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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
一章:聖女と勇者と加護。
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その【対話】は静かなる争い。



翌日の早朝――


道化師服の小人族・ルルの手によって、叩き起こされる勇者たち。

彼女は短杖(ワンド)を片手に、布団や床に転がる皆を叩いて起こして回った。


「おーい、起きろー。 上の住人(エルフ)に交渉の時間じゃー。 覚悟しとけー」


床に転がり就寝中のパルテオンだったが……彼の様子は、とてもおかしかった。


というのも、昨日目撃したあの『丸くてふかふかの謎の生き物』――


その生き物が、騎士にびっしりと寄り添う――否。

こびり付き、騎士の全身を覆い尽くさんとし『重厚な毛玉鎧』を成していた。


これでは“軽鎧の騎士”ではなく“毛玉の騎士”の方が適切だろう。


起床した勇者と聖女だったが――

騎士のとんでもない様子に、思わず目をこすり、騎士の姿を何度も確認。


ルル……彼女はというと、ジト目を向けているだけ。

『なんでこうなったか、あたしは知らんけぇ』と、視線だけで語る。


床に転がっていた騎士だったが、彼は目を開けた途端「ぅおぉッ!」と絶叫。

――絶叫するのも、当然の結果ではあるが。


騎士の声に驚いたのか、丸くてふわついた謎生物は――四分五裂。

彼らは猛スピードで、どこかへ消え去っていった。


勇者と聖女は互いに視線を交わし『今の何?』と言いたげに肩を震わせる。

騎士には決して悟られないよう、密かに笑い合っていた。


その後、勇者一同は身支度を整え、ルルの家を後に。


ルルの話では、昨日戦闘があった場所付近――目的地は、その辺りだということ。

熊の魔物と遭遇した地域の、もっと奥地だという話だ。


「んでだ、交渉に行くっちゅー話だったと思うんだがよ……。

 上の連中って言ってたよな? つまりどういうこった? 説明が欲しい。」


ルルへ問いを投げるパルテオンだったが、ルルはというと――

「内緒ー。」とはぐらかし、続けて「行きゃ分かる。」とため息一つ。


ルルの居住区を抜け、外に出ると、陽の光はあまり射し込んでいないようだ。

少し薄暗く、少々不気味な気配の森。一同は視線をあちこちへと移す。


不思議だったのが、昨晩見た時には、大輪の薔薇の色は確かに深紅だった。

が――日が昇り、僅かな陽光が森を照らし出している光景はといえば、だ。


あれだけ鮮やかな色で咲き誇っていた赤薔薇とは、打って変わっていたのだ。


花弁の色は深紅から濃青へと変化。それに伴いランタンの明かりも淡い青色に。


一同が立ち止まり、光景に驚いている様に、ルルは自慢げに鼻を鳴らし――

胸を『トン』と叩き、無表情ではあるが、得意げに言葉を紡ぐ。


「凄いじゃろー。 この薔薇が印になっとんよ。 赤色だと危険信号。

 青色じゃったら大丈夫なんよー。 ちなみに昼になったらまた色変わる。

 どうなっとるか、あたしにもよー分からんけどね。 凄いじゃろ!」


ルルの言葉に、皆が「ほえぇ」と素っ頓狂のような反応を示す。

彼女は尚も得意げに、ほんの少し口角を上げ、集落を歩き出した。


ノアの周りには、あの毛玉生物が集合しているが――彼は、気に留めない。

毛玉生物も毛玉生物で、勇者の肩や頭に乗り、安心しきった様子で鎮座していた。


(可愛いと可愛いの掛け算で暴力的な可愛さですね。)

(私の心のメモリーに刻み込みましょう……。)


歩き出して数十分ほど経過し、大半の毛玉生物は離れていったが――

勇者の頭には、ずっと一匹の丸い毛玉が乗ったままだった。


やがて目的地へと到着し、ルルが短杖(ワンド)を掲げ、くるくると回す。


全員の眼前に、巨大な樹木がこつ然と姿を現し、ルルが短杖(ワンド)で樹木を軽く叩く。

木で出来た扉が開かれると、ルルに促されるまま、皆が扉の奥へ。


扉の先は螺旋階段。

見ただけでは一体何段あるのか、数えるのも億劫になるほどだ。


『うげえ』といった、全員が絶望する様子にルルは飄々とした態度。

「ま、見とき。」と一言だけ伝えると、階段はひとりでに動き出し――


段差に足を乗せているだけで、上へ上へと進んでいった。


(なんでしたっけこれ……えすか……えすかれーたーみたいな感じですね?)

(えすかれーたーって、なんだったかしら……?)


セラは感心し、パルテオンはバランスが怖いのか、おっかなびっくり。

ノアは目を輝かせているが、その頭にはあの毛玉生物が乗ったままだ。


階段が動きを止めると、再び扉が目の前に。


ルルが扉を開け、扉を抜けた先には、ルルの集落とはまた違った圧巻の光景。


巨大な樹木の上であることは、見て分かる。

その巨大な木の上には、いくつものツリーハウスがぽつんと浮かぶ。


すぐ下方に広がる雲海に、三人は驚きと混乱で互いに視線を交わす。


下から見た時には確かに、空が広がっていたはず――

雲など掛かっていなかったはずだと、視線を送り、首をかしげる。


木材の床を叩くような、軽い足音を鳴らし、進んでいく四人と一匹。


先頭のルルに、三人はおっかなびっくりで彼女の後を追う。

が、ノアが何かに気がついたのか、声を上げた。


「ねぇ、大変。 どうしよう皆……。 僕に付いてきちゃったみたい……。」


ようやく気がついたのか、毛玉生物を腕に抱えるノア。


「知らん。 勇者ちゃんの事、気にいっとんじゃろ? 連れてけ連れてけー。」


ばっさりと切り捨てられてしまい、仕方なく勇者は肩に毛玉生物を乗せた。

セラ、パルテオンの二人はそっと後ろへと下がり、二人で耳打ち。


『ちょっと勇者っぽくないですが、可愛らしい……ですね……。』

『やべーよな……すっげぇ面白ェ光景になっちまってやがる。』


歩いていると、どこからか視線が送られてくるのを感じ取った後続の二人。

キョロキョロと周辺を見渡してみるが、視線はどこからか分からない。


「とりま、今向かっとるのは“こっち”のおえれーさんのとこ。

 んで、聖女ちゃんと騎士ちゃんは……目が気になっとる感じじゃねー。

 まぁー分かる、うん。 エルフって、あたしからしたら超怖えーし。」


雑談はせず、黙して進んでいた勇者一同だったが、唐突に風が吹き――

行く手を阻むように、風を纏いながら、ふわりと舞い降りる影。


薄葉色(うすばいろ)の髪色に、中性的な見た目をしたエルフが、皆へと言葉を落とした。


「まぁまぁ……こないな場所に小人族の方が来はるやなんて――

 滅多にあらしまへんえ? ウチ、百年ぶりに顔みたわぁ。

 ……ほんで? 今日はどないなご用向きやろか。」


その時セラに電流奔る――否。

背すじが凍る思いをしただけなのだが、それほどの圧力を感じていた。


問われたのはルル。しかし応えたのは、遺憾なく勇者を発揮したノア。


「エルフさんの方ですかっ? 初めまして! とっても素敵なお声ですねっ!

 実は僕たち、森に迷ってしまって、困っていたんです……それで――

 “僕の仲間”の小人族さんが、僕たちを元の場所に帰してくれるって!

 だから、こちらにお邪魔させて貰ってますっ! 長居はしませんのでっ!」


きっと、皮肉をたっぷり込めて、放たれたであろうエルフの言葉。

しかし、勇者の彼は“天然”という鉄壁の防御で、真正面から戦っていた。


そんな彼らの様子に、騎士と聖女は一歩後ろへと下がり、二人で耳打ち。


『ノ、ノアさんは平気なのでしょうか……。 私は少し怖いのですが……!』

『よー分からんが、圧力は感じるよな……。 ……セラはなんで怖えんだ?』


二人でコソコソと会話を交わすが、エルフははんなり微笑を浮かべ――

「いややわぁ……。」と一言、上品な仕草で言葉を添え、続けて声を落とす。


「そない声潜めんでも、よう聞こえてますえ? この耳……。

 伊達で付けてる思われましたやろか? 事情やけど、分かりました。

 (おさ)やったら、あちらにいはりますえ? ほなら、ウチはこれで。」


エルフはそれだけ伝えると、長杖(ロッド)を片手に、ふわりと風を纏い浮かび――

そのままどこかへと飛び去っていき、エルフが去った後、ルルはため息を零す。


「――ハァ~~~~。 これじゃけ嫌なんよ。 とりま、あっち行こ。

 エルフは全員もれなくあんなじゃけど、迷い込んできた他の種族……。

 元の場所に帰してあげるのは、エルフらの役目じゃけぇさ。」


先頭を歩くルルは、悪態を付き、実に機嫌が悪そうだ。

遠くから刺さるエルフの視線が痛く、セラは気が気ではない。


歩いていくと遠くの方に、ここの樹木よりも更に大きな大樹が確認できる。


ルルが語るには、大きな木は“精霊樹(シーラ)”と呼ばれているらしい。

いつから存在しているのか分からないが、生きているのだそうな。


その大樹が存在しているからこそ、森は護られているのだと語った。


そうして、(おさ)が居ると言われた居住区へと、無事到着した勇者一同。


(おさ)』という単語から、豪奢な場所を想像していた勇者たちだったが――

たしかに規模は大きいのだろうが、周りの家と大差ないツリーハウス。


ルルが短杖(ワンド)を手に、扉を『コンコン』と叩き、淡々とした口調で喋る。


「おーい。 人族の迷子連れてきた。 帰したげたいけぇ、力かしてーー。」


くるりと身を返し、三人に身体を向け、言葉を続けるルル。


「エルフの連中ってさ。 長寿じゃけえかしらんけど、すげえトロいんよ。

 下手したら数時間――数十年待たされるぜ。 ほんま、やんなるわ……。」


「おい!!聞いとんのかーー!」


最初は三人に向けられた言葉。

しかし最後の言葉は、あからさまに扉の中に向かって放たれた言葉。


三人は困ったように微笑みあい、ただ、待つしか出来なかった。


◇ ◇ ◇


その後――

どのくらいの時間が経過したのか、全員は(おさ)の家の前で談義中だった。


他のエルフたちが気がかりなのだろうか、視線を勇者一同へ向けるのだが……。

待てど暮らせど、(おさ)という人物が出てくることは、ない。


ただ、会話を重ね、時間だけが緩やかに過ぎ去っていく。


「――そうそう。それでねぇ、その畑に居たモグラ……。」


何気なく、扉付近で会話していた一同に、近づいてくる影。

先ほどの薄葉色(うすばいろ)のエルフが、宙へ身体を漂わせ、片手を上げ全員に挨拶。


着地した後に距離を縮めると、はんなりと微笑み、語り掛けてきた。


「まだ帰ってはらへんの? あの(おさ)……ほんっま、呑気でいはりますもんなぁ。

 ウチに任せてもろて、かまへんやろか?」


「……ウチ、ちょっと気の毒で、見てられへんわ……。」


エルフの言葉にルルは面倒くさそうに瞳を細め「しゃーす。」と一言返す。


はんなりとした微笑みのまま、エルフは扉の前まで身を寄せ――長杖(ロッド)を召喚。

ぶつぶつと何か言葉を呟くと、風を起こし――扉を強引に開け放った。


開口一番、穏やかな口調ながらも声を荒げるエルフ。


「自分に素直なのはええ事かもしらへんけど――何してはりますの。

 いつまで、お客人(まろうど)をお待たせなさるおつもりなんやろか?

 お相手はん、人族え? ウチらと寿命の刻み方違いますさかいに。」


「ウチらの(おさ)とあらはるお方が……時間を(かろ)う扱わはるの、如何なもんやろか?

 そろそろ、いい加減にお出まし願えます?」


穏やかな口調であるはずなのに、なかなかにドスを効かせた声。


部屋の奥から「やかましおすなぁ……。」と、寝ぼけた声が届けられ――

やがて、寝癖たっぷりの苔色の髪色に、銀色の瞳のエルフの女性が出てきた。


「そない声荒げんでも、よう聞こえてますえ? おやおやまぁまぁ。

 なんや思いましたら、同族(エルフ)どしたか。 よー耳に障る声どしたさかいに――

 どこぞのドワーフやと聞き間違えましたわぁ。 それで? 何の御用どす?」


「はぁ……こないな面倒な人族まで連れてきはって……。

 さて? わたいに出る幕はありますやろか?」


(おさ)と呼ばれた女性はあくびを一つ噛み、視線を全員に落とす。


(おさ)に対し、物怖じしない薄葉色(うすばいろ)のエルフは、全員の代わりに事情を説明。

納得のいったような表情を浮かべた(おさ)が、頭を掻き、眠そうに口を開いた。


「成る程。 精霊様の悪戯でここまで来はったんどすな?

 そりゃ……さぞ大変どしたやろ。 ほなら、その事はわたいに任せとき。

 そこな人族の皆さん、最後に居った場所、覚えてはりますやろか?」


「あぁ、怖がらんでもええで? ちゃぁんとそこまでお連れしますさかいに。

 せやから、心配せんと楽にしておくれやす。」


ようやっと帰れる見込みが立ち、騎士と聖女は深くため息を吐き出す。


勇者は薄葉色(うすばいろ)の髪色をしたエルフに丁寧に頭を下げ、感謝の言葉を伝えた。


「ありがとうございましたっ! とっても助かりました……!

 どうお礼をしたらいいのかな? あ、そうだ。 言い忘れてました!」


「僕は人間の【勇者】ですっ! 名前はノア! 何か困ったことがあれば――

 なんでも言ってください! 僕が手助けするからさっ! えへへっ!」


「ご丁寧にどーも……。 ウチ、エルヴェイン申します。ほなら――

 せやね、人族の国に旅行でも行った折り、あんさんが案内してくれはる?

 それでよろしおす。 お礼やなんて、かえってくすぐったいわぁ……」


「ウチ、そないなもん貰う為、あんたはんら助けたわけやあらへんし。」


エルヴェインとノアは軽く握手を交わし――

その後、エルフの(おさ)が準備が整ったと、全員に声を掛けた。


ノアはエルヴェインに対し「またどこかでっ!」と笑顔を向ける。


エルヴェインと(おさ)の姿が揺らぎ、ルル含めた勇者一同の姿は――

またたく間に、その場所から身体を消していったのだった。





7/15 大幅加筆修正。主にPCブラウザで見やすいよう、調整致しました。

また、誤字脱字修正の念話、感謝感激です。


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