頁:5 その【襲撃】唐突につき。
王都のセレスティオンに居を構える、伯爵本家へと向かうため――
自分ことセラフィーナ・ヴァイオレットは、現在絶賛馬車に乗車中。
馬の蹄が地面を叩く音や車輪の音とか、馬車の揺れに身を委ねています。
舗装はされているのだけど、それでもガタガタ揺れてて気持ちが悪い……。
もともと、身体が強い方じゃなかったセラちゃんなので、結構辛い。
そんな不快感に気持ち悪さを覚えて、視線はずっと遠くの景色。
唯一の救いは伯爵家所有の馬車ということで、内装はしっかりしてる。
すでに生家のヴァイオレット家のお屋敷は遠くって……。
自分には今ここがどの辺なのか、まるでさっぱりわかりません。
カタカタ、と……無機質な音が響くだけで、やることとかも特にない。
(こういうときスマホあればなぁ……でもこの揺れだったら――)
うむ……十中八九、乗り物酔いで嘔吐一直線だろう。
王都に着く前に嘔吐!?いや待て。自分はオッサンではないはず……!?
窓の外に視線を移せば、ゆったりと景色は変わっていってる。
周囲には騎馬護衛のひとたちがいるけど……物騒だなぁ。
本家に向かう理由は一つしかなくて【聖女】としての修行のため。
神殿と伯爵家共同で、自分を鍛え上げてくれるのだそうだ。
はぁ、全く。セラちゃんがどれだけ身体弱いか……考慮してほしいものだ。
一体、この先どんな“修行という名の拷問”が待ち受けているのやら。
なんだか、今から憂鬱な気分にさせられてしまうよ。
しかし【聖女】の【加護】を授かってしまったそのときから――
逃げ出すだなんて、赦されていないわけでして。
そのときから、自分の意思とかはもう、尊重されないものなのだと。
粛々と――この『聖なる呪いの力』を授けられてしまったこと。
運命さまとやらを、受け入れるしかないのだから。
前の身体では叶わなかったけれど、この聖女の力があれば――
もっと……もっと大勢の人が救えるかもしれないのだから。
それに、セラちゃんに身体を返すとき、手に職があればきっと困らない。
唐突に身体を返還されたとしても嬉しいかどうか、分からないけど……。
これからは、ただ守られるだけのか弱い少女ではなくって――
人々や世界を守る聖女として、毅然とした態度でやり遂げるしかない。
そうやって自分に、なんとか言い聞かせないと、責任に潰されそうで。
ぼんやり、そんなことを考えながら馬車の中で過ごしていた道中。
「盗賊だ――ッ!」
あまりに唐突に発せられた大声に、混乱する馬の嘶きが聞こえ――
突然止まったことによって、馬車の中では僅かな重力が働いて。
扉と窓がすぐに閉められ、同席していた侍女が自分の身体を抱きしめる。
馬車の外からは騎士たちの怒号とか、盗賊たちの下卑た声が耳に届く。
侍女の方が必死に声を殺して、自分の身体を強く抱きしめていたけど――
情けないことに、自分は恐怖で身が竦んで、動くことが叶わなかった。
「金品と女子供を掻っ攫え! 男共は要らねぇ! 殺せ!!」
「この馬車のどっかに【聖女】がいるはずだ!【聖女】を狙え!」
「依頼は【聖女】だ! なんとしてでも探し出せッ!!!」
金属がぶつかり合うような高音とか、刃物同士がこすれるような音。
外では確かに戦闘が行われていることは、伝わってくる。
盗賊の言葉を拾えば、狙いはあからさまに聖女である自分だと。
(助けて……助けて、助けて!怖い、怖い怖い怖い……!!)
もう、恐怖しか頭になくって、身体も強張って声も出せないし動けもしない。
当たり前だった――だってずっと平和を謳歌してきた令嬢だもの。
日本での知識も手伝って、こういったことを経験したことなんてない。
それにまだ、自分の身体は小さくって、怖くないわけがない。
それでも――護衛の騎士たちが馬車の外でずっと戦っている。
自分……つまり【聖女】を守ろうと奮闘しているのは、痛いほど伝わる。
(傷ついてる人がいたら、助けるのが聖女なんじゃないの??ねぇ……!)
心ではいくら分かっていても、身体はそうはいかなくて。
抱きしめる侍女の腕の温度と、互いの鼓動の音で精神がどうにかなりそう。
だけど、そんな時間も唐突に破られた。
馬車の壁に突き刺さるのは、恐らく盗賊の短剣。
乱暴に扉が開けられ、一人の盗賊が馬車へと押し入って、侍女を引き剥がした。
幼い身体では、筋力に差がありすぎて、力不足にもほどがあった。
腕を引っ張られ――抵抗するまでもなく外へ投げ出される自分の身体。
「いやッ!!やだ!!やめて、やめてよッ!!痛いッ……!!
いたい……たすけて、助けて……誰かッ……!」
地面に転がった身体――頬に触れるのは、冷たい土の温度。
口の中に広がる、苦い土と血液のような鉄の味。
口内に入った砂利が不快感を生み出す中、頭上から迫りくる盗賊の影。
髪を引っ張られ、ブチブチと抜かれる感覚に、身体も引きずられて――
どうして?恐怖心が限界に達したのか、自分は声すら出せなかった。
(お願いッ……やだ、やだ、誰か――助けてッ!!!)
自分の必死の切なる『願い』は――いったい、誰に届いたのか。
幼い手のひらを翳した……その刹那。
淡い光球が、世界を覆うほどの眩い輝きを放ち――
まるで突き抜けるみたいな輝きで、盗賊はもちろんのこと。
自分を守っていた騎士たちや御者ですら、目の神経を焼くような事態に。
「――きゃあッ!」
自分の上げた小さな悲鳴すらかき消すような、阿鼻叫喚の声。
それは雄叫びでもあって、絶叫でもあって、混乱からくる怒声でもあった。
一瞬、何が起こったのか――自分には理解することが出来ないでいた。
ただ呆然と、眼前で起きた凄惨な光景を、目に焼き付けることしか叶わない。
「ま、前が見えんぞッ!!今どうなっている!?」
「神官ッ!! 神官はどこにッ!!」
「おいッ……皆どこだッ!!」
剣を構えたまま彷徨い歩く騎士たち。盗賊も、御者も、皆、みんな――
(これは、じぶんが……やった……の? う、うそ……だよね……?)
気がつけば場は混沌としていて、周囲は金色の光で満ちて輝いていた。
恐怖を更なる恐怖で上書きされて、息が苦しくなって――視界が、霞んで。
一体あの一瞬で何が起こったのか、自分には理解することができなかった。
否――自分がこの惨状を招いただなんて、拒否したかった。
脳が現状を理解することを拒んでしまって、何も考えられなくって。
これが……こんな――悍ましい力が本当に【聖女】の力?
◇ ◇ ◇
その後は結局――
同行していた神官さんの指導の元、騎士たちの視力は元に戻せた。
幼いながらも【聖女】の《祈り》の力は確かなもので。
盗賊は拘束した後、重症者のみ同行していた神官さんが治療を施した。
治癒は簡単ではなかったみたいで、馬車の中からでも聞こえてくる声は――
「此度のヴィオラの【聖女】は異常だ……」
「今後、力の暴走がないとも……」
神官さんや、騎士さんたちのそんな声が聞こえて、胸が張り裂けそうで。
自分が得た力は、確かに人々を救うものかもしれない……だけど――
同時に人を傷つける可能性があるものだと、痛感せざるを得なくて。
得体のしれない【聖女】の強すぎる力、幼い身体でどう受け止めれば?
(こんな力、望んでない……。 聖女の力なんていらなかったのに……。)
「――ねぇ、いったい……自分ってなんなのですか……?」
誤字脱字のチェックは、AIに判定してもらってますが、それでも不完全です。
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