#037 Next stage 1
ちょっと常識的なことを書いただけで一日の読者数がガクッと減る不思議。これだったら操作はたやすいな。いやいやなんでもありませんよ。傾向と対策と言う意味でね。だいたい分かった。もとから知ってはいたが確信に変わりました。
どうぞ。
治療をやめる、というのはつまりもう自分の子供を諦めるということだ。
「俺たちの家族は、全員ある程度の闇を抱えている。そんなことは言わなくたって分かってることだろ。昔の話をしたことはなかったかもしれないが、そうなんだ」
父さんはプレイボーイで、母さんをだまして一夜共に過ごしたのに逃げた。で、しつこく追いかけた母さんに迫られて結婚することになる。既成事実ってやつがその結婚の核になったわけだろうし、できちゃった結婚とかショットガン結婚とかいうやつだ。
ひとつだけ違う箇所があるが。
「今でもそうだが、夫婦仲は決して悪いもんじゃない。むしろすごくいい。だから結婚して一年も経たないうちに子供ができるはずだって二人とも思っていた」
でも一年経っても、二年経っても子供ができない。それが「上手い」と子供ができにくいなんて実際の医療データはあるが、一回ごとでの確率が少し下がるくらいの話で、まったく何も起こらなくなるなんてことではなかった。つまり不妊だったのだ。
「原因を調べてみたら「どっちも」だったんだ。男にしてみれば自分の子供だってことを証明する手段なんてないから、できなくてもいいと思ってたよ。だが母さんは、自分の手に自分の子供を抱くって夢を捨てきれなかった。母さんの夢に俺も協力することにしたんだ、それからして治療を始めた」
本当のところ母さんは養子をとることには否定的だったが、子供がかわいいのは仕方ないことだった。いつか生まれるはずの自分の子供のように大切に育てて、抱きしめていたそうだ。写真の母さんは、疑う余地もなく俺たちの「母さん」だ。
「結果は…… この通りだ。養子を立派に育て上げるなんてなかなか難しいことなんだから誇ってもいいのにな。母さんはやっぱり夢を捨てられなかったみたいだ。最近までずっと不妊治療を続けていた。でももうやめる、と」
「諦める…… わけじゃないよね」
父さんのこちらを見た目には、今までにない深くて暗い何かが宿っている。
「言うな。母さんはあきらめたわけじゃない。というより、今を受け入れることに決めたんだよ。母さんの中じゃお前たちはやっぱり養子だった。でももう養子じゃない、母さんの産んだ、母さんの子供なんだ。諦めるなんて言うんじゃない」
父さんの言葉が重くて、俺は弾き飛ばされたように感じた。
「ところで、その本VRMMOとか書いてるが、漫画ってどういうことなんだ」
「昔は今の技術ってSFっぽかったらしくてさ。小説投稿サイトに流行ったって」
雰囲気を変えようと無茶をした父さんに俺は便乗する。
「ふーん、SFなあ。今じゃかなり廃れてるが」
「今のはハイエンドだから……。現実にVRMMO発売しちゃったしもう出番ないだろうけど、昔は近未来に出そうなものを何でも取り入れるのがSFだったみたいだよ。その中でも軽くて読みやすいのがこういうのだったらしい」
まあ、SFというより架空のエッセイと言ったほうが伝わるくらいの文章だ。マンガだからやっと絵になってそれっぽくなってるが、はっきり言って起こっていることの連続描写という小説本来の形よりも本人の感想やらなんやらが優先されすぎてポエムみたいになっているものすらある。
それで普通のSFはというと、もう常人が付いていけるレベルではなくなっていた。専門用語が連発されるから学術書みたいになってるし、書いてる人の方も高名な物理学者やらなんとか力学者やら、小説と関係ないだろあんたと言いたくなるような人たちばっかりなのだ。最低でも「協力:○○研究所」くらいは出てくる。
「小説ってそんなに読みにくいものだったか?」
「高学歴の人が暇つぶしに、くらいになってる……」
廃れているのは事実だ。誰も読めないものなんか一般読者には受けないし、分かっている読者からの脱却を求めるものはすぐさま潰されるらしい。
まあ、業界ってのはそんなものなんだろうな、と思う。
新ジャンルに手を伸ばして成功したゲーム業界は幸せな方だろう。臨界点を超えた出版業界はひどい状況らしいし、そうでなくても生活必需品以外は安定して売れない。家電やらも売れるには売れるが食料品ほどに安定したものではないだろうし、食料品だって流行やらなんやらあって仕入れを間違ったらすごいことになる。
「美沙ちゃんは欲望に忠実だね。いい子だ」
「ほめてるのかけなしてるのか分からないな…… どうだ、落ち着いてるか」
「店を一軒預かっているんだ、いいさ」
「あのお前がこんなとこに努めるなんて、想像できなかったな」
そりゃ私のセリフだ、となすこさんは笑った。
「お前ときたら女と見れば声をかける屑だったからな。ざっと百人は泣かせただろう」
「そこまでじゃない。お前だって花屋さんになると言い張って親を泣かせたくせに」
ふん! とお互いにそっぽを向き合ったあたり実は仲がいいんじゃないだろうか。
「花を愛する美しい気持ちがデザイナー兼店長としての才能を花開かせたのだ」
「会ったら口説き落とす才能は営業に向いていてな」
うん、お互いにバカなだけだな。
「お父さん、お兄ちゃん。選び終わったよ」
「おう、お金を払うのはいつも通り俺なんだな……」
大黒柱だから。正直なところ家族愛がプラスされただけのATMだから。うん。
お会計のときらしいタイミングに叫び声が聞こえて来たのは、聞かないことにした。
俺の財布が、財布があという泣き声はまあ聞いても聞かなくてもいいが、今月の酒代がないんじゃなくてそれ以上に使ってしまったということになったので俺が食べ物代を払うことにした。できるならやるべきだろう。
「くそう、ザルヴァートル2004が…… 酒屋にあったのに」
ウイスキーの銘柄らしいものを叫びながら父さんは涙目になっている。
「2015のレゾンなんてプレミアついてるんだぞ…… くそう」
よく分からないが、父さんの世代のロボットアニメの記念で作られた酒らしい。前に聞いたことがあるが、正直よく分からない。お父さん世代は共感するんだろうか。
「父さん、食べ物代は俺が払うから。バイト代まだ残ってるし」
「おお、すまん……。あんまり高いもの頼むんじゃないぞ」
束の間ってわけでもなく家族団らんの時間を楽しんだ俺たちは、デパートをうろつくだけうろついて帰ることにした。もともとの用事は美沙の気分転換に服やら買いに行くことだけだったはずだ。俺の財布は幸い空にならずそれに近い状態をキープしたまま家に帰り着くことになった。
「今日は楽しかったー!」
「それならいいんだけどよ…… バイトしないとな」
昨日と今日は忘れがたい日になるだろう。そう予感しながら、俺は車の中で少しだけ眠りについた。
◇
泣きはらした目がいた。
「つらい、つらい。なぜすてた」
鋭い目がある。
「気持ち悪い。あんな生き物が出てくるなんて」
目が、目がたくさんある。
「幸せ?」「幸せ?」「幸せ?」「しあわせ?」「そうなの?」「幸せ?」「幸せなの?」「このひとでなし」「幸せになるなんて認めない」「幸せ」「幸せ?」「幸せ?」「そうなんだ」
紫色の卵が、ぬらりと生まれ出た。
「認めない」「認めない」「絶対にいや」「違う」「幸せ?」「見て」
紫色の卵は沈黙している。中から何かが聞こえるわけではない。声は目だ。脂ぎったウジのような声がべちゃっべちゃっとこちらに這ってくる。
肉塊がべとりと地面に落ちた。
『ご家族は、幸せじゃないんです。それが分かっているんですか?』
目が増える。
「これがねえ」「なかなかいいですよ」「はっは、たまらんですな」「最高だ!」「需要を満たしておりますなあ」「そこだ! なかなか分かっている、いいぞ!」「うーん、買いたいくらいだ」「名前は何というのかな?」「そこは秘密ですよ」
血走った目たちは、楽しんでいる。血走った目から伸びた木の枝に、青い果実が実った。手を伸ばすとそれが腕に落ちてくる。まとわりついてうるさいそれを、しかし手で払うことはしなかった。
目たちが去って、目が現れる。
「見て」
◇
「大丈夫か?」
「あ、父さん、うん、大丈夫」
どうやらまた悪夢を見ていたようだ。
「お兄ちゃん悪夢でも見てたの? 俺は売り物じゃないって怒ってた」
「そんなこと言ってたっけな……」
聞かれていたのか、とぞっとした。
「着いたぞ、いつまで車に乗ってるんだ」
「あ、うん」
母さんも心配そうな顔をしていたけど、こればっかりは言えるもんじゃない。大丈夫だよ、と一言告げてから俺はとっとと車から降りて、二階の自分の部屋に入った。
どうして聞こえてもいない声が聞こえているのか。
紫色の卵の仕業だ。そして卵が「次の段階」に成長し「最終段階」になったとき、俺がどうすることもできないことが起こる。これは決定した未来だ。
「それはそれとしても、なあ」
根深い一件らしい。あんだけ最低なやつらが集まっていたとは。死んでも擁護してやらないからな、覚悟しとけよ…… と俺は形だけ粋がってみた。無理だなあれは。
その日はパソコンでなんか調べることもなく、昔のネトゲにログインしてみたりもせずそのまま夜ご飯を食べて、いつものようにアウルムオンラインにログインした。
エイルンはいつものように平和で、何も悪いことが起きているわけではなかった。
「あー、平和だな」
言うまでもなく平和だ。
というか平和じゃない日なんてない。街の防衛クエストとかそういうものがあるわけではないし、次の街が名もなき者たちに覆われていたとしてもそれを討伐して街を平和にするようなことはもうちょっと先になるに違いない。
まあ、俺がやることは決まっている。今日あすは投げ武器の補充をしないと、戦う力が残されていないのだ。そんなわけで素材の方を探しに行くことにする。
適当に東の方の市場を巡ってみたが、鉱石はかなり高くなっていた。需要は一部だけであるわけはないし、戦闘と生産を半分ずつくらいやっている人も意外に多いらしい。全般的に中堅レベルのものが鑑定価格の五倍から二十倍くらいの値段になっている。取ってくるのが簡単だと言いたいところだが、スキルホルダーはあまり余っているわけではなくて、採掘スキルなんて取った日にはすごいことになりそうだ。
いや、でもスキルが四つも余っているから選択肢としちゃ悪くないのか。
今欲しいのは「支援魔法」と「治癒魔法」、それと併せて投げられそうな「長柄武器」スキルに採取ができそうなスキルだ。ギャンブル性のありそうなやつでもいいし、堅実なやつでもいい。伐採スキルなんかは切った木の虫食いに変なアイテムが挟まっていることなんてあるらしいし、採掘スキルは日常に物欲が紛れ込んでくるらしい。
まあ、採掘スキルはともかくとしてもHPを回復する手段と状態異常を解除する手段、それからMPアップくらいとっておきたいところだ。日ごろからMP消費が激しい生活をしているわけだし、これから魔法スキルを取ろうというときに生産か戦い、どちらかしかできない一日は困る。
というわけで俺は即決で「支援魔法」と「治癒魔法」をとることにした。残り二つのスキルホルダーに何を入れるか決まったわけではないが、これからに有利になるようなものを入れればいい。
と言っても、これで素材が取れやすくなったなんて思ったら大間違いだ。支援魔法の効果を確認してもいないし、そもそも阻害魔法と一緒でパーティープレイ向きに違いない。攻撃力アップだけなら俺自身にかけておしまいだが、防御力アップだの素早さアップだのがあるとすれば俺以外に適任がいる。支援効果だけならそれ以外にもたくさんあるだろうし検証するのが先か。
俺はフィールドに出ることにした。
フィールドに出て、俺のレベルにあった狩場に移動する。と言ってもまだレベルは20のところに行っておいた方が手堅くて安心だ。
と思っていたら、前方から珍しいやつが歩いてきた。
「おっ、J。どうしたんだよこんな時間に」
「ズボン、説明してやってくれ」
ういっすと答えた麻ズボン…… だったと思う、そう言う名前のモヒカンの巨漢が丁寧な説明を始めてくれた。
「エイルン東部に岩山があって、そこから先は森になってるんす」
「ああ、知ってる。次の街だっけか?」
「話は早いっすね。そういうわけで攻略に挑んだんすけど」
「失敗した……?」
「そういうことっす」
「このメンツで?」
どう見ても、隠れている連中を含めて三十人以上いるはずだ。
「そうなんだよ…… このメンツで失敗した」
「おかしくねえか?」
「まあ、推奨人数百のボスが出たからね。一割も削れないで全滅した。成果はある」
「どういう成果だよ」
全滅したとていいことはあるのさ、そうだろうとJは笑う。どういうことだよと俺が怪訝な口調で問い返してみると、Jは驚くべきことを言った。
「街の名前が分かったんだ。いやはや解析スキルってやつはすごいね」
「ただじゃだめか……」
「いや別にいいよ。書き込むつもりだったから」
「そうなのか」
じらすこともなくJは述べる。
「ベルティベルク、そしてリベルウルム。これが第二の街と第三の街の名前だ」
設定を考えるのがめんどくさい、パソコンの前で「うーん、あ、一行……」をひたっすら五時間くらい繰り返してやっとこれなのに消費ペースが速すぎるんだよふざけるな! と、誰かが怒っていた。でも設定だけ作りすぎると活かしきれなくなるし、そういう人はごまんといるということを経験則で知ってるし。自分も設定だけ作りこんで死んだ作品をいくつも抱えているわけだし。
スキルノート
「スキルとは」
通常の行動(歩く、走る、食べるなど)を超えて活動しようとした場合、できないことがある。簡単にいえばできないことを「MP」「空腹度」などを消費し行う、それこそがスキル本来の役割である。
専門の職業でないと行えないこともスキルのなかに含まれており、その場合はプレイヤーには作ることができないアイテムが存在することで「どこまで行っても専門の職業としてではない」ということを表わされる。このようにシステム面からみるとなかなかえぐい。
という闇はともかくとしても「人間に行うことが困難なこと」「人体への悪影響を押し殺しやらなければならないこと」を行うためには多量の代償を払うことになり、それが「消費MPが多い」ことに直結する。雷魔法はその典型であり、人間には雷を放てないこと、また八ケタから九ケタの電圧、電流を操ることが人体に及ぼす甚大な悪影響を一切無視することで恐怖を覚えるほどのMP消費を実現してしまっている。
基本的にスキルで行えることが規定された行動(軽業で言う長距離跳躍)を行うことでスキル経験値がたまり、既定の値に達したときスキルレベルが上昇する。そんななか生活するだけで上がる「素早さアップ」や「MPアップ」は反則技ともいえるものであろう。




