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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
三章:世界と魔族と人間。
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その【屋敷】少数精鋭につき。



自室へと向かった賢者バルタザール。

先程、会議をする為に使用した一室へと向かうが、何やら音が何も聞こえない。


まぁ、そんな事もあるのだろう。恐らくは何か用事でもあったのだろう――

そう判断し、まだ見ぬ秘密の花園へ通づる扉を、ノックすること無く押し開いた。


が――彼が入室した瞬間、目に飛び込んできた光景は、余りにも目に余る光景。


それは、聖女の胸部へと手をかけたルルの姿で、仲睦まじ過ぎる光景。


「――ッ!? ワ、ワタクシッ!! 見てはいけないモノをーーッッ!!」


声を張り上げ、慌てて退出しようとする賢者だったが、セラがそれを阻止。

彼女は「お待ちをッ!」と大声を上げ、彼の前へ立ちはだかる。


その後、セラはこれまで何があったのかを、掻い摘んで説明。

そうして語る間に、賢者は赤面をし、なんとも言えない表情になっていった。


「そ、それであのような事にッ……ワタクシてっきり――いえッ……。

 い、言わないでおきますゆえ…… ハイッ……」


「何か勘違いをしてらっしゃいますっ! もー……ルルちゃんのせいですよ?

 ルルちゃんって小悪魔さんなのですねっ! もうっ!」


その後、落ち着きを取り戻した賢者は、机になにやら道具や紙束を並べた。

彼の〈技能(スキル)〉で宙に浮いたソレらを眺め「ウウム……」と唸る賢者。


なにやら考え込んでいるらしく、ぶつぶつと独り言を呟き、唸っていた。


そんな彼に対し、すでに準備を終えているルルが何気なく彼の元へ。


「うわっ……なんしょんよ……どんだけ荷物多いん…? これ、いるか?

 あとこれとこれ。 絶対いらんじゃろ……替えの服……何着あるんよ……

 せいぜい四、五着でよくねーか……それとこのスゲー量のインク――」


机の上に並ぶ賢者の私物を、ルルが必要と不必要で分けていく。

彼の持っている鞄は、特殊な鞄らしく、曰く見た目以上に荷物が入るらしい。


曰く、魔導鞄(マジックバック)と呼ばれているそれは、錬金術師の加工技術や――

古代エルフから伝わる術式などを駆使したものだと、賢者が語った。


ルルとセラの手助けもあり、無事に荷物をまとめた賢者。


一息ついたタイミングで、ノアとパルテオンも部屋へと戻ってきた。


「さて!もう出発して問題ないよーっ! あとは……皆はもう大丈夫?」


「ワタクシ、スクロールでの転送経験など初めてゆえッ――

 とても興味を唆られますッ! ちなみにッ!!

 司書の業務ですがッ、半月ほどは休暇を頂きましたッ!」


「半月だな?了解だ。 で、だ。 俺ァ……死ぬほど嫌な予感がしてやがる。

 賢者さんよ、まさか“転送酔い”で“気絶”とかよぉ……

 んなこたぁねぇよな……? 俺ですら気持ち悪かったしよぉ……。」


パルテオンは乾いた笑いで賢者を見つめ「まさかな……」と眉を下げた。

が、セラはそっと首を左右に振り、一人だけ何かを悟り、項垂れた。


(ああ……パルテオンさん。 フラグです。 お疲れ様です……賢者様……。)


その後、バルタザールの準備も無事に終え、一同は出発に向けて、歩きだす。


転送する姿を見られない為の対策を取らなければならず――

念の為に全員で門を抜ける必要があったのだ。


だが、転送前に早速問題発生――賢者の彼は、想像以上の脆弱な体力。

歩いて三分ほどでバテる上、歩行速度もすこぶる遅い……否、遅すぎたのだ。


これでは大図書館すら抜けられないという、残念な有様。

肩で呼吸を繰り返し、聖女に背中をさすられる情けない姿を晒す賢者(バルタザール)


「さて!!早速困りました! どうするのっ!これ、僕たち、進めないよ!」


ノアは困ったように頬を膨らませ、眉を寄せ、がっくりと肩を下げる。


「んー。合理的に行くんじゃったらさ、もうバルちゃんさ、抱っこしてもらい?

 パルちゃんとかノアちゃんなら、楽勝っしょ。」


ジトっと視線をバルタザールに向けるルル。視線の先の賢者は――青ざめていた。

だが、有無を言わさない全員の視線に、賢者の尊厳は丁寧に破壊されていく。


ノアの荷物をパルテオンが持ち、手ぶらになったノアが、賢者を横抱きに。


賢者である彼は、顔を両手で覆い、肩を竦めさせ、勇者に運ばれるという――

一種の拷問のようなスタイルで、大図書館を闊歩する事となった。


「す、すっごく目立ちますね……私なら、恥ずかしさで……死んでしまいます。」


「んだな……こりゃぁ……あんまりにも……おう……。

 でもなぁ……賢者のヤロウ、体力が無ェどころの騒ぎじゃなぇしよ……。」


ノアは全くといっていい程気にしておらず、賢者を横抱きに抱え、進んでいく。


しかしながら勇者が賢者を横抱きにするという異常事態だ。

人々の視線は彼らに釘付けで、大図書館内部ですら、注目の的。


ヒソヒソと噂話の的になる彼らだったが、どうしようにも無かった。


やがて街を抜け、門を抜け、ようやく人目のつかない場所まで辿り着き――

街の喧騒が聞こえなくなるような距離へと到達し、賢者(バルタザール)を地面へと下ろすノア。


ルルが懐から羊皮紙を取り出し「準備はー?」と全員に声を掛ける。


「大丈夫だ、問題ない。」と騎士(パルテオン)が軽鎧を叩き、ノアはただ頷く。

賢者(バルタザール)は――無言で顔を下げるが、問題は無いのか、小さく「はい…」と答えた。


セラは胸の前で指を組み「ふう」と一息着き、転送前の準備。


「はい、私も大丈夫です。 ルルちゃん、お願いします。」


セラの声を合図に、ルルが指に火を灯し、スクロールに火をくべる。

点火された羊皮紙は、たちまち灰となり周囲に漂い、眩しい光が一同を包んだ。


勇者たちの身体は宙を漂い、不快な浮遊感が身体を襲い――

一瞬のうちに交易都市(ヴァルメリア)の土地へと、転送されていった。


◇ ◇ ◇


交易都市(ヴァルメリア)の小高い丘に聳える白亜の屋敷――ニヴェイシア邸宅。

かの幽玄の白雪(ニヴェイシア)が根城にしている屋敷の朝は、とにかく早い。


寝起きと共に、一息つき、顔を叩き気合を入れ、身体を慣らす。

黒と白に彩られた、整然とした女中服を整え、袖に手を通し――


身だしなみを整え、もう一人の女中の部屋へと向かうリリア。


「アイリス姉さーん、もう起床のお時間ですよー?ほらほらー!

 起きてくださーい! 起きないと、また旦那様からのお小言が煩いですよっ!」


そう言いながら、女中の一人であるリリアは、躊躇いなく布団をめくる。

アイリス姉さん――そう呼ばれた人物は【加護(ギフト)】の影響で寝起きがすこぶる悪い。


部屋着姿で「もうですか……」と呟き、眠気眼をこすり、無理に身体を動かす。

長い丈の女中衣装を身に纏い、髪を結い、キャップを被り、身だしなみを整える。


そうして身支度を終えた後、ニヴェイシア家の使用人全員が集結した。

中規模の部屋へと集うが、全員といっても、少人数だ。


ニヴェイシア子爵の従者兼、使用人長である、完璧超人・老執事エルドリック。

彼の【加護(ギフト)】はかなり珍しいものらしい。しかし、その全貌を知るものは――

この屋敷の主以外おらず、エルドリックと言う人物は、謎が多い。


メイドのリリア、アイリスの二名……彼女らは姉妹だ。

ニヴェイシアの屋敷に雇われたのは割と最近で、所謂新参者。


リリアは珍しい【加護(ギフト)】を所持しており、対象的に(アイリス)は俗に言う“ハズレ枠”


そして、庭師のシリル。料理番のカミル――計五人で屋敷の切り盛りをしていた。

正直五人では骨が折れるが、それを補って余りあるほど、使用人長は優秀なのだ。


彼ら彼女らにとって、五人で切り盛りするというのは日常に過ぎない。

ゆえに、誰一人として気にせず、日々を過ごしているのだ。


使用人長・エルドリックはいつも通りの口調で、全員に短く伝える。


「では……皆様。 いつもと同じように……

 何か変則的な事態がございましたら、私めまでご報告を。」


皆が静かに頷くと、それぞれの持場へと、颯爽と散っていった。


メイドのアイリスの業務は、掃除や洗濯の他に、来客対応なども含まれる。

掃除のため、各部屋を回っていたが――その道中、屋敷の主とすれ違った。


彼は毎度、なにかしらの軽口を叩く。故にアイリスにとっては正直疎ましい。


「今日はちゃぁんと、起きてお仕事してるネェー?

 アイリス~? 偉いえらーい ヒヒッ!」


「おはようございます旦那様。 本日も大変、お顔が麗しゅう。

 お顔が輝きすぎて、視力が下がりそうでございます。」


皮肉は皮肉で返すもの。それは、屋敷に連れられて以来、身につけた知恵。

当主の彼は、残念な事に皮肉には慣れている為、いつもの胡散臭い笑顔のまま。


「でっしょぉ? キミたち姉妹は、気にならないみたいだケド……。

 キミたちのご主人様ってば、外じゃとーってもモテモテなんだヨ? ヒヒッ!

 あの“幽玄の白雪(ニヴェイシア)”に仕えてるって、名誉だしー? 自慢しても良いヨ?」


アメトリクスという男――この男は、アイリスたちとは違う種族だ。

人間とは異なる種族で、俗に言う“魔族”と言われる血が半分の半魔族。


彼の言葉とおり、確かに容姿は整っており、線が細く、儚くも美しい姿。

嫌に人目を引き、実際に彼へアプローチをする貴族の婦人は多いと聞く。


この屋敷の主は、自身の美麗さを武器に、いつでも胡散臭い微笑を浮かべている。


だが、アイリスの瞳に映る姿は――笑顔の裏に本性を隠した孤独な青年。


溜息を吐き出し、さっさと業務に戻ろうとするアイリス。

そんな彼女に対し、屋敷の主は、にこやかな笑顔で歩みを寄せる。


あまりにも“気持ち悪いほどに完璧な笑顔”の主人の顔に、眉を下げるアイリス。

彼に仕えてまだ数年程だが、なんとなくの勘で、面倒事だと悟った。


しかし無視するわけにも行かず、話しを聞いてみれば案の定――

『香水の開発について、意見が欲しい』という、仕事と無縁の相談事。


深々と溜息を吐き出し、仕方なく彼に付き合う。


アイリスの【加護(ギフト)】は【超睡眠(ロング・スリーパー)】というもので、どういった【加護(ギフト)】か――

説明するまでもなく、人より多くの睡眠を必要とするもの。


故に彼女自身、自身に与えられた【加護(ギフト)】は“ハズレ枠”と認識していた。


加護(ギフト)】の影響も相まって、彼女にとって時間は貴重極まるのだ。


そして開発した香水に関する意見などという、至極どうでも良い事柄の相談。


何が彼をそうまでさせているか、アイリスには理解できないが――

アメトリクスという男は、極度の綺麗好きで、毎朝の入浴も欠かさない。


匂いにも細心の注意を払い、その執着ぶりは、異常だと思える程。


彼の異常と思える行動でも“お願い事”に付き合うのには理由があった。

それは――こういった“お願い事”に付き合えば、その分給金が弾む。


掌の上で転がされているようにも感じるアイリスだったが……。


だが、あえてそれを口にするような事は、無い。

と言うよりは、口にする程でも無いものだと、アイリスは割り切っていた。


香水や香油の調剤や調合は、主に薬草園にて行われる。


屋敷の見回りも兼ね、道中は部屋を転々と見て回るが、その途中――

立ち寄った調理場で、芳しい香りがふわりと漂う。


調理場を任されているカミルが、何かしらの食事準備をしているのだろう。

アイリスとアメトリクスは互いに顔を見合わせ、調理場へ侵入。


匂いだけは大層良いのだが、彼が作る料理の味付けは、個性的が過ぎた。

カミルという男は、味覚が少々、終わっている節がある。


故に、味見をしなければ、毎度大変な目に合う。

屋敷の主は、鍋で煮込まれている野菜のスープを味見するが「ヴェ。」と一言。


「チョット味が濃い。 具体的に指摘するなら――超しょっぱい。

 コレ、どこの人向けの料理カナ? キミ含めた全員、塩分過多になっちゃう。」


「すんません旦那さん! 俺、前超汗流す仕事してたもんで!!

 だから俺、自分じゃ塩味の濃さが分かんないんすよ!!」


――それは、完全に彼の言い訳。彼は、酸いも甘いも何かしらズレている。


だが、そんな事を今更指摘しても仕方がないというもの。


あえて口に出すことはなく、アイリスは深々と溜息を吐き出し、袖をまくる。

屋敷の主と共に、手早く味を直し整え、整えた後に部屋を足早に去る。


急ぎ足で薬草園へと向かうが、中庭の道中、魔法を使用し水やりを行う人影。

庭師兼、警備係のシリルが、庭園の手入れの為、魔法を使っていた。


この屋敷の従業員は全員知っているが、シリルは“魔力持ち”なのだ。


水やりに夢中になっていた彼だったが、視線は自然に二人へと向かう。

彼は気がつくと、明るい笑顔で手を振り、屋敷の主とアイリスに駆け寄った。


「アイリスさん!さっきぶりっす! 旦那様とご一緒ですか?

 珍しいっすね! 庭園にご用事すか?」


「やあシリルー。 今日も元気で良いネ。 香水の試作品を見て欲しくてネ。

 こういうのってサー、女性に聞いたほうが良いデショ?」


シリルの質問に対し、屋敷の主は軽い口調で腕を広げ、微笑を浮かべる。

庭師の彼は「納得っす!」とだけ返し、庭園へと戻っていった。


そうして、ようやく薬草園へと入室を果たすことができた二人。

調剤室へと足を踏み入れ、早速、調合したという試作品を確認。


香水の瓶を開け、一滴ほど紙片へ落とし、アイリスが香りを確認。


アメトリクスが調合する香水は、心を落ち着かせる物が多い。

何故か彼は、落ち着かせる匂いの物を作る傾向にある。


恐らく彼なりに、胡散臭さを軽減させる為の足掻きなのだろう。


「そうですね。 今回はまた……趣旨が以前と違うように感じます。

 これは……どういった感情を引き出させる為に作られたのですか?」


「少しだけ薔薇の香りを立たせ、この鼻につく柑橘系の香りを抑え――

 あとは……花?でしょうか。 どのような花が使われているか分かりません。

 ですので、なんともいえません。」


屋敷の主は、そう言われる事を分かっていたのか、実物の材料を並べていく。

大輪の薔薇、柑橘の果実、くるんと巻いた花弁が特徴の黄色い花。


「主な材料はブラディアローズ、シトリス、それとこれ……イライラン。

 配分率は――で、今回は薔薇とこの黄色い花が主軸だネ。 どお?」


それぞれの匂いを改めて確認し、奇譚のない意見を伝えるアイリス。

当主の彼は、満足そうな微笑を湛え、アイリスに感謝を伝える。


その微笑は、胡散臭さの抜けた優しい微笑――思わず、目を見開くアイリス。


「キミみたいな真っ直ぐな意見をくれるヒト、僕は好意的に思うヨ。

 付き合わせてゴメンネー? アリガトー。 ゆっくり休んでネ?」


彼はそれだけ伝えると、アイリスの眼の前に広がる景色は、瞬時に変る。

気がつけばそこは、使用人の休憩室だった。


屋敷の主は、自身の固有能力である“転移系”魔術を行使し――

時折こうして、転送で強制的に休憩を促されることがある。


アイリスは主人から許された、つかの間の暇を満喫する為、息をつく。

机に整然と並べられた茶菓子と、冷めたティーポットに手を伸ばす。


すると扉が開かれ、休憩室に、何も知らない妹のリリアから声が掛かった。


「あれ? アイリス姉さんっ! お仕事は? 休憩ですか?」


妹リリアに事の経緯を簡単に説明し、二人分の茶を用意するアイリス。

やがてリリアは納得した表情を浮かべた。


「なるほどっ……! だったら、姉さんと一緒に休憩だねっ!」


メイドの姉妹は穏やかに、二人でかけがえのない時間を過ごすのだった。


――使用人たちは、勇者たちの帰還を、まだ知らない。






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