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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
六章:

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72/127

頁:40.5 その【貴族】不審者につき。



迷宮(ダンジョン)から交易都市(ヴァルメリア)へ帰還する頃には、すでに時刻は夕暮れ――

空は朱色に染まり石畳を照らし出し、長い影を作り出すような頃合いだった。


ノアたち三人とは別行動をとっている聖女セラ。

彼女は気掛かりなことがあり、教会へと足を運んでいた。


教会へ顔を出すと、一人の神官がにこやかに挨拶を交わす。


「聖女さま、ご機嫌麗しゅう。 このような時間に教会を訪ねられますとは――

 勇者さま方と旅をなされていると、風聞をお耳にいたしましたが……。

 現在はヴァルメリアに、身を寄せてらっしゃったのですね?」


「ええ、こんばんわ。 少々……気になることがありまして。

 それでこちらに顔を出させていただいた次第です。」


挨拶そこそこに――疑問に思っていたことを控えめに尋ねるセラ。


「――それで、お尋ねさせていただきたい件なのですが……。」


「ニヴェイシアという家名の貴族さまについて、ご存知ありませんでしょうか?

 もし知ってらっしゃるのでしたら、その方についてを知りたくって……。」


問われた神官は『ここではなんですから……』と歩き出し、場所を移す。


廊下を渡り、案内された部屋は、神父の控える小部屋なのだそうだ。

どうやら神官では、聖女の質問に答えられないとのことらしい。


(神官方も忙しいですものね……。 時間が悪かったかしら……?)


そうして案内された部屋には、執務中の神父の姿――

神父は少しばかり驚いた表情を見せたが、神官が簡単に経緯を説明してくれた。


「それでは、お取次ぎはいたしましたので、私はこれにて失礼しますね。」


神官が退出の言葉を落とし、神父はやや困ったような表情を浮かべていた。


「さてさて、聖女様……。 どうぞそちらの椅子におくつろぎください。」


促されるままに椅子へと腰掛け、時間を置かずして再度扉が開かれ――

シスターが茶菓子を用意してくれたようで、小さな挨拶の後に机に並べる。


「さて、それでは聖女様。 お聞きしたいことは子爵様……。

 ニヴェイシア様について、関心があるそうですが……そうですねぇ――」


「かの方は、定期的に薬を寄付されておりましてね。

 神官さまが遠征にて不在の際は、とても助けられておりますよ。

 また当教会併設の孤児院に、子爵様は多額の寄付をしてくださってます。」


カップに茶を注ぎ、セラに『どうぞ』と言って渡すと息をつく神父。


「子爵様はこの孤児院……いえ。 この街、しいては――

 この国には欠かせない存在といっても、過言ではありません。」


窓の外に広がる景色に視線を流し、穏やかに微笑む神父。

視線の先に広がるのは、畑仕事に勤しむシスターの姿や、孤児の子どもたち。


平和そのものの光景を見つめ、静かに息を吐き出し、神父はセラに視線を戻す。


「子爵(ニヴェイシア)様は病弱とのお噂がありまして、御本人様はあまり顔出しされません。

 代わりにですが、使用人の方々がしょっちゅう教会へこられますよ。

 して聖女様……かの子爵様のことでなにか……気になる点でも?」


神父からの話を聞き終えたセラは、複雑な表情で視線をカップへと落とす。

今までの彼の行動や言動を断片ながら思い出し――瞳を閉じる。


(……やはり、それでも信用はなりません。 表の顔だけ……良いのかも。)


「気になる点があると言いますか……今現在、私たちは――

 ニヴェイシア子爵閣下のお屋敷に、お世話になっておりまして……。」


「それで――どんな方なのか気になってしまったのです。

 それだけなのです。 お話――ありがとうございました、神父様。」


神父に感謝の言葉を伝え小部屋から退出し、教会内部を見て回る。


訪ねてきた怪我人や、癒しを求める人々に癒しを与えてまわり――

顔に疲れが出始めたところで、教会の人たちへと感謝を伝え外へ繰り出す。


が、しかし――なんということだろうか……外はすでに暗闇に包まれていた。


(ま、真っ暗……! いつの間にこんなに時間が……っ!)


急いで帰らねばと踵を返すが、その道すがらで唐突に後方からかかる声。

『この時間にお一人デス?』と、どこかで聞き覚えのある軽薄な声音――


「聖女サマ。 アナタはもっと――危機感を抱いたほうがよいかと存じマスが。

 偶然お見かけ致しまシタので、お声を掛けさせていただきましたが……。」


「アナタは聖女サマ、それにこのような時間帯に乙女が一人……。

 この辺りの治安は良いとはいえど、お一人で出歩くのはお控えくだサイ。」


自身の屋敷内で見せていた軽薄な態度ではない、どこか気取った態度の彼。

恐らく『貴族の仮面』を纏った姿なのであろう、ニヴェイシア子爵その人。


彼は身を寄せ、軽薄な調子の小声で一言付け加える。


『キミの身に何かあってからでは――遅いヨ? ネェ……?』


もっともらしい彼の言葉に、苦虫を噛んだような表情で周囲に視線を配るセラ。

が、現在は周りに頼れる仲間はおらず、彼女一人という状況だ。


「ご心配をおかけして申し訳ありません。 そうですよね――」


「その、はい……ご配慮いただき、痛み入ります。 えっとそれで……。

 ニヴェイシア閣下は、どうしてこちらに……?」


アメトリクスはセラの耳元で、囁くように言葉を返した。


『ボクは孤児院に用事でネ。 というか……ボクのコト名前で呼ばないの?

 ボクの名前……長い、デショ? 『アメトリクス』も『ニヴェイシア』も。

 キミがそれでいいのなら、強制はしないけれどサ。』


「さて――では当屋敷までお送りいたしましょうか? 聖女サマ。」


身体を強張らせているセラのことなど、まるで気にしていない様子の彼。

わざとらしい貴族としての振る舞いで、彼女へと手を差し伸べた。


ぎこちない苦笑を浮かべ、彼の言葉に返答するセラ。


「そうですね。 ご心配いただき、申し訳ございません。ええっと――

 では、ご一緒させてくださいませ。 ニ……ニヴェイ……。

 ア……アメトリクス……さま……。」


セラは恐る恐るだが、彼の手に指先を触れさせた。

彼はにこやかな笑顔を湛え、彼女をエスコートするのだが……。


彼はなぜか人気のない場所へと移動し、聖女の胸中には不安が募る。


周囲を見渡し、顔を青ざめさせ『あの……?』と小さく声をあげるが――

彼は無言で歩み続け、やがて人の気配が絶たれた路地裏へと連れられた。


急に立ち止まり、何事かと恐怖で引きつった顔で、目の前の青年を眺める。


(もしかして……なにかするつもりでは……? いざとなれば神聖術(ディ・サンクトゥス)で……!)


が、彼は瞳を細め「やれやれ」といった様子でため息をひとつ。


『ボクの“能力”で屋敷まで一気に送るダケ……少しだけ目を瞑って?』


言葉が落とされると同時――瞳を閉じるまでもなく、瞬きの間に変わる景色。

そこに広がっていた光景は、ニヴェイシア邸の庭園だった。


驚愕で言葉を失っていると、隣から『大丈夫ー?』と言葉を投げられた。


「あの腕輪を……無理やりに渡された時、わけが分かりませんでしたが……。

 あなたの使用した魔法か何かでしょうか? 恐らくは転送系の……。」


「そゆコトー。 だってコッチのが歩くより断然早いデショ?

 あ、もしかしてキミ……路地裏でボクに『ナニか』されるって――

 勘違い――しちゃった感じー? ゴメンゴメーン、安心してヨー。」


「ボク、キミみたいな『お子サマ』には興味ないしサ。」


手のひらをひらりと振り、興味なさそうな淡々とした口調で語るアメト。

彼は『ヒヒッ』と喉を鳴らし怪しく笑い、再び口を開いた。


「興味あったとしても……あぁんな雰囲気のない場所で『する』趣味……。

 残念だけれど、ボクにはないからサー。 ヒヒッ! それじゃ――」


「ボクは執務があるから、浴場使うならドーゾご勝手にネ。」


『チャオー』と言い残した彼は、あまりにも軽い調子のまま姿を消した。

先程まで彼が居た場所には、黒紫の霧が残されるだけ。


何もされなかったことに安堵はするのだが、それにしてもだった。


(なんなの、ですか……ッ!? あんなッ……言うに事欠いてッ……!)


「もっと……言い方ってものがありますでしょう……ッ!?」


妙な苛立ちを覚えながらも屋敷内へと歩み、大股で広間へと向かうのだった。





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