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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
五章:交易都市へ。

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頁:60 その【絶望】は誰の祈り。◆挿絵有り

※注意喚起

本エピソードでは、戦闘描写において一部、欠損や出血等の過激な表現が含まれます。

苦手な方はブラウザバックをして頂けますと幸いです。







「パルッ!皆をおねがいッ!僕が前線に出るッ!」


 騎士へ指示を投げ、聖剣を片手に誰よりも前線へと躍り出た勇者。

 大盾を構え、後衛二人と依頼主を護るようにして戦闘態勢に入る騎士。


 後衛二人も戦闘へと移行し、聖女の持つ錫杖が淡い光を放ち始めた。


「天にあらす我らが主よ、星の導きの元、その御慈愛で守護を与え給(たも)う――」


「……《防御の祈り(グラティア)》」


 聖女のもたらした《祈り》の光が全員の全身を包み込む。


「マジでなんなん、この趣味悪いグロキモな魔物……さいあく。」


「今まで遭遇してきたあの不気味な魔物たちと同じ……だねッ……!」


 異形の群れは勇者たちの殺気を察知したのか、一斉に動き出した。

 それはまるで統率された兵士のように規律めいた動き。


 蜂の魔物が縦横無尽に飛び回り、旋回したかと思えば――散開。

 裂けた尾の猫が影のように滑り込み、勇者たちの動向を窺う。


 しかし……首無しの蛇。異様な白蛇は動くことなく身体を揺らし佇むだけ。


 蜂の元へ駆け出し、メイスを構え――声を轟かせる騎士。


「《威圧咆声(ドミナス・ロア)》!!」


 腹の底から絞り出されたような雄叫びが迷宮内部へと響き渡る。

 彼の挑発を受け、蜂の軍勢は汚泥を散らし、波打ちながら押し寄せていった。


「さァッ! 来いッ! こっちだッ! 俺が相手してやるッ!」


 彼の〈技能(スキル)〉《威圧咆声(ドミナス・ロア)》の効果は確かなもの。

 魔物たちの視線は、一斉に大盾の騎士へと向けられていった。


(とりあえず、この好機(チャンス)を……!)

「《麻痺(パラライズ)》ッ!」


 彼女の魔法は、確かに蜂たちに放たれた――が、魔物たちは一切怯まない。

 騎士目掛け、猛攻を続ける様子に彼女の瞳には焦燥が滲む。


「ルルッ!狼狽えることはないッ! こっちは平気だッ!

 セラの《防御の祈り(グラティア)》もある!!」


 騎士の制止するような言葉で、小人族は正気を取り戻した。


「あ、あたしっ……ごめんパルちゃんッ! 詠唱いくッ!!」


「蒼穹の天(あま)……荒れ狂う飆風(ひょうふう)は大地の怒号を招かん――……」


 その間もずっと聖剣を振るい続けていた勇者。が――無駄。

 斬っても、斬ってもその数は減ることなく体力を消耗するばかり。


「これじゃッ……キリがないねッ……! 仕方ない――」


『聖剣さんッ! 力を貸してください! 勇者特権(ブレイブ・オーダー)、使用の許可を!』


 胸中で唱える宣言――透き通る刀身とノアの瞳に極光が収束する。

 光が最高潮に達した時【勇者】の脳内にだけ届けられる、澄んだ女性の声。



『【勇者特権(ブレイブ・オーダー)】起動(アクティベート)……【使用・承認(エグゼキュート)】』


「一閃刃斬(イッセンハザン)――……!!」



 瞬間――刀身から爆ぜるような眩しい聖光が周囲を一掃。

 まるで世界に刻まれるような、凄まじい威力……迷宮すら揺らぐような衝撃。


 蜂の姿は勇者の放った光に灼かれ、その姿を灰へと変えた。


 全員は蜂に意識を“向けられていた”為、気が付かなかった――

 下方から迫りくる脅威……裂けた尾の猫影(びょうえい)の存在。


 その脅威に気が付くことが出来ず、反応が一歩遅れることとなってしまった。



「待ってッ……! パルちゃんッッ!!」


「あぶねぇーーーッッ!!」



 小人族の叫びが迷宮内に残響――刹那。


 黒い影が跳ね上がり、その身を軽やかに一回転させ――

 目にも止まらぬ早業で繰り出されるのは、刃と化した幾本もの尾。


 それらを乱打するが如く、騎士へ振るわれ――放たれた連撃。


 騎士を包んでいた《祈り》をあっけなく破壊し、鋭利な鈎爪が彼を襲う。


「っぐ……! く、くっそ……!」


 猫影(びょうえい)の攻撃は、命を刈り取るものだと一目で理解できるもの。

 聖女の《祈り》は呆気なく砕かれ、右腕で心臓を庇った騎士。


 がくりと膝を折り、なんとか意識を保ってはいた――

 しかし負傷した腕からは露出した骨。薄皮一枚で辛うじて繋がっている状態。


 どくどくと滴る血液――彼は大盾を構えたまま、地に伏せた。


 ――ガンッ


 重い金属が地面を叩きつける音が迷宮内に虚しくこだまする。

 まるで嘲笑うように不気味に身体を揺らし続ける猫影(びょうえい)。


 瞬時に魔物を斬り伏せ――咄嗟に視線を騎士へと投げる勇者。


「パルッ……!!」


「パルテオンさんッ!!だめ……駄目……ッ!!すぐに私が――」


 彼の元へ慌てて駆け寄った聖女。

 しかし――その視界の隅ではふわりと蠢くなにか。


 白金色(プラチナブロンド)の波打つ柔らかな毛髪――その姿は、あの魔族の童女。


 床に届くほどの長い毛髪を揺らし、幼い顔立ちにそぐわない歪んだ微笑。

 童女の瞳には聖女が捉えられ、全員がその姿を認識するよりも速く――


 なんの前触れもなく、聖女へと振るわれた童女の拳。

 その単純な『力』だけで彼女の身体は容赦なく吹き飛ばされた。


 岩壁へ勢いよく叩きつけられ、壁ごと《祈り》すら砕かれる。

 鈍い衝撃が背中に伝わり、苦しさからか肺が酸素を受け付けない。


 ――『かひゅッ』という、薄い呼吸を繰り返し、歪む視界。


 唐突に聖女を襲った衝撃は、本来であれば人の原型を留めないほどの力。

 気を失ってしまうほどの衝撃に、焦点が合わず周囲の景色が霞んでいった。


 手首にはめられていた護符ですら「パキンッ」と無惨に散らばる。


 聖女を包むのは絶望と恐怖。

 定まらない焦点、思考も働かずに瞳から光が消えていく。


挿絵(By みてみん)


 彼女の足元に広がっていくのは――生暖かく湿った液体。


 初めて直面する明確な『死』への恐怖。じわりと、失意の底へ沈む精神。


 短杖(ワンド)を手にしたままその場にへたり込む小人族。

 出血し、力なく倒れる騎士。地に転がるのは彼のメイス。


 絶望の縁に立たされた全員だったが――勇者だけは違った。


 彼は聖女の元へ瞬時に移動し、童女の前へ悠然と立ちはだかった。



「……此処から先は、僕がお相手を致します。」

『――此処から先は、我(わたし)が手合わせ願おうか』



 勇者の声に温度はなく、ただ冷たく澄んだような声色。

 碧灰(シエルグレイ)の瞳は真っ直ぐに童女を射抜いていた。


「あっれぇ?なんでなんでぇ?どぉして?おかしいなぁ……??」


 童女は勇者に一瞥すらくれず、まるで眼中にない。ただ、小首を傾げるだけ。

 虚空のような透き通った非対称の瞳の色に映すのは、聖女ただ一人。


「なんでアレ、ぼくが叩いたのに壊れないのぉ?なんでぇ?うぅーん……。

 リン……わかんなぁい……きもちわるぅい……。」


 童女の甘い声は、底が見えないような深淵の泥闇――

 やがて彼女の身体は「ビチャッ」と泥へ変わり……姿を消した。


 彼らに残されたのは、脳にまで響くような耳鳴りと、胸の鼓動の音。

 誰も口を開くことが出来ず、語る言葉も無意味に思えるほどの静寂。


『あッ……あの蛇ッ!! あの蛇から、どういう訳か魔族が出現しッ……!!

 恐らくは蛇にでも擬態をしていたもの、かとッ……! っぐ……!!』


『申し訳ありませんッ……! ワタクシというものがありながらッ……!

 賢者、とはッ……名ばかりッ……!!』


 賢者の言葉に誰も責めるものはおらず、その場は恐怖で支配されたまま。


 鞄から瓶を取り出し、倒れたパルテオンへと慌てて駆け寄るリュシアン。

 瓶の中身を騎士の傷口へと注ぎ、薬液が彼の腕をじわりと回復させるが――


 焼け石に水のような状態。彼の腕は凄惨な状態にかわりない。


「気休めではありますがッ……!このような事態になるなどッ……!!」


「わ、わりぃ……たす、かった……。 おれ、はいいッ……!

 セ、セラ……をッ……!」


 言葉少なに言い終えると、彼は出血の影響で意識を手放した。


 深呼吸をし、絶望に飲まれないようにと、気を張るノア。

 彼はセラの元へと寄り、襟首を掴み真っ直ぐに告げた。


「セラッ!! しっかりしてッ!! パルテオンを治療できるのは――

 この場において君しかいないんだッ……!! きみ、しか……!」


「頼む、から……お願い……大事な友人で、大事な仲間なんだ……!」


「だから……お願い……」


 彼女を見据える彼の瞳は僅かに潤み、声は震えていた。

 襟首を掴まれた聖女は「はっ」と我に返り、瞳に光を戻し――


 錫杖を投げ出し、倒れた騎士の元へとつまずきながらも駆け寄った。


 震える手を無理矢理にでも抑え、傷口に手を翳し、瞳を閉じてひたすら祈る。


「パルテオンさん……ッ! パルテオンさん……お願い、おねがい……ッ!」

(癒えて……神様……! 違う、私がやらないでどうするのッ……!)


 彼女の身体から金色の光が溢れ出し――虹の粒子が爆ぜた。

 聖女の紡いだ《治癒の祈り(サナティオ)》は、致命傷すら癒すほどの強力な《祈り》――


 パックリと開いた傷口ですら閉ざすほどの癒しの力。

 まるで何事もなかったかのように、彼の腕は元の姿へと戻っていった。


 切迫していた空気が和らぎ、騎士の顔色も落ち着いていく。

 彼の様子に小人族も安堵の息を洩らしたが――同時にだった。


 ――パタン


 力量を見誤った聖女は気を失い、その場に倒れ込んでしまったのだった。


「セラ……ありがとう、パルを助けてくれて……。」





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