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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
一章:聖女と勇者と加護。
9/64

その【集落】亜人の村につき。



戦闘を終えた三人は、道化師服の不思議な少女――

ルルリカに案内されるがまま、彼女の言う、集落まで森を歩く。


彼女の言っていた集落にたどり着く頃には、すっかり森は薄暗い。

木々の隙間から見える空は、群青色に染まっており、ちらちらと星が輝く。


集落はとても不可思議に満ち溢れ、三人はその光景に驚きを隠せない。


目の前に広がっていた景色、それは――

木の枝や草花で編み込まれた小さな家々に、そこら中に咲き誇る大輪の赤薔薇。


家々を飾るようにぶら下げられている、淡い緑色の光を漏らすランタン。

ランタンの中央には、奇妙な鉱石があり、その鉱石が光源となっていた。


見るからに毒があるであろう、赤と白の水玉模様のキノコ。

そのキノコの上には、丸くて小さい、捻れた角の謎生物が群れをなす。


挿絵(By みてみん)


集落にたどり着いて早々、勇者たちに気がついた子どもたち。

どこからともなく集まってきたかと思えば、興味深そうに勇者たちを取り囲む。


最初、勇者たちが対峙した時は、暗がりで見た目が分からなかったが――

子どもたちは皆一様に、白髪で赤目の見た目をしており、白兎を連想させた。


勇者(ノア)騎士(パルテオン)を、まるで初めて見るおもちゃのように、ペタペタと触れる。

触れる度、彼らは「おお!」や「わあ!」と声を漏らしていた。


「さっきの人たちじゃろ? なんで人間がここにおるん?」

「たまに迷ってくる人族おるし、そういうんじゃないん?」

「大変じゃったねー!悪い人じゃないんじゃろ? ゆっくりしてきんさい!」


集まるや否や、子どもたちは一斉にねぎらいの言葉や質問等――

まるで嵐のように三人に対し、言葉を投げかける。


セラとパルテオンは、たじたじで返答できず狼狽えるばかり。


ノアは膝を折り、視線を合わせて一人ひとり頭を撫で、難なく対応していた。


「すっごく元気だねぇ! えっと、僕たちね、森で迷子になっちゃって――

 それで、気がついたらこの森にいてね? 斯々然々(かくかくしかじか)で大変だったんだぁ!

 でも、ルルリカさんのお陰で助けられちゃって!」


「それと、森を荒らしてた魔物さんは、僕たちがしっかり――

 やっつけておいたからねぇっ! だから安心してね? ふふっ!」


ノアが子どもたちに脅威が去った事を伝えると、皆ワイワイと騒ぎ始め――

嬉しそうな笑顔で、飛び跳ねるように喜ぶ姿は、まるで小動物だ。


そうしていると集落の奥から、背丈は周囲の子供たちと相違ないが……。

どこか、大人びているような、不思議な雰囲気の少年が姿を現した。


頭を少しだけ下げると、やや畏まった様子で勇者へと言葉を伝える。


「先程は事情を知らんかったとはいえ、悪いことしてしもうてすまん。

 森を荒らされてしもうて、我々も気が立ってしもうとってなぁ……。

 人族の勇者には多大なるご迷惑を……お詫びになるか分からんけど――

 こんな亜人の集落で良かったら、手狭じゃろうけど、泊まっていきんさい。」


「長老ー、んならさ。 あたしの家に泊まってもらおうって思うんじゃけど。

 どうせあたしの家部屋余っとるし。 ええじゃろ? 悪いこと無いじゃろ?」


長老――と呼ばれるには、些か議論の余地がありそうだが、誰もツッコまない。

ルルから“長老”と呼ばれたその人は「好きにし」と、返すだけ。


その後、長老は全員に対し軽い会釈の後に、どこかへと姿を消した。


(あれで、長老……長老って、どういう言葉の意味でしたっけ……?)


「みんな、色々気になっとるじゃろうけど、とりまあたしの家案内するけぇさ。

 あたしの家で説明するー。 ほらーこっちこっちー。」


再び、彼女に案内されるがまま、一同は歩みを寄せるが……その道中――

巨大な“推定”毒キノコの上に群れをなしていた生き物が跳ね、皆の側へ。


ひとしきり匂いを嗅いだ後、ノアの足元へと纏わりついた。

彼が足を動かす度、跳ねて動き回り、勇者を翻弄するが如く暴れる。


「ねっ!ねぇ……っ! こ、これなぁに? なんなのぉ……?

 とっても可愛いんだけど、生き物なんだよね……? なんで僕の足元に?

 うわっ!取り囲まれちゃった! な、なんでぇ……?」


驚愕しながらも緩む顔を止められず、ニヤける表情でルルへと尋ねるノア。

が、そんな彼女からの返答は、まさかの「しらね。」だった。


何も分からない。何も伝わらない――なんとも冷たすぎる返事。

そんな、可愛げを感じる二人のやり取りに、セラはくすりと笑みが溢れる。


歩みを寄せていくと、周囲は更に可笑しな物で溢れかえっていた。


ヒゲの生えた樹木の魔物のような、少々不気味な形のオブジェ。

オブジェは蔓を伸ばすと、パルテオンの足を止めて彼の肩を叩く。


何事かと彼が振り返れば、何故か腹を抱え、滑稽なほどに爆笑――


樹木型のオブジェは、抱腹絶倒したまま――そのままピタリと活動を停止。

意味のわからない有様に、パルテオンは怪訝な顔でドン引き。


「お、おいおいッ……! 俺なぁんもやってねぇぞ? どうなってんだ……。」


「パルテオンさんがやっつけたのかと思いました……。 (あれって――

 たしか、トレントという魔物では……? 何故共存を……??)」


が……セラは小さな謎生物にも、樹木型のオブジェにも、絡まれることは無い。

彼女は少しだけ、寂しさと虚しさを抱きながら、皆の後に続いた。


やがて見えてきた、ルルの住まう家の外観。


木の幹をくり抜いたような見た目、編み込まれた草花に、淡い光のランタン。

家を彩る大輪の薔薇に――扉の隣には、寒くもないのに雪だるまが佇んでいた。


雪だるまは視線を勇者たちへ移すと、謎に腹を叩き、歓迎の様子。


意味がわからなかったが、もうツッコむ気力も無い勇者一同。


「ただーまーー」と言葉と共に、ルルが家の扉を開ける。

すると、中から待ち構えていたのか、小さな姿が駆けつけてきた。


「ルルッ!」


白い毛髪を一つに束ねた亜人であろう女性が、ルルの姿を見るなり駆け出した。

ひと目見た感じは、ルルと同い年にしか見えない幼い風貌だが――


「ママ。」とルルが呟いたと同時に、女性はルルの身体を抱きしめた。

目には涙が浮かんでおり、二人が親子であることはやり取りから察せる。


(この方がお母様……? こ、子供にしか見えません……!)


「この子ったらもうっ! 何も言わんで急に居らんくならんでや……!

 どんだけママたちが心配したと思っとん……! ほんまにもう……!

 ごめんねぇ。 ルルの母、スージー・コエリーナよ。」


ルルの母を名乗った亜人の女性は、涙を拭いながらも丁寧に頭を下げた。

その間、ゆったりした足取りで、同じく白髪の男性が母の側へ。


白兎小人(コエリーニョ)族の集落によーきんさったねぇ、ええと……?

 遠き人族の大地の勇者と騎士さんと……神官さん?」


腕を組み仏頂面で、母親の隣に立つ小人族の男性は「ふんっ」と鼻を鳴らし――

ややぶっきらぼうに勇者たちを一瞥した後、声を出した。


「ワシの名前はランドル言うんじゃ。 娘を助けてくれたんか知らんが……。

 その、なんじゃぁ……まぁ、すまんかった。 ウチのじゃじゃ馬が。」


見た目の割に低い声が響き、皆同時に『ピシャリ』と背すじが伸びた。

あまりに息の合った姿に、ルルはぼそりと「うけるんじゃけど。」と零す。


ルルが両親をじっと見つめ、勇者たちを親指で指し、淡々とした調子で語った。


「ママー、オヤジー。 あたしさー、こいつらに付いてくわ。 もう決めたけ。」


まるで決定事項であるかのように、飄々と両親に話すルル。


二人とも驚愕の表情で『正気か?』と言わんばかりの眼差しを娘に向けた。


「ちょっと、どういう事ルル!?」

「なっ!そりゃどういう意味じゃ!」


声を重ねる両親に対し、ルルはあっけらかんと、袖をパタパタと振り回す。


「やーさぁ、こっちずっとおったところで、得られる事って限られとるし。

 上も下も煩いじゃん?ここって。 んじゃけぇーさー……。

 森以外の場所……この世界を、あたしのこの目で……もっと見たいって。

 それにあたし、この集落じゃ強いほうじゃろ? 戦力にもなるじゃろ?」


母は娘を抱きしめ頭を撫で、真剣な表情で小さく「ほうね……」と呟いた。


「本気なんじゃね……。 ならもう、ママは何も言わんけぇ……。

 ルルが決めた事なんじゃけ、あたしは娘の意向に沿うけぇね。」


「わりー。 でも、ずっと離れるって訳じゃないけぇさ。

 飽きたらこっち戻るけぇ安心してや、ママ。」


母娘のやり取りを黙ってみていた一同だったが、ノアが一歩前へ。


「ええっと、ご挨拶が遅れてしまってごめんなさいっ!

 その話なんですが、僕も今初めて聞いたところで、正直――

 すっごくびっくりしてます! えへへ……。」


「でも、ルルさんの魔法……とっても凄かったなって思って……!

 僕も仲間になってくれたらなぁーっ……て思ってたんだっ!

 ルルリカさんの申し出は、とってもありがたいです……!」


「勇者として、男として誓います。 絶対に、仲間を……

 ルルリカさんを一人にしないって!」


陽光のような明るい微笑で、ルルの両親を真っ直ぐに見つめる勇者。

大盾の騎士(パルテオン)も『トン』と軽鎧を叩き、頼もしい声を響かせた。


「俺もだッ! 俺もしっかり、お嬢さんをお守りするぜッ!」


これ以上の言葉は不要と判断したセラは、静かに両手を胸の前に組む。

二人に同調するように、柔らかい微笑みをルルの両親へと向けていた。


ルルの父親であるランドルは、勇者たち一人ひとりを覗き込み――

値踏みするような、じっとりとした湿度で見つめた後、大きなため息を一つ。


諦めたように口角を上げ笑うと「ま、ええじゃろ。」と吐き出した。


「じゃけど――娘になんかあったら……ワシが容赦せんけぇの?」


まるでいたずらっ子のような、小さな笑みを浮かべる父親。

ノアの腹部へと優しい拳を繰り出すが、拳を受け止めたノアは笑顔と言葉を返す。


「任されましたっ!」


こうしてルルリカは、ノアたち勇者一行へと加わったのだった。


◇ ◇ ◇


ルルの家の一室にて、彼女の家族と勇者一同の計六人は――

まったりとした時間を過ごしていた。


白兎小人(コエリーニョ)族という種族の話。この森は一体何なのか……等、話題は尽きない。


会話を交わしていくうちに分かったこと、それは――

この森は、煌陽国(セレスタリア)から遥か遠く離れた大地だということ。


時折こうして、原因は不明だが、色々な種族が迷い込んでくるらしい。


“森”という場所を起点とし“空間の(ひずみ)”が発生し、その結果として――

この西の大森林に送り込まれるのだそうだ。


曰く『精霊様の気まぐれ(シーラ・ノイア)』や『万物の通り道(パンタノパス)』などと言われているのだそうで。


森を抜けるには、木の上の住人、エルフ族に交渉するしか無いとのこと。

他にも、森に住む種族は多岐にわたるらしいが、大半が他の小人族という話だ。


白兎小人(コエリーニョ)族に伝わる、郷土料理を食して語らい、穏やかな時間を過ごす。


夕餉を終えると、温かな灯りが揺れる中、ルルの両親は別の部屋へ。


窓の外から射し込む謎の植物の影が、ルルの部屋に幻想的な色を落としていた。

揺れる光が皆の緊張を解くように、部屋の隅々を静かに染め上げる。


小人族用に造られた家ゆえ、騎士(パルテオン)にはとても手狭そうだった。

彼は椅子ではなく床に腰を据えており、皆に顔を向け、真剣な声音で語りかける。


「おーい、皆。 ちょいコッチに集まってもらってもいいか?

 ちょいとよ、見て欲しいモンがあんだ。」


普段は頼り甲斐のある、兄貴分の騎士(パルテオン)

しかし、現在の彼は不安があるのか、どこか声は震えているようだ。


騎士(パルテオン)の招集に、三人が頭に疑問符を浮かべ、顔を見合わせながら彼の側へ。


彼が全員が集まってきたのを確認すると、革袋から一粒の石を取り出した。

床の上に石を転がし、全員が『何事か?』と石に目を向けてみるが……。


床に転がる石は、脈打つように靄がじわりと溢れ出し、禍々しい空気を放つ。


「今日の戦闘ん時によ、あの熊みてぇな……顔が潰れた魔物……。

 アイツがこの石を残していったんだ。 これ……見てくれ。

 俺ですら嫌な気配を感じてんだ。 ヤベェんじゃねぇかって思ってよ。」


存在するだけで、部屋の空気が冷えるような、そんな気配すらある石。

ノアは真剣な眼差しで眺めているが、よく分かってない様子だ。


ルルとセラは、互いに怪訝な目でその石を見据える。


「そうですね……なんだかとても気持ち悪い石ではありますが……恐らく――

 瘴気を纏っています。 これが魔物から? おかしい、ですね。

 魔物が石を残して姿を消すだなんて、私は見たことも聞いたことも……。」


「そうなんだよな……俺も同じ事を思ってたんだ。

 あの魔物よ、遺体すら残さず灰になってたろ? おかしいよな……。

 多分だけど、コレが原因なんじゃねぇかって、踏んでんだ。」


二人の話に割って入るように挙手をし、申し訳なさそうに質問を投げるノア。


「えっと、ごめんね。 ちょっと聞きたいんだけど、いいかな?

 魔物さんって普通は消えないんだよね? でも今日の熊さんは消えて――

 で、それの何がおかしいのかなぁ……?」


騎士が「おっと、そうだな。」と呟き、ノアに要約して説明。

すぐに納得したような表情になり、ノアは腰に()いた聖剣の柄へ触れ、思考する。


口を閉ざし、考え込んでいたルルだったが、何か理解したように言葉を紡ぐ。


「あたしらの森なんじゃけど、こんなワケ分からん石、見たこと無いんよ。

 あの熊の魔物さ、本来は多分“アルドーン”って名前の魔物じゃと思う。

 この森に生息しとる、めーっちゃ凶暴な熊の魔物なんよね。 んで――

 こっからはあたしの推測になるんじゃけど……とりま語るわ。」


そういって語り聞かせてくれた、彼女の考察はこうだ。


勇者が西の大森林に来る以前の話――

依頼を受けたであろう村付近の動物が、最初に石を取り込んでしまった。


その動物を追っていた勇者もろとも、この大森林まで連れてこられてしまい……。

その後、動物は熊の魔物に捕食され……結果、熊が変質してしまったのでは?


無表情で語り、一息付いた後に再びルルは言葉を続けた。


「――『万物の通り道(パンタノパス)』が、勇者ちゃんたちと石を運んだって……。

 そう考えるのが、あたしとしては一番しっくりくるんよね……それに。

 こんな妙な石、見つけたらすぐに上の連中(エルフ族)が騒いどるじゃろうし。」


語り終えた彼女は、紅い瞳を全員に向け、瞳を細め、様子を伺う。


一同はそれぞれ、彼女の言葉に耳を向け、考え込んでいる様子を見せていた。


が、時刻はいつの間にか、日を跨ぎそうなほどに遅くなっており――

『パンッ』という、手を打ち鳴らす音を合図に、ルルは提案の言葉を投げた。


「とりま、時間が時間じゃけぇさ。 今日はもう皆寝んちゃい。

 長い時間歩いて疲れとんじゃろー? 狭いじゃろーけど……。」


「そうだね、話し合ってたら時間が足りないねぇ……心配、だよね。

 でも、心配しないで。 きっと僕たちなら、どんな困難も乗り越えられる――

 とりあえずさ、その石を持って、調べられそうな場所に持っていこう、ね?」


優しくて穏やかな、まるで陽の光のような笑顔の勇者。

彼の声や笑顔、それに彼から発せられる空気は確かに人を落ち着かせる。


しかし、セラだけは『何故、彼はこうも笑顔でいられるのか』――と。

きっと彼も不安が無いわけでは無いだろうに……と、恐怖を抱いていた。


やがて就寝の言葉が落とされ、皆は寝床につき、穏やかな寝息を立てる。


しかし、疲れていたはずなのに――

どうしても眠ることが出来ず、頭が覚醒して眠れない聖女(セラ)


(どうして勇者さんは、あれほどまで、強くいられるのですか?)

(怖くはないの? 私には、勇者さんが笑顔でいられる理由が、分からない。)





7/15 大幅加筆修正。主にPCブラウザで見やすいよう、調整致しました。

また、誤字脱字修正の念話、感謝感激です。


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