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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
五章:

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頁:58 その【依頼】調査につき。



 さすがは高級宿。

 早朝、スッキリした目覚めで起床することができた勇者一行。


 彼らは早々に身支度を整え、宿を後に――冒険者ギルドへと向かっていた。


「高級なだけあって、とってもいい睡眠がとれたねぇ!

 みんなはどうだったかな?僕はばっちり眠れたよぉっ!」


「あたしもめちゃ眠れた!また泊まりたいねぇー!」


 早朝という時間帯ではあったが、街はすでに活気づいた様子。

 ところどころ聞こえてくるのは、人々の話し声や荷物を運搬するような音――


 これから訪れるであろう不穏な空気など、微塵も感じさせない。


 清々しい気持ちで冒険者ギルドへと到着した勇者たち。


 受付嬢に促されるまま、廊下を進み、案内された一室。

 そこは――小会議室のような小部屋。


 扉を開けた先にはすでに一人の男性の姿。


 ソファに腰掛けていた男性は、勇者たちが入室すると同時、立ち上がった。

 深い紺色のジャケット。柔らかな微笑が印象的な人物だ。


 妙齢にも見える男性は、恭しい一礼で勇者たちに挨拶。


「お待ちしておりました、勇者一行の皆さま方。まずはお礼を――

 依頼を受注してくださいまして感謝いたします。」


「私は――『リュシアン・クロイツ』と申します。 以後、お見知りおきを。

 ヴァルメリアの議会と縁のある者でして……。」


 彼は自己紹介をほどほどに、勇者たちへ依頼の詳細を伝えていった。


 依頼は学術的な調査の一環のためであること。


 近頃、変種が見られるようになったこともあり――

 それゆえの依頼だということ。


 迷宮へと赴きたい理由は、あくまでも調査のため。


 戦闘はなるべく避けるが、それでも迷宮。何が起こるか分からない――

 そのため、万一に備え手練れの護衛を募集したとのことらしい。


 礼儀正しくとても落ち着いた声音ではあったが……どこか切迫したような。

 彼は瞳を細め、一息つき――再び勇者たちへ語りかけた。


「ご存知でらっしゃるかとは思いますが……交易都市近辺――

 この地域は気候も比較的穏やかで、魔物も大変大人しいです。」


「街の者たちも今は平和を謳歌しておりますが、ですが……。

 どうにも妙に感じてしまっておりまして。」


「胸の奥に拭えぬ不快感があり、迷宮になにか潜んでいるのでは?と。

 私の杞憂であれば幸いですが――……。」


 依頼主は不安そうに視線を泳がせており、言葉は重く沈んでいた。


「わかりました。

 あなたの不安を見過ごすわけにはいきません……っ!」


「僕たちが、あなたの調査を全力でお手伝いさせていただきます……!」


 ◇ ◇ ◇


 その後――簡単な打ち合わせをし、迷宮へは馬車で向かうこととなった。

 近隣とはいえど、交易都市(ヴァルメリア)から迷宮(ダンジョン)までは距離がある。


 早ければ数十分、遅ければ一時間ほど掛かる距離だと説明された。


「調査だけって話なんだよね?荷物……このくらいで足りるかな?」


「迷宮の規模にもよるだろ。たしかそんな大規模な迷宮じゃなかったはずだ。」


 かくして、依頼主の手配した馬車に乗り込み、迷宮へと向かった勇者たち。

 やや緊張が奔る馬車の中、響いてくるのは賢者の言葉。


『失礼ですが――ッ……皆様方。』


『どうか――ワタクシの預けた片眼鏡をかけてくださいませんかッ……!』


 何事かと話を聞いてみれば、どうやら片眼鏡は映像を届けるものだそうだ。

 装着者の視点の映像を、賢者の持っている魔道具へ伝えるといったもの。


 簡単な話し合いの末、片眼鏡はルルが装着することに。


 のどかな丘陵地帯を抜け――遠くに見えてくるのは小さな森と岩山。

 まるでぽっかりと空いた裂け目のような闇。


 その闇こそが、今回の目的地である迷宮(ダンジョン)・アビサルエロー。


「ほいじゃ賢者ちゃん……あたしがモノクルかけるけー。

 ちゃんと分析と解析、よろ。 なんか違和感あったらすぐ伝えてなー」


『お任せくださいッ……!』


 賢者の声はいつになく真剣な響き。彼の様相に皆の気持ちも引き締まる。

 迷宮の周辺はしんと静まり返っており、何が待ち受けているのか分からない。


 岩壁から吹き抜ける風で、ぞわりと総毛立つような感覚。


「ここがその――調査する迷宮……なんですよね……?どんな構造なの?」


「この迷宮は三層構造で、小規模の迷宮です。」


「数年に渡って調査をしてきましたが、これまで個体数、種類共に――

 大きな変化はありませんでした。 ただ……ここ最近のことなのです。」


「妙な個体が混ざるようになっておりましてね……。」


 妙な個体。その言葉に引っかかりを覚えたのは、勇者だけではない。

 そこにいる全員が不審に感じ、思わず口を挟み、質問を投げる聖女。


「――その妙な個体というのは、どのような個体なのでしょうか……?」


「ああ……顔に穴のようなものが……異様な姿の魔物がちらほらと。

 私とて様々な魔物を見てきましたが……あれには背すじが凍りました。」


 勇者と騎士が視線を配り、小さく頷きあった。


「リュシアンさん。ひとつ伺わせてください。

 黒い靄みたいなのを纏った……黒い石を見たことはありませんか?」


 真剣な面持ちでリュシアンへと問いを投げるが、彼は首を横に振るだけ。

 短く『いいえ。』と答えると――少しだけ思考した表情を見せた。


「少なくとも私の記録や報告書などには、そのような石の情報は……。」


「そう、ですか……わかりました……。 突然すみません。」


 眉間に皺をよせ――考え込んでいる様子の勇者。彼の瞳には不安が宿る。


「とりまさー?こんなとこで尻込みしとってもじゃん?入ってみんと分からんし。

 百聞は一見にしかずーってやつ……じゃろ?」


 小人族の言葉を受け、一歩を踏み出した勇者。


 こうして、リュシアンを連れ、昏い迷宮へと足を踏み入れたのだった。





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