↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
五章:

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/131

頁:63 その【閑話】休題:とあるお祭り。◆挿絵有り



 ――翌日、お祭りの当日。

 交易都市の様子は盛況で、笑いに溢れかえっていた。


 まだ早朝にも関わらず往来の人々は酔気を漂わせ、へべれけで笑い合う。

 屋台も賑わいを見せ、潮風に乗せられ、海産物を焼いた匂いが鼻腔を擽(くすぐ)る。


 商人たちの呼び込みの声。吟遊詩人の奏でる弦楽器の調べ。

 視界を移せば様々な情報が流れ込み、ふわりと心が踊るような――


「おっ……!おい!あれって――」

「勇者さまと聖女さまなんじゃないかっ!?」


 誰かが言った一言で――たちまち様子はガラリと変わった。

 祭りの賑わいも相まって、人々が勇者たちへと押し寄せる結果に。


 場は混沌とした騒然を生んでしまうが、それでも――賑やかで快活な空間。

 この一時だけは皆『こういうのも悪くないな』と顔をほころばせた。


「勇者さま方! 勇者は反則だからよ、参加は出来ねぇと思うが――

 そこの騎士さまッ! 是非――『小舟漕ぎ対決』に参加してみねぇか?」


「優勝商品は――金と食いもんッ! どうだ?」


 屈強そうな漁師に話しかけられた騎士。

 彼は『面白そう』と二つ返事で了承し、皆で向かう会場。


「あの――『小舟漕ぎ対決』っていったい何をされるのでしょうか?

 参加の可否だけ聞かれて、説明も何もなかったですが……。」


「んなもんよッ!着いてからのお楽しみだろッ! ガッハッハ!」


 聖女の何気ない質問に、人をかき分け、先頭を進む騎士が豪快に答える。



 そうして会場へと無事にたどり着いた一行だったが――

 現場は想像以上に人々の熱気で溢れかえり、妙な臭気が漂っていた。


 参加者であろう人々は、皆同様に筋骨隆々の姿。


 熱気と言うよりは、男性特有の脂汗の香りが立ち込め――

 それにより、名状しがたい……男気のような臭気を放っている状況。


 つまるところ、ただただ、臭い。


 そんな中、騎士の彼は気にする様子も見せずスタスタと受付へ。


「それじゃ――俺は行ってくるッ!応援頼むぞーッ!」


 残された三人は彼を見送り、観客が集まっている箇所へと向かったが……。


 周囲は観客でごった返し。

 人混みに紛れると、ルルの身長では何も見えない。


 そう判断し、ノアはルルを肩へ乗せ、肩車で移動する運びとなった。


「わー、すげー!めっちゃ視線がたけぇ!なんじゃろ、ほらアレ。

 なんか、こまい木に登ったような気分を味わえるぜっ!」


「あははっ!ちゃんと見えるかな? セラは大丈夫?」


「ああえっと、はい。 私あまり外出をしたことがなくって。

 その……【加護(ギフト)】を授かって以降、ずっと修行の日々でしたので……。」


「ですので、こうして皆様とお祭りを楽しむ日が来るだなんて、嬉しいです!」


 聖女の言葉は、人々の喧騒により掻き消されてしまっていた。

 そんなざわつきの中――どこからともなく反響してくる、活気づいた男声。


 どうやら、小舟漕ぎ対決の開催を告げる合図だそうだ。

 やたらと間延びした声が、周囲に広がり残響する。


「交易都市(ヴァルメリア)名物の“小舟漕ぎ対決”の時間だぜーーッ!

 今年もようやっとこの季節がやってきたッ!」


「筋肉自慢共が今年も熱いねぇッ! 腕っぷしと、櫂二本だけッ!!

 決められた水路を渡り抜けッ!!」

 

「一番先に終点の紐をくぐったヤツが勝利ッ! 転覆上等ォ単純明快ーッ!」


 その声に周囲の人々は沸き立ち、怒号にも似たやじが飛ぶ。


 観客席は、普段は桟橋として利用されている場所。


 しかし今日は祭り当日。


 本来であれば、複数の漁船が並ぶが――

 現在港に停船している船は、小舟のみ。


 そしてどうやらその『競争』は、複数回に分けられ行われるのだそう。


 勝ち残った者が、勝者と対戦していく――要するにトーナメント形式。

 周囲の観客が懇切丁寧に、やたら説明口調で語ってくれていた。


「今年はやべえぞ!!去年優勝した例のヤツも参加してるらしいぞ!」

「それとアレだろ?勇者一行の騎士も参加してるってよ! 熱ちぃなぁ!」

「勇者が参加してるとこも見てみたかったなぁ~ッ!」


 近場ではノアを噂している人がいるようだが、噂の渦中の勇者の彼。

 どうやら小っ恥ずかしいのか、微妙な笑顔で頬を掻いていた。



 ――ドドンッ!



 騒然とした会場に鳴り響くのは、空砲の音。

 どうやら競技が始まった合図のようだ。


 狭い水路のコースを駆けるのは、四隻の小舟――

 船体をぶつけ水しぶきをあげ、猛烈に互いを蹴落とし合う姿が確認できる。


 よもやそれは競争などではなく、完全に『蹴落とし合い』


 船体を激しくぶつけ、怒号と海水を浴びせながら、大暴れする筋肉男たち。

 船が転覆しそうになる度、観客は沸き立ち、大いに盛り上がる様を見せていた。



 一回戦目に騎士の姿は見えなかったが、記念すべき一回戦目は――

 なんと全隻転覆という残念な結果。


「シケてんなぁおい!!! テメェらの筋肉は飾りか、オラーーッ!!!」


「クッソ! 俺アイツに賭けてたんだぞッ!すっちまったじゃねぇか!!」


 観客たちのあまりある熱気に思わず気圧されたセラ。

 恐怖すら感じており、ぽつりと『すごい、ですねぇ……』と呟く。


 彼女の小さな声は誰の耳にも届くことはなく、虚しく消えていった。



 迎えた二回戦目――


 視線を巡らせてみれば、騎士の姿が確認できた。

 彼はいつもの軽鎧ではなく、転覆しても困らないような軽装。


 簡素なシャツに、動きやすそうなパンツスタイル。


 彼が出場したことで、周囲は大いに賑わいを見せており、歓声が上がる。


「パルちゃんキタ――ッ! あたしらが騎士ッ!パルちゃん登場ッ!

 あたしが実況しちゃるけぇ! まかせろーーーいッ!!」


「まだ競技は始まってすらねえっ!なのに早速危うい我らが騎士ッ!

 そいつは馬じゃねぇ、船! おっと回転するか――ッ!」


 勇者の肩に乗せられ、忙しなく動き回る小人族の彼女。


 所定の位置に着いた船――やがて鳴らされた開始の合図である空砲。

 音が鳴らされると同時、船が一斉に動き出したと……思っていた――


 だが……周囲の参加者は、騎士(パルテオン)目掛け集中攻撃。

 遠目からでも、彼が何か文句を言っているのであろうことが確認できる。


 しかし、勇者たちには小舟を操作する彼らの声は届かない。


『テメェらそれでも漁師かチクショウ――』


「おお――っと!口汚く罵って猛攻を耐え凌ぐ騎士――ッ!

 しかし周りの漁師選手たちもだまっちゃいねぇッ!」


「決死覚悟で突撃をかましていくーッ! 騎士の船――安否は如何にッ!?」


「しかぁし――そのつよつよの体幹と筋肉で転覆阻――止ッ!

 周りを無視してぐんぐん進むぞ我らが騎士――ッ!」


 到底無表情から紡いでいるような声量ではない、小人族の声。

 普段見せないであろう彼女の様相に、聖女は若干引いていた。


「おお――ッ!なんとここで大逆転の好機(チャンス)到来ッ!

 最後尾が追いつき――追い抜いたッーッ!危機(ピンチ)となった騎士――ッ」


「最後尾と騎士がぐんぐん最前列を押し上げ――なぁんとッ!

 ここで予期せぬ事態(ハプニング)発生――ッ」


「どうする者共――ッ!選手たちの小舟目掛け……魚の大群襲来――ッ!

 魚だけに“ぎょーさん”襲いかかる驚異の脅威――ッ!」


(ル……ルルちゃんさんのお声が……うるっさい……。)


 彼女の実況が響き、小人族の熱気に毒された周囲が沸き立つ。


 そうして激しい船体のぶつけ合いの末――無事に全員終着点(ゴール)へ。

 が……接戦虚しく、騎士はあいにく二番手と相成った。


 遠くからでもわかる、肩をガックリと落とす騎士の姿。


「やはー!残念じゃったねー!めっちゃ頑張っとったよ!」


「病み上がりなんじゃし、しゃーないってやつじゃろ!万全じゃったら――

 きっと、パルちゃんが勝ちんさっとった!さすがじゃ!」


 勇者の肩の上で散々暴れまわる小人族。

 そんな彼女をものともせず、朗らかに笑っている勇者。


「さすがはパルだったねぇ!見てるこっちまで楽しくなっちゃった!」


「僕も、参加してみたかったなぁ……あははっ!」


「ノアが本気を出したらどうなるか、見てみたかったですね……ふふっ!」


 ◇ ◇ ◇


「悪ィーッ……負けちまったぜッ!でもすげぇいい運動になったッ!ハハッ!」


 海水を浴びてきたのか、背中には海藻が付着しているのだが――

 気が付いていないらしく、とても爽やかな笑顔で勇者たちの元へ歩む騎士。


 そうして彼が合流する頃には、陽光は天を示す頃合い。


 祭りの熱気は最高潮を迎え、あちらこちらで人々の笑い声が響き渡っていた。


「おつかれ!次は僕も参加したいなぁっ!あははっ!」


 その後――誰も彼の背中に付着した“ソレ”を指摘することはなかった。

 全員で市場を練り歩き……祭りの雰囲気を楽しんでいった。


 なぜ……誰も彼の『海藻』を指摘しなかったか。


 それは――彼が『勲章(オシャレ)』としてわざと付けている。そう思い込んでいたから。


 ときおり街の人々に囲まれ……そうして日が傾いてきた頃合い。

 勇者の肩に居座っていた小人族は眠気がきたのか。


 彼の髪を鷲掴みにし、すっかり眠りこけてしまった。


挿絵(By みてみん)


 まるで年の離れた兄に甘える妹のような姿。

 そんな彼女のため、一同は踵を返し――祭りの喧騒を後に宿へ向かう。


 応酬を交わし、賑やかな雰囲気の向こう側――禁書庫の賢者の彼。


 この祭りの現場において、誰しもが魔道具の存在を忘れていた。

 装着こそはしていないが、誰かが携帯していたためなのかなんなのか。


 自身の渡した魔道具から伝わるのは、楽しそうな祭りの熱気。

 彼は禁書庫の中――ひとりぼっち。


 人知れず涙を浮かべていたのは言うまでもない。





 ◆第五章 了

ここまで読んでくださって、とても嬉しく思います。

誤字脱字があればご報告いただければ幸いです。


お気に召していただけましたら、

ブクマなどいただけますと、励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。