第四話 試練
いつものようにアルトと剣の稽古をしていると遠くから声がした。
「モンスターが出たぞ〜。モンスターが出たぞ〜」
見回り役の声だ。見回り役が大声を出しながら村中を駆け回る。
見回り役の声を聞いて家の鍵が一斉に閉まった。
男連中だけ10人ほど出てきて槍や農具などを持ってモンスターのところに行く。
「おい、エミル。モンスターが出たらしいな」
「うん、そうらしいな。危ないし、どうする〜。今日はここまでにするか?」
エミルは木刀を下げた。
「何言ってんだよ。エミル、お前外に出たいんだろ」
「そんなんじゃいつまでも外なんか出られないぞ」
「せっかくの機会だし。腕試しにいこう」
さすがに焦った。子供がそんなことをしたらやばい。
止めないといけない。そう思った。
「でもさすがにそれは危ないんじゃないか」
「大人たちでも毎回大怪我している人がいるんだから」
この村にモンスターが迷い込んでくるのもここ数ヶ月の間に何度か体験している。
大人たちが総出で出て行っても、何人かが負傷して戻ってくるのを毎回のように目にしていた。
「やっぱりね。お前はだから弱いんだよ」
「この前言っただろうが、お前は自分に負けてるって」
「お前はやる前から負けると思ってる。だからお前は負けるんだよ」
「そんな奴が外の世界なんて行ける訳ないだろ」
「なんだとー!ふざけるなよー!」
さすがにこの言葉には腹が立った。言っていいことと悪いことがある。
純粋な子供の言葉が中身はおっさんの自分の心に突き刺さった。
「だったらやってやるよ。見てろよ」
思わず、発してしまった。
「ようやくやる気になったか。それじゃないと面白くないしな」
「よし、俺ら二人でモンスターを返り討ちにしてやろうぜ」
それを見ていた。レナがようやく口を挟んだ。
「私もこども二人だとさすがに危ないと思うよ。やめた方がいいよ」
レナはやっぱり優しい子だ。でもこうなってしまった以上はもうやるしかない。
「ありがとう。大丈夫、俺たち二人でそのモンスター倒してくるから」
「そうだ。俺たちでどうにかするからレナは危ないから家に帰った方がいいぞ」
「でも.......。わかった。パパ達には一応知らせておくから」
大人達に知らせてくれるだけで安心できる。
最悪、大人達が来るまで何とかできれば、助けに入ってくれるはずだ。
「じゃあ、またね〜」
レナはいつも通り帰っていった。
「じゃあ、俺たちも行くぞ。大人達が来る前に倒さなきゃ」
「そうだな。行こう」
俺も覚悟を決めた。
村の外れの方へと歩いていく。村の四方は木の柵で囲われているがそれほど厳重な代物ではない。
これがこの村にできる最善の方法なのだろう。
「いたぞ。あいつだ」
少し向こうに狼のような化け物がいた。かなり大きい。
それにここは見晴らしのいい草原。
真っ向勝負で勝てるようなやつではなさそうだ。
「ここは見晴らしがいいし、普通にやったら俺らだけだとやられそうだ」
「そうか。わかった。じゃあ、俺が囮になるからお前は後ろから斬りかかれ」
「おい、木刀しか持ってないんだぞ。大丈夫か?」
「大丈夫だ。俺が何とかする。お前は言われたことだけ、集中しろ」
アルトはこの場面でも強気だ。本当にこいつは一体何なんだ。明らかに普通の5歳児ではない。
とにかく今は自分のできることに集中しよう。
「わかった。二手に分かれていこう」
「じゃあ、いくぞ」
「おう」
アルトが走ってその狼の前に出た。
「おーい、こっちだバーカ」
「ガルルルルルッ」
その狼は簡単な挑発に乗って襲いかかった。
動きが早い。
「おい、マジかよ」
かなり遠くにいたのに一瞬で詰められた。
鋭い爪を立てて振りかざす。
シュッ。シュッ。
アルトがそれを避ける。一撃でも入ったら確実にやばい。
俺は後ろから近づく。
「いまだ。いけー」
俺は走った。この一瞬にかけた。
大きく木刀を振りかざした。
それは狼の脳天に刺さった。
やった。これはさすがに木刀でも一撃は入れられたのでは。
そう思った瞬間。何事もなかったかのようにこちらを振り返った。
狼は振り向きざまに鋭い爪を振り抜いた。
ヤバい。避けきれない。
サァーッ。
血飛沫が上がった。腕をかすった。わずかに掠っただけでこの有様。
ヤバい。腕が動かない。俺は距離を取る。怖い。やられる。
死を覚悟した。恐怖が全身を走る。もはや、背を向けて走っていた。
アルトがその瞬間を見逃さず、狼の脳天を再度撃った。
効かない。
「俺が引きつける。お前は離れてろ」
俺はまた心が折れた。
この場面でも折れてしまったのだ。
大人連中がやってきた。
「お前ら!なにやってんだ!すぐに離れろ!」
「そいつはEランクのブラッドウルフだ!俺達でもまともにやり合えないやつだ!」
「早く離れろ!」
そんなのと戦っていたのか。それは勝てるわけがない。
「アルト離れろー!お願いだー!離れてくれー!」
腹の底から声が出た。
そう言った瞬間だった。アルトは不適な笑みを浮かべてブラッドウルフに再度斬りかかった。
再度、脳天を直撃する。全く効いていない。
ブラッドウルフは瞬時に両手で爪を振り回した。
アルトはそれを瞬時に交わした。
まるで踊っているかのようだ。
なんで笑っているんだ。アイツ。
アイツ、頭おかしいんじゃないのか?
「これじゃーダメか」
だったら、これはどうだ。
アルトが手から炎を出した。
「ファイアボール」
なんであいつ魔法使ってるんだ。頭が混乱した。大人達も静まり返っている。
全員何が起こっているかわからなかった。
ファイアボールが直撃し、ブラッドウルフは燃えた。多少、動きが止まった。
ただ、まだ倒れない。
「そうか、これだとあれか」
「ファイアランス」
大人達の一人が言った。
「あれ、中級魔法のファイアーランスだぞ。何で使えるんだ。あいつ」
一瞬、時が止まったかのように思えた。
大人達が理解したように叫んだ。
「レガリアだ。レガリアがうちの村から出たぞー!」
歓喜に沸いた。
その歓喜と共にファイアーランスがブラッドウルフの脳天を貫いた。
「ガルルルルルーッ」
断末魔とともに燃え盛り、跡形もなく消えた。
俺はこの光景に若干の恐怖を覚えた。まるでいつものアイツとは別人だった。
「おい、エミル大丈夫か?大丈夫じゃないか?その怪我だもんな」
いつものアイツに戻っていた。
「お前、魔法使えたのか?」
「いいや、初めてだよ。なんか出来た。何となく出せるなみたいな」
「何だそれ」
アイツはレガリアに目覚めた。これが能力者なのか。
「それにしてもお前また気持ちで負けてたな。どうにかしないとな」
「ただ、その怪我は俺のせいだ。今回は俺のわがままで悪かった」
「ごめん.......。許してくれないか?」
「まあ....許す。助けてくれたしね」
なんとか意地を張って言葉を出した。
ただ、俺はいつもの悔しい気持ちがなかった。
腕の痛みはもはやあまり感じなかった。
自分への不甲斐なさだけが残った。
アイツは違う世界の人、そう思ってしまったのだ。
その話は大人達から村中にその日のうちに広まった。
そして、村中が歓喜に沸いた。
レガリアに目覚めたものがいるとすぐに王都へと連絡が行く。
その瞬間から位が変わる。
その家族だけではない。レガリアを出した村として、村自体も多少の援助が出るようになる。
そして家族共々王都へと招集されるのである。
レガリアは国としても特別な扱いを受けるのだとこの時の自分は初めて実感した。




