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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
六章:未だに謎は多く。

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78/137

頁:76 その【調剤】初回につき。◆挿絵有り



 聖女が広間へ向かう道中、廊下から聞こえてくるのは勇者たちの声。

 なにやら困っているらしい。その会話内容は遠巻きからでも理解できた。


「――それで、どうする?」


「怪しい孤島行きの定期船が来るまで七日、だよね。

 それにバルタザールからの音声もずっと聞こえないし……。」


「魔道具はあたしら管轄外すぎて、どうしたらええか分からんもんね。

 子爵ちゃんなら、なんか知っとるんじゃない?」


「ヴェルカナ……つったっけか? どうすっかなぁ――

 賢者にどういった場所か聞こうにもこれじゃ聞けねぇしなぁ。」


 広間の扉を控えめに打ち鳴らし、そっと室内へ侵入した聖女。

 忍び足で入室したつもりだったが、当たり前だが全員の注目を浴びた。


「あ――えっと。 ただいま戻りました。」


「件(くだん)の孤島行きの相談――ですよね?

 たしか、七日ほど待たなければならないというお話で。」


「そーなんよ。 で、ただ待つだけってのもだるいじゃろ?

 あと、気がついとるかもしれんけど、魔道具めげとるんかしらんけど――」


 魔道具を掌に広げ「トントン」と軽い動作確認。

 深いため息を吐き出し、魔道具を懐へとしまい込んだ小人族。


「だめじゃ。 やっぱなんも反応せん。 禁書庫からの音が聞こえん。

 はぁ~~もう~~……耳がみみっちぃのぉー……。」


 腰をひねり――なんでもなかったように平然と出口へ向かう小人族。


 彼女の軽い態度とは裏腹に勇者たちはといえば。

 彼女になにをどうツッコミを入れたらいいのか分からず、無言。


「あたし、ちょいやりたいことあるけ、薬草管理室行ってくる。

 子爵ちゃん、言っとったじゃろ?『自由に使っていい』って。」


 いたずらっぽく口角をわずかに上げ――さらに言葉を続ける小人族。


「あたし、調剤に興味があるんよね。 ほいじゃけ、行ってくるわ。

 ――薬草だけに“役に立つ”……ってな。 じゃあの。」


 ◇ ◇ ◇


 混沌とした冷気を残し、薬草管理室へと赴いた小人族。

 陽はとうに落ちており、月光が淡く照らす中――向かう先はガラス張りの場所。


「んー……ふぃーッ!集落は自然に溢れかえっとったけぇねぇ……。

 こういう場所……めっちゃ落ち着くんよなぁー……。」


 いつも通りの無表情。だが胸の奥に広がるのは、浮かれるような気持ち。

 薬草の香りが芳しいその場所へ、誘われるように入室。


 前回調剤室に訪れた際、本棚を見かけたことを覚えていた。

 規模はやや小さかったが、調剤室に置いてある書物なのだ。


「んなもん――絶対に薬の作り方が書いとるに決まっとるじゃろ。」


 多少文字は読めなくとも『なんとかなる』の精神で本棚を漁る小人族。

 ノートのような冊子を手に取り、パラパラと頁を読み進めていく。


 整然に整えられた機械的な文字列。ところどころ読めない箇所。


「当たり前じゃけど、読めん箇所多いわ。

 絵が描かれとらんかったら詰んどったじゃろうね……どれどれ……。」


 一枚一枚丁寧に読み進め――図を見つめながら適当に流し見る。


 そうしてふと――目に留まった大輪の薔薇の挿絵。

 それは、小人族のよく知る『血熱薔薇(ブラディアローズ)』の図面。


「ん……これなんかの薬に使えるん? 材料は――っと……。」


「カルミナ……と、ヴェルナの果実?んでブラディアローズの花蜜?」


 彼女が今現在読み進めているその頁に記された『レシピ』――

 それは、彼女の興味をそそるに十分な内容だった。


挿絵(By みてみん)


「あー……ね。 ブラディアローズにそういう効果あるんじゃし。

 こりゃ……ぶちやばい……こんなん――作りたいに決まっとる。」


「ママ……オヤジ――ッ! あたしは、絶対にやり遂げるけぇ……!」


 彼女の瞳に輝きが灯り――その好奇心は誰にも止められない。

 否。止められる者がここには居なかったのである。


 興奮気味に机へ材料を丁寧に並べていく彼女。手つきはやたら効率的。


(ふんふん、材料はこれで……あっとるよね? さて――)


 まず――事前にアルコールに漬けてあるカルミナの花弁を数枚取り出す。

 すり鉢に入れ、すり潰した後に液体と個体に分けておく。


 次にヴェルナの乾燥果実。こちらは適当に砕き粉々に。

 先ほどすり潰した、カルミナの花弁と練り合わせていく。


 合わせた物にカルミナの抽出液を加え――さらに丁寧に練り合わせる。

 目の粗い布へ包み、沸騰した湯へ材料入りの布を放り込む。


 色が出るまで時間が掛かるらしく、その間に血熱薔薇(ブラディアローズ)の花蜜瓶を準備。

 匙で掬い取り――味見のため、手の甲に一滴ほど乗せ、舐め取る小人族。


「っぱこれじゃろー!あたしにはなーんも効果ないんじゃけど、んめー!」


 煮沸した薬液をさらに蒸留させ、濃さを調節。

 出来上がったものに蜜を追加し、丁寧に撹拌していく。


 これにて全工程が終了。出来上がった“ソレ”を小瓶に注ぎ入れた。


 あれだけの工程を要したが、出来上がった本数はたったの小瓶三本分。

 小瓶に入り切らなかった中途半端な薬液は、ルルが余すことなく飲み下した。


 成果物を両手に掲げ――人知れず無表情ながらもドヤ顔を披露する彼女。


「これ、ぶちうまいんじゃけどーっ!普通にあたしのオヤツになりそ!

 ホットミルクにこれいれたら……ぶちうまいじゃろーっ! あとは……。」


(この『お薬』って……子爵ちゃんに効果あるんじゃろうか?)


「あ~~~!!興味が尽きんのじゃけど!!使いたい~~~ッ!」


 彼女の胸は好奇で満たされ、憧れは止められないし止まらない。


 その後――小人族は使用した証拠物品を全て隠蔽。

 証拠隠滅も完了したところで、薬草管理室を抜け出したのだった。


「フッフッフ……。 あたしは、ぜったい、ヤっちゃるけぇ。」


「あのいけすかんニヤけ面がどうなるか……。

 ちょー破廉恥に狂うとこを、あたしは、見届ける。」


「ママ……オヤジ……あたしの活躍――見とってね……!」



 彼女のとんでもない陰謀など知らない勇者たち及び屋敷の主。

 彼らの――否。屋敷の主(アメトリクス)の運命や、いかに――





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