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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
六章:未だに謎は多く。

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頁:71 その【騎士】気遣いにつき。



 浴室にて、勇者と半魔の彼らが親睦を深め合っている一方その頃――

 広間に集まっていた残りの三人は談笑中だ。


 議題として持ち上げられたのは、勿論浴室へ消えていった二人の話題。


「ノアなら大丈夫だとは思うんだけどよ。 あの二人が風呂ってなぁ……。」


「なぁんかこう……いやーーに絵になるとは思わねェか?

 あの子爵もノアも見た目が女子受けしやすいだろ……?


 この場にいる女性二人に対し、同意を求める騎士。

 騎士の言葉を受け、聖女の脳内では大変な妄想が繰り広げられていた。


 どうにかして小人族の方向へと目を向けて誤魔化す聖女。


(どこかで聞いた覚えがあります。これは――『ぼーいずなんたら』と)


 仲間に対してとんでもない思考を向けているが、ここにいる全員同罪だ。


「あーね、わかる。ノアちゃんもあの子爵ちゃんも顔面いいもんな。」


「ガッハッハ!今の風呂場、やべーだろうなッ!俺も行くべきだったか?」


「――なんでパルちゃんは行かんかったんよ。」


「そりゃ……あんにゃろうが怖えからに決まってんだろ……。」


 どうでもいい談義に花を咲かせている最中――

 皆の耳に届けられたノイズのような雑音。次いで聞こえてくる声。


『皆様――ッ! 大変長らくお待たせ致しましたッ! あの黒泥ですが……。

 僅かではありますが目撃情報や証言などをまとめさせて――』


 賢者がなにか言いかけるが、遮るように小人族から言葉が投げられる。


「賢者ちゃんわりー……今ノアちゃん、風呂入っておらんのよ……。

 それにこの時間じゃったら、多分話し合う時間がない。」


『むぅッ!? 現在の時刻は――?禁書庫は光が届かない環境でしてッ……。

 時間の感覚が曖昧になってしまっており――すみませぬッ……!』


「あーっと……今は白星刻(はくしょうこく)の終わり頃……だな。

 ついでにいえばあの子爵もいねぇぞ。」


「あいつらは――『親睦を深める』とかって二人して風呂だからなッ!」


 騎士の返答に驚愕したのだろうか、賢者は『ええ……』と、ドン引き。

 咳払いの後『ではッ!』と返した後に言葉を続けた。


『勇者殿がお戻りになり、全員が揃い次第改めてこちらからご連絡をッ!

 また、ワタクシの方からッ……語らせ――ッ…………ザッ……』


『――ブツッ』


 言葉途中だったのだろうが、彼の言葉は最後まで落とされることなく。


「……賢者ちゃん……? おーい? どうしたんじゃろ……?」


 全員で怪訝な表情を浮かべるのだが――誰一人として原因は分からなかった。


 ◇ ◇ ◇


 それからしばらくして――

 親睦を深めていた彼らが広間へと姿を見せた。


 湯上がりの熱気で勇者の頬にはほんのり紅色が差す。

 更にいえば現在の彼は薄衣一枚。したたる水滴が首筋を伝い――

 なんとも言い難い、無防備な魅力と色気を振りまきまくっていた。



(コイツぁ……世に出しちゃダメなヤツだな……死人が出るッ……!)

(あーあ……だめじゃろこれ……この世の終わりじゃ……じゃあの。)

(…………。 発言を控えさせていただきましょう……。)



 自身の心にとどめておこう――三人全員、同時に決意した瞬間だった。


 色気のある彼とは対照的に、半魔の彼はバスローブ一枚。

 涼やかが過ぎる、あまりにも冷めた表情を浮かべている半魔の姿。


「すっごく気持ちよかったよ! 大きな湯船に浸かるのって――

 あんなに『ごくらくじょーど』だったんだねぇ!また入りたいやっ!」


「と――いうワケだケド、残ったキミたちはどうする? 大浴場行く?

 利用するのであれば、使用人に案内させるケド。」


 彼の言葉に瞳を輝かせた聖女。彼ヘ駆け寄るが――ひらりと躱された。


「わかった、分かったから……落ち着いて……ネ?

 キミ――ヒトをすさまじい勢いで揺さぶるのはやめようネ……?」


「キミの並々ならない浴場に対する情熱は理解したから……サ?」


 聖女を一歩引いた目で見つめ、手元のベルを鳴らした屋敷の主(アメトリクス)。

 そう時間をおかず、扉のノックの音と共に女中(メイド)が一人。


「ニヴェイシア家の使用人、リリアと申しますっ!

 えっと……よろしくお願いいたしますっ!」


 元気な挨拶の後――彼女は女性たちを連れ、大浴場へと消えていった。

 広間に残ったのは男ばかり三人――何も起きないはずもなく。


「ハァ――最ッ悪に疲れたヨ……それじゃ、ボクは執務あるから。」


 軽い調子で立ち去ろうとする半魔だが――それを阻止する手。

 騎士が彼の腕を掴み『まぁまて……』と、一言。


「おめぇさんがまだ何か隠してるのは――勘でなんとなく分かる。」


「けどよ――これだけ色々世話焼いてくれてんだ。感謝はしてる。

 おめぇさんもなんか事情があんだろ?」


「もし――なんか困ったことがあるんなら俺たちに言え。

 俺たちでどうにかできんなら、手を貸してやっからよ……ッ」


 騎士は半魔から腕を離し――『それだけだッ』と言い放ち、彼から離れた。

 言葉を返すことなく、半魔は胡散臭い微笑を深め――


 そのまま掌をひらひらと振り、扉を閉め――どこかへ去った。


「……パルからそんな事を言うだなんて、びっくり!」


「あー……まぁなんだ、俺も思うところがあったからよ……。」


「そっか――でも、分かるよ、パル。 僕ね……魔族ってもっと……。

 恐ろしい存在なのかなって、そう思っていたんだぁ。」


「でも――今日のアメトさん(の筋肉)を見てたらさ……。

 全然そんなことなくって、なんというか……僕たちと変わらないって。」


「そーかよ……。」


 互いに顔を見合わせる勇者と騎士。静かに笑いあい――


「次は、三人で入ろうねっ!パルッ!」


 浴室では半魔を翻弄し、ここにきて仲間をも翻弄する勇者。

 ある意味――彼は無敵なのかもしれない。






【設定メモ:煌陽国の時間を示す言葉】


 本文に出てきた単語《白星刻(はくしょうこく)》ですが

 煌陽国セレスタリアでの18:00~21:00頃を指す言葉です。


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