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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
五章:交易都市へ。

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頁:56 その【組合】粗野につき。◆挿絵有り



 夕暮れ時の冒険者ギルド――時間帯も相まって、ギルド内部は喧騒に溢れる。

 カウンターの前には人だかりがあり、そんな人の行列を捌く受付嬢たち。


 慌ただしく応対をしており、誰一人勇者たちに視線を向けない。


 依頼を張り出した依頼板(クエストボード)にはびっしりと依頼の札。

 まさに金と危険の楽園といった活気づいた光景。


挿絵(By みてみん)


 勇者と聖女の二人は国から発行された身分証であっさり通された。

 勇者は依頼板の側へ、聖女は手持ち無沙汰に――


 パルテオンは以前冒険者業をやっていたようだが……。

 しかしなにやら再登録が必要なようで、彼は受付から説明を受けている。


 全員が各々で行動をするのだが、ルルだけは違った。

 彼女はどうやら初期登録が必要なようで、立ち尽くし困っている様子。


『ルルちゃん、どうなさったのですか?登録から……ですか?』


『あーうん……そうなんじゃけど、あたし魔力持ちじゃけぇさ……。

 それでちょい困っとって……あとあたしこっちの国の文字知らんし。』


(なるほど、それで登録に躊躇して呆然と立ち尽くしていたのですね……?)


 不安そうにしているルルの様子に、なにかを察した受付嬢。

 そっとルルの側まで行くと、受付嬢は小声で記入事項や必要事項――

 それと、魔力持ちの冒険者は、この国に数は多くなけれどいるのだと語った。


『人間以外の種族の方も冒険者登録されることは珍しくないですよっ?

 恐らく――小人族の方ですね?安心してくださいませっ!』


 機転を利かせた受付嬢とセラの手伝いもあり――ルルも無事に冒険者デビュー。


「ちぇー……っ。 あたし『アメソリソコ』って名前で登録したかったんに。

 まさか“偽名はだめ”って言われるって思っとらんかったわー……。」


「アメソリソコって……この間のパルテオンさんの言い間違いですよね……?

 ルルちゃんのユーモアセンスがたまに分からないです……。」



 二人が手続きをしている間……男たち二人の様子。

 彼らは依頼板とにらめっこをしているのだが、彼らが凝視するのも納得。


 木の板に張り出された様々な依頼――その様相は圧巻そのもの。


「みてみてっ! こんなに沢山の依頼!すっごいねぇ!」


「困り事だけじゃなくって、お手伝いの依頼とかもあるみたい?なんだって!

 ほら……これとかみて!畑の管理のお手伝い!僕なら力になれそうっ!」


「んだなぁ、すっげぇ依頼の量で俺ァ目が回りそうだが――

 ん?てかまて……なんかおかしくねぇか?大半が手伝いな気が……。」


 好奇心旺盛の彼らは依頼板に釘付け。彼らはまるではしゃぐ子ども。


「ノア、パルテオンさん。 ルルちゃんの冒険者登録も終わりました。」


「ちょりーす。さてさて――どんな依頼があたしらを待っとるんー?」


 彼らが夢中になっている依頼板へと目を向けてみたセラとルル。



――[捜索・交易都市〈ヴァルメリア〉迷子のペットを探して下さい!]

――[採取・都市近郊〈都市近郊の平原〉草を取ってきて。 薬になるやつ。]

――[探索・迷宮〈アビサルエロー〉パーティーメンバー募集中!]

――[管理手伝い〈農耕地帯〉熟練の農夫を探している。 至急協力を求む。]

――[調査・地下用水路〈旧都市の地下〉夜な夜な聞こえる『歌声』の正体。]

――[依頼・捜索〈近辺の林付近〉行方不明者多数、調査依頼。]

――[討伐・都市街道〈街道沿いの廃屋〉やばい鼠がおる。 助けて。]



 皆でまじまじと依頼板を見つめてみるが……騎士の言っていた通り違和感。


 冒険者ギルドといえば『討伐依頼』が定石だと思っていた全員だが――

 討伐依頼の札は少なく、訝しむような視線で一つ一つ確認していく。


(聖剣さんに解読してもらってて確認が遅いのは言わないほうが良いかな……?)

「うーん……簡単な文字しか読めなくって分からなくって……」


「いやよ……討伐依頼がすげぇすくねぇんだ。どうなってんだ?」


 全員で『なぜだろう?』と唸っていると、隣にいた冒険者が声をかけた。


「それなぁッ!あんたら勇者一行様だろ?余計に気になるよなぁーッ?

 交易都市近郊の魔物は大人しいヤツばっかりでな?生態系の均衡を保つ?」


「そういう名目で乱獲禁止ってわけなんさッ!なーんか見た目が悪ィヤツ?

 気味が悪い顔した魔物も沸いてるつー話だが、人を襲ったりしねぇしなぁ。」


「特に困ってるわけでもねぇし、放置してるってことなんだぜーッ!」


 親指で鼻をこすり『へへッ』と笑う中年の男性。

 すると、彼らのやり取りを聞いていた別の冒険者が口を挟んだ。


「この辺りじゃ凶暴な魔物がおらんからなぁ……もちろんたまには出るぜ?

 まぁでも、討伐依頼が出るほうが珍しいってもんよ。」


「俺らも身体が鈍っちまうし、討伐依頼もうちょい欲しいとこだけどなー

 それだけ平和ってこったし、それにこしたこたぁねぇけどなー」


 平和……言葉だけ聞けば確かにどれだけよいことだろうか。

 が――全員の頭にすっと入ってきた共通の言葉は『気味の悪い顔の魔物』


 四人は顔を見合わせ小さく頷き、語りかけてきた冒険者たちに感謝を伝えた。


 勇者一行待遇とのことで、彼らはどの依頼でも受注可能。

 そのため、全員で食い入るように依頼板を凝視。


 最も高額な報酬が提示されているのは、調査依頼。


[調査・迷宮〈アビサルエロー〉への同行依頼]


 依頼主は由緒正しき貴族らしく、調査も兼ね探索をするための護衛を募集――

 しかし条件が厳しく、誰も手を付けていないようだ。


「どうしましょうか?一番高額の依頼はこちらですが……?」


「決まってんだろッ!一番稼げるコレだッ!コレしか――ねぇだろッ!

 宿……いや……俺の飯のためにも……ッ!」


「そうじゃそうじゃ!お宿の代金も回収!んでもって折角の勇者待遇!!

 職権乱用じゃー!勇者の威光を示すんじゃー!世知辛いんじゃーー!」


 意見はあっという間にまとまってしまい――

 というより、騎士と小人族の二人がゴリ押し。


 結局は報酬の多さに根負けし、ノアが一行を代表しカウンターへ。


「あの……こちらの依頼を受けたいのですが――」


 受付嬢は慣れた手つきでノアから札を受け取り――無事受領。

 しかし後日依頼主との面談があるそうで、それまで待って欲しいとのこと。


 一旦は宿へ戻ることとなり、予約していた宿へと向かう一行。

 道中で道端の小石を蹴り飛ばし、無表情で愚痴を零すルル。


「勇者っていっても、なんでも許されるわけじゃないんじゃね……。」


「そんなことがまかり通ってしまえば――勇者の名前が泣きますよ……?」


「あ、あはは……まぁでも――こういうのもいいじゃないっ!ね……?」


 苦笑いを浮かべ――どうにか言葉を返すが、勇者の表情は微妙なもの。

 腰に下げられたポーチを叩き、金銭事情に絶望し嘆息を洩らす彼。


 勇者とて、いつでも優遇されるわけではない。

 お財布事情という逃れられない厳しくも悲しい現実。



 金欠の勇者一行の足取りは、どこか……重かった。





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