09-1. 相互理解
ステップ9.1。(完結後追加話)
相手のことをすんなり理解したりしなかったり、相手側にも自身のことを無理矢理でも何でもとにかく理解させてやりましょう。
【文字と響き】
「気付いたんだけど、夏川くん。私と夏川くんって、苗字の相性がぴったりじゃない?」
「夏と沢、井戸と川。言われてみれば確かにそうかも」
「夫婦になってもきっとその爽やかさは維持できるはず……」
「えっ、妄想なのに随分気が早くない?」
「夏川ぺー&パー夫妻……よし、まだ維持できてる」
「できてない」
【派閥】
「夏川くんって、犬派? 猫派?」
「うーん。どっちも好きだけど、どうしても選ばないといけないなら、犬かな」
「そうなんだー。じゃあ、四神の青龍と白虎だったらどっち派?」
「えーと、どちらかというと爬虫類っぽい龍よりは哺乳類っぽい白虎かな……これ何の話?」
「そっか。じゃあ夏川くん、アメリカとロシアだったら、どっち派?」
「な、何を知ろうとしてるんですか沢井さん」
【裏】
「あの、夏川くんは、ぱっパンツは……白と赤、どっちが好み……?」
「えっ……やっぱ白かな。王道だけど」
「へえ、白。つまり白虎。白虎は西を意味する、ってことは……アメリカの資本主義に与する人なんだね。これでようやく夏川くんの正体がわかったよ」
「ご、誤解です。俺はただ純粋に女の子のパンツの話をしていただけで」
【イメチェン】
「夏川くんって、ちょっと優しすぎると思うんだよね。もう少しオラオラっぽくしてもいいんじゃないかな」
「いきなりそう言われても難しいなー。一体何をどうすれば?」
「例えば、そうだね。とりあえず一人称を変えてみたらどう?」
「俺様とか?」
「もっと威厳を持っていいと思う」
「……わ、我は」
「まだまだ」
「余は」
「あ、惜しい。でも違う」
「もう他に思いつかないよ。結局何て言えばいいわけ?」
「"朕は"」
「オラオラとは真逆の高貴さが……!」
【リポーター】
「私この間、夏川くんに生の甘いものをあげたでしょ」
「ああ、沢井製生八つ橋。おいしかったよ」
「ありがとう。それでね、実は今日も生八つ橋とは別に、生の甘いものを持ってきたの。何かわかる?」
「生ってことは……やっぱり前みたいに和風の生菓子? 沢井製ようかんとか」
「違うよ。前回とはジャンルが別だからね」
「あ、じゃあ洋菓子の生菓子だ。生クリームを使ったもの?」
「全然違うよ。正解は……」
「正解は」
「生牡蠣、でした! 産地直送、ご賞味あれ!」
「うわあー! 産地直送なだけあって新鮮ですね! クリーミーな甘みが舌の上でとろけますっ。さすが海のミルク! ……あ、あれ、甘いってそういうこと? これって正しいの?」
「グルメ特集的には」
【たぶん趣味の世界】
「夏川くんって、携帯の壁紙は何の動物にしてるの?」
「沢井さんの中では、俺が動物画像を待ち受けにしてるってことは決定事項なんだ」
「違うの?」
「半分当たりで、半分外れ」
「というと」
「今週は捕食中のオオアリクイなんだ。つまり壁紙は動物と虫」
「へ、へえ。ちなみに先週は?」
「ジュゴンだよ」
「ジュゴン」
「沢井さんはジュゴン好き?」
「い、いいえ、特には……あ、来週は何にするの?」
「オカピとラーテルとセンザンコウ、あとアオアシカツオドリ辺りを考えてるけど、その中のどれにしようか迷ってて。沢井さんはどう思う?」
「もう何が何だか」
【怒り誘発】
「夏川くん。人は怒ったときに本性がわかるって言うよね。だから私、すごく失礼な態度で夏川くんを一度本気で怒らせてみようと思う」
「事前に告知したらあんまり意味なさそうだけど……」
「前から思ってたけど、夏川くんって動物に熱上げすぎだよ。おかしいんじゃないの?」
「おかしいかな」
「おかしいよ! 例えば以前話したヘアリーブッシュバイパー、鱗が毛のような形状をしてる蛇って、何それ? 蛇はつるん、ぬるんとしてるのが前提でしょ? あんなにぼさぼさしていたら聖書に出てくる蛇はイヴを誘惑する前に木の枝に引っかかるんじゃないの? 何より掴みにくそう。まだまだあるよ。えーと、マンガリッツァ? 別名羊毛の豚って、どういうこと? 人間の目線から見たら、羊なのか豚なのかはっきりしてほしいところだよ。鵺じゃないんだから! それからオカピも」
「沢井さん沢井さん、方向がずれていってます」
【怒り誘発2 和解】
「ちょっと間違えちゃった。夏川くん、もう一回チャンスをくれる?」
「なんかよくわからないけど、どうぞ」
「……な、夏川くんってさあ、動物愛好家だけど、私は違うのよね」
「ちょっとオネエになってるよ」
「この間なんか、ステーキ食べちゃったんだから! もう惨たらしいやり方! ウェルダンで! こんがりと!」
「おいしかった?」
「もちろん、おいしく頂い……いたぶってやったわ! 動けないあいつをナイフで何度も何度も切ったら、フォークでずぶりと刺してやって、それからじっくり咀嚼してやったんだから! その後は、胃酸でどろどろに溶かして、嬲るようにゆっくりと腸まで送ってやったわ! あーっはっはっはっ!」
「……沢井さんは、俺に対する認識を色々と間違えてるから、怒らせるにはそこを乗り越えないとね」
「アドバイスどうもありがとう」
「どういたしまして」
【金の力】
「ハロウィンの仮装姿でお雑煮のお椀を持ちつつ、門松と、その間に鯉のぼりと桜の花を飾りつけたクリスマスツリーを置いて、BGMにうれしいひなまつりを聞きながら、流しそうめんの竹に年越しそばを流して食べれば……あら不思議! 一年の行事がたった一日で終わる! あっ、夏川くん、もっと豆をまいて!」
「は、はい……。なんで俺、言われるがままにしちゃうんだろう。も、もしかして、これって恋……!?」
「約束したお年玉増やすから、夏川くん、後で食べる恵方巻きにチョコをトッピングしておいてくれる?」
「わかった! ……あっ。ああダメだ、沢井さんの言葉に逆らえない。これが恋の力……!」
「もっと豆!」
「はい、ただ今!」
【つられてデュエット】
「夏川くんって、音楽は何聴くの?」
「こだわりないから色々聴くけど、最近は沖縄の民謡音楽にハマってるよ。沢井さんは?」
「私は最近だとスキャットマンかな。私たち、音楽の面でも一緒に楽しめるかもね」
「えっ。沖縄の民謡音楽と、アメリカのジャズで……?」
「そうだよ。意外かもしれないけど、ちょっと想像してみて。沖縄の海をバックに、三線の音と一緒に歌うスキャットマンを」
「いや、意外というか異色のコンビすぎて……難しいよ……」
「……I'm the scatman!」
「えっ」
「デベデベデベデベドロンドンっ、ボロンチョっ、デベデベデベデベドロンドンっ、ボロンチョっ、はい一緒に!」
「Be-Ba-Bop-Ba-Dop-Bop! Ba-Bop-Ba-Dop-Bop! Be-Ba-Bop-Ba-Dop-Bop! Ba-Bop-」
「シャバダバダバダバダバ!」