#022 In the Dark-Night
作風が暗いなあ、と思ったのもこれで数えきれない数に達したはずです。
そうそう、おかしな名前のキャラクターが大量に登場していますので、いつも通りのこいつだなと思って楽しんでください。
どうぞ。
こんな血なまぐさいものを見に三百人も集まるとは思わなかったな、と寝ぼけたような顔をした男が楽しそうに言った。真面目に答えようと言うものがいそうにも見えない暗い室内で、一人ほがらかに笑いながら恐ろしい言葉を返す。
「死死っ、でも死に「かん死ん」がある人が増えていいよねっ」
「ですですちゃん、だから死っていいすぎじゃないかな」
「死ッ死ッ死ぃ、これが面白いんだもんねー」
黒い革鎧、平坦な胸の中心に「死」と書かれたパンク風の意匠をまとった少女が妙にアクセントをつけながら笑った。ツインテールにパンクファッションというどこかのアイドルのような見た目だが、その活躍する場所が太陽に照らされているとは考えにくい。
「確かにこんなに集まるとは思わなかったが…… まあ、彼がMPに対するごたごたを何とかしたいと言うものの助けだろう、半分は。残り半分は君の采配じゃないか、J」
「ばれていたかな」
「見え見えだよ君の目的は。面白いやり方だね、「組織」の連中にしては」
重鎮らしき雰囲気を醸し出す、しかし寝ぼけたようなパジャマの男性は眼光鋭く軽装の上にアルミニウムのような光沢を持つプレートを付けた男をにらむ。当然のように軽金属の薄い鎧に身を包んだ好青年はそれに怖気づく様子も見せずにおどける。
「ここまでやるとは思わなかったな」
バカにしたように言った後ふん、と鼻を鳴らしパジャマの男性は目を閉じた。椅子に深く腰掛け、考えるのをやめたように深呼吸を始める。
「P.K.Cの連中全員が「面白そうだから協力する」で一致してくれたんだ、派手にやらないとつまらないじゃないか。それに切らあ君も面白いネタを持ってきてくれたし、ねえ」
「あっ、わざと死ねって言うの避けたでしょー!」
「勘違いされたら困るじゃないか」
飽くまで死にこだわる少女はにやにやしている。
「今回私が出られないぶん、いっぱい殺してきてよねっ」
「分かっているよ。隠し玉もあるんだ」
インベントリに入っているそれは、ただの文字列にすぎない。もちろん目にしたとしても地味なものだから見逃すだろうし、それがどんなものか誰も想像してみようともしないだろう。まさかそれが必殺の一撃であるとも知らずに。
「組織のバカどもは何と言っているのだ」
いよいよナイトキャップをかぶったパジャマの男性は、目を薄く開けてぼそりと言った。軽装に薄いプレートの男はへらへらしながら答える。
「ああ、上か…… モラルがどうこう、一般論だよ。できなかったことを言うからね、やつら。それでいけるならここまでしなくてもいいと思うんだが…… まあいい」
吐き捨てるような言葉のあと、決め台詞でも言うようにがらっと声のトーンを変えて薄い鎧の男は光の入る薄い筋に手をかけた。
「さて…… 出ようか」
暗い室内から扉を開けると、大歓声の沸き起こる闘技場だ。
「英雄の誕生祭だ」
◇
夜の9時から12時までが「プレイヤーキラー・トーナメント」が行われる時間で、1日に行われる試合数は制限時間30分として6回だ。全部を律儀に観戦しなくてもいいだろうとは思うが、見知ったやつが出るときくらい見てもいいんじゃないか。
いわゆるコロシアムの形をした闘技場には何百人も客が集まっている。この中にはもちろん出場者以外もいるだろうから、チケット代は相当もうかったはずだ。
『ついに始まりました、P.K.T、正式にはプレイヤーキラー・トーナメント!』
実況の妙に暑い人はいったいどこの出身なのだろう。この人のおかげで気温が5度は上がるに違いない、と思ってから名前を確認してみる。えっと。
『実況は体が熱くなることで有名なS&Zでお送りします!』
SとZ ……だめだ、完全に暑い人だ。
『解説の暗黒ティッシュ(意味深)さん、今回の注目選手はどなたでしょうか!?』
『はい、暗黒ティッシュ(意味深)です。今回の注目選手は意外にたくさんいますが、やはり名を知られた有名人と無名の猛者の両雄、この二大勢力でしょう。大勢力を率いるギルドマスターや野良パーティーの英雄、これらが良く知られた方々ですね』
マイナーなのは俺たちか。
『でも暗黒ティッシュ(意味深)さん、無名の方々って知られていませんよね?』
『人知れず戦い続ける姿を目撃したと言う方や、不可思議な方法で救われて結局未だにあの時何が起こったのか分からない、という方から意見が寄せられておりまして今回出場する選手の中にそういう方がまぎれていらっしゃるのではないか、ともっぱらの噂になっているのです。じつは私もそういう経験がありまして』
『へえ、今は戦いを実況しながら魔法で支援を行う暗黒ティッシュ(意味深)さんもそんな時代があったんですね?』
いいかげん暗黒ティッシュ(意味深)がうるさくなってきた。
『それでは第1回戦の選手の紹介に移りましょう。無明の暗闇から参上、洞窟に籠り修行を続けてきた天狗剣士「そふとたっち」!!』
さらっとS&Zさん無視されてる。しかもこいつネーミングセンスねえな。
『なんと複合スキルである「刀」の持ち主だそうです! 時代が変わって、御腰のモノもただの飾りではいけなくなったということでしょうか!』
そふとたっちというらしい浪人のような剣士は一言「切り捨てるぞ」と言った。
『失礼しました。暗黒ティッシュ(意味深)さん、刀スキルはどうすれば扱えるようになるのでしょうか? 複合スキルだそうですが……』
『言っていて分かってなかったんですか。スキルレベルで解放される派生機能を複数組み合わせることでまったく新たな性能が開花することがあるんです。片手剣とそのほかいくつかを組み合わせることで刀を使えるようになったらしいですね。装備自体に問題はないんですが、刀の特技が発現しないらしいです』
ほうほう、とうなずける話だった。ということは鍛冶と錬成と錬金を全部そこそこのレベルまで上げることができれば、とても恐ろしいことが起こるのではないか?
『対するは神なる国より訪れしヴァルキリー! 「ミサ」さん!!』
ミサの姿がないとは思っていたが、まさかこんなにも早く出るとは。ミサ自身が言っていなかったから気付かなかったが、もしかしたら見てほしくない戦いだったのかもしれない。そう思って立ち上がろうとしたが、ミサが客席を見渡して、こっちを見た。
すぐにミサは相手に向き直り、そふとたっちと互いに礼をする。
『白い女神と闇の天狗、どちらが勝つのでしょうか……?』
『私としてはティッシュを使わせてくれそうな方が勝つことを祈っています』
『暗黒ティッシュ(意味深)さんって、男性もイケる口ですか?』
『試合、開始ッ!!』
ミサの姿が掻き消え、次の瞬間にそふとたっちとミサは剣を打ち合わせていた。
『そふとたっちさんはスピードタイプの剣士、ミサさんはパワータイプの剣士のはずですが…… 互角に打ち合っていますね』
本来の刀は意外にもろいものだが、それではゲームは成り立たない。
ミサが蹴りを繰り出すが奇跡的にも思える寸単位の回避でそれを受けず、そふとたっちは突き出された脚に刀を繰り出す。ところが足はブラフであったようで盾が迫りそふとたっちの顔面を痛打した。HPゲージが1割も減る。
『すごい! 侍にクリーンヒットを入れるなんてなかなかできることじゃないよ!』
『さすミサですか』
うるせえよいらねえ。
しかし刀も確かにミサの足を傷つけ、同量のHPを削り取る。鋭さと正確さ、そして装甲が少し薄いところを狙う的確さ、これらが成した業なのだろう。
その瞬間で止まっているわけではなく、盾と剣と拳と足を使ったミサ、そして刀のみを頼りにするそふとたっちの戦いは続いていた。
力技で剣を振るい蹴りを入れるミサに対して、剣を受け止めたかと思えば流してゆらりと回避するそふとたっちの技量はまともではない。文字通り天狗とでも戦って剣の修行を積んだような、人間のそれではない剣技だ。
『おおっとここで両選手、特技を発動するようです!』
『ミサ選手のは青、そふとたっち選手のは緑に光っていますね』
ミサの青い剣は見たことがある〈レインブルー〉だろう。刀の特技は誰も見たことがないので、会場が一瞬静まり返る。
「〈レインブルー〉」
「〈海原薙ぎ〉」
ひそやかなささやきがここまで届き、斬り払い斬り戻しのあと突きというレインブルー、そして斬り払いと斬り戻しだけの海原薙ぎがぶつかり合う凄まじい音がした。火薬が破裂でもしたかのような規模の土煙が巻き起こり、何も見えなくなる。
『な、何が起きたんでしょう暗黒ティッシュ(意味深)さん!』
『単純な激突じゃありませんね…… 火薬アイテムでしょうか』
天狗は「その時代からするとすごかった技術集団」だとも言われているため、それを再現したのだとすれば「天狗のもとで修業を積んだ」というのも嘘ではないのだろう。とすれば、こいつはネタ集団の刺客かもしれない。
ダメージ判定は瞬間的で、火薬の煙が消える前からずっと、恐ろしいほどのHPが減少を続けている。追いかけっこの悪夢のように続く時間は、三秒で終わった。
『おっと、双方のHPゲージが危険域に……?』
『クリーンヒットはあり得ませんね、火薬らしいですが……』
煙が晴れる前に剣戟の音が始まる。が、一瞬で終わった。
煙が晴れて、そこにはミサが立っている。
『お、おお! なんだかよく分からないうちに終わってしまいました!』
『勝者はミサ! ヴァルキリーこと、ミサです!』
何が起こったのか、それは分からないままだった。
◇
そのときお互いに剣をぶつけ、その衝撃で後ろに下がった。
そのときどちらから先に特技を発動することになったのか、美沙は覚えていない。
(人と、斬り合うこと…… 殺意が見える)
液体になった頭の中にへんな言葉を浮かべてみても、冷たさは消えなかった。切り付けられた足から命が奪われたように思えて、殺意が刃に変わるのを見たのだろう。
早く兄に会いたい。美沙はそう願った。客席にいた兄がきっとここにくるはずだ、でもそれにはまだ時間がかかるだろう、と。
(お兄ちゃんに任せるって言ったのに)
素直に任せておけばよかった。
知らない、触れてはいけないものだ。兄が言っていたのを思い出す。
――人を殺すことがなんで悪いかなんてわからないだろうな。でも殺しちまったらその瞬間に悩むことすらなくなっちまう。殺しまくってるやつらはそういうのだ。美沙は絶対にそういうことに手を触れるな。罪はひとつで無限大だからな。掛け算しても無限大だ、量が分からなくなっちまうんだ。
(いつもみたいにバカ言ってるなかにあんな言葉入れちゃだめだよお兄ちゃん)
差しのべられた何かを拒むように、ひざを抱え込む。
もう一人が来たら全員が死んでしまうカルネアデスの板だって、助けられる方が手を伸ばすのをやめればいい。泳ぎ去って死ねば、より大きな罪悪感は残っても死ぬ人の数は少なくて済む。
(剣は、人をきずつけるもの)
美沙は呪う。
(私は剣を持つ)
言いつけを聞かなかった、兄をバカにしている、幼い価値観で生きていた、白い姿をしている、血で穢れた、こうやって丸くなっている、
自分を。
(顔を突き刺した…… もう私は戻れないんだ)
侍を殺したとき、灰色の暗殺者を蹴り飛ばしたとき。
「おーいミサ」
「お兄ちゃん」
どうしても笑顔になれない。仮面をかぶるように笑顔を作るなんて学校では日常茶飯事だし、兄の前で笑顔にならないなんて滅多にないことだ。
でも、もう二度と笑顔になれないのかもしれない。
「お兄ちゃんの言ってること、分かった」
「そうか」
兄の微笑みが消えた。どのことだったのか、一瞬で分かったのだろう。
「……次は俺の番だ。一つお守りを渡しとくよ」
兄はきざなしぐさで何かを投げた。
それを拾って、美沙はもう一度ひざを抱え込む。
「来ちゃいけなかった」
「そうだな。俺たちには重すぎる」
オトナになったら、してもいいことが増える。
そう、誰かが言っていたような気がした。でもきっと、そうじゃない。大人になってから、ようやくできるようになる、それが正しいはずだ。
「行かなきゃな…… お守り、大事にしろよ」
兄は足音を鳴らしていなくなる。
美沙はついに顔を上げなかったことを、少しだけ後悔した。
見たところ次回は主人公が戦うみたいですね。ひとごとみたいに言いますが手が自動的にやっているもので、内容を覚えていなくて読み直さないといけないこともしばしばです。物忘れがひどいのって治らないでしょうか。
次回更新はそれなりに速くなるでしょう。一か月以内くらい。




