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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
一章:聖女と勇者と加護。
8/63

その【戦闘】初回につき。



道化師服に身を包んだ不思議な少女――

ルルリカの案内のもと、勇者たちは少女以上に不思議な森を歩んでいた。


道中には摩訶不思議な巨大キノコ、くるくると巻かれている巨大な葉。


草花や生き物、そこに存在している何もかもが巨大な森。

それら全てが圧巻の景色を生み出し、一同は思わず目を見張る。


背の高い樹木に、不思議そうに周囲を眺め、柔らかな土を踏みしめ歩む。


「おかしいね? 僕たちが来た時って、こんな大きな木、無かったよね?」


「んだなぁ。 こんな大規模な森じゃなかったはずだ。」


ノアとパルテオンは並んで歩き、二人で周囲を警戒し、言葉を交わす。

セラはというと足場が少し悪いようで、時折足を取られ、もたついていた。


「はーん。どーりで……なるほどなー。 あーたら、正規の経路じゃなしに――

 たまったま、森に入ったんかー。 まぁあたしおるし、帰りは安心しとけー。」


いまいち要領を得ない言葉に、ノアとパルテオンは首を傾げ、顔を見合わせる。

そうこうしていると、ルルが最後に魔物を目撃したという場所までたどり着いた。


鬱蒼(うっそう)と茂る巨大な草花――

僅かな風すら通さない、湿気を帯びた空気が肌に纏わりつく。


言葉では言い表せない、不快感を催す空気感に、思わず苦い顔を浮かべる騎士(パルテオン)


「ここきめーよなぁ……わかるぜー? んでもって聞いてみ?

 地響き聞こえん? ほら……しっかり耳澄ましてみ……あっちの方――」


そう言って、彼女が指した方角からは確かに――

徐々に聞こえてくる、地響きのような、空気を揺らすような音。


徐々にだが、その音が近づき、皆一同緊張の面持ちで戦闘の準備に入る。


首飾りに手を当て、錫杖を構えると、静かに祈りの態勢を整えるセラ。

変化した錫杖を両手に握りしめ、音のする方向へ目を凝らす。


ノアも聖剣の柄へ手を触れさせ、パルテオンは大盾を構え、それぞれ臨戦態勢に。


そうして『どすん』と鈍い音を立て、草花をなぎ倒し、音の主が姿を現した――

大きな影、周囲の物体に引けを取らない、巨大な躰。


熊のような見た目にも見えるが、しかし、どうにも様子がおかしい。

顔と思しき物は見当たらず、代わりにあるモノといえば――


……いや、無いのだ。


顔という概念は抜け落ちており、そこに存在しているのは、穴のような虚ろな闇。


深淵からは『ぼたり』と嫌な音を立て、汚泥が零れ落ちる。

地面に滴る度、周りの植物を焼き焦がすように、不快な音と臭いを放っていた。


「ちょ……な、なんなのですか……!? ま、魔物っ……!?」


息を呑み込み、あまりにも異形の存在に、恐怖で一歩後ろへと下がるセラ。

ただの魔物でないことは、火を見るよりも明らかだった。


その存在そのものが、歪で異端。


表情から感情を読み取ることは困難ではあったが――

ここまで案内したルルですら、落ち着かない様子で声を荒げる。


「ちょ、ちょいまって……おかしいっ! あたしあんなん知らんッ!

 あんなん見たこと無いんじゃけどっ!」


「ビビってる場合じゃねぇぞッ!! もうすぐそこだッ!」


咄嗟に皆の前へ躍り出るパルテオン。

『ドン』と大盾とメイスを構えると、戦闘態勢に移行。


が――彼が武器を構えた瞬間から、殺気を察したのか、異形の怪異が動いた。


本来、顔であろう箇所の虚空から、咆哮のような轟音を響かせる。

周囲に黒い汚泥を撒き散らし、空気を震わせ巨躯を揺らす異形。


「僕が切り込むからっ! パルっ、援護をお願いっ!

 セラ、怪我をしたら治癒は君に任せるねっ!」


「おうとも! 俺がヤツの気を引くッ! 任せとけッ!」


ノアが聖剣を抜き放ったと同時に、聖剣は僅かに光を帯び、青白い光が奔る。

抜き放たれた刀身は極光を帯び、まるで硝子のように透き通った、輝く刃。


勇者たちが動くと同時に、セラもまた錫杖を胸の前に掲げる。


「天にあらす我らが主よ、星の導きの元……

 その御自愛で守護を与え(たも)う――《グラティア》」


《祈り》の言葉が落とされたと同時、錫杖の宝玉から聖なる光が溢れ出す。

淡い金色の聖光の膜が広がり、皆の身体を包み込んだ。


騎士(パルテオン)を守護する光は、盾の形へと変貌を遂げ、思わず目を瞬かせる。


「なんか俺のだけ形状変じゃねぇか……?俺の大盾の上に盾が……。

 すげぇ光景だなコレ……セラの《祈り》だよな……?」


守護の光に包まれ、ノアは聖剣を振るうが、虚空顔の魔物は一筋縄ではいかない。

巨躯に似付かわしくない素早さで、戦闘慣れしてない勇者を翻弄していた。


セラもまた、僅かに眉間に皺を寄せ、歯を食いしばる。


修行を積んだとはいえ、まだ神聖術(ディ・サンクトゥス)の《祈り》に慣れてはいない。

身体を包む聖光が強く輝くほどに、自身の体力と精神を削られるのだ。


漂う虹色の粒子は、揺らめく炎のような儚さ――それでも彼女は、ただ祈る。


巨躯の怪異が狙いを変え、巨腕を大地へと振り下ろした。

まるで空気ごと叩き潰すような衝撃が奔り、大地が爆ぜ四方へと飛び散る。


ノアは咄嗟に後方へと身を退かせ、パルテオンが大盾で土や石を防ぐ。


が――その隙を付き、怪異は真っ直ぐ、大盾めがけ突進。

払うように大盾めがけ巨腕を振るうが、騎士は咄嗟に態勢を整えた。


怪異の攻撃を、正面で受け止めるパルテオン。


受け止めたまでは良かったが、衝撃が彼の大盾へと伝わり、鈍い音が響く。


「クッソ……! 一撃が重てぇ……ッ! こんちくしょう……!」


騎士を包んでいた《防御の祈り(グラティア)》は軋む音を響かせ、今にも割れそうな気配――

盾を包む聖光に、蜘蛛の巣のような亀裂が走る。


「まだ……まだですっ……! させませんっ……! っく……!

 (あれだけ修行を重ねてきたというのにっ……この程度、でっ……!)」


再び錫杖を掲げ、ひたすら《祈り》を捧げ続けるが――

嘲笑うように、異形の怪異は次の一手を繰り出した。


二足歩行で立ち上がったかと思えば、怪異は片手を振り上げ――

腕を振りかぶり、セラの《防御の祈り(グラティア)》と大盾ごと、騎士の身体を吹き飛ばした。


その際、無常にもセラの《防御の祈り(グラティア)》は鮮烈な音を立て、軽々と破壊された。

圧倒的な力に押し負けた彼の身体は、弾き飛ばされ、音を立て土の上を転がる。


吹き飛ばされた影響で、騎士の身体は木の幹へと叩きつけられた。


「――がッ……はぁッ……!」


ノアは横目で騎士の姿(パルテオン)を確認し、怪異へと近づくため、一歩を踏み出すが――

一連の流れを、ただ傍観していた道化師の少女ルルが動く。


彼女はため息交じりに、小声で「はぁ、しゃーなし。」とぽつりと呟いた。


眠たげな半眼で、その手に短杖(ワンド)を召喚。


彼女の周りには、赤い光の線が踊るように弧を描いたと思えば――

その光は短杖(ワンド)に集中するように収束していき、周囲の空気が徐々に熱を帯びる。


(ほむら)よ纏え、(らせん)を成し……その身を灰燼(かいじん)へと()せ――

 《フォイエ・シュトルーデル》!」


彼女の言葉と共に、炎の竜巻が轟音を響かせ、うねる炎が巨躯へと纏わりつく。


空気すら喰らい尽くす勢いで燃え盛る炎――

周囲には、焦げた植物の匂いが立ち込めていた。


「なっ……!? え……ま、魔法っ!?

 (確か魔法は、魔族の血を引いていないと使えなかったはず……!)」


胸の内でわだかまりを抱いていたセラだったが、ノアは違った。

彼の碧灰(シエルグレイ)の瞳には、鮮烈な炎の赤色が映り、驚嘆の眼差しで聖剣を構え直す。


「すごいやぁっ! とっても頼もしいねっ!」


「……あたしさ。 ちょっとだけじゃけど“魔族の血”が混ざっとんよ。

 お察しの通り、今使ったのは魔法……ね。 ――引くっしょ?」


無表情で気だるげだが、彼女のその瞳からは、どこか諦めが滲んでいて。


「引かないよっ! 引く理由がないからねっ! むしろ――

 とっても心強いよ? セラっ! パルの所に向かって!」


「ルルっ! 良ければ僕の援護をしてっ! 僕が引きつけるからっ!」


瞳を見開き、小声で「あんがと。」と呟き、僅かに頬を緩めるルル。

続けて「こっちはまかせんちゃーい」と、セラへ言葉を投げた。


指示を受けたセラは、法衣の裾を翻し、倒れている騎士(パルテオン)の元へ駆けつける。


木の幹に身体を叩きつけられていた彼は、すでに身を起こしていた。


「パルテオンさんッ! すぐに治癒を……!」


その間、怪異は炎に灼かれながらも、次の一手を繰り出すため行動に移していた。

前足を地に、四足歩行で土を抉り、挑発するように低く呻くような音を轟かせる。


「すまんッ! 待たせたなッ! 俺はこの通り無事だッ!

 そもそもだッ! セラの《祈り》で傷一つ付いてねぇぞッ!」


戦線に復帰した騎士(パルテオン)は土埃を散らし、メイスを使い大盾を打ち鳴らす。


しかし、怪異は既に狙いをルルへと定め、彼女めがけ突進。

その巨躯をパルテオンの大盾が全力で受け止め、衝撃が空気を揺らす。


「なんのこれしきッ! ノアッ! 俺が隙を作るッ!」


大盾で巨躯を受け流すと、そのまま押し返し――

怪異は自重に耐えられず蹌踉めき、そのまま横倒しにされ、無防備な姿を晒した。


「任せてパルッ! ……これで終わらせるよっ! てぃやーっ!」


聖剣を構え跳躍した勇者の剣閃が、巨躯を一刀で両断――

虚空顔の怪異は断末魔すら上げることなく、身体を震わせた後に絶命。


不気味なほど静かに……身体はぐずぐずに崩れ、灰となり――消えた。

その中央……中心から脈打つように闇を漏らす、不気味な黒紫色の石を残すだけ。


(何だこりゃ……? 怪しい臭いがプンプンしやがるな……。)


石の存在に気がついたパルテオンは、拾い上げると革袋へ放り込む。


かくして、虚空顔の怪異との戦闘は終了した。


道化師服の少女、ルルが周囲を見渡しながら、短杖(ワンド)を掲げ――

なにやら探るように動かした後、安堵したように息を付いた。


「うん、気配はコイツだけだったっぽい。 解決してくれてありが……」


言いかけたところで、ルルは慌ててセラの元へ駆け寄る。

彼女は息が上がっているのか、錫杖を握り、よろめき、危うい感じだった。


「ちょ……あーたどうしたん……? 大丈夫?」


「ど、どうしたのセラっ! 無理させすぎちゃった……? ごめんね……!」


セラに駆け寄るルル。ノアも手を差し出し、真剣な眼差しでセラを見つめる。

彼女は「すみません…」と謝ってはいるが……とても顔色が悪い。


「そりゃそうだろうよ……。 ここまで来るのに、ざっと数時間――

 俺らはずっと、歩きっぱなしだったんだからよ。」


「す、すみません……それもあるのですが……。

 まだ《祈り》の行使に慣れていなくって……それで少しふらついて……。

 ともかくですっ! ご心配をおかけして、ごめんなさい……。」


困ったように笑いかけるが、強がっているようにしか見えない聖女。


「ここまで案内してくれてありがとうルルっ! それでなんだけど……

 もしよかったら、休憩できそうな場所とか、ついでに教えてもらえないかな?」


「いーってことよー。 休憩するんなら、あたしの集落案内するわ。

 丁度ええ時間じゃろうし……この森って夜は危ないけぇーね。」


ルルの言葉通り、周囲は既に薄暗く、一同は彼女の提案に甘えることに。

「ついてきんちゃい。」というルルの言葉のもと――


一同は再度、ルルに案内されるがまま、彼女の集落を目指す運びとなった。





7/13 大幅加筆修正。主にPCブラウザで見やすいように調整致しました。

また、誤字脱字修正の念話、感謝感激です。


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