頁:6 その【聖女】修行につき。
一悶着も二悶着もあったけど――無事に自分は王都へとたどり着いた。
まだ、あのときの余韻が抜けきらないけど、そうも言ってられなくて。
ヴィオラ伯爵家へと引き取られたまではよかったけれど。
本家での生活は、自分の想定以上に冷たいものだった。
まぁ――それもそう。
だって自分は先の一件で、問題児……問題聖女?扱いされていたから。
そのため、万が一に備えて社交界に出ることすら禁じられた。
ほぼ幽閉という形で修行と相成ったけれど、仕方がないし当然。
というか、どちらにしても自分という人間は社交界に興味はない。
ヴァイオレット家にいたときも、身体が弱いこともあったし。
都合が良いのか悪いのかわからないけど……。
本家の夫妻は、自分という存在に驚くほど関心はない。
形式張った挨拶こそ交わすけれど、それ以外何もない。
夫妻に限った話ではなくて、伯爵家に控える使用人たちも……冷たい。
口では確かに『聖女さま』と呼んでくれているのだけどね。
敬意とか、尊敬とか――そういうのは全く感じられなくって。
態度からしてもう、あからさまに一線引いてるみたいな。そんな距離感。
わかってた……わかってたけど……でも自分、まだ十歳だよ?
そりゃそうだよね。だって……自分は分家筋なのだから。
本家の期待とか……一身に背負ってしまったのだからね。
◇ ◇ ◇
修行と称して与えられた日々。
それは徹底したスケジュールで埋め尽くされ、管理された地獄。
まず軽くジャブから――
淑女教育……姿勢・言葉遣い・食事のマナー等々。
男爵家である程度のマナーは学んでいたけど、比じゃない。
嫌がらせだろうか?と思うほどに厳しくって――
すべてにおいて間違いを許さない規律の連続で、心が折れそうになる。
しかも更に凄いのが、まだ幼いはずなのに“婚約者”とか“将来”とか。
男爵家には自由があったけれど、聖女には自由も人権もないに等しい。
些細なことで教育係からの視線が刺さるし。
何度も注意されて、気分も後ろ向きになってしまっていった。
次に右フック……左フックかもしれない。どっちでもいいや。
聖女としての鍛錬と訓練は苛烈を極めていて、心身ともにボッロボロ。
日も昇らない早朝に起こされ、冷水で強制的に身を清められて。
夜明けと共に聖堂へ赴いて、ただひたすら瞑想させられて。
あの……セラちゃんはまだ、十歳ですよ?
こんなことをしていたら、体調を崩すに決まっているじゃない……。
折角良くなってきた喘息もぶりかえして、本当に必要なの?って。
食前と食後には、必ず神様方へ祈りを捧げる。
そこまではいいのだけど、この祈りも体感三十分くらいある。
食事を終えたら体力を鍛えるため?わからないけど。
錫杖を使った棒術の防衛術を実戦形式で何度も叩き込まれた。
幾度となく失敗を繰り返して――そのたびに傷ついて癒されて。
(これ……なんの役に立つの?こんな……意味があるの?)
自衛のため?自分は戦う気なんてなくとも、それでも言われる言葉は――
『聖女さまの今後のためを思って――』
『心身ともに鍛えることが、今後の力の制御につながる――』
はいそうですか……。
こんなされても頑張れるのは、身体の持ち主……セラちゃんのため。
だから自分を奮い立たせて、前を向いて必死に堪えた。
「光・神聖術の訓練をしましょうか」
術の指導者の司祭さまに言われて、手が勝手に震えだした。
あのとき――あの街道での凄惨な事故が、いまだにフラッシュバックで蘇る。
案の定ではあったのだけれど、放つ光が強すぎてしまって。
壁とか床とか焦がしてしまって……指導者の方は眉をひそめるばかり。
「こんな出来損ないが本当に【聖女】様なのでしょうかねぇ……。」
小さく呟いたつもりなのだろうけど、しっかり聞こえているよ。
そんなこと言われたって……どうすればいいの?
そもそも【聖女】だなんてなりたくなかったのに……!
(もう、こんなのやだよ……。)
「ごめんなさ――わたくしが至らぬばかりに、申し訳ございませんでした。」
謝罪はもう“いつからか分からない”習慣になりつつあって。
反射的に自然に口をついて出るほどまで、叱られた際の習慣。
(失敗する度、まるで元のセラちゃんまで責められてる気がする。)
(自分が不甲斐ないばっかりで……心が苦しいよ……。)
だからこそ考えてしまうのは、元の彼女ならきっと――
もっと上手にやりくりしていたのかな?って。
要領が悪い自分自身に嫌気が差していくのは、仕方のないことだよね?
厳しい日々だけれど、自分がこの身体にいる限りは足掻いてみせるんだ。
彼女……セラちゃんのため、自分のためにも、今は頑張るしかないのだから。
きっと修行の先にあるのは、セラちゃん――
それに、まだ見ぬ救いを求める『誰か』のためになるのなら。
そうやって自分を誤魔化して、奮い立たせて奮闘するしか出来ないのだから。
ここまで読んでくださって、とても嬉しく思います。
誤字脱字のチェックは、AIに判定してもらってますが、それでも不完全です。
誤字脱字があればご報告いただければ幸いです。
お気に召していただけましたら、
ブクマなどいただけますと、励みになります。




