頁:71 その【騎士】気遣いにつき。
浴室にて、勇者と半魔の彼らが親睦を深め合っている一方その頃――
広間に集まっていた残りの三人は談笑中だ。
議題として持ち上げられたのは、勿論浴室へ消えていった二人の話題。
「ノアなら大丈夫だとは思うんだけどよ。 あの二人が風呂ってなぁ……。」
「なぁんかこう……いやーーに絵になるとは思わねェか?
あの子爵もノアも見た目が女子受けしやすいだろ……?
この場にいる女性二人に対し、同意を求める騎士。
騎士の言葉を受け、聖女の脳内では大変な妄想が繰り広げられていた。
どうにかして小人族の方向へと目を向けて誤魔化す聖女。
(どこかで聞いた覚えがあります。これは――『ぼーいずなんたら』と)
仲間に対してとんでもない思考を向けているが、ここにいる全員同罪だ。
「あーね、わかる。ノアちゃんもあの子爵ちゃんも顔面いいもんな。」
「ガッハッハ!今の風呂場、やべーだろうなッ!俺も行くべきだったか?」
「――なんでパルちゃんは行かんかったんよ。」
「そりゃ……あんにゃろうが怖えからに決まってんだろ……。」
どうでもいい談義に花を咲かせている最中――
皆の耳に届けられたノイズのような雑音。次いで聞こえてくる声。
『皆様――ッ! 大変長らくお待たせ致しましたッ! あの黒泥ですが……。
僅かではありますが目撃情報や証言などをまとめさせて――』
賢者がなにか言いかけるが、遮るように小人族から言葉が投げられる。
「賢者ちゃんわりー……今ノアちゃん、風呂入っておらんのよ……。
それにこの時間じゃったら、多分話し合う時間がない。」
『むぅッ!? 現在の時刻は――?禁書庫は光が届かない環境でしてッ……。
時間の感覚が曖昧になってしまっており――すみませぬッ……!』
「あーっと……今は白星刻の終わり頃……だな。
ついでにいえばあの子爵もいねぇぞ。」
「あいつらは――『親睦を深める』とかって二人して風呂だからなッ!」
騎士の返答に驚愕したのだろうか、賢者は『ええ……』と、ドン引き。
咳払いの後『ではッ!』と返した後に言葉を続けた。
『勇者殿がお戻りになり、全員が揃い次第改めてこちらからご連絡をッ!
また、ワタクシの方からッ……語らせ――ッ…………ザッ……』
『――ブツッ』
言葉途中だったのだろうが、彼の言葉は最後まで落とされることなく。
「……賢者ちゃん……? おーい? どうしたんじゃろ……?」
全員で怪訝な表情を浮かべるのだが――誰一人として原因は分からなかった。
◇ ◇ ◇
それからしばらくして――
親睦を深めていた彼らが広間へと姿を見せた。
湯上がりの熱気で勇者の頬にはほんのり紅色が差す。
更にいえば現在の彼は薄衣一枚。したたる水滴が首筋を伝い――
なんとも言い難い、無防備な魅力と色気を振りまきまくっていた。
(コイツぁ……世に出しちゃダメなヤツだな……死人が出るッ……!)
(あーあ……だめじゃろこれ……この世の終わりじゃ……じゃあの。)
(…………。 発言を控えさせていただきましょう……。)
自身の心にとどめておこう――三人全員、同時に決意した瞬間だった。
色気のある彼とは対照的に、半魔の彼はバスローブ一枚。
涼やかが過ぎる、あまりにも冷めた表情を浮かべている半魔の姿。
「すっごく気持ちよかったよ! 大きな湯船に浸かるのって――
あんなに『ごくらくじょーど』だったんだねぇ!また入りたいやっ!」
「と――いうワケだケド、残ったキミたちはどうする? 大浴場行く?
利用するのであれば、使用人に案内させるケド。」
彼の言葉に瞳を輝かせた聖女。彼ヘ駆け寄るが――ひらりと躱された。
「わかった、分かったから……落ち着いて……ネ?
キミ――ヒトをすさまじい勢いで揺さぶるのはやめようネ……?」
「キミの並々ならない浴場に対する情熱は理解したから……サ?」
聖女を一歩引いた目で見つめ、手元のベルを鳴らした屋敷の主。
そう時間をおかず、扉のノックの音と共に女中が一人。
「ニヴェイシア家の使用人、リリアと申しますっ!
えっと……よろしくお願いいたしますっ!」
元気な挨拶の後――彼女は女性たちを連れ、大浴場へと消えていった。
広間に残ったのは男ばかり三人――何も起きないはずもなく。
「ハァ――最ッ悪に疲れたヨ……それじゃ、ボクは執務あるから。」
軽い調子で立ち去ろうとする半魔だが――それを阻止する手。
騎士が彼の腕を掴み『まぁまて……』と、一言。
「おめぇさんがまだ何か隠してるのは――勘でなんとなく分かる。」
「けどよ――これだけ色々世話焼いてくれてんだ。感謝はしてる。
おめぇさんもなんか事情があんだろ?」
「もし――なんか困ったことがあるんなら俺たちに言え。
俺たちでどうにかできんなら、手を貸してやっからよ……ッ」
騎士は半魔から腕を離し――『それだけだッ』と言い放ち、彼から離れた。
言葉を返すことなく、半魔は胡散臭い微笑を深め――
そのまま掌をひらひらと振り、扉を閉め――どこかへ去った。
「……パルからそんな事を言うだなんて、びっくり!」
「あー……まぁなんだ、俺も思うところがあったからよ……。」
「そっか――でも、分かるよ、パル。 僕ね……魔族ってもっと……。
恐ろしい存在なのかなって、そう思っていたんだぁ。」
「でも――今日のアメトさん(の筋肉)を見てたらさ……。
全然そんなことなくって、なんというか……僕たちと変わらないって。」
「そーかよ……。」
互いに顔を見合わせる勇者と騎士。静かに笑いあい――
「次は、三人で入ろうねっ!パルッ!」
浴室では半魔を翻弄し、ここにきて仲間をも翻弄する勇者。
ある意味――彼は無敵なのかもしれない。
【設定メモ:煌陽国の時間を示す言葉】
本文に出てきた単語《白星刻》ですが
煌陽国セレスタリアでの18:00~21:00頃を指す言葉です。




