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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
五章:

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頁:62 その【一行】安堵につき。



 勇者の向かった先は、皆の待つであろう部屋。

 しかしどうにも緊張が奔ってしまい、扉の前で尻込みしていた。


 セラの治療でパルテオンが無事であろうことは、頭では理解できていた。

 が……自身の目で確認するまでは、信じ切ることが出来ず、項垂れる。



 本当に――腕は無事なのだろうか。もし仮にこのまま目を醒まさなければ。

 嫌な予感や悪いことばかりが脳裏によぎり、僅かに眉間にしわが寄る。



 瞳を閉じ――意を決して扉を「コン、コン」と打ち鳴らした。


「んあ……誰だぁ……。 ルル、頼むが開けてやってくれ。」


 扉越しから聞こえてくるのは――低くて頼りになる声。

 十年来の付き合い……幼馴染で大事な友人の声。


 次いで聞こえてくるのはパタパタと駆け出すような軽い足音。

 カチャリ――と、解錠の音が響き、扉が開いた先では、キューを抱えたルル。


 部屋の奥の方に確認できるのは、上半身を起こした騎士。

 彼のすぐ傍らには、椅子に腰を掛け、騎士の様子を伺っている聖女の姿。


「おお……ノアか……。 わりぃ、俺が足引っ張っちまって。」


「おめぇさんにはカッコ悪ィとこを見せちまったよな。」


 全員がこうして無事でいられたことが、まるで奇跡のような。

 扉の隙間から伺える騎士の姿は、どこか照れくささを隠すような表情。


 何事もなかったかのように、呑気に頬を搔いている彼の姿。


 その姿を目にした瞬間――込み上げてくる衝動を抑えきれなかったノア。


「パル――ッ! 君が……君が無事で……ッ本当に――」


「セラッ……ありがとう……パル……よかった……っ!」


「ウオオオッ!!いでででッ……待ってくれノア――ッ!

 おまえただでさえ昔っから力は超つえぇんだからよ!やめてくれッ!」


 慌てて止めようと動くセラだったが――途中で手が止まった。

 幸福そうな彼らの姿に無粋だと感じ、代わりに小さく微笑んだ。


「セラのおかげさんで俺は一命を取り留めたつっても過言じゃねえ。

 それとルル……おまえさんの声があったから咄嗟に防御できた。」


「今回はドジ踏んじまったがよ――これからはもっと……。

 俺も気を抜かねぇようにすっからよ。 すまんかった……。」


 部屋には安堵の空気が広がり、皆の無事を噛み締めていたが――


「そういえば――みんな。」


「さっきリュシアンさんに会ってきたんだけど……なんと。

 ニヴェイシア子爵さんに合わせてくれるって話がついたんだ。」


「色々と取り持ってくれるみたい!お話をつけてくれるって!」


「おおッ!?マジか!やったじゃねえか!俺のおかげだなッ!」


 彼は寝台に横になりながらも「ガハハ!」と豪快に笑う。


「もっと皆が笑ってられるよう――あたし、強くなる。」


「今回――あたしがもっと視野広げとったらって考えると……。

 後悔しても仕方ないことじゃろうし、結果論でしかないんじゃけどさ。」


 小人族の彼女の言葉を皮切りに聖女が項垂れ、賢者もまた――

 自身の能力不足を嘆き、震える声を皆に届けた。


『ワタクシッ……皆様のお役に立つことができずッ……誠に不甲斐なくッ――

 なんたる、体たらくッ……これでは賢者失格ッ……!』


「ちょ、ちょっと!みんな!卑屈にならないでよっ……!」


「セラがいなかったら……考えたくもない結果を招いてた。

 ルルだってそうだよ?さっきパルも言ってたけど、ルルの声がなきゃ……ね?」


「パルテオンの〈技能(スキル)〉がなかったら、セラたちが危なかった。

 それにね、バルタザール。 君だけ……君だけだったんだよ。」


「あの蛇のことに気が付いたの。君の目は勇者の僕を上回ってる。

 だからさ、これからも僕たちに力を貸してほしいんだ。 だめ……かな?」


 しんみりとした空気が流れ、一同が微笑みを返し合う和やかな雰囲気。


 だったのだが、突如として全員の耳を襲う爆音。



『……ヴォォォォッ!!! ォォーッ……ッッ……ォッ!!!!』



 何かの爆発音のような轟音返答が耳飾り越しに響く。

 思わず『うるっさッ!!!』とルルが叫び、全員は耳飾りを投げた。


 それを機に部屋には笑いが溢れ、緊張も痛みも――全て笑いで溶かしていった。

 四人で笑い語り合い、互いの無事を噛み締めて、喜びを分かち合う。



 やがて夜が更け、一時の安堵の中で皆は眠りに就くのだが――

 禁書庫に控えている賢者の彼(バルタザール)は、全員の頭から忘れ去られ忘却の彼方。


 独り虚しく、皆からの返答を待っていたのだが――


 無意味だったのは言うまでもない。


 ◇ ◇ ◇


 翌日――リュシアンから手配された宿の一室。

 聖女の《治癒の祈り(サナティオ)》の甲斐もありすっかり回復した騎士。


 しかし、彼は体力が回復すると同時に、悩みもあった。

 それは――暇を持て余したことによる空腹。絶え間ない飢餓感――


 大事を取り、外出は控えるように釘を刺されていた騎士。

 ゆえに、腹が減って仕方がなかったのだ。


 宿の者へ食べ物はないか?と催促するが、返答は芳しくない。

 代わりに提案されるように宿の者から伝えられた事柄は――


 空腹すら紛れるような、唆られる提案だった。


 騎士はそのことを伝えるべく、颯爽と一同の元へと急ぐ。


 皆が待っているであろう部屋の扉を乱暴に開き、入室。


 部屋の中では、先の死闘の余韻がまだ抜けきっていないのか。

 仲間たちは皆一様に、どこか探りを入れるような眼差しを騎士へと向ける。


「なぁ皆ッ!こんなときに、俺から提案するのはちょい……。

 どうかって思ったんだが……聞いてくれッ!」


 真面目なトーンで放たれた騎士の言葉に、皆は唾液を飲み込む。

 互いに顔を見合わせ、騎士の言葉を待っている様子を見せる全員。


「明日――お祭りが開催されるってよ――宿のヤツが言ってたんだッ!

 そのよぉ……折角だからよ、皆で行ってみねぇかッ!?」


「こういうときこそ、バカみたいに騒いだほうが気が紛れんだろッ!?」


 豪快な笑顔で放たれた騎士の言葉。

 真っ先の反応を示したのは小人族の彼女で、彼女は瞳を輝かせ――


 磨いていたモノクルを放り投げ、パタパタと騎士の元へ駆け出した。


 軽い足取りで彼の腰に抱きつき『天才かよ!』と喜びを露わに。

 話し合いをするまでもなく、満場一致で『お祭り』へ赴くことになった。





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