#019 投げ
投げ。
どうぞ。
俺に話したことを誰にも話すな、と父さんは言った。
問題はお前には処理できない大きさまで膨れ上がってるから、お前は頼んだ仕事をやってといてくれ、その間に俺もできることをする、と。
「セントラル、そういうわけだ。今からお前の目の前で鎧を作る」
「平民ながら大企業の嫡子たる僕を殺し屋退治に使おうと。いいじゃないか」
「ミサが見てたのはアウルムオンラインのプレイヤーイベントだ。その名も「プレイヤーキラー・トーナメント」。ジャンプ展開にありがちなトーナメント…… って言って分かるんならいいけど、どうだ、分かるか?」
セントラルはちょっと首をひねってから、ジャンプうんぬんは分からないが勝ち上がり戦のことかい、と言った。その通りだ。
「人間に対する戦い方とモンスターに対する戦い方じゃ百八十度ベクトルが違う。おあつらえ向きに闘技場なんて用意されてるもんだから、裏側が真っ黒なやつらが白い看板掲げて「さいきょープレイヤァけっていせんー」なんて言ってやがるんだ。そこでだ」
「僕をそこに出すのかい? 負けなしと自負してはいるがね」
「細かいことはいいんだよ。賞品もあるぞ。トーナメント前に俺が鎧を送ったことが無駄になるような防具があるかもしれないし、一位はとんでもないものをもらえるかもしれないぜ」
それで釣れると思わないでほしいね、とドヤ顔でセントラルは胸を張った。
「賞品に興味はないが不肖セントラル、出場しようじゃないか」
「鎧だ鎧。このレシピを使う、見てみろ」
レシピの名前は「(未定)」となっている。バグではない。
基本になる鉄のインゴットは持っているが、インゴット一つはライトノベルを二冊重ねた分くらいのカサしかない。明らかに鎧を作るには足りないのだ。
「残り四つの自由欄、これが肝なんだね?」
「そういうことだ」
合金ではない。本当に「何を入れてもいい」のだ。どれだけ鉄と相性の悪い材料を入れたとしても出来栄えに影響はない。極論すれば、ゴミを入れても完成する。
「セントラル、お前が提供してくれたものを入れてもいいし、俺の手持ちの材料を入れてもいい。昨日もらった宝石箱に入っていた宝石、こいつは入れるぜ」
尋常じゃなく重い、拳くらいの大きさなのに持ち上げるのに両手が欲しいと思えるほどに重い「淵龍眼」。ずいぶん前に出たきり使う機会もなくて取っていた、しかし超絶的にレアなのだろう「蒼天玉翅」という昆虫のさやばねも入れるつもりだ。
「それではこれを入れてくれ、水のダンジョンで手に入れた「障壁の青石」だ。水属性を吸収しMPに変え、火属性を和らげる結界を張れるらしい」
「すげえな、よく取れるもんだ」
ユニークなレアアイテムはないだろうと思うが、この人以外は運が関係してて取れなかった、というのはゴロゴロありそうだ。実際俺が持っていた「淵龍眼」や「蒼天玉翅」なども条件を満たさないと取れないアイテムだったりするのかもしれない。
「あと一つだ。どうする」
基本となる「鉄のインゴット(中)」と「淵龍眼」「蒼天玉翅」「障壁の青石」で、かなり水属性っぽい鎧になったはずだ。実際完成予想図として挙がってきているグラフィックはほとんどサファイアかと思うくらい青い。そして何だか、金属と生物が半々で混じり合っているようなデザインだ。自動生成なんだとしてもすごい。
「それじゃ、これにしようか」
「お、おい」
セントラルが自分の鎧、一回装備成長した「鎧」を外した。装備成長しているだけあってそこそこのスペックはあるはずだが、そろそろついてこられなくなった段階だろう。
「インゴットに戻せるんじゃなかったかい」
「そ、そりゃそうだが……。いや、そうだな。やるか」
俺は準備にとりかかった。
貸し錬成床では若干狭いので、貸し金床に移動した。すぐ横だ。
「インゴットに戻すのが先だな。ほんとにいいのかよ」
「いいんだ。これだけ心血注いで作ったものがこれに劣るなどとは思えない」
初期装備を溶かすとオリジナルインゴットという特殊アイテムができる。いちおう加工できるが、加工の難しさのわりにはスペックが釣り合わないので有名だ。
「溶けたぞー。そんじゃ全部放り込む」
「ああ」
二冊重ねたライトノベルくらいの大きさの鉄の塊を炉に入れて、シャンデリアの球みたいな形の青い宝石を入れる。続いてギラギラ輝く超硬質かつ軽い幅広の剣みたいなもの、そしてエメラルドブルーの三角錐、鎧から溶かした白い塊を入れた。
「すばらしいね」
セントラルが言ったのをうなずくだけで流し、俺は炉の中に金バサミを突っ込んで渾然一体となった塊をつかみ上げる。輝きを放つそれをいくつかに分け、大きなものを横に置いていたハンマーでたたいた。これまで聞いた音の中にはない、純粋な音が響く。
叩いて、ちょっとだけ錬成も使って形を整える。固まろうとする方向に逆らわず魔力を流してみると、なかなかうまく一つ目のパーツができた。同じ調子で小さな塊だった二つ目と三つ目のパーツになるものも完成させる。
「これをくっつけるんだ。接着剤はいらないからな」
「金属に接着剤ね…… あまり聞かないが」
MPを消費するが、まあ溶接の仲間だろう。素材の温度を目で見て、なじむように工夫しながら貼り付ける。温度の下がり具合が同じになって、手で持っても心配ないくらいの温度になったころ、完成の文字が俺の目の前に浮かんだ。
「……できたのかい?」
「ああ、できた。蛟虫の鎧、だそうだ」
たぶん「こうちゅう」か「みずちむし」でいいのだろうがいろいろ不気味すぎる。みずちと言えば竜の子供、龍の子供の子供だ。成長しそうな感じがする。
「すごい鎧だ…… スペックも段違いだし、美しい」
「俺にできないことがもう一つ減ったことになるな」
右肩には蛟の頭があり、そして左肩には虫の足のようなものに掴まれている。それを美しいと言えるかどうかは正直なところ微妙だが、青い色、それはもう表現しようがない。
「この色って、なんていえばいいんだろうな」
「言葉にすると感動が減る。やめておこう」
「それはそうと…… やべえ、今日はもう狩りにいけそうにないな」
どうしてだい、とセントラルが言うが、残りMPが4なのに狩りに行くやつがどこにいるって言うんだ。これが40とか400だっていうならまだしも希望があるが、最大値がようやっと2000超えたかなってところで残りが4ということになると、残りかすという言葉を使うのもためらわれる。
「いちばん消費MP少ない〈シュート〉でも消費は5あるんだから、特技も使えないし魔法なんて使えっこないんだよ。休憩による魔力の回復だと今日一日何にもせずに過ごさないといけなくなるしな、昨日消費しまくった武器の補填もできない」
大部分が「銅のかたまり」と「鉄くず」に変わっている。銅のかたまりというとドロップアイテム辺りでありそうだが、消費しきられたゴミだ。ちなみにドロップアイテムの方だと「純銅の塊」らしい。
そう、MPがなくなってしまったので投げ武器の補充ができない。わずかでもあれば一本くらいできたかもしれないが、わずかと言っても8くらいは欲しい。5を超えていれば可能性はあったが、これはちょっと、もうあきらめるしかない。
「まあいいだろう、ストレージの整理にな」
「それが終わったら狩りに行こう」
「ちっ、しゃーねーな」
お披露目に行きたいんだろう。
ストレージの中を確認すると、やっぱりアイテムが貯まっている。銅のかたまりや鉄くずは捨てるわけにはいかないが、昨日の洞窟で入手したものは食材以外売り払える。
「意外と売れるもん多いんだな」
「そりゃそうだろう、味方に欲しいと言われたもののカテゴリ以外は全部売り払うのが普通だからね。自分じゃ使わないアイテムがほとんどだから」
「そういやそうなんだよなあ…… 下手にいろいろ作れるから素材も取ってたけど」
スキルを最初に五つ選んで、スキルホルダーが増えた瞬間に鍛冶スキルを取った。だが加工できるのはやはり金属だけで、今回みたいに特殊なレシピがない限りは他の素材、木材やら液体やら食材は必要ないのだ。食材はミサが加工できるようだから後で私に行く予定だが、金属とそれ以外はまるでいらないことになる。
「あ、石ころまだ残ってたか」
具体的にスペックが明らかになっていないアイテムはまとめられる。重量が変わるわけではないが、まとめておいた方が楽だろう。石ころはまだ34個も残っていて、戦いに行くには十分な数だった。投げ回数は心許ないが、まあないよりましだろう。
「石ころなんて何に使うんだい」
「意外と使えるんだぜ、投げ武器使いにはな」
まあ、それ以外に投げられるものはほぼ残っていない。間違って残しておいた鉄の投げナイフは投げ回数が全部残っていたが、真面目に戦うつもりなら三本は欲しい。
貝殻の特に硬い部分やエビのハサミ、カニの甲羅そのままなんてものもあった。これらはまとめることができるので、同じアイテムごとにまとめる。食材にしてもちょっとレーティング違反だろうと思うものはミサにも渡さないでおくべきだ。貝の内臓とか、トカゲの足とか。運営に通報するぞ運営め。
「さてと…… こんなもんか」
ザグラム・マディーアからドロップしたものも、名もなき者からドロップしたものも、よくよく考えてみれば俺には使いようもないのだ。鉱石っぽいものは残しておいて大丈夫だと思うが、それ以外はやっぱりいらない。
「まとまったのかい」
「ああまとまった。けっこう売れそうだ」
「こまめに売りに行けばいいのに君は……。狩りはそのあたりでいいかな」
「いいだろ、遠すぎてもめんどくさいしな」
近くの店で買い取りをしてもらう。どうやらNPCだったようだが、そのためか値切られることもなくかなりの儲けになった。
「あー儲かった。店売りの投げナイフが買えそうだな」
「買わないのかい?」
「これだからご子息サマは。世の中には金で解決すると損しまくることがあんだよ」
「ほうほう。平民なりの知恵か」
こいつうっせえな、とは思うが何も言わない。
趣味で作るものだし趣味で買うものだから、投げ武器が高くても誰も文句を言わないしそもそもコレクション以上の意味はない。日常的に使うやつには最悪の状況だ。
んで鎧はどうだ、というとフィットするねと言われた。
「ちげえよ性能だよ」
「戦っていないじゃないか」
そうだった。
最初の街であるエイルンの、オープニングムービーに出てくる門をくぐって外に出る。
「今日はなんかモンスターと出会えるといいな」
「そうそうレアモンスターと出会っていては身が持たないよ」
まあそれもそうだ。攻撃性の強いレアモンスターほど面倒なものもいない。
「俺はもう満足だぜ…… ネトゲはやっぱおもしれえ」
「そうかい? 僕はまだまだだと思うが」
人に関わって、ちょっと嫌な事とかもあって、でも楽しいことがそれを帳消しにしてくれる。よくできた物語みたいな美しい構造を経て、俺たちは日常に帰ることができた。
「正直ネトゲには飽きかけてたんだよな。フレと一緒にダンジョン潜って、相手が取りたいやつと俺が取りたいやつを取ったらその日はしゃべって終わり。無駄に楽しい分、効率を重視してる別の俺はクソつまんねえんだよ。二律背反の俺が両方満足してる、こりゃすげえことだと思う」
言葉がおかしいとは思う。俺は俺だから、二面性があっても多面体の別の面であって別の立体ではないのだ。
「いつの間にか金を突っ込まないと面白くなくなってたり、フレが辞めていってたりしてな、飽きるんだよ。エンドコンテンツだって飽きる。何回もやって、攻略パターン作っちまえばこっちの勝ち。運営が努力しても終わりは近付いてる」
「そういう経験はないね…… ゲームには縁がないんだ」
「そうだよな、日ごろからゲームに浸かってねえと分からないと思うよ。いつまでやっても飽きないことが一つでもあるようなゲームは今までなかったんだ。いや、これだってまだ全然やりこんでないから、そういう考えを起こすのは早いけどよ」
「そうだ、まだこれからだよ。庶民に手が届くゲームになったんだ、僕らのような人間だけが楽しむわけにもいかないね」
くそが、と毒づいてから、そのとおりだ、と思った。
ネトゲなんて風潮ができてしまったら終わりみたいなものだ。金持ちしかできないようなゲームだったものがようやく庶民の手にまで降りてきて、やっぱり金持ちにしかできないのなら誰もやらないで終わる。
レベルがないとできないとか時間取られてしまいだとか、そういうゲームならもっと人は少なくなるだろうし、問題外のクソゲーだってある。
「わりといいゲームだ、これ」
「そうかな。僕には分からない、今が楽しいだけさ」
にやっと笑い交わして、俺たちは拳をぶつけた。
「それよりゼルム君」
「なんだ」
ふう、と一息ついてる気分なのにいったい何が。
「後ろにゴブリンが」
ええええ!?
「早く言えよこのボケナスが!」
……いつかはこのゲームにも風潮が生まれるのだろう。それがいい方なのか悪い方なのかはわからないし、だからどうなるのかは俺は知らない。
俺にだってゲームをしていられなくなる時が来るだろう。ゲームにも俺にも、平等に終わりは来る。
「ちょっと待った、アーチャーがリンクしているみたいなんだが……!?」
「だから早く言えって言ったんだろうがああ」
でもその終わりまでは、このカオスな日常で遊んでいよう。
そう思いながら俺はバカみたいに石ころを投げた。
作者も主人公もいろいろ投げちゃっています。悪気はないのです。投げっぱなしエンドというやつです。ごめんなさい。
二章はいつかまたちょっと書けたら投稿する予定ですので、三か月くらいお待ちください。いえひと月もせずに出すつもりではありますが、しばしお待ちを。




