004 愛ある暴力は嫌いじゃない
「どうしてキミがここにいる?」
「超法規的措置って言う奴なのだよ。宇宙人であるボクにとっては、これくらいの事は造作もないことなのだ」
朝から雨が降る中、登校してみると、何故か篠崎マリが俺のクラスにいて、しかも俺の隣の席に満面の笑みで座っていた。
前日まではそこに下村と言う女子生徒が座っていたのだが、彼女は一つ後の席にに下がっていた。
俺がどういう事かと下村に尋ねると、下村は遠い目をしてお熱いですねと呟くだけだった。
そう言う問題ではないはずだ。
「何をした?」
俺は篠崎に尋ねたが、ここは禁則事項ですと言うべきだろうと、人差し指を唇に当てていた。
担任が来てホームルームが始まったが、篠崎について担任が触れる事はなく、他の授業の教科担任も同様で、クラスメイトの間でもこの問題を口にする気配はない。
ただ時々、主に男子生徒から突き刺さるような視線を感じる事が幾度と無くある。
「待つちゃ、ダーリン!!」
授業も終わり、暗黒時代になりかけている居心地の悪くなった教室を足早に出ようとした俺にそんな声をかけて寄ってくる篠崎マリ。
ダーリンだと!?
ダーリンって呼ばれる人を初めて見た!!
ヤってる? ヤってる?
ざわ ざわ ざわ
タヒ!! タヒ!! タヒ!!
奇妙な雰囲気にざわめく教室を出た廊下で俺は言う。
「鬼娘で、空を飛びながら電撃ビリビリするわけでもないのに、ダーリンと呼ぶのは辞めてもらおうか」
篠崎マリは左手を突き出して、親指で何かをはじくようなポーズを取りながら、ボクの事はレールガン、もしくは学園第三位でもいいと言った。
やれやれ、何でも有りになってきたなと俺は思う。
「とにかく、ダーリンは止めてくれ。過去に俺がなんとキミに呼ばれたのか覚えていないけれども、きっとダーリンではなかったはずだ。そもそも、本当にキミと俺は知り合いだったのかも俺には確かめる術はない」
そう言うと篠崎マリは哀しそうな顔をして言う。
「どうしてそんな事を言うのかな?ボクらは確かに同じ時を過ごしていたし、覚えているかどうかなんて、大した問題じゃないじゃないだろう? 確かにキミはボクの裏門となるすぼまりを舌先で丹念に穿り返しながら、同時に指先で肉核を責め立ててくれた。ボクはと言えばキミのお稲荷さんを頬張るのに、顎を疲れはらせた夜の事を思えば、ボクの事を忘れてしまっている事はそれほど重要ではないだろう。肝心なのは二人のこれからの事であるはずだ」
そう言って篠崎マリは俺の襟首を掴んだ。
教室の方からは、どうやら聞き耳を立てていたらしいクラスメイト達の狂騒が聞こえてきた。
マニアックだな!!
俺は嫌いじゃないぜ!!
お腹壊さないの?
愛があれば大丈夫。
タヒ!! タヒ!! タヒ!!
もういたたまれない気持ちになって、俺は泣きそうだった。
「何か証拠はないのか?二人で撮った写真の画像とか」
「そう言えばキミは二人の愛の証としていつも動画を撮りたがったな。そうしてカメラ目線である事を強要するのだよ。さすがのボクもそう言うモノを残すのは気が引けたのだが、最期の最期に一度だけ許したのだけれども、その動画を見た事はないのかね?」
記憶を失う事になった事故の時、当時使っていたスマホは失われていて、捜索したけれども見つからなかったと言う事を入院中に両親から聞かされたが、事実とするなら見つからなくて良かったと感謝するしかない。
と言うか、どこかの誰かに見られたら非常にヤバイ気がしてきた。
「その頃使っていたスマホは記憶を無くした時に紛失してるし」
「なんと!? それは非常にまずいぞ。二人の恥ずかしい営みがネットで拡散されでもしたらどうしてくれるのだ? いや、すでに拡散、リツイートされているか!? こうなったら、もはやボクはお嫁に行けないではないのか。この責任はきちんと躯で返してもらうぞ!! 倍返しだ!! 給料の三ヶ月分だ!!」
「給料の三ヶ月分って、婚約指輪かよ!!」
「それならそれでかまわない」
篠崎マリはそう言って、手を出す。
もちろん俺は、その手を引っぱたいた。
「愛ある暴力は嫌いじゃないが、今の暴力に愛は感じられなかったのだが」
「当然だ」
「酷いぞ!! こうなったら宇宙人の力でキミの無くしたスマホを探し出して、二人が愛し合う姿をネットに拡散させ、既成事実を作ってやる!!」
篠崎マリはそう吐き捨てると、廊下をもの凄い早さで走っていった。
俺はため息をつきながら、逮捕されろと言ったのだ。




