頁:4 その【原因】自身につき。
両親の涙の原因はとっても簡単で、且つどうしようにもない事柄でした。
それは、お家柄に関係する問題らしくって、どうやら――
自分の生家であるヴァイオレット男爵家は、とあるお家の分家筋。
本家はヴィオラ伯爵家という名前の、由緒正しきお家なのだとか。
ほんでもって、そのヴィオラ家とやらは代々【聖女】を輩出してきたと。
ヴィオラ家の他に、デルフェニウム家、サルビア家。
この御三家が、聖女の家系だとのことらしい。
んでここで厄介なのが――この二十年~三十年で他の家は聖女を産んできた。
がしかーし、本家のヴィオラ家では長らく【聖女】が誕生してなかったそうな。
――で、そんな状況ではい!ご当選おめでとうございまーす!
なんということでしょう。こんな自分が聖女に選ばれたではありませんか!
当選倍率何百倍の狭き門をくぐり抜け、重責を背負って――
選ばれたのは綾……じゃなくて、自分でした!
――めでたし、めでたし……チャンチャン。
……納得、いくわけが……ないじゃないですか……。
いや、確かに人々を救うことは望みました、そこは……確かですよ。
この子の将来のためとか思って、頑張ってきたのは――
そう……なのだけど。
聖女が産まれなかった“本家”に対しての、嫌がらせですか?
分家からのプレゼント的な?そういう神様方のサプライズですか??
なんだろうね?加護を貰ったのって、一体誰なんだろうね。
だって、こんなの……こんなのって、ないよ。
本家の人もきっと嬉しくないし、両親も、それに自分だって……。
そもそも自分は【聖女】絡みについて全く知らなかったのに、青天の霹靂。
というのも、深い理由があって……それは両親やメイドさんたち。
教育係さんに至るまで……事実をひた隠しにしてきたためだと言う話。
隠していた理由は“自分が聖女になりたい”と、思わせないためだと。
憧れてしまっても、聖女になんて、なれるはずないだろう。
自分が落胆してはいけないと、そんな判断で。
そのことを今更になって謝られたけれど、謝罪されたところでの話。
だって――【加護】の“やり直し”なんて……できないのだから。
しっかし、困りものだ……よりによってこんな自分がどうして?
聖女という存在は、本来十数年に誕生するかしないかみたいな――
稀な存在だという話らしいけれど……何の冗談ですか?
おめでとうございます!というべきか……。
はたまた、ご愁傷さまです……というべきか。
こればかりは後者でしょうよ、自分自身に対してだったら、圧倒的に。
まぁ要するに――あれですよ、あれ。
自分は王都にある、本家に引き取られることが決定済みだそう。
本来であれば、今の自分の年齢だと学術院的な?
貴族とか平民が通う学校に行く予定だったのだけれど……。
聖女認定されてしまっては、それも叶わないのだそうだ。
本当に……なんてこった。
異世界の学校、すごく楽しみにしていたのに。
血筋の威光?家の誇り?そんなもんを理由に“聖女としての修行”――
いかにもな、責任が重そうな運命へ放り込まれるのだそうです。
男爵令嬢のセラフィーナとして生きてきた、当たり前の毎日。
温かくって、優しくって……ようやく馴染んできた生活だったのに。
学校に通って、両親とかメイドさんに囲まれて……。
穏やかに成長して、いずれは人々の助けに――みたいな人生設計だった。
もちろん、聖女という役職が人々の助けになることはわかっている。
でも考えても見てほしい。
温かい家庭で育つのと……厳しい修行とかでボロボロにされるのと。
どっちが良いかって問われたら、圧倒的に前者でしょう?
ああ……だめだ……。両親の笑顔が脳裏に貼り付いてて。
瞳を閉じたら、すぐにでも両親たちの笑った顔が思い出されてよろしくない。
日本で培った知識を活かして、喘息に対抗するため、努力してきたのに。
それで咳も落ち着いて、身体も良くなっていって……やっとだったのに。
もう、だめだ……思い出すたび、胸の奥が締め付けられて痛くて苦しいよ。
締め付けられるどころじゃない。
研ぎ澄まされた刃で抉られてるみたいな。そんな痛みといっても過言じゃない。
いくら考えたって、結局進まなければどうしようにもなくって。
それに、本家行きを拒めば両親がどうなるか分からない。
(セラちゃん。きみのために頑張るから、どうか……見守っていて……。)
温かくって優しい日々を胸に刻んで、忘れないように抱きとめて。
泣きながらでも、笑いながらでも、セラとして頑張っていくしかない。
だってもう、頑張るしか今の自分には選択肢がないのだから。
不安は確かにある。だけれど今更運命を変えることはできない。
過去を振り返ることはできても、過去に戻ることなんてできないのだから。
ならもう、進むしかない。ちっぽけだと思っていた自分を奮い立たせる。
この先どんな困難が待ち受けていたって、乗り越えてやるんだから。
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