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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
五章:

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63/127

頁:61 その【帰路】陰鬱につき。



 迷宮(ダンジョン)を後にし、交易都市(ヴァルメリア)への帰路の途中。


 勇者たちと依頼主(リュシアン)は馬車を共にしていたが――

 誰しもが口を閉ざし、馬車での会話はなく、静寂が包む。


 車輪が地面を叩く音。馬の蹄が大地を踏みしめる音が響くだけ。

 荷物が僅かに揺れる音ですら、妙に耳に響くような――それほどの静けさ。


「まさか――このような事態に陥るとは、思いもよらず……。

 勇者さま方には、多大なるご迷惑を……誠に申し訳が――」


 声色からでも後悔が伝わるリュシアンの言葉。


「けれど、もしあのまま放置して、気が付かない間に別の方が犠牲にって……。

 もしそうなってたら――もっと大変なことになってました。」


「リュシアンさん。 あなたの勘のおかげで、大事は免れたって。

 だから――謝罪はしないでください。 それに……です。」


「今回のことは、勇者である僕の力不足が招いた結果ですから……。」


 ノアは決して慢心していたつもりも、油断していたつもりもない。

 彼にとって想定外のことが起きただけだった。


 しかし、そのことがかえって彼の心を抉るものとなっていた。


「恐れ入ります……勇者さま……。」


 ◇ ◇ ◇


 勇者たちを乗せた馬車は、その後何事もなく交易都市へと帰還した。

 騎士の容態だが――聖女の懸命な《祈り》のおかげで傷は塞がってはいた。


 しかしそれでも失った血液までもどるわけではない。

 彼は気を失ったまま目を覚まさず、大事を取ることにした。


 リュシアンの手配した宿へ、一時的に身を置く運びとなり――

 目を覚まさない騎士や聖女を寝台へと運び、小人族が宿で待機。


 勇者ひとりで、冒険者ギルドへ報告のため、街に出ることとなった。



 こうして……一人で行動するのは久しぶり……なのかな。

 あのとき僕は――どうすれば最善かがわからなくって。


 結局気が付いたら聖剣さんに身体を任せてしまう羽目になった。


『僕って――やっぱりまだまだ未熟……なんだね。』


 それでも……僕は弱いところを見せちゃ、いけない。


 僕が弱音を吐いていたら、きっと大勢の人が不安に思うだろうから。



 冒険者ギルドにたどり着いてすぐ、カウンターまで足を運んだ勇者。

 報酬を受け取ったまでは良かったが――気分は浮かばれない。


「あの――お仕事中に失礼します。 少々お尋ねしたいのですが……。

 黒い靄を纏った、泥を発生させる石みたいなもの……。」


「そんな感じのものの報告って、ありませんか?」


 報告のついでに受付嬢に尋ねてみるが――無駄骨。

 他の従業員にも尋ねている様子なのだが、その場にいる全員『しらない』


「ごめんなさいね……そのような石の報告はこちらにはあがってないみたいで。

 もしかしたら組合長(ギルドマスター)でしたらなにかご存知かもしれません。」


「後日、私から聞いてみておきますので、また改めてお越しになってください。」


 改めてお礼を述べ、冒険者ギルドを後に、帰り道の道中で唱える言葉。

 それは、勇者の腰に佩いた聖剣への些細な問いかけ。


『ねぇ――聖剣さん。』


『今回の、あの魔族の女の子――何がしたかったんだろ。

 僕たちの姿を一切見ていなかった……よね。ずっとセラばかり見てて。』


『…………僕ってやっぱり、勇者に向いてないのかな。』


 しばしの沈黙――やがて静かに胸中に語りかける女声。


『以前も語ったが――そなたは【勇者】たりえる清き魂の持ち主だ。

 あまり自身を卑下してくれるな、ノア。 我(わたし)とて辛い。』


『して――あの魔族の少女だが……我(わたし)には判断出来かねる。

 されどあの少女は……恐らく【聖女】に臆している。』


『我(わたし)から伝えられるのは……現状その程度だ、許せ。』


『どうして臆しているのかわかるかい?セラの力がそれだけ強いってこと?

 できれば、僕にも分かるように教えて欲しい。 それと……――』


 問いかけようとしたが、言葉の途中で止めた。

 聖剣は気まぐれではなく、ときおりこうして黙し、そして勝手に語りだす。


 脳内に響く音は消え、聖剣が沈黙したのだと悟り、口をつぐんだ。


(聖剣さんにも都合があるんだね。 仕方、ないか……。)



 仲間たちが待っているであろう宿へ戻るため、やや急ぎ足で宿へ向かう勇者。

 どうにも――先の戦闘が頭の大半を支配し、不安が拭えなかった。


 騎士は意識を失い、聖女も力を使いすぎて消耗している。

 小人族の彼女も――軽薄な様相のその裏、焦燥しているに違いない。


 一刻も早く戻らなければ――と、焦る気持ちが先行する。


 宿へと到着すると、今回の迷宮同行を依頼した彼――

 リュシアンが穏やかな微笑で待ち受けていた。


「勇者さま、此度は私のご依頼に付き合わせてしまったばかりに――」


「あ、頭を上げてくださいっ……!リュシアンさんは何も悪くありませんっ!

 今回のことは――全部僕の責任だから……。」


 深々と頭を下げるリュシアンに、しどろもどろになる勇者。

 頭を上げたかと思えば――リュシアンは勇者の前にずいと硬貨袋を差し出した。


「謝罪といってはなんですが……こちら、私のほんの気持ちです。

 どうか――勇者さま方に受け取っていただきたく……。」


 袋の中身を確認してみれば、先ほど貰った報酬の倍近い金額の硬貨。


「ちょっ……!?お待ちください……!先ほどギルドで報酬は――

 こんなに貰ったらもらい過ぎになっちゃうよ……だめだよ……ッ!」


「いえ。これは正当な報酬です。」


「勇者さま方がいらっしゃらなければ……恐らくもっと――悍ましいことに。

 考えるのもぞっとします。 貴方がたがいてくださったから――」


「被害が最小限に済んだといっても、過言ではないのです。」


 リュシアンの圧力に根負けし――ノアは改めて頭を下げて感謝を伝えた。

 ふと――彼に尋ねておきたいと思っていた件を思い出した勇者。


「あの、リュシアンさん。ついでにお聞きしたい件があって……。

 ニヴェイシア……というお名前の貴族の方について、何か知りませんか?」


「ふむ――?ニヴェイシア子爵でございますか?そうですね……。

 先代の当主……二代目から現当主とも交流がありますゆえに。」


「何をお尋ねしたいかにもよりますが――」


 リュシアンが言葉を続ける前――唐突に魔道具から響く賢者の声。


『詳しくお話をお伺いいただいてッ!!これはッ!好機ですッ!!』


 興奮した調子の賢者の音声に思わず肩が跳ねる勇者。次いで漏れるため息。


「はは……勇者さま方さえよろしければ、私から現当主にお話をしますよ?

 かの方は博識で聡明な御仁ですので、今回のことも何かご存知やも。」


「それに、かの方とは近々会う予定もありますので、そのついでに。」


「ではっ!そのようにお願いします……!ありがとうございます……!」





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