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003 からかい上手の妖怪

 「昔話を色々したけれど、キミが質問した記憶を無くす前の斑目恭一郎君がどんな少年であったのかと言う事に答えるならば、変わったところなど身長がほんの少し伸びたくらいであって、基本的には今と同じであると言っておこうかな」


 この話を聞くまでに、随分と時間がかかってしまい、すでに陽は沈んで辺りは暗くなり始めていた。


 「ところで暴れん坊の大鰻は今でも健在かい?」

 

 「言っておくけれど、知識の範疇の事は忘れていないからな。お金の使い方や、赤信号は渡ってはいけないとか、三権分立にバスの乗り方とか。だからそう言う事を経験しているならば、その知識は残っているはずなのだけれども、一切無いという事はキミとの間に何も無いはずだ。それに、暴れん坊の大鰻とか、過大評価の風説の流布だ」


 「それはおかしいだろう?今やネットに無修正の動画が溢れかえっている時代なのに、なんら知識がないとは、ありえないだろう。確かに宇宙人である私と地球人の肉体的差異は存在するが、それほど重要な問題ではないはずだ」


 そう言うと篠崎マリは急に両手の掌でおでこを押さえた。


 「どうした?頭でも痛いのか?」


 「いや、たいしたことではない。お腹が空いただけなのだ。私のお腹はここにあるのだがや」


 「ニコチャン大魔王じゃねえか!! 古すぎて解る奴は四十代以上だよ!!」

 

 「ちなみに私の幼い赤貝は、左の脇にあるのだけれど、以前のキミは溢れ出る秘蜜を貪るように吸い尽くしていたものさ」


 「俺はどれだけマニアックなんだよ!!魚介か、魚介なのか!?」


 「まぁボクが語れる以前のキミという存在は、これくらいの事なのだよ。安心して欲しい。キミの性癖をクラスメイト達に語ったところで、ボクの肉体的形状に本気にする人などいないだろう」


 彼女はそう言ってうけけけけと妖怪のような笑い声を上げる。


 「お願いですから、おかしな事を吹き込まないで下さい。これでも俺は高校からこの町にやって来て、それほど打ち解けずに一人で教室の片隅に座っているというポジションなんですから。脇に固執する性的倒錯者とか、俺のキャラじゃないですから」


 「善処しよう。さて、雨も上がったようだし、ボクはこっちなのだ。また明日、学校で会おう」


 篠崎マリはそう言うと俺が持つ傘の中から飛び出していき、外灯も無い暗い闇の中に消えていった。

 

 「あぁ、思い出したのだけれども、記憶を失う前のキミは、ボクの事をマリたんと呼んでくれていた。明日からはそう呼んで欲しい」


 暗闇から声だけが聞こえてきてそう言うと、彼女の気配は無くってしまった。


 彼女の姿が消えていった闇から視線を上げると、空にはいつのまにか星空が拡がっていて、彼女はそこに帰っていったのかもしれないなどと思う。


 もちろん、現実的に考えてみればそんな事はありえない。


 きっとあした学校に行けばまた篠崎マリは嘘八百を並び立てて、俺を翻弄する気だろう。


 どれだけ事実が含まれているかなど、今となっては俺に確認する方法など無いのだけれど、それならばそれで構わないかとも思うようになっていた。

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