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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
三章:世界と魔族と人間。
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その【啓示】は神のものではなく。



硬い寝台で過ごした翌朝。

一同は身支度を整え、早朝から中央の大図書館へと足を運んでいた。


「わ、私、もう駄目かもしれません。 ニヴェイシア邸のベッドが恋しくて――

 昨晩も良く眠ることができず……っは! まさか、これは閣下の策略……?」


「わかっけど、多分違ーぞそれ。 でも分かる……朝食美味かったしねー。

 布団はふっかふかだし、至れり尽くせりじゃったもんねー?

 あたし、もうあのお屋敷に戻りてーもん」


女性たち二人の会話に、男性陣は苦笑を零し、大図書館へと向かう。

巨大な門を抜け、司書へと声を掛けるが、現在賢者は職務だそうだ。


禁書庫には居ないとの事で、仕方なく大図書館の一室を間借りする事に。

以前借りた学業部屋で、賢者を待つこととなった。


「ところで……バルタザールって一体何のお仕事をしてるのかな?

 禁書庫を任された司書さん……なんだよね?」


「僕、司書さんがどんなお仕事をしてるのかが分からなくって……」


ノアの疑問に、パルテオンとルルは答えることができず、二人して唸る。

そんな彼らに助け舟を出す形で、セラが口を開き、疑問に答えた。


「主に書物の在庫管理ですね。 学術都市の大図書館は――

 学生も在籍してらっしゃいますので、名簿の管理と確認もあると。

 そう、お聞きした覚えがあります。 すごく大変だと聞きましたっ……!」


“禁書庫の司書”の業務内容は知らなかったが“司書”の仕事なら分かると。

パルテオンがノアとルルの分からない組みに対し、補足し説明。


暫く司書の仕事の大変さについて語っていると、扉を鳴らす音が響く。

とても控えめに扉が鳴らされ、入室してきたのは【賢者】バルタザール。


彼は頬がこけ、目に濃い隈を携えており、とても不健康そうな見た目だった。


「朝のご挨拶を申し上げッ……皆々様ッ……殊の外お早いご登場でッ……。」


メガネを押し上げ、学者のような仕草で腰を掛けるが、驚くほどに張りがない。

一体何事か?と、皆が目を丸くするが、賢者は何処吹く風といった様子。


「ワ、ワタクシッ……司書の業務外にも仕事を抱えておりましてッ……。

 研究論文や、自然災害の年表を纏めるような仕事を兼任しておりッ……。

 あらためて各国で起こった災害録を纏めッ――昨晩は徹夜をッ、ヌゥ。」


賢者は青白い顔で懐から小瓶を取り出すと、それを一気に煽った。

ゴクゴクと喉を鳴らし飲み込み、すぐさまにシャッキリとした顔つきに。


(この間、市場でみたあの怪しすぎるお薬ではありませんか……。)

(まさか、ご自身で飲まれているだなんて……)


セラの脳内では例の謳い文句が脳内を支配していた。


「――ええ、ではッ! 昨日は時間が無かったゆえ、話し合いが不可能ッ!

 ですので、本日に持ち込んだと言う訳ですがッ! 先ず確認をッ――

 勇者ノア殿ッ!聖女セラフィーナ殿ッ! 魔道具の修理の依頼はッ?」


「その事なんだけどね、修理の完了は、明日頃になるって。

 それと、セラに見てほしくってさ! 昨日探し回って見つけた物で……

 えーっと、安眠とか快眠の指輪型の魔道具?だって!」


ノアは言いながら、革袋から箱に丁寧に入れられた指輪を取り出した。

机にぽんと、箱から取り出した指輪を見せ、セラを朗らかな微笑で見つめる。


「セラの瞳の色と、ルルの瞳の色の宝石が可愛らしくって!ほらっ!

 効果も、セラには丁度良いかな?って思ったんだぁっ!」


ノアは、知らなかった――煌陽国では、男性から女性に指輪を送る行為。

それは“あなたの事をもっと知りたい”“親密になりたい”という暗喩。

この場で意味を理解しているのは、騎士、聖女、賢者の三人。


彼ら三人は、それぞれ違った色の目でノアの顔を見つめていた。

ルルとノアの二人は、勿論意味を理解しておらず、二人で顔を見合わせる。


何故目の前の三人は、これほどまで、怪訝な目を向けているのか?と。

疑問符を浮かべている様子で、実にあっけらかんとしていた。


「き、気を遣わせてしまいまして……ごめんなさい、ノア。

 その、あ、有難うございますね……? えっと、これは私に……?」


問われたノアは、あまりに輝く笑顔でセラの手を取り――


挿絵(By みてみん)


とても自然な流れで指輪をセラの指に嵌め、朗らかな笑みを向ける。


「セラにもっとちゃんと眠ってほしくって買ったものだからっ!

 ほら!とっても似合ってる! ふふっ! ちゃんと眠るんだよー?」


唐突の出来事に、セラの思考は追いつかず、引きつった笑みを返した。

やっと出てきた言葉は、小さくか細い「あ、ありがとう。」と、一言のみ。


気を取り直しセラは目を瞑り、呼吸を落ち着かせると、自身の鞄を漁る。

昨日の市場で、格安で譲ってもらった狐面を机に置いた。


白地に、濃い赤紫色の模様が走る、愛嬌が多少感じられる神秘的な狐面。


「私はこれを。 昨日格安でお譲り頂いたものなのですが……。

 店主様曰く、神子がどうのと……。 あと北方の国で造られたとも……!

 不思議な魅力を感じて、是非賢者様に見ていただきたくて――」


セラの購入した狐面に、賢者は興奮の面持ちで、食い入るように見つめる。


慎重に両手で狐面を持ち上げ、メガネをギラつかせ、唐突に声を上げた。


「こ、コレはッ!! この細かな模様――独特の形状ッ!

 動物を模した面ッ!! 間違い、有りませぬッ! これはッ――」


「かの北の大山脈――ラメルノートを越えた先ッ!! 幻の国と名高いッ!

 ハクレン国の工芸品でありましょうッ!! なんとッ!!

 かの北の国の品物は流通があまりされないのデスッ!!!」


賢者は「おおッ!」と興奮した様子で、狐面を気持ちの悪い手つきで触れる。

その迫力と圧力に、狐面の方がびくりと震えるようにも見える程。


あまりにも煩い賢者に、その場に居た全員が賢者から距離を取った。


「あのッ!興奮しているところ申し訳ないのですが!

 賢者様はその国についてご存知ではありませんか?」


語気を強め、賢者へと質問を投げるセラだったが、賢者は肩を竦めた。

申し訳なさそうに縮み上がり、弱々しい声でセラへと返答を返す。


「スミマセヌッ……かの国の記録は秘匿されておりましてッ……!

 ワタクシも知るところでは有りませぬっ……お役に立てず……。

 誠――誠謝罪の極みでッ!!」


賢者は机の上に膝を乗せ、身を机に投げ出さんとする勢いだった。

土下座でもするような気迫に、ルルが慌てて止めに入る。


「ばきゃろうー、机の上に乗っちゃ駄目じゃろ? はしたねーぞ賢者ちゃんよ。

 ほれみんさい。 皆賢者ちゃんに大注目しとるよー?」


ルルの言葉に賢者は「ハッ!」と顔を上げ、乗せていた膝を戻す。

軽く咳払いをした後、恥ずかしそうに大人しく椅子に腰を下ろした。


落ち着いた賢者を尻目に、ルルが安堵の息を洩らし、言葉を続けた。


「んじゃお次はあたし。 短杖(ワンド)じゃけど、無事に頼めたぜー?

 んで、制作にちょい時間かかるみたいで、三、四日後くらいに――

 また来いって話なんよ。 それまでこっから動けん。 めんごー」


その時、セラの脳内に突如として流れてきた映像。


……それは魔法少女のワンドを、可愛らしく振りかざすルルの姿。


無表情で、フリルたっぷりの際どい衣装に身を包み、強大な敵と戦う彼女の姿。


(???? ……?????)

(どういう事なのですかっ!? これは……神の啓示!?そうなんですね!)


「新しい短杖(ワンド)、とても楽しみですね……! どんな物が出来上がるのか……。

 私、とーっても興味があります……っ!」


そして、全員の視線は騎士へと注がれのだが、彼はどこか気まずそうだった。

珍しく筋肉を縮こませ、こころなしか、若干身体が小さくなったような――

そんな錯覚さえ覚えるような騎士の姿に、一同は首をひねる。


「わ、ワリィ……俺はその、いろいろ探した後、肉を……ずっと探しててよ。

 特になんもねぇんだ……。」


そんな事だろうと肩を落とす勇者一同。何も分かっていない賢者。


その後、ルルが散歩をしたいとの事で断りを入れ、部屋を後に。

ルルが部屋から出ていき、セラも教会と神殿に顔を出しに行くと言い――


部屋の中から華やかさが消え、残されたのは男ばかり三人。

三人で顔を見合わせるが、ノアが「ふう」と一息付き、語りかけた。


「さてっ! 僕たちはどうしよっか? 本当は色々と調べたいんだけど――

 僕は文字が読めないからね……あはは。」


「この大図書館って学び舎もあるんだろ? ならよ……。

 聞き込みとかしたら良いんじゃねえか? って思ったけど……ウーム。

 んな事、賢者がもうやってるだろうしなぁ。 普通に駄弁るんじゃダメか?」


「こうしてワタクシたちだけになるのも、中々訪れない機会ッ!

 この賢者バルタザールめがッ!何か疑問があれば、お答え致しましょうッ!」


そういった賢者は、視線を鞄へと向け、やがて鞄を漁りランタンを取り出した。

以前使用した、防音、遮音の効果がある魔道具のそれ。


賢者がおもむろにつまみを回すと、周囲に緑色の光の膜が広がった。


「これで周囲に音が漏れる心配は有りませぬぞッ!

 聞きにくい事、何でも仰って下さいませッ!!」


すると、パルテオンが唐突に真剣な眼差しをノアへと向けた。

やけに声を低くし、大真面目に、勇者の彼に対して疑問を投げる。


「なぁ、ノア。 ぶっちゃけた話すんだけどよ……セラの事、どう思ってんだ?」


騎士の落とした言葉に、賢者は椅子から転げ落ちそうになっていた。

ずり落ちそうになる身体を起こし、体勢を整えた後、軽い咳払い。


ゆったりすぎる動作の後、視線を騎士と勇者へと向け、勇者の言葉を待つ。


ノアはいつもの朗らかな明るい微笑で、首を傾げパルテオンの疑問に答えた。


「え?何が?セラの事? えーと、大事な仲間、だよ? それに――

 パルたちも同じ気持ちだよね? うーん……そうだね、しいていうなら……。

 セラはいつも何か抱えてて、僕たちに言わないから心配だなって……。」


パルテオンの期待していた返答とは違っていたらしく、ガックシと肩を落とす。

「お、おう。」と小さく唸り、続けてバルタザールへと熱い視線を注ぐ。


「じゃあよ、バルタザールはどうだ? 随分とルルに懐かれてねぇか……?

 ぶっちゃけよ、ルルの事どう思ってんだ?」


唐突に振られた話に、バルタザールの整えられた眼鏡がずれ落ちた。

頬を若干染め、手指をもじもじと組みながら、やたらと乙女ぶる賢者。


「どう思っているも何もッ! 気にかけて頂いているだけのように感じマスッ!

 それよりもデスッ! ワタクシ、ニヴェイシア子爵に興味がありましてッ!

 ワタクシも是非に――同行を願いたいのデスッ!」


強引に話しを逸らし、ノアに助けを求めるように視線を向ける賢者。

天然が爆発している勇者は、露骨な話題逸らしには気が付かない。


「良いねっ! バルタザールがきてくれたら、アメトさん何か喋るかも!

 凄いんだよバルタザール! アメトさんって……半魔さんなんだけどね――

 とっても良い身体で、手つきがすっごく良いんだ!」


「細身だけど筋肉の付き方も綺麗で、一緒にお風呂に入った時なんて……。

 僕、思わず見惚れちゃって! 沢山触らせてもらったんだっ!」


バルタザールは、彼は後悔していた。


何故なら、その様な話しを聞いても、どう返答を返せば良いのか――

彼の知識を以てしても、理解に及ぶことは無かったのだから。


賢者は騎士へと視線を向けるのだが、彼は、視線を逸らしていた。

話について行けなかったのか、はたまた別の理由があるのか、賢者には不明。


意味不明な勇者ノアの言葉に、二人はただ聞き流し続ける他無かった。





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