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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
三章:世界と魔族と人間。
63/63

その【浴場】超大事故につき。

※注意喚起

本エピソードでは、キャラクターの露出や、性的ニュアンスを含む、コメディ要素が含まれています。

そういった描写が苦手な方は、ブラウザバックをして頂けますと幸いです。



ニヴェイシア邸の庭へと転送された勇者ノアたち。

転送の光が収まり、視界が慣れ、柔らかい芝生の感覚が足元に伝わる。


時刻はすでに夕刻といった頃合いで、西の空が橙色に染まりつつあった。


しかし、戻ってきたと同時に、なにやら不穏な空気が漂い――

全員が安堵の息を洩らしているすぐ側で、賢者の膝が崩れ落ちた。


「――ンッ!!! ぐゥおォッ――ッ……!!」


彼は謎の奇声を上げた後、その場にバタリと倒れ込み、白目を剥き気絶。


「「「やっぱりか~~~………」」」


ノア、パルテオン、ルルの三人は、同時に頭を抱え、見事なまでの合唱。

セラは額を手で覆い、嘆息を洩らし「ですよねぇ……」と小さく呟いた。


賢者の身体を横抱きに抱え、ノアは「まったくもう…。」と零す。


屋敷へと足を動かそうとしたその時――どこからとも無く現れる影。

老執事が音もなく、全員の前へ現れると、穏やかな声色で声を掛けた。


「これはこれは、勇者様方――いつ、お戻りでございましたかな?」


「わっと……!びっくりしたぁっ……!

 えっと、たった今こちらに戻ってきましたっ! スクロールを使って……!」


「それで、以前借りたお部屋と、後もう一室お借りしたくって……

 一人、多くなっちゃったんだけど、大丈夫かな……?」


苦笑を浮かべ、賢者の身体を抱えながら問いかけるが、老執事は微笑を崩さない。

ノアたち一同を見つめ、恭しく一礼し、返答を返した。


「無論に御座います。 お部屋はすでに清掃済み――

 部屋に余裕も御座います。 どうぞご自由に、お過ごしくださいませ。」


「では、私はこれにて……どうぞごゆるりと。」


老執事が足早に立ち去り、一同は老執事に続くように屋敷へと足を踏み入れる。


しかし、転送酔いはどうやらバルタザールだけではなかったようだった。

ルルが口元を押さえ「ぅぷ……」とこちらも不穏な空気を漂わせる。


「あ、あたしもちょいやばい……転送酔いぱねぇ……うぇ……

 ごめんじゃけど、あたし……ちょっとお部屋籠ってくる……じゃあの。」


顔を青ざめさせたルルは、以前借りた部屋へとトボトボと歩き去った。


「さて……僕はバルタザールを寝室に連れて行ってくるね!

 ねぇセラ、パル! 良かったらこの後、市場に食べに行かないっ?

 僕、少しお腹空いちゃって……とっても手軽な食べ物食べたいんだー!」


バルタザールを抱えたままのノアが、二人に問いかけた。

パルテオンは即答で「ああ!行こう!」と返答を投げるが、セラは躊躇。


ルルやバルタザールの体調面が心配という気持ちが勝った――

それともう一つ。聖女(セラ)には、どうしても譲れない目的があったのだ。


「えっと……私はルルちゃんとバルタザール様が心配ですので……。

 お屋敷で待機し、必要であれば二人に《祈り》をかけようかなと。」


そういうことならと、ノアは強制すること無く、パルテオンも了承。

その後、バルタザールを安らげそうな部屋に連れていき、寝かせ――


ノアとパルテオンは、セラを残し、交易都市(ヴァルメリア)の市場へと繰り出したのだった。


(さて……!!ルルちゃんやバルタザール様が心配ですがまずは……!)


セラはそう――彼女は入浴に対する欲求が、湧き出て止まらなかったのだ。

香り立つ薬湯、程よい温度の湯船……なによりこの屋敷ならではの魔道具。


浴び心地が最高のシャワーがあり、それら全てが彼女を浮き足立たせた。


鼻歌でも奏でそうなほど、軽い足取りで大浴場へと向かうセラ。


脱衣所へ入り、誰も居ない静けさに安堵し、慎重に衣類を剥ぎ取っていく。

最後の防衛ライン――下着を取っ払い、几帳面に畳み、肌色一色となったセラ。


一人きりで貸し切り状態ということもあり、タオルを片手に満面の笑み。


喜色一色といった様子で、扉を押し開けるのだがしかし――

扉を押し開けた瞬間に、セラの心臓は跳ね上がり、立ち尽くしてしまった。


大浴場。その湯船の中には既に人影があり、その人物は、屋敷の主(アメトリクス)

銀白金(アルゲント・アルビナ)の長髪、病的な白肌――彼は目を瞑り、湯に身を委ねていた。


セラの体内時計は完全に活動停止し、思考を放棄。

今の彼女には、タオルを纏う余裕すら無く、ただ呆然と、その場に佇む。


屋敷の主は、来訪者(セラ)に気が付いたのかどうか、視線を一瞬だけ扉へとやった。


何事も無かったように、まるで空気を確認しただけのように、瞳を閉じる。

空気を肺に取り込み、わざとらしく「フーーーーッ」と音を立てるアメト。


「し、ししっ……しつ……失礼……しまっっ……したっ……!!」


セラの顔の大部分は真っ赤に染まり、今にも消え入りそうな声で後退る。

咄嗟に手持ちのタオルで前部分を隠すが、薄い布ゆえ、その防御力は皆無。


「ボク、もうすぐ出るとこだし、あとは一人で好きに使いなヨ?

 それともボクと一緒に入りたいとか? ボクがキミの身体を洗ったら良い?

 そりゃーもう、キミが望むなら丁寧に撫で回してあげるよ? イッヒッヒ!」


湯に浸かったまま、彼は目を開けること無く、なんでも無いように言い放つ。

彼が何か行動すれば、虚しく水音がこだまし、余計に羞恥を煽った。


彼の声色は、セラの狼狽など、取るに足らないものだと言わんばかりの態度。


「またそうやって減らず口をッ……! 一緒に入る理由がありませんッ!

 私はノアと違いますのでッ! と、というかですッ!!」


「なにか一言くらい無いのですかっ……! せめて謝罪するとかっ!!」


タオルを手繰り寄せ、どうにか全身を隠すが、タオル一枚――

そんなもので彼女の全てを隠せるはずもなく、ぎこちなく胸元を抑えるセラ。


身体を折り、膝辺りまで布を引き寄せ、震える声で彼へ問いを投げた。


屋敷の主(アメトリクス)はゆっくりと片目を開けると、じろりとセラへ視線を送る。


「――謝るって、一体何を? 此処、ボクのお屋敷なワケだけれど。

 ボクが一人でゆっくりしてるところに、入ってきたのはキミだヨ?」


「それにボク、キミたちを屋敷に招き入れた際、注意したヨ? 忘れたの?

 ほら……“鉢合わせても責任は取らない”って、最初に配慮したヨー?

 ……で、なにか一言? キミの裸体に対する感想を求めてる感じ?」


アメトは片目を閉じたまま「ンー、何かネェ……」と、じろりと睨む。

彼女の身体を上下しっかり丁寧に観察し、やがて口の端を釣り上げて嗤い――


「ぺったん……イヤ……。 おこちゃま、体型――としか……イヒヒッ!」


「なっ――! む、胸の事を仰っているのですか!?」


羞恥と怒気が一気に爆発し、セラの頬は赤く染まり、全身が小刻みに震える。


「じょっ、浄化!! 浄化してやりますから! 今此処で!!今直ぐに!!」


振り上げた腕――その指先に、聖女の聖神力(サンクト)が宿っていく。

周囲には虹色の煌めく粒子が漂うが、セラは若干……涙目だった。


「イヒッ!役得役得ー。 聖女サマ、腕を上げたらサー……

 キミのあざやかーな凸が主張してるの丸わかりだヨー?

 キミが“一言くらい”っていうから、感想を述べたダケなのにネー?」


「それに、ボクがキミに対して“魅力的な身体だ”とか言ったらさー……

 それこそまずくなぁい? 胡散臭いどころか……もう事案デショ。」


セラは何か一言、物申したかったが、彼の言葉を理解した瞬間――

羞恥で足が震えだし、腕で必死に胸を隠し、完全に固まってしまっていた。


アメトはタオルすら纏わず、ナニも隠すこと無く、ざばりと音を立て――

湯船から立ち上がり、濡れた髪を優雅に払い、セラに視線を移す。


あまりにも堂々たる足取りで浴室を歩き、胡散臭い微笑みを浮かべセラの側へ。


「今度は……キミのその自己主張の激しい凸……

 ボクに見られないように、気をつけなネェ……? イヒッ!」


彼は片手に持っていたタオルをセラの頭に被せ、そのまま浴室の扉へ。

無遠慮過ぎる態度は威厳すらあり、セラにとっては悪魔的な図太さだった。


言葉を失い、震える指先で身体に張り付くタオルを握り、立ち尽くすセラ。


扉に手を掛けたアメトは、軽口一つ残すのを忘れず、置き土産を残した。


「ちゃあんと、脱衣所で他の人の衣類があることくらい、確認しなヨォ?

 それじゃ……ドーゾごゆっくりー。 チャオー。」


パタンと扉が湿られるが、セラの耳には、彼の声が響き渡っていた。

羞恥と苛立ち……少しの悔恨の念がないまぜになり、タオルを握りしめる。


(あんなッ……!と、とつとか……!さ、さいてい……ッ!!)

(私を何だと思ってらっしゃるの……!? でも、何も言えない……)


周囲を見渡すと、壁際に一枚の姿見が確認できた。

セラは恐る恐る、そちらへと歩みを寄せ、タオルを払う。


頭に乗せられたタオルを投げ捨て、改めて自身の姿を目に映してみた。


(胸……何故……?どうしてなのですか? どうして私にはッ……!)


姿見に映る姿は、確かに“子供体型”と揶揄されても否定できない姿があった。

すらりとした四肢は決して悪くはない。だが――胸は超控えめ。


更に言えば、くびれも少なく、少女体型と言っても過言ではない。


「く、悔しい……! 私にもっと……もっと力――ではなくて。

 胸がっ、胸さえあれば!!……胸だけで言えば、パルテオンさんの方が……

 か、神様っ! どうして……!? 私は慎ましい生活を心がけてますのに!」


小さく項垂れ、鏡の中の自分から目を背け、悔しさに視界が歪む。


悲しいことを考えるのはやめ、まだ成長途中なのだと、自身に言い聞かせるセラ。

揉んだら大きくなると聞いたことがあったな……と思い出し、場所を移す。


胸中で考え、洗い場へと向かい、黙って腰を下ろし石鹸を使い身を清める。

洗い方にも気を遣い、身体を軽くマッサージしながら揉み込み、洗い流す。


(どうやって揉んだら良いのかしら? こう? それとも……こう……?)


結局良く分からず、雑念が渦巻くまま、湯船へ浸かり、身を委ねた。


「……ふぅーーっ…… やはり、お風呂は最高ですねぇ……むぅ。」


肩までしっかりと湯に浸かり、心身ともに落ち着かせるセラ。

この時だけは、先程の記憶は抹消され、ようやくの安堵に息を零した。


その後、セラは浴室で身を清めた後、広間へと赴くが、無人。

ノアとパルテオンの二人は、市場の方へ向かったと言っていた事を思い出す。


先程、転送酔いで気絶してしまった賢者が気がかりになったセラ。


彼の寝かされているであろう部屋へと向かい、部屋を打ち鳴らすが――

当然と言えば当然ながら、返答は無く、セラは静かに扉を開いた。


賢者は、恐らく寝かされた時の状態のままなのだろう。

仰向けで、安らかな寝息をたて、睡眠に耽っている様子だった。


(気絶した時は驚きましたが……普通に寝てらっしゃるみたいですね……?)


念のため、賢者の肩へ手を添え《治癒の祈り(サナティオ)》を祈るセラ。

淡い金色の光りが賢者を包み、癒しを届けた事を確認し、息をつく。


小さな声で「お大事に……」と囁き、部屋の外へと繰り出す。

続けてルルの部屋へと向かい、扉を軽くノックする。


部屋の中にいるであろうルルの声は、苦しいのか、とてもか細い。

何事かと慌てて扉を開けると、彼女は机に突っ伏してぐったり。


「ちょっ……! ルルちゃん!? 酔いが回ったのですか!?」


慌てて駆け寄ると、ルルは顔を上げず帽子を握りしめていた。

どこから現れたのか、謎毛玉生物(キュー)がルルの手元をちょろちょろと走り回る。


「酔いがめちゃきもくて……うぇ……あたしもうだめ……じゃあの。」


ぐったりしている上、顔色も悪いのだが、彼女の表情は“無”――

ルルの小さな身体に、寄り添うように身体を添わせ《浄化の祈り(ピュリタス)》を祈る。


安らぎの聖光が、酔いという気持ち悪さから解放させ、ルルは瞳を細めていた。

やがて気持ち悪さが消えたのか、ルルがセラに抱きつき、感謝を伝える。


「セラちゅわん……ありがとー…… 生き返ったーー……

 あーーセラちゃん大好き……あたしと結婚して……」


甘えるようにセラの胸に顔を埋め、小さな身体で必死に抱きつくルル。

胸元でうっとりしているルルの頭を、優しく撫でながら声を落とすセラ。


「もう気持ち悪くないですか? 大丈夫ですか?ルルちゃん……」


「でーじょーぶ! 元気になった! セラちゃーん……いいにおい……

 聖女の清浄な匂いつってな……うへっ……」


「……??? ルル、ちゃん……?(どういう事……ですか?)」


その後、元気になったルルと共に、二人で広間へと向かった。

ソファに腰掛け、くつろぎながらも会話を交わす。


勇者ノア、騎士パルテオンの帰宅を待つ為、何気ない会話を繰り広げる二人。

だが、話題はやがて、屋敷の主(アメト)の話題へと方向転換し――


セラは先程での浴場での事を思い出し、一人で羞恥に悶えていたのだった。





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