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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
一章:聖女と勇者と加護。
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その【聖女】修行につき。



王都・セレスティオンに居を構える、ヴィオラ伯爵本家へ向かうべく――


自分ことセラフィーナは、現在絶賛馬車に乗車中。

馬の蹄が地面を叩く音と車輪の音、それと馬車の揺れに身を委ねているところ。


舗装はされているけど、ガタガタと揺れる馬車の揺れ。

そんな不快感に若干気持ち悪さを覚え、視線はずっと遠くの景色。


唯一の救いは、伯爵家所有の馬車ということで、内装は割としっかりしている。


既に生家は遠くて、自分には此処がどこなのか、まるで分からない。


カタカタ……と、無機質な音が鳴り響くだけで、特にやることも無い。

呆然と窓の外を眺めながら時間を潰す。


(スマホがあればなぁー……でも、この揺れじゃ、画面見てたら酔いそう。)


窓の外ではゆるりと変わる景色。付近には護衛の騎馬隊数人が確認できる。


本家に向かう理由は一つしか無く【聖女】としての修行の為。

神殿と伯爵家共同で、自分を鍛え上げてくれるらしい。


一体この先、修行という名の拷問がどれ程のものなのだろうか?

と、いやに憂鬱な気分にさせられる。


しかし【聖女】の【加護(ギフト)】を授かってしまったその時から――

逃げ出すだなんて、許されないわけでして。


粛々と運命を、この聖なる呪いの力を授けられた事を、受け入れる他ない。


(前の身体では叶わなかった事。 この力があれば、もっと人々を救えるかも。)

(それに、セラフィーナちゃんに身体を返すときに、手に職があれば……)

(突然身体が返されたとしても、嬉しい……かもしれないし。)


加護(ギフト)】の儀式で得た【聖女】の力。

まだほんの片鱗だとしても、信じるしかない。


これからは、ただ守られるだけのか弱い少女ではなく――

人々や世界を護る聖女として、毅然とした態度でやり遂げるしか無いのだから。


そう自分を奮い立たせて言い聞かせて、のしかかる重責になんとか耐える。

そうでもしなければ、プレッシャーに押し潰されてしまいそうだったから。


そんな事をぼんやり考えながら、馬車の中で過ごしている道中――


唐突に、御者や騎馬護衛たちが大きな声を上げた。

森の影から盗賊が現れた事を言い放ち、窓と扉がすぐに閉められる。


外からは騎士たちの怒号や、盗賊たちの下卑た声が嫌でも耳に届く。


従者の女性は必死に震えを抑え、幼い自分の身体を強く抱きしめていた。


「金品と女子供をよこせ! 男共は要らねぇ! 殺せ!!」

「この馬車のどっかに【聖女】がいるはずだ!【聖女】を狙え!」

「依頼は【聖女】だ! なんとしてでも探し出せッ!!!」


閉め切った馬車の窓から、聞こえてくるのは戦闘の音。

自分は侍女に口元を抑えられ、必死に息を殺していた。


金属がぶつかり合う不快な高音や、刃物と刃物がこすれるような音が響く。

外では戦闘が行われている事は、痛いほど分かる。


盗賊の言葉を拾うと、狙いはあからさまに【聖女】――つまり自分。


しかし、自分の身体は、恐怖心からか強張ってしまっていた。

当たり前だった――だって、ずっと平和を謳歌してきたただの一般人だもの。


前の身体の知識では、こんな事遭ったこともなく、怖くないはずがない。


護衛の騎士たちが、今も馬車の外で必死に戦っている。

聖女(セラフィーナ)】を守ろうと、奮闘しているのが痛いほど伝わる。


侍女に抱きしめられていたはずなのに、それだというのに――

恐怖で心臓はばくばくと鳴り響き、身体は微動だにしない。


騎士たちが自分のせいで傷ついていたら――と考えると気が気でないのに……!


馬車の中で動けずにじっとしていると、唐突に扉が乱暴に開けられた。

侍女はじっと【聖女(じぶん)】の身を、身を挺して守ってくれている。


一人の盗賊が馬車へ押し入ると、そんな侍女を簡単に引き剥がした。

腕を乱暴に引かれ、抵抗はするが、幼い身体では無駄な抵抗だ。


現在の幼い自分の筋力では、力不足にも程があるわけで。

あっけなく外へ放り出され、そのまま身体を地面に投げられる。


「いやッッ!!やだッ!! やめてッ!!……やめてよッ!!

 痛い!! 痛いじゃないですかッ!!」


どさりと地面に転がる身体。頬に当たるのは、冷たい土の温度――

頭上からは、迫りくる盗賊の影。


口の中に、苦い土と血のような味がじわりと広がっていって。

口内に入った砂利が不快感を生み出す中、身体が乱暴に引きずられた。


だが、痛みよりも先に、幼い身体では恐怖心が勝った。


「いや!!やだッ!! やめてったら……誰か、助けてッ!!」


必死に声を上げ、手を翳し、幼い手から淡い光が放たれた、その刹那――

その淡い聖光は、世界を覆う程の眩しい輝きを放った。


まるで、突き抜けるような輝く光に、盗賊は勿論のこと――

騎士たちや御者ですら、目を覆う事態に。


「――きゃあっ!」


小さな悲鳴を漏らすが、その悲鳴に被さるように響く様々な声。

それは雄叫びでもあり、絶叫でもあり、混乱からくる怒声でもあった。


一瞬何が起こったのか、自分には全く理解することが出来ないでいた。

ただ、呆然と眼前で起きた光景を目に入れるしかなくって。


盗賊や護衛の騎士は勿論だったが、他の人も目を瞑り、場は混乱を極める。


「ま、前が見えんっ……今どうなっている!」

「神官は、神官はどうしたっ!!」


声をあげる護衛の騎士たちは、混乱の中、辺りをうろうろと彷徨う有り様。

気がつけば場は混沌としており、周囲は金色の光で満ち、輝いていた。


(いまの、自分がやったの? うそ、だよね……?)


恐怖を更なる恐怖で上書きされて、息も苦しくなって、視界が霞む。

幼い自身の掌をそっと見つめ、小さな身体を抱きしめる。


金色の光と虹色の粒子は周囲に漂い続け、先程あった光を強く物語っていた。


一体あの一瞬で何が起きたのか、自分には理解する事ができなかった。


否。自分が招いたことだと、拒否したい気持ちでいっぱいだったのだ。

脳が、現在の状況を理解することを拒んでしまった。


これが、こんな――悍ましい力が、本当に【聖女(わたし)】の力なのか?


その後。

自分が奪ってしまった騎士たちの視力は、まだ幼い力だったが――

治癒の力は確かなもので、自分が治癒を祈った事で、騎士たちは回復した。


盗賊を拘束した後、重症者のみ、同行していた神官が治療を行ったらしい。

それでも治癒は簡単ではなかったらしく、馬車の中でそんな声が聞こえてきた。


その話を聞いて、自分は胸が張り裂けそうで、息が詰まる。


「――ねぇ、いったい、自分(わたし)って、なんなのですか……?」


自分の力は、確かに人を救うものなのだろう、だが同時に――

人を傷つける可能性もあることを、痛感した。


こんなワケの分からない【聖女】の強すぎる力。

幼い身体でどう受け止めれば良いのだろう?


小さな身体にのしかかる不安……それでも歩みを止めるわけにはいかない。


【聖女】に救いを求める、まだ見ぬ誰かの為。

自分自身を信じてあげなくてどうするのだろう?


力を制御できるその日まで、前進するしかなくって、振り返る余裕もなくって。


結局はもっと――もっと。

心も鍛えてあげねばと、強く決心するしかなかった。


◇ ◇ ◇


そうして一悶着あったけれど、無事に自分は王都へとたどり着いた。

ヴィオラ伯爵家へと引き取られたが、本家での生活は、想像以上に冷たい。


だけど、それも想定の内。だって、自分は先の一件があったのだから。


その為万が一に備え、社交界に出ることすら禁じられた。

ほぼ幽閉という形での修行と相成ったが、仕方がないし、当然といえば当然。


どちらにせよ、自分という人間は、社交界には興味はない。

ヴァイオレット家でも、社交界に出たことなど無いのだ。


都合が良いのか悪いのか、本家の夫妻は、自分に驚くほど感心を示さない。


形式張った挨拶こそ交わすけど、その目が自分に向けられることはなくて――

仮に向いたとしても、氷のように冷たく澄んでいて、温度はない。


伯爵家の侍女たちも、口では「【聖女】さま」と呼んでくれてはいるけど。

でも、その声音の端に混ざる色は、尊敬ではなく、明らかな距離感。


あからさまに礼儀正しくて、同時に一線を引いていて。

まるで最初から壁を作られているような、そんな距離感。


最初から分かってはいたはずだけれど、それでもこうも態度に出されると辛い。

幼い身体の今の自分では、多少なり心に来るものがあるというもの。


(まぁ、そりゃそうだよね……。 だって自分は分家筋(ヴァイオレット)なのだから。)

(本家の期待を一身に背負ったのだものね、可愛がられるなんてあるわけない。)


修行と称して与えられた日々――

それは、徹底したスケジュールで埋め尽くされ、管理されていた。


まずは淑女教育――姿勢・言葉遣い・食事のマナー等々。

すべてにおいて“間違いを許さない”規律の連続で心が参った。


淑女教育なんて、必要あるのだろうか……?

前の身体の記憶では、平穏な日本の一般家庭育ち。


現在の身体では田舎の男爵令嬢――

そんな自分が、こんな高等な教育を受けて、なんになるというのだろう?


聖女だから?特別だから?聖女という存在に、人権など無いに等しい。


まだ幼いはずなのに“婚約者”だとか“将来”とかそんなこと言われてもね。


それでも、やらないわけにはいかないわけでして。

この拷問じみた教育も、甘んじて受け入れるしか無くって。


フォークの角度ひとつで、教師役の視線が痛いほど突き刺さる。


そんないきなり、慣れろだなんて言われても、無理があるに決まってるのに。

何度も何度も、注意を受けるたびに後ろ向きになっていった。


【聖女】としての鍛錬は更に苛烈を極め、心も体もボロボロになった。

まだ日も昇らぬ早朝に起こされ、冷水で強制的に身を清められる。


夜明けと共に聖堂へ赴いて、ひたすらに瞑想――自分、まだ十歳だよ?

こんなことしてたら、体調を崩すに決まってるのに、これも必要なの?


食前食後には必ず神へ祈りを捧げ、体力を鍛える為なのかなんなのか。

錫杖を使った棒術の防衛術を、実戦形式で何度も叩き込まれる。


幾度と失敗を繰り返し、その度に傷ついて、癒やされて――


棒術なんて、何の役に立つの?


自衛の為?自分は戦う気なんてないのに。まるで、本気でわからない。


それでも頑張るのは、この身体の持ち主(セラフィーナ)に申し訳が立たないから。

だから自分を奮い立たせて前を向いて、必死に耐え、堪える。


光神聖術(ルクス・サンクトゥス)の訓練をします」と術の指導者に言われて、手が震える。


あの時、あの街道で騎士や盗賊たちの目を焼いた、あの感覚――

その悍ましい感覚が、未だに掌に残っていた。


――案の定というべきか、当然の結果というべきか。

掌から放つ光が強すぎて、壁や床を焦がし、その度に指導者は眉をひそめた。


「こんな出来損ないが……本当に【聖女】様なのかね――」


小さく呟かれた言葉は、自分の心に深く刺さり、棘を残していく。

冷ややかな眼差しを向けられ、淡々と落とされるお叱りの言葉に、嫌気が差す。


「……ごめんなさい、申し訳ありません。

 (だから、光を使うのは、嫌だったのに。)」


謝罪はもう“いつからか分からない”習慣になりつつあった。

反射的に、自然に口をついて出る程にまで、叱られた際の習慣だ。


(失敗するたびに、元のセラまで責められている気がする。)

(自分が不甲斐ないせいで、彼女が責められているようで、心が苦しいよ。)


だからこそ、ふと考えてしまう事がある。

それは、元のセラなら、きっと上手くやっていたのだろうな、と。


そんなことばかりが脳裏をよぎり、余計に自分自身が嫌になっていった。


だけれど、自分がこの身体に居る限り、なんとしてでもやり遂げる。

彼女の為、自分の為にも【聖女】として、今は頑張るしか無い。


重いプレッシャーに喘ぎそうになる。

でも、進むしか道がないし、退路なんて以ての外なわけでして。


孤独で厳しくって、それでも頑張れるのは、未だ見ぬ誰かの期待に応えたい。

その願いと想いだけで、どうにか踏ん張る。


聖女の力が、この先安定するのであれば、もっと大勢の命を救えるはず。

そうやって、自分自身を誤魔化しに誤魔化していく。


自分をどうにか奮い立たせ、決意の火を胸に――奮闘するしか無いのだ。





誤字脱字のチェックは、念の為にAIに判定してもらってますが、それでも不完全です。

故に、仮に発見した場合は、念話をこっそり送ってください。


7/12 大幅加筆修正。主にPCブラウザで見やすいように調整致しました。

また、誤字脱字修正の念話、感謝感激です。

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