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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
一章:聖女と勇者と加護。
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その【森林】危険につき。



それからというもの――

私の体調は見事なまでに悪化……結果として、二人から気を遣われる有様。


というのも、先程の冷たい手つきの貴族に合う以前からの問題だった。

大勢の人が一箇所に集められた空間に慣れておらず、人に呑まれ気圧された結果。


見事に勇者と騎士、どちらにも顔色を心配される程の事態へと発展。


情けないことに、聖女の私自身に《治癒の祈り(サナティオ)》を使うことは叶わないのだ。


癒し手の私が倒れてしまっては、本末転倒だということで――

祝宴の夜会は早めに切り上げたというのが、事の顛末というわけだ。


私たちがいなくとも、派手好きな貴族たちは勝手に騒ぐだろうと。

国王陛下のお墨付きで、お言葉に甘えてさっさとお暇する事となったのでした。


そんなわけで、私たちは夜の喧騒を背に、馬車に乗って移動中。

国が用意してくれた、離れの屋敷へと馬車を走らせ、石畳の床を進んでいく。


窓の外から覗く景色――王城の明かりは、徐々に遠ざかっていって……。

やがて宵の闇へと溶け込み、視界からは明かりが消えていった。


「ごめんねぇ……。 僕、大勢の人たちに囲まれちゃってさ。

 セラの様子に気づくことが出来なくって。」


「パルに言われなければ、ずっとあのままだったかも……それにしても――

 すっごく人が多くって、疲れちゃったよね? 僕も疲れちゃったし!」


勇者(ノア)さんは対面に座って、ため息交じりに肩をぐるぐると回している。

『疲れた』とは言葉では言っているけど、本当に疲れているのかな?


茶目っ気溢れる笑顔で肩を回す様子は、疲れていると感じない。


「正直、まだ剣を振るう方が気楽かも! ……えへへっ!」


「ノア、おめぇ……そうは言ってっけどよォ……緊張してなかったろ?

 あんだけ人に囲まれて、愛想振り撒いてんのは凄ェよ……マジで……」


未だに肩を回す勇者(ノア)さんの隣で、パルテオンさんは呆れた様子だ。

わざとらしく肩を上げて微笑み、おどけている勇者(ノア)さん。


二人の様子は、まるで付き合いの長い友人のようで、微笑ましくて羨ましい。


だけれど、それでも先程感じた胸の奥に広がる不安は、消えてくれそうになくて。

体調が悪いのも()事乍(ことなが)ら、私の様子が気になったのだろうか――


勇者(ノア)さんが私に話しを振った。


「セラはどうだったかな? 途中から体調が悪くなったみたいだけど……。

 人の視線凄かったし、僕でも疲れちゃったしねー……。」


「それで……何か気がついた事とか、辛い事があったら、遠慮なく言ってねっ!」


朗らかな微笑みで視線と言葉を投げられて、思わずどきりとしてしまう。

勇者さんの碧灰(シエルグレイ)の瞳。その鋭さに驚かされてしまう。


でも、そう……気がかりは、確かにあった。


あの胡散臭い微笑の青年――彼の顔が脳裏に焼き付いて、離れてくれない。

まるで人間味を感じない、冷たくて人形めいた、綺麗なのに不気味な微笑。


「先程……舞踏の時間に一人の貴族の方にお会いしました。

 とても礼儀正しくて、完璧な立ち居振る舞いの青年の方でして。

 お名前は確か――アメトリクス・フォン・ニヴェイシア様と……。」


ここでも、これまでに社交界に出なかった事を後悔していた。


もし【聖女】として、多少なり社交界に出ていれば――と。

そうしていれば、彼の事もきっと、もっと情報を得ていたのに。


しかし後悔したところで仕方ないわけで、二人の表情に目を向けてみる。


彼らは怪訝そうな顔で、唸るように考え込んでいる様子だ。

勇者(ノア)さんは朗らかな微笑だけれど、視線はどこか思考に耽っている感じ。

騎士(パルテオン)さんも、勇者(ノア)さんとは違う感じで、考え込んでいるみたいだけれど――


「アメトリクスさん……? うーん、当然だけど、僕は聞いたことがないね。

 まぁ、僕は貴族の生まれじゃないから、当たり前だけどっ!」


そうは言って笑って誤魔化しているけど、どこか彼の瞳は真剣だった。


「ニヴェイシア……? だぁーッ! わからんッ すまんが――

 俺は聞いたことのねぇ家名だッ! どこの貴族だぁ?」


「あん時の、挨拶交わした胡散臭ェ野郎の事だよな? 俺よりデカかった……」


眉間に皺を刻み問われるが、私は「はい」としか答えることが出来ない。

彼は「ウーム……」と仏頂面で唸っていて……なんだか申し訳がなくて……。


「えっと、それで……その方と握手を交わした時に、とっても冷たかったのです。

 ただの冷え性というには――その。 冷たすぎるといいますか……。」


私の言葉に、彼らは互いに視線を交わすと、やがて頷きあった。


「うん、分かった。 セラが怪しいって思ったのなら、気にかけておこうっ!」


勇者さんの声音はとても柔らかくて、それでいて揺るぎなくて、頼りになる。

小さく息を付いて感謝の言葉を述べると、ノアさんは微笑み口を開いた。


「何かがあると感じたのなら、きっとそうなんだと思うっ!

 もしその人と次に会う時は、僕たちが側にいるからねっ!」


真っ直ぐに向けられた、青空のような碧灰(シエルグレイ)の瞳。

勇者さんの瞳の色は、曇り一つない、あまりにも無垢な眼差しで――


(出会ってからそう日にちも経っていませんのに。 勇者(ノア)さんたちは凄い。)

(私なんかよりずっと強くって真っ直ぐで。 私ももっと、精進しませんと。)


心中でそう決意して、頬を軽く叩いてみた。

二人からは驚きの眼差しを向けられたけど、こうでもしないと気合が入らない。


視線がばっちりと合い、三人で笑い合う。

その笑い声は、胸の奥に残った冷たさを溶かすようで――


きっと、私一人では抱え込んでいた。

だけれど、今の私には頼りになる勇者(ノア)さんと騎士(パルテオン)さんが居てくれる。


私もしっかりしないとな!と改めて決意の炎を胸に抱いて――

そうして、ドタバタした一日が過ぎていった。


◇ ◇ ◇


祝賀会と称した、お披露目会から数日が経過――

聖女である私を含めた三人は、それから王都を後に場所を移していた。


勇者(ノア)さんが祝賀会の時に、とある貴族に頼まれたこと。

どうやら、頼み事をしてきた貴族が、領主を務める王都近隣の村――


その村で、困り事があるという話があったみたい?

『ぜひ、勇者様方に解決して欲しい』との依頼があったのだそう。


村近辺の森に異変が生じた?らしくて、様子を見てほしいという依頼とのこと。


大人しかったはずの動物たちが、森から逃げてきて、暴れているのだとか。

その動物たちが畑を荒らして、領地経営にも支障が出ているとのことらしい。


何故か勇者(ノア)さんは、とても真剣な表情でその話を語っていた。

被害が及んでいる地域へ、急遽赴くことになって、馬車で急行する。


王都からそう離れた場所じゃなかったから、村にはすぐにたどり着いた。


が、着いて早々、村人たちは慌てた様子で勇者(ノア)さんへと駆け寄る。

どうやら早馬で報せは届いていたらしく、今か今かと心待ちにしていたそうだ。


「お待ちしておりました! 森を通れずこれでは狩りも……。」

「森から逃げてきた動物が暴れ……畑が……このままじゃ村が……」

「作物が駄目になるわ、狩りにも行けねぇわ――どうすれば良いんだ……!」


村人たちは、とても怯えきった様子で、口々に訴えて勇者(ノア)さんに縋った。


「お任せくださいっ! 僕たちはその為に、いるんですから!」


一人一人の手を取って、優しく微笑み返す【勇者】――

にこやかに頷き、村人たちを安心させるような朗らかな声音で語る勇者の彼(ノアさん)


「大船に乗ったつもりで解決まで待っていてくれ!」


どっしり構えている騎士(パルテオン)さんに、私まで安心するみたいで。

私も胸の前できゅっと手を合わせて、二人に負けじと笑顔で頷く。


「私たちが必ず――森も畑も動物さんも、元に戻してみせます……!!」


三人での初めての行動――

若干の緊張はあったけれど、きっと私たちは皆同じ思い。


改めて気を引き締めて、村人たちの言う、異変のある森へと向かうのだった。


◇ ◇ ◇


村から離れ、急ぎ足で、(くだん)の森へと向かった。

森というには小規模に感じるもので、これならきっとすぐに解決できるかも?


そんな軽い気持ちで、私たちは森の奥へと進んでいったのだけれど――


あたりを見渡せば時すでに遅しといった様子……森には違和感しかない。


木々はどれも同じにしか見えないし、目印を付けていたはずの倒木や岩……。

それらが何度も何度も、目の前にやってきては消えていって。


(もしかして、私たち……迷子になってしまったのでは?)


しびれを切らした騎士(パルテオン)さんが、木に傷を付けて新しい目印にするけど――

まるでこちらを嘲笑うみたいに、それも無意味に終わってしまって。


聞こえていたはずの鳥の囀りとか、小動物の鳴き声すら響かなくなった。


風の音すら弱くなって、葉擦れの音すら、遠く霞むみたいに歪んで……。

時間は確かに、流れているはず……なのに。


景色はただ繰り返すだけで、私たちは焦燥に駆られてきていた。


「――おい、この傷……これ、さっきつけた傷と同じだよなぁ……?」


「そうだね。 さっきパルが付けた傷……だね。 もう三回――

 いや、四回以上は同じ道を繰り返してる。」


苛立ちを隠せない騎士(パルテオン)さんに、勇者(ノア)さんまでもが微笑を消していて。

私は額にうっすら、汗を滲ませて胸元の首飾りを握って祈るしか出来ない。


(どうか……この異変を解決する御力を……。 神様方……。)


三時間、四時間と歩き続けて、来た道すらもう既に分からない。

森の出口なんて疾うの昔に見失って、私は足の感覚が無くなっていった。


口の中が、疲れからなのか鉄分を感じる味になっていて、もう限界だった。


踏み出す一歩が凄く重くって、蔦や木の根に、時折足を取られて躓く。

体力、気力共に削がれて、気持ちも揺らいでいて、後悔しかない。


「これは、まずいね。 僕は平気なんだけれど、このままだと――

 二人とも……一旦止まって一先ず休憩を……。」


勇者(ノア)さんが私たちに身体を向けて振り返ろうとした、その時だった。


――ふいに、甘い花のような香りが、風に乗って流れ込んできて……。

視界が開けて、まるで見えない何かに導かれるように、周囲の景色が変わる。


――が、安堵したのも束の間。


視界が唐突に変わった瞬間、私たちは息を飲んだ。


木々の上や木の陰――至る所に、小さな子どものような姿が確認できる。

全員のその手には、飛び道具や刃物といった武器が握られていた。


あからさまな警戒心と、敵意を剥き出しにしていて。

殺意まで感じ、固唾を飲んで、驚愕で立ち尽くすしか出来なくって。


「あんたらじゃろ! 森荒らしたん!」

「人族はこれじゃけぇ嫌なんよ! はよ帰ってぇや!」

「――さっさと失せんちゃい。」


子供のような姿の人々は、口々に言葉を投げ「出てけ!」と合唱。

騎士(パルテオン)さんが慌てて大盾を構えようとするのだけど、射手の目が光っていて――


(錫杖は……駄目です。 変形させるだけの時間があれば……。)


両手を胸の前で組み、どうすれば最善なのか考えるけど、駄目だった。


勇者さんだけは冷静に、聖剣に手を掛けること無く、両手を上げる。

そのまま敵意が無いことを示して、声を響かせた。


「お待ちくださいっ! 僕たちは、戦いたくてこの森に来たわけじゃ……

 えっと――森に異変があったと!」


一歩踏み出した彼の足元に、どこからか矢が放たれて、困ったように項垂れる。


しかし、どこからか「皆待てーい」と声が響き、周囲は一瞬で静まり返った。

木の上に待機していた、一人の道化師服に身を包んだ女の子――


ぴょんと降りてきたかと思えば、女の子はこちら側ヘと歩み寄って……。


森は暗いはずなのに、女の子の白髪は、輝くみたいに目を引く色。

長い髪をおさげにして、見た目は完全にピエロの女の子。


(道化師……の、子供……? こんな場所で……?)


まるで心を見通すみたいな紅い瞳。紺色と深紫色の道化師服。


周囲の小さな子どもの姿とは、明らかに一線を画しているような異様な出で立ち。


「そいつら、森を荒らした犯人じゃねーよ。 あたしが言っとんじゃし――

 信じるじゃろー? とりま、武器収めようぜー? ……な?」


人形みたいな無表情で、場違いなほどに軽い口調――


彼女は両手を使い身を翻し、周りの子どもたちを制止していた。

くるくると両手を回し、だぼだぼの袖を振り回す仕草は完全に子供だ。


その場を仕切るみたいに、道化師服の女の子が動く。

周囲の子供たちは、互いに顔を見合わせ武器を下ろし、動きを止めた。


道化師服の女の子は、全員の動きが止まったことを確認し、こちら側に。

つかつかと、軽やかな足取りで私たちの近くまで身を寄せて、じっと見つめる。


まるで値踏みするみたいな目つきで、じーっと私たちを眺めているけど――

女の子の紅い瞳からは、何を考えているのか、まるで分からない。


「はえー。 すげーなー? こんな所に来られる人間――

 ほんまに居るんじゃねー。 あーたらさ……あれっしょ?」


「最近森に住んじまったっていう、変な魔物関連で来たんじゃろ?」


淡々とした声色に、こちらの事情を、まるで全て知っているかのような瞳。

仕草は確かに子供らしいのに、どこか“わざとらしさ”も感じるみたいで。


「んで、あーたらはその変な魔物を……退治する為に来とる――

 違うー? まー、身なり見りゃ、一目瞭然ちゅーヤツじゃー。」


語り掛けながらも、勇者(ノア)さんの周りをくるくると歩いて回る女の子。

声は弾んでて軽いのに、その表情はずっと変わらない無表情のままで。


「その退治したいっちゅー魔物なんじゃけどさ。居場所と習性……

 あたし結構知っとんよね。 教えたげよーかー? どうせ放っとかんじゃろ?

 なんなら、あたしも変じゃー思うとったし、付いていくぜー?」


抑揚が薄くて、気だるげな声色だけど、どこか不思議と楽しげに感じる調子。

ピエロの女の子は、勇者(ノア)さんの目の前に立ち止まり、紅い瞳で見据えていた。


「――あー! わりーわりー。 名前、名乗っとらんかったわ。

 あたしの名前……ルルリカ・ルリカ。」


「ルルで通っとるし、ルルって呼んでくれて構わんぜー?」


眠たそうな瞳で名前を明かしてくれた彼女。

そんな彼女に対して、勇者さんの顔はぱっと明るくなった。


「ルルリカ……だね? ありがと、ルル! もう駄目かと思ってたんだぁー。

 とっても助かっちゃった! 名前、凄くいい名前だねぇっ!

 僕の名前はノア!【勇者】のノアだよっ! よろしくね、ルルっ!」


朗らかな微笑で、ルルと名乗った女の子に自己紹介する勇者の彼。

気だるげな紅い瞳は真っ直ぐ、私と騎士(パルテオン)さんに向けられ、はっとした。


(私ったら、まだ名乗っていませんでしたっ!)


「ああっと、スマンスマン。 俺はパルテオン。 騎士だ。

 ちなみに言うと、俺は戦えんッ!」


「聖女の名を拝受致しました。 セラフィーナです。

 どうぞお気軽にセラとお呼びくださいませ。」


白髪の道化師少女――ルルリカは一言だけ「りょっ!」とだけ返した。


その後、小さな体で勇者(ノア)さんにハイタッチを求めるルルリカさん。

勇者(ノア)さんは朗らかな微笑で、求められるがままに手を差し出し――


まるで兄妹のように、手のひらを打ち鳴らす姿は、初対面とは思えなくて。

無表情一辺倒だったルルリカさんの表情が、少しだけ和らいで見えた。


「んじゃ、討伐開始ーっ! みんなあたしに着いてこーいっ!」





7/13 大幅加筆修正。主にPCブラウザで見やすいように調整致しました。

また、誤字脱字修正の念話、感謝感激です。


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