ってるのかよ」

とからかう男子。


「身分身分って言ってるくせに、礼儀がなっていないよね。第一、貴族ですらないじゃない?」

リサだけは、黙って廊下を見続けていた。他の人と同じようにくさす気にはなれなかった。アリーチェの言動よりも、その奥にあるものに目を向けてしまったからかもしれない。けれどそれが何なのかはよくわからない。理解できる前に、学校を去ってしまうのなら……。


「劣等感と被害者意識の権化ですね」

「え……?」

隣でレレムがクスリと笑った気がした。レレムまでアリーチェを笑い物にするのかと、裏切られたように感じられた。

「まあ、きっといい機会じゃないですか、これも」

「——レレちゃん!」

思わずリサは顔色を変えてさえぎった。他人事みたいに評価されていくのが、受け入れられなかったのかもしれない。

「……はい」

レレムは反射的に黙る。


 さえぎったのはいいものの、かといって何を言えばいいのか分からなくて、リサも戸惑った。

「いけないよ、そんなこと」

とりあえず注意する。レレムも背筋を伸ばして「以後気をつけます」と誠実そうに述べるのだが、何の注意かわからないから対策のしようがないだろう。

(違う、違うの——)


 言葉にできないのをもどかしく思っていると、先生が入ってきた。授業が始まると思ったのも束の間、全く知らない男の先生が出てきたので、教室はまた異様な空気に包まれた。

「担当の先生が体調不良のため、自習」

と告げられる。


 静かに勉強するようにと言われたが、静かになるわけがない。

リサは何だかモヤモヤしながら考え込んでいた。

(劣等感?)

さっきレレムが言っていた言葉が引っかかる。あんなに人を見下しているアリーチェが、劣等感なんて持つのだろうか。


 授業が終わり、たまたま校長室の近くに足を運ぶと、不意にドアが開き、人が出てきた。

「あっ」

アリーチェだ、とリサがびっくりしている間に、相手も人がいることに気がついて、

「あら庶民の子。何か用? 私は今、とっても忙しいの」

鼻につく物言いで通り過ぎる。

「……」

突然の出来事にリサは何も言えなかった。アリーチェの後ろ姿を眺めていると、リサの真ん前で植木鉢に蹴つまずいて転んだ。


「いた……誰よ、こんなところにお花咲かしちゃって——」

「大丈夫!?」

反射的にリサは飛び出した。どうしようどうしようと混乱の嵐に巻き込まれながら、

「ケガとか何にもない? た、立てる?」

手を差し伸べる。


 アリーチェは一瞬目を見開いたが、すぐにプライドの塊のような顔にまた戻った。自力で立ち上がると、宙ぶらりんになったリサの手を気にも留めないで、土埃を落とす。

「あ……」

「助けなんか必要ないわ。それより自分の心配をしたほうがいいんじゃないかしら? 私をいじめた人は、一人も許さないから」

と言って、行ってしまった。

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