その【浴場】超大事故につき。
※注意喚起
本エピソードでは、キャラクターの露出や、性的ニュアンスを含む、コメディ要素が含まれています。
そういった描写が苦手な方は、ブラウザバックをして頂けますと幸いです。
ニヴェイシア邸の庭へと転送された勇者ノアたち。
転送の光が収まり、視界が慣れ、柔らかい芝生の感覚が足元に伝わる。
時刻はすでに夕刻といった頃合いで、西の空が橙色に染まりつつあった。
しかし、戻ってきたと同時に、なにやら不穏な空気が漂い――
全員が安堵の息を洩らしているすぐ側で、賢者の膝が崩れ落ちた。
「――ンッ!!! ぐゥおォッ――ッ……!!」
彼は謎の奇声を上げた後、その場にバタリと倒れ込み、白目を剥き気絶。
「「「やっぱりか~~~………」」」
ノア、パルテオン、ルルの三人は、同時に頭を抱え、見事なまでの合唱。
セラは額を手で覆い、嘆息を洩らし「ですよねぇ……」と小さく呟いた。
賢者の身体を横抱きに抱え、ノアは「まったくもう…。」と零す。
屋敷へと足を動かそうとしたその時――どこからとも無く現れる影。
老執事が音もなく、全員の前へ現れると、穏やかな声色で声を掛けた。
「これはこれは、勇者様方――いつ、お戻りでございましたかな?」
「わっと……!びっくりしたぁっ……!
えっと、たった今こちらに戻ってきましたっ! スクロールを使って……!」
「それで、以前借りたお部屋と、後もう一室お借りしたくって……
一人、多くなっちゃったんだけど、大丈夫かな……?」
苦笑を浮かべ、賢者の身体を抱えながら問いかけるが、老執事は微笑を崩さない。
ノアたち一同を見つめ、恭しく一礼し、返答を返した。
「無論に御座います。 お部屋はすでに清掃済み――
部屋に余裕も御座います。 どうぞご自由に、お過ごしくださいませ。」
「では、私はこれにて……どうぞごゆるりと。」
老執事が足早に立ち去り、一同は老執事に続くように屋敷へと足を踏み入れる。
しかし、転送酔いはどうやらバルタザールだけではなかったようだった。
ルルが口元を押さえ「ぅぷ……」とこちらも不穏な空気を漂わせる。
「あ、あたしもちょいやばい……転送酔いぱねぇ……うぇ……
ごめんじゃけど、あたし……ちょっとお部屋籠ってくる……じゃあの。」
顔を青ざめさせたルルは、以前借りた部屋へとトボトボと歩き去った。
「さて……僕はバルタザールを寝室に連れて行ってくるね!
ねぇセラ、パル! 良かったらこの後、市場に食べに行かないっ?
僕、少しお腹空いちゃって……とっても手軽な食べ物食べたいんだー!」
バルタザールを抱えたままのノアが、二人に問いかけた。
パルテオンは即答で「ああ!行こう!」と返答を投げるが、セラは躊躇。
ルルやバルタザールの体調面が心配という気持ちが勝った――
それともう一つ。聖女には、どうしても譲れない目的があったのだ。
「えっと……私はルルちゃんとバルタザール様が心配ですので……。
お屋敷で待機し、必要であれば二人に《祈り》をかけようかなと。」
そういうことならと、ノアは強制すること無く、パルテオンも了承。
その後、バルタザールを安らげそうな部屋に連れていき、寝かせ――
ノアとパルテオンは、セラを残し、交易都市の市場へと繰り出したのだった。
(さて……!!ルルちゃんやバルタザール様が心配ですがまずは……!)
セラはそう――彼女は入浴に対する欲求が、湧き出て止まらなかったのだ。
香り立つ薬湯、程よい温度の湯船……なによりこの屋敷ならではの魔道具。
浴び心地が最高のシャワーがあり、それら全てが彼女を浮き足立たせた。
鼻歌でも奏でそうなほど、軽い足取りで大浴場へと向かうセラ。
脱衣所へ入り、誰も居ない静けさに安堵し、慎重に衣類を剥ぎ取っていく。
最後の防衛ライン――下着を取っ払い、几帳面に畳み、肌色一色となったセラ。
一人きりで貸し切り状態ということもあり、タオルを片手に満面の笑み。
喜色一色といった様子で、扉を押し開けるのだがしかし――
扉を押し開けた瞬間に、セラの心臓は跳ね上がり、立ち尽くしてしまった。
大浴場。その湯船の中には既に人影があり、その人物は、屋敷の主。
銀白金の長髪、病的な白肌――彼は目を瞑り、湯に身を委ねていた。
セラの体内時計は完全に活動停止し、思考を放棄。
今の彼女には、タオルを纏う余裕すら無く、ただ呆然と、その場に佇む。
屋敷の主は、来訪者に気が付いたのかどうか、視線を一瞬だけ扉へとやった。
何事も無かったように、まるで空気を確認しただけのように、瞳を閉じる。
空気を肺に取り込み、わざとらしく「フーーーーッ」と音を立てるアメト。
「し、ししっ……しつ……失礼……しまっっ……したっ……!!」
セラの顔の大部分は真っ赤に染まり、今にも消え入りそうな声で後退る。
咄嗟に手持ちのタオルで前部分を隠すが、薄い布ゆえ、その防御力は皆無。
「ボク、もうすぐ出るとこだし、あとは一人で好きに使いなヨ?
それともボクと一緒に入りたいとか? ボクがキミの身体を洗ったら良い?
そりゃーもう、キミが望むなら丁寧に撫で回してあげるよ? イッヒッヒ!」
湯に浸かったまま、彼は目を開けること無く、なんでも無いように言い放つ。
彼が何か行動すれば、虚しく水音がこだまし、余計に羞恥を煽った。
彼の声色は、セラの狼狽など、取るに足らないものだと言わんばかりの態度。
「またそうやって減らず口をッ……! 一緒に入る理由がありませんッ!
私はノアと違いますのでッ! と、というかですッ!!」
「なにか一言くらい無いのですかっ……! せめて謝罪するとかっ!!」
タオルを手繰り寄せ、どうにか全身を隠すが、タオル一枚――
そんなもので彼女の全てを隠せるはずもなく、ぎこちなく胸元を抑えるセラ。
身体を折り、膝辺りまで布を引き寄せ、震える声で彼へ問いを投げた。
屋敷の主はゆっくりと片目を開けると、じろりとセラへ視線を送る。
「――謝るって、一体何を? 此処、ボクのお屋敷なワケだけれど。
ボクが一人でゆっくりしてるところに、入ってきたのはキミだヨ?」
「それにボク、キミたちを屋敷に招き入れた際、注意したヨ? 忘れたの?
ほら……“鉢合わせても責任は取らない”って、最初に配慮したヨー?
……で、なにか一言? キミの裸体に対する感想を求めてる感じ?」
アメトは片目を閉じたまま「ンー、何かネェ……」と、じろりと睨む。
彼女の身体を上下しっかり丁寧に観察し、やがて口の端を釣り上げて嗤い――
「ぺったん……イヤ……。 おこちゃま、体型――としか……イヒヒッ!」
「なっ――! む、胸の事を仰っているのですか!?」
羞恥と怒気が一気に爆発し、セラの頬は赤く染まり、全身が小刻みに震える。
「じょっ、浄化!! 浄化してやりますから! 今此処で!!今直ぐに!!」
振り上げた腕――その指先に、聖女の聖神力が宿っていく。
周囲には虹色の煌めく粒子が漂うが、セラは若干……涙目だった。
「イヒッ!役得役得ー。 聖女サマ、腕を上げたらサー……
キミのあざやかーな凸が主張してるの丸わかりだヨー?
キミが“一言くらい”っていうから、感想を述べたダケなのにネー?」
「それに、ボクがキミに対して“魅力的な身体だ”とか言ったらさー……
それこそまずくなぁい? 胡散臭いどころか……もう事案デショ。」
セラは何か一言、物申したかったが、彼の言葉を理解した瞬間――
羞恥で足が震えだし、腕で必死に胸を隠し、完全に固まってしまっていた。
アメトはタオルすら纏わず、ナニも隠すこと無く、ざばりと音を立て――
湯船から立ち上がり、濡れた髪を優雅に払い、セラに視線を移す。
あまりにも堂々たる足取りで浴室を歩き、胡散臭い微笑みを浮かべセラの側へ。
「今度は……キミのその自己主張の激しい凸……
ボクに見られないように、気をつけなネェ……? イヒッ!」
彼は片手に持っていたタオルをセラの頭に被せ、そのまま浴室の扉へ。
無遠慮過ぎる態度は威厳すらあり、セラにとっては悪魔的な図太さだった。
言葉を失い、震える指先で身体に張り付くタオルを握り、立ち尽くすセラ。
扉に手を掛けたアメトは、軽口一つ残すのを忘れず、置き土産を残した。
「ちゃあんと、脱衣所で他の人の衣類があることくらい、確認しなヨォ?
それじゃ……ドーゾごゆっくりー。 チャオー。」
パタンと扉が湿られるが、セラの耳には、彼の声が響き渡っていた。
羞恥と苛立ち……少しの悔恨の念がないまぜになり、タオルを握りしめる。
(あんなッ……!と、とつとか……!さ、さいてい……ッ!!)
(私を何だと思ってらっしゃるの……!? でも、何も言えない……)
周囲を見渡すと、壁際に一枚の姿見が確認できた。
セラは恐る恐る、そちらへと歩みを寄せ、タオルを払う。
頭に乗せられたタオルを投げ捨て、改めて自身の姿を目に映してみた。
(胸……何故……?どうしてなのですか? どうして私にはッ……!)
姿見に映る姿は、確かに“子供体型”と揶揄されても否定できない姿があった。
すらりとした四肢は決して悪くはない。だが――胸は超控えめ。
更に言えば、くびれも少なく、少女体型と言っても過言ではない。
「く、悔しい……! 私にもっと……もっと力――ではなくて。
胸がっ、胸さえあれば!!……胸だけで言えば、パルテオンさんの方が……
か、神様っ! どうして……!? 私は慎ましい生活を心がけてますのに!」
小さく項垂れ、鏡の中の自分から目を背け、悔しさに視界が歪む。
悲しいことを考えるのはやめ、まだ成長途中なのだと、自身に言い聞かせるセラ。
揉んだら大きくなると聞いたことがあったな……と思い出し、場所を移す。
胸中で考え、洗い場へと向かい、黙って腰を下ろし石鹸を使い身を清める。
洗い方にも気を遣い、身体を軽くマッサージしながら揉み込み、洗い流す。
(どうやって揉んだら良いのかしら? こう? それとも……こう……?)
結局良く分からず、雑念が渦巻くまま、湯船へ浸かり、身を委ねた。
「……ふぅーーっ…… やはり、お風呂は最高ですねぇ……むぅ。」
肩までしっかりと湯に浸かり、心身ともに落ち着かせるセラ。
この時だけは、先程の記憶は抹消され、ようやくの安堵に息を零した。
その後、セラは浴室で身を清めた後、広間へと赴くが、無人。
ノアとパルテオンの二人は、市場の方へ向かったと言っていた事を思い出す。
先程、転送酔いで気絶してしまった賢者が気がかりになったセラ。
彼の寝かされているであろう部屋へと向かい、部屋を打ち鳴らすが――
当然と言えば当然ながら、返答は無く、セラは静かに扉を開いた。
賢者は、恐らく寝かされた時の状態のままなのだろう。
仰向けで、安らかな寝息をたて、睡眠に耽っている様子だった。
(気絶した時は驚きましたが……普通に寝てらっしゃるみたいですね……?)
念のため、賢者の肩へ手を添え《治癒の祈り》を祈るセラ。
淡い金色の光りが賢者を包み、癒しを届けた事を確認し、息をつく。
小さな声で「お大事に……」と囁き、部屋の外へと繰り出す。
続けてルルの部屋へと向かい、扉を軽くノックする。
部屋の中にいるであろうルルの声は、苦しいのか、とてもか細い。
何事かと慌てて扉を開けると、彼女は机に突っ伏してぐったり。
「ちょっ……! ルルちゃん!? 酔いが回ったのですか!?」
慌てて駆け寄ると、ルルは顔を上げず帽子を握りしめていた。
どこから現れたのか、謎毛玉生物がルルの手元をちょろちょろと走り回る。
「酔いがめちゃきもくて……うぇ……あたしもうだめ……じゃあの。」
ぐったりしている上、顔色も悪いのだが、彼女の表情は“無”――
ルルの小さな身体に、寄り添うように身体を添わせ《浄化の祈り》を祈る。
安らぎの聖光が、酔いという気持ち悪さから解放させ、ルルは瞳を細めていた。
やがて気持ち悪さが消えたのか、ルルがセラに抱きつき、感謝を伝える。
「セラちゅわん……ありがとー…… 生き返ったーー……
あーーセラちゃん大好き……あたしと結婚して……」
甘えるようにセラの胸に顔を埋め、小さな身体で必死に抱きつくルル。
胸元でうっとりしているルルの頭を、優しく撫でながら声を落とすセラ。
「もう気持ち悪くないですか? 大丈夫ですか?ルルちゃん……」
「でーじょーぶ! 元気になった! セラちゃーん……いいにおい……
聖女の清浄な匂いつってな……うへっ……」
「……??? ルル、ちゃん……?(どういう事……ですか?)」
その後、元気になったルルと共に、二人で広間へと向かった。
ソファに腰掛け、くつろぎながらも会話を交わす。
勇者ノア、騎士パルテオンの帰宅を待つ為、何気ない会話を繰り広げる二人。
だが、話題はやがて、屋敷の主の話題へと方向転換し――
セラは先程での浴場での事を思い出し、一人で羞恥に悶えていたのだった。




