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その【聖女】転生者につき。  作者: すんころ餅
聖女と勇者と加護
8/14

その【戦闘】初回につき。



道化師服の不思議な少女、ルルリカに案内され、勇者たちは、少女以上に不思議な森を歩く。

道中には、不可思議な巨大キノコや、謎めいた、くるくると巻かれている巨大な葉――


草花や生き物、そこに存在している何もかもが巨大で、圧巻の景色を生み出していた。

樹木もとても背が高く、皆不思議そうに辺りを眺めていたのだった。


「おかしいね…僕たちが来たときって、こんな大きな木、見えてなかったけど…」


「んだな、こんな大規模な森じゃなかったはずなんだけどなぁ…」


ノアとパルテオンは並んで歩き、二人で周囲を警戒しつつ会話を交わす。

セラはというと、足場が少し悪いようで、わたわたと焦りつつも、三人について行っていた。


「はーん、なるほどなー、あんたら、正規の手順踏まずに偶々森に入ったんかー

 まぁ、あたしいるし、帰りは安心しとけー、へへーん。」


イマイチ要領を得ない言葉に、ノアとパルテオンは顔を見合わせ、首を傾げた。

そうこう会話を交わしていると、ルルが最後に魔物を目撃したという場所までたどり着いた。


鬱蒼と茂る巨大な草花、僅かな風すらも通さず、湿気のある空気が、肌にまとわりつく。

言いしれない不快感を催す空気に、思わずパルテオンは苦い顔をしていた。


「ここきめーよな。 わかるぜー? んでもって、聞いてみ? 地響ききこえん?

 ほら、しっかり耳すましてみ? あっちのほう――」


ルルが指さした方向から、確かに聞こえてくる地響きのような、空気を揺らす音。

徐々にだが、その音が近づいてきて、みな一同緊張の面持ちで戦闘準備に入る。


セラは胸の首飾りに手を当て、そして静かに祈る。


小さな錫杖型の飾りは、セラの背よりも長い形状の錫杖に変化。

セラは、変化した錫杖を両手に握ると、向こう側の景色に目を凝らし、構える。


ノアも聖剣の柄へと手を置き、パルテオンは大盾を構え臨戦態勢に。


音の主は「どすん」と鈍い音を立てながら、草花をなぎ倒し、近づいてくる。

そうして姿を現した、大きな影――周りの物体に引けを取らない巨大な躰。


熊のような見た目をした、巨大な生物……のハズだったのだが。

しかし、どうにも様子がおかしく、顔と思しき物は見当たらず、代わりにある――


――いや、ないのだ。


顔という概念が抜け落ち、そこに存在しているのは、穴のような虚ろな空間。


その虚ろな深淵から、ぼたりと嫌な音を立て、零れ落ちる汚泥。

地面に滴るたびに、周りの草花を焼き焦がし、不快な音と匂いを放つ。


「ちょ、な、なんなんですか……!? あ、あれっ……!」


思わず息を呑み、そのあまりにも異形の姿に、恐怖し、一歩下がるセラ。

ただの魔物では無いことは見て明らかで、存在そのものが歪で異端。


ルルですら、その表情からは読み取れないが、落ち着かない様子で声を荒らげた。


「ちょっとまって、おかしい。 あたし、あんなん知らん! あんなん見たこと無い!」


「ビビってる場合じゃねえぞ!!! もうすぐそこだ!」


パルテオンが皆の前へと躍り出ると、ドンと大盾とメイスを構え戦闘態勢を取った。

彼が武器を構えた瞬間から、殺気を察したのか、異形の怪異は咆哮を轟かせる。


本来、顔であろう部分の虚空から、轟音を響かせ――

周囲に黒泥を撒き散らしながら、空気を震わせ、その巨躯を揺らした。


「僕が切り込むから、パル、援護お願いっ セラ! 怪我したら君に任せるねっ!」


「おうとも! 俺がヤツの気を引く! 任せろッ!」


ノアが聖剣を抜き放つと同時に、青白い光が奔り、僅かに光り輝く。

抜き放たれた刀身は、極光を帯び、まるで硝子のように透き通った光り輝く刃。


セラは胸の前に錫杖を寄せ、深呼吸をし、息を整えると、高く掲げた。


「天にあらす我らが主よ、星の導きの元……その御慈愛で守護を与え給う――《グラティア》」


祈りの言葉が落とされると同時に、錫杖の先端から聖なる光が溢れ出した。


その淡い金色の光は、皆を包み込むように広がり、膜が身体を覆い――

たちまち聖光が姿を変え、盾の形へと変貌を遂げた。


「うおおっ!? んだこれ… 俺の大盾の上に…盾が……

 な、なんかすげえ光景だなコレ… セラの《祈り》かッ!!」


「不思議な盾さんだねぇ…それになんだか暖かい?」


ノアは聖剣を構えつつ感嘆の声を漏らし、光の盾へと視線を落とす。


だが、セラの表情は凛としてはいたものの、僅かに眉間に皺を寄せていた。

修行を積んだとはいえ、まだ神聖術(ディ・サンクトゥス)の《祈り》の行使に、慣れていなかったのだ。


身体を包む聖光が強く輝くほどに、自身の体力と精神を削られていく。

淡い虹色の粒子に包まれながら、揺らめく炎のような儚さを纏い、静かに祈る。


熊のような巨大な魔物は、早速狙いを定め、巨腕を大地へと振り下ろした。

空気ごと叩き潰すような衝撃が走り、大地が爆ぜると、土や石が四方へ飛び散る。


飛んできた土や小石を大盾で防ぐが、今度は大盾目掛け、熊は腕を大盾へと振り下ろす。

振り下ろされる直前、咄嗟にパルテオンは体制を整え、正面で腕を受け止めた。


正面から受け止めたは良かったが、衝撃が凄まじく、鈍い音が森に反響する。


「クッソ、一撃が重てぇな、こんちくしょう…!」


パルテオンを包む《防御の祈り(グラティア)》は、音を響かせ、今にも破壊されそうに軋む。

淡い聖光の盾に、クモの巣のような亀裂が走った。


粉々に砕けてしまいそうな光の盾を、セラが再び祈り、なんとか持ち直す。


「まだ、まだ……させませんっ…!」

(あれだけ修行を重ねたのに、この程度、でっ…!)


セラは錫杖を掲げ、ひたすらに祈りを紡ぎ続けるが――嘲笑うように、魔物が次の一手を繰り出す。


二足歩行で立ち上がった虚空顔の熊は、片手を振り上げた。

巨体からは想像のできない速さで、パルテオンの身体ごと吹き飛ばす。


無常にもセラの《防御の祈り(グラティア)》は鮮烈な音を立て破壊され、盾は光の粒となり消え失せる。

圧倒的過ぎる力に押し負け、パルテオンの身体は、大盾ごと、弾き飛ばされ――


「――が、っはぁッ…!」


鈍い音を立て勢いよく土の上を転がると、彼の身体は木の幹に叩きつけられた。


ノアが横目でパルテオンを眺め、敵の元へ駆け出そうと一歩を踏み出す。

――が、一連の流れを傍観していたルルが、ふと溜息をついたかと思うと小さく呟いた。


「こりゃ、しゃーなしってやつ。」


眠たげな表情で、その手に短杖(ワンド)を召喚。


彼女の周りに紅い光の線が、踊るように弧を描き、そして――

その光の線は、短杖(ワンド)に集中するように収束し、周囲の空気が熱を帯びていった。


「――焔よ纏え、渦と成りて――その身を灰燼へと帰せ 《フォイエ・シュトルーデル》!」


彼女の声と共に、炎の竜巻が轟音を響かせつつ、魔物の巨大な体躯を包み込む。

空気を喰らい尽くす勢いで炎は燃え盛り、焦げた草花の匂いが森に立ち込める。


「なっ、えっ!? ま、魔法……!?」


魔法とは確か、魔族の血が混ざっているのでは、と胸に若干のわだかまりを抱くセラ。

ノアは碧灰(シエルグレイ)の瞳に炎の赤色を映すと、驚嘆の眼差しで聖剣を構え直す。


「すごいねぇっ……! とっても、頼もしいやっ!」


「あたしさ。 ちょっとだけなんだけど“魔族の血”が混じっとんよー

 ――だから、魔法つかえるっちゅーわけ。 …引くっしょ?」


道化師少女ルルは、無表情で気怠げに言葉を投げるが、その瞳からはどこか諦めが滲む。

ノアは聖剣を構え直しつつ、表情を改め、笑顔で即答した。


「引かない! 引く理由がないからねっ! むしろとっても、心強いよ?

 セラ!パルの所に向かって! 僕はこっちに専念するからッ!」


ルルは小さく「あんがとよ。」と呟くと、僅かに口角をあげ、頬を緩める。

ノアの指示を受けたセラは、裾を翻しながら、パルテオンの元へと駆けつけた。


その間にも魔物は、炎に灼かれつつ、突進しようと、前足を地につける。

四足歩行になり、鋭い爪で土をえぐりつつ、挑発するように鈍い呻き声を轟かせた。


身体を木の幹に叩きつけられたパルテオンだったが、彼は既に起き上がっていた。


「パルテオンさんっ!すぐに治癒を!」


彼は、駆け寄ってきたセラに《治癒の祈り(サナティオ)》を祈られ、完全復活。


「すまん!待たせたなッ! 俺は無傷だ!

 セラの《祈り》で、そもそも傷ひとつついてねぇぞッ!」


戦線に復帰したパルテオンは、土埃を纏いメイスを使い、大盾を打ち鳴らす。

彼が戦闘に出る同時に、熊は小さな少女、ルル目掛け突進をするが――


ドンッという衝撃とともに、パルテオンが巨躯を受け止めた。


「なんのこれしきッ!! ノア!!今がチャンスだ!!!」


パルテオンが吠えると、大盾で巨躯を受け流し、押し返し――

魔物は自重に耐えきれずよろめくと、横倒しにされ、完全に無防備な姿を晒した。


「任せてパルッ! これで終わらせるよっ!」


聖剣を構え跳躍し、閃光のような剣閃が、熊の巨躯を一刀両断――

魔物は断末魔をあげることなく、巨躰をびくりを震わせた後に、絶命。


不気味なほど静かに、身体はぐずぐずに崩れ落ち、灰となり周囲に溶けゆく。


魔物だった物は全て灰となり消え、その中央には不気味な黒紫の石が転がっていた。

中心から脈打つように、ドクドクと闇を漏らす、手のひらサイズの妙な石。


(何だ、こりゃ? 怪しい匂いがプンプンしやがるな…)


パルテオンは石の存在に気がつくと、拾い上げ、革袋へと放り込む。

道化師少女ルルが、周囲を見渡し、短杖(ワンド)を掲げ、なにやら探るように動かす。


「うん、気配はコイツだけだったっぽいぜ。 解決してくれてありが――」


言いかけたところで、ルルがセラの元へと駆け寄った。

セラは錫杖を杖代わりに、息が上がっているのか、よろめきつつ、危うい感じだった。


「ちょ、あーた…大丈夫なんか? 超絶に気分悪そーだぞ?」


「ど、どうしたのセラっ! 無理させすぎちゃったかな…ごめんねっ…!」


ルルが駆け寄り、ノアが手を差し出しながら、真剣な眼差しでセラを見つめた。

セラは小さく目を瞬かせると、困ったような柔らかい笑顔を二人に向ける。


「ありがとうございます。 まだ祈る事に慣れてなくって…

 それで少し、ふらついただけなのです…! ご心配をお掛けして…ごめんなさい」


セラは微笑み、ノアの手を取ると、錫杖のサイズを元に戻し、首飾りに付け直す。

パルテオンも合流し、三人で改めて、ここまで案内してくれたルルに向き直る。


「ありがとうねルル! とっても助かったし、取敢えずは解決…かな?」


「いーってことよ。 んでも、この辺にあんな変なのおらんかったからさ――

 多分これで終わりってわけじゃなさそーだよな… ちょい怖ぇぜ…」


ルルの声音(こわね)は、軽く聞こえるが、言葉は重かった。

此処にいる誰もが、どこかで感じ取っていた――“これは、氷山の一角”だと。


しかし、辺りは既に薄暗くなっていた。

これ以上暗くなると、迷いの森へと変化するとのこと。


ルルに案内されるがままに、安全な、彼女の集落へと向かう事となったのだった。





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