頁:3 その【加護】責任重大につき。◆挿絵有り
それから――幾許かの月日が穏やかに流れていった。
父親と母親、メイドさんたちに大事にされて……ちょっとだけ、胸が痛い。
どうにも『セラフィーナちゃん』という少女。
この子は生まれつき身体が弱かったそうで、時折めちゃ苦しくなる。
多分喘息持ちだったのかな?苦しくて辛いよね……。
自分も日本では喘息を持ってたから、理解してあげられるよ。
そんな身体が弱いセラフィーナちゃんのためなのか。
はたまた、この国で貴族的な常識なのかは分からないけれど。
お屋敷では家庭教師さんとか、教育係さんを雇うことになって――
それで、世界のこととか、マナーだったりとか学んでいった。
その過程で知ったことがいくつか。
まず――セラフィーナちゃん……長いのでセラちゃんと呼ぼう。
セラちゃんの『記憶』には無かったから知らなかったことだったけど――
この国で呼ばれている『魔法』って存在はあまり良いものとされてない。
というのも、魔法とか魔術とか……『魔』の付く言葉。
それらはすべて、魔族のみに与えられた力なのだとか。
魔力を行使できる人族はすべて『魔』と交わったものだとか。
ちょっと――センシティブな、差別的なおはなしであること。
んで次。自分がセラちゃんに憑依して間もない頃、使った力。
これは、神職者さんたちが使える《祈り》という力だということらしい。
魔とは違う力で、聖神力による、祈りとか願いの力?らしいです。
なんと……遠い祖先は神様とのこと!いやはや、すごすぎません?
もう、ファンタジー感が満載でして、内心ワックワクが止まりません!
そんでもってこれが一番、自分にとって重要かな?
どうやら、自分はこのままいけば、神職者の道一択!
神職者とはいっても、日本の言葉で言うなら『医療従事者』
ってな認識が一番しっくりくる。つまり人々を助ける側の存在!
いやはや!第二の生……というには些か語弊がありそうですが。
それでも……続きの生で人々を救えることが嬉しく思う!
(あれ?でもなんで自分はこれほどまで、人々を救いたかったのだろう?)
――そんなこんなで、お屋敷で過ごしているとよく言われる言葉たち。
それは、幼い割に『しっかりしている』とか『達観している』との言葉。
自明の理がすぎるけど、三十路手前の成人が、幼女に乗り移ってますからね!
セラちゃんと、セラちゃんの家族の人たちには申し訳がないよ。
だけれど……この身体をセラちゃんから奪ってしまった以上――
精一杯生き抜くしかない。それがせめてもの禊になるのなら。
(でも、感じるんだ。セラちゃんは身体の中で絶対に生きてる。)
(必ず……お身体はお返ししますので、見守っていてね、セラちゃん。)
◇ ◇ ◇
決意の炎を胸に抱きしめて日々を過ごし――
光陰矢の如しで、時間は確実に刻まれていって、とうとう十歳に。
五年という、長いようで短い時間で理解できたこと。
それは、やはり自分という存在は癒し手に向いているってこと。
んでもって……今日はなんと、特大イベントがございます!
なんと――【加護】を授かる儀式とやらに、強制的参加が決定!
煌陽国という国では、十歳になるともれなく【加護】が授けられるのだそう!
仕組み?んなもんよく分からんです!なんか神様から支給されるって話。
ざっくりいうと……そうだなぁ、所謂才能的な?おそらくそんなものです。
よく分からないのは、どうでもいいからとか、そういう理由ではないのです。
説明では……創生の神様から、祝福がどうのって話だそうです!
実は結構前から、この儀式は楽しみにしていました!当然でしょう?
なんせ、前の身体の知識では考えられない、ビックイベントなのですから!
日本の文化に置き換えたら……七五三……??みたいな??
おそらくそんな感じの行事に近いのかもしれないけど、適当言ってます。
そもそも、七五三の意味すらよく理解してないし、もう覚えてない……。
自分という存在が、どんな【加護】を貰えるのか、とても楽しみ!
なんだか、子供っぽくはしゃいでしまっているが、あれかも。
もしかしたら、身体に精神年齢を引っ張られているのかもしれない。
言い訳をさせてほしい……五年という期間、子供っぽく振る舞ってたの!
ゆえに……ゆえに自分は多分『赤ちゃん返り』みたいな状態なの!
でも――自分と同じく【加護】を授かりにきた子どもたちも、似たような感じ。
神殿内は子どもたちの声でざわめいていて、すごく賑わっていた。
不安そうに俯いてる子だったり、すっごいにこやかな子とか、色々。
「ぼく、剣聖の【加護】がほしい!!」
「あたしはお針子になりたい! 早縫の【加護】がほしいなぁ……」
あちこちで【加護】についてささやきあう声が聞こえてくる。
うむ……やはり自分だけではなく、皆楽しみにしているんだなぁー。
感心しながらも歩みを進めて、キョロキョロ好奇心のまま、視線を移す。
白亜の石造りの神殿の中は、子どもたちの声以外は静寂に包まれてて――
高いステンドグラスの天井に、すっごく長い廊下……。
歩くたびに、軽い靴音がやたらと反響して聞こえる。
コツ、コツ……と、周りには大勢の子どもたちがいるはずなのに……。
(不思議だなぁ……なんだか、自分一人だけみたいな空間に感じる。)
天井のステンドグラスから射し込む光が、とても煌めいて眩しい。
それはまるで――舞台のスポットライトみたいに、自分たちを照らしてて。
神秘的なのに、どこか怖いって感じるのは……自分の身体が小さいから?
やがて――円形の祭壇みたいな場所が近づいて、緊張が高まっていく。
周囲の子どもたちも皆声を落としていて、しんとした空気。
円形の祭壇を囲うようにして、三体の神々を象った石像が視界を満たす。
どの神様方も、なんだか……言いしれない威圧感を感じて、少し怖い。
感じている恐怖は――畏怖の念、というやつなんだろうか?
(ん?あれ……目の錯覚??神様方……笑ってらっしゃる?)
神々の石像から感じられるふとした視線に、ぎょっとしてしまった。
なんでだろうか……笑いかけたみたいな、そんな錯覚。
空目だろうか?膨らんだ期待感で、見間違えてしまった??
目をこすって確認するけど、微笑みかけてなんかないぞ?
しかし……なんだ??なんか、すっごい嫌な予感を感じてしまう。
鼓動は早鐘を打つみたいにドコドコ鳴ってて、自分の耳にも届いてて……。
呆然と石像を眺めていたら――自分の名前を呼ぶ声が届いた。
白色の清潔な衣装を身にまとった神官の方々。
言われるがまま、導かれて祭壇の中央へと足を運んでいく。
足元を照らすのは、ステンドグラスから降り注ぐ光の粒たち。
自分の着ている服とか床を、色んな色に染め上げてて幻想的なのに……。
『祈りを捧げてください。』
神官さんの声のまま、熱くなる身体を誤魔化すみたいに、身体を竦ませる。
言葉にしなくとも感謝の気持ちは忘れたことない……つもりだ。
これは日本に居たときからの、癖みたいなもの。
(神様……。いつもお守りくださいまして、ありがとうございます……。)
胸の前に指を組んで、祈りを捧げているけど……なんだろう……?
まるで、身体の中心部から熱が溢れてくるみたいな……妙な感覚がする。
ちょっと苦しいけど、それでもひたすらに“祈って、願った”――
(世界が平和でありますように、セラフィーナが幸せでありますように。)
――これが……こんなに熱くて苦しいのが【加護】を授かるということ?
一体……自分にはどんな【加護】が与えられているのだろうか?
が、しかし……自分が目を瞑り、必死に祈ってなにも見えていない間――
どうやら外では、どえらい事件が起こっていたらしい。
小さな光の輪が「ボンッ」と弾けたのを皮切りに――
またたく間に、淡い金色の光と虹色の粒子が、身体からどんどん溢れ出して。
光が爆ぜるように、祭壇どころか周囲すら包みこんで、巻き込んで。
天井から降り注ぐ光と、自分から発した光が織り交わって……。
その聖なる光が、周囲の人々に癒しを与えていった。
自分が次に目を開けたとき、目に入ったのは……発光する手と身体。
(――ん????な、なんじゃこりゃ――ッ!)
知らない間に――自分の想いが光になって、力となって顕現したらしい。
静寂が空間を支配していたと思えば……たちまち神殿内には歓声が上がった。
「聖女様誕生の瞬間をこの目で見ようとは――」
「本家のヴィオラ家は、どうするのだ――」
「ヴィオラの分家筋から聖女が――」
大人たちの歓声の中に、不穏そうな言葉が混ざっているのだけれど……。
呆然と立ち尽くしてしまって、そんな自分に両親が祭壇まで駆け寄って――
まだ小さな自分の身体をぎゅっと抱きしめてきた。
両親の頬には涙が流れていて、先ほどの光景も相まって理解が追いつかない。
自分という存在はそれほどまで、凄まじい【加護】を授かったということ?
――そもそも……聖女って――どういう、こと?
両親の表情には深い悲しみが滲んでいるみたいで。
ただただ、自分の身体を強く抱きしめて、理解が追いつかない。
「ああ……なぜ……神様……どうして我が子なのですか……!」
泣いて懇願するような言葉を落とす父親に、嗚咽を漏らすだけの母親。
そんな両親の姿に思わず涙を貰ってしまって、思考がぼやけていくみたいで。
(どういうことなの……? なんで、両親は泣いているの……??)
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