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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
三章:世界と魔族と人間。
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その【大食】肉の宴につき。



禁書庫へと戻ってきた二番手は、聖女であるセラフィーナ。

彼女は昨日訪れた賢者の私室まで来ると、控えめなノックをし、扉を開けた。


何やら物凄い――否、凄惨な光景が広がっており、思わず目を見開く。


彼女の眼の前に広がっていた光景は、賢者バルタザールが、倒れていた。


倒れていただけなら、まだ良かった。


問題は彼の顔が、まるで茹で上げられた蛸のような赤さだという事。

その側では、彼を必死に介抱するルルの姿があるのだが――


彼女の手に握られている手巾には、大量の血液。

一体なんの惨状なのかと、思わず一歩後ろへと下がるセラ。


「えっと。 これは一体…?殺人現場でしょうか…?」


セラは怪訝な表情ではあったが、賢者の元へ寄り《治癒の祈り(サナティオ)》を祈る。

癒しの光が賢者を包むが、彼の顔は依然として真っ赤。


「おーめんごめんご。 いやーさ……賢者ちゃんにさ?

 一緒にお風呂入ろーって、誘ったらこうなったんよ。」


「一緒に……お風呂に……はいろう……? ですか……?」


セラは事態が飲み込めず、思わずルルの言葉を復唱。

目をぱちくりと数回瞬きさせ、やがて、なんの想像をしたのやら……。


転がるバルタザールと同じく、顔を赤へと染め上げる。


「ルルちゃんの胆力は、私の想像を軽く超えちゃって……!」


「聖女殿ッ!!!ワタクシもッッ!!

 ワタクシも、まったくの同意見でございますッッ!!!」


鼻に手巾を当て、賢者バルタザールが大げさに頷く。

しかし当事者のルルはどこ吹く風だ。


いつも通りの無表情で、なにげなくぽつりと、二人に爆弾を落とした。


「んー、あたしら小人族ってさー、寿命がせいぜい四十年とか?

 長くて六十年とか?くらいなんよねー。」

 

「んだからよー、感覚がもしかしたらだけど――

 賢者ちゃんやセラちゃんたちと、ずれとんかなって。

 あたしにはその“恥ずかしい”ってのが分からんのよね。」


ルルの落とした言葉は、二人にとっては重く感じる物だった。

部屋の空気は、一瞬で張り詰め、ぴしゃりと凍りつく。


セラとバルタザールは、互いに口を閉ざしルルから視線を逸らした。

空気を察したルルは瞳を細め、気まずそうに二人に対して声を落とす。


「わりー、今の話って、重い話のつもりじゃねーんよ?

 寿命なんてそんなモンしょ? ちな、あたしらの故郷にはもっと短命おるし」


「妖精族ちゅー種族とか、五年そこいらだぜー?

 短命は儚いっつー考え方ってさー…なーんか人族って感じするわー。」


二人にはルルの軽口すら、強がっているのではないかと感じさせた。

バルタザールは立ち上がり、ドンと床を鳴らし――大声で高らかに宣言。


「解りましたぞ――ッッ!!! ルル嬢ッ!!!

 ワタクシ、あなたに介助して頂きながらでもッッ!!!

 例え、どんな困難が待ち受けようともッッ!!!

 共に、風呂に入ってみせましょうぞッッ――!!」


だが、その瞬間だった。賢者の顔は鮮烈な赤色へ染まり――


「ふんぬぅぅぅッッ!!!」


自身の情熱に耐えきれず、彼はどさり、と力なく倒れ込んでしまった。


ジト目で見つめるセラとルル――

彼女らは協力し、なんとかバルタザールを寝台まで運んだ。


「バ、バルタザール様…! お気持ちは分かりますがっ…!

 せ、せめてベッドで横に…!!」


「あ、あたしのせいじゃないよね…? これ…。」


◇ ◇ ◇


そんな三人の元に、三番目に部屋に現れたのは、騎士・パルテオン。


豪胆で豪快な戦士のような彼。その両手に抱えられたのは――

信じられないほどの大量の食料。


否、支援物資といっても過言ではないほどの“肉”を積載していた。

彼はドカドカと音を立てながら、大図書館を闊歩する。


禁書庫の司書の私室の扉をノックするでもなく、蹴破らん勢いで入室。


「ドラァッ! 賢者、メシだ! 大量に買い込んだ!これで元気を出せ!」


満面の笑み、両腕に積載されている大量の“肉”料理を携えドカリと登場。


賢者の部屋にある机に広げられた紙束を、ルルが咄嗟にどかす。

パルテオンはその小さな机に、次々と料理を置いていった。


が、しかし――いずれも肉・肉・肉。あまりに肉肉しい。


まずは、やたら肉厚な分厚いバンズに挟まれた巨大なハンバーガー。

片手では到底持ちきれない、やたらと太さがあるソーセージのホッドドッグ。

さらにハムが幾重にも重なった、やたらデカいサンドイッチ。

極め付きはというと、豪快過ぎるやたらと油でテカっている、巨大な骨付き肉。


よもや、戦場に投げ込まれた補給物資のような――

それ程までに凄まじい肉の香りに、思わず顔を引き攣らせる女性陣。


「お、おにく……お肉があまりにも、多すぎはしませんか…???」


「おうおう、すげーなこりゃ。

 豪勢ってより、豪快って感じすんじゃけど。 んでもってよー……

 それ、賢者ちゃん多分……一口食べたら倒れるぞ? しらんけど。」


その言葉に騎士はというと、肉料理に目を向け、キョトンとしている。


「な、なんだってーッ!!!

 賢者はこれ、食えねえのか!? じゃあ、俺が食うなッ!!!」


パルテオンはわざとらしいような、盛大なリアクションを見せた後――

“食うな”の“う”の部分で、彼はもう、食料に手をかけていた。


挿絵(By みてみん)


迷いなく食らいつき、あまりに豪胆に、豪快に、まるで猛獣が如く――

肉汁を滴らせながら「ガツガツ」と音を立てる。


そのあまりにもなザマは、下手な魔物より恐ろしかった。

彼女たちは心の中で、心底賢者が気絶していて良かったと、胸を撫で下ろす。


ルルの“浴室へのお誘い”はこの為にあったのだと。

間違いではなかったのだな、と……そう思わざるを得ないほどの光景。


仮に、賢者の意識があったならば――

きっとこの肉の宴に目を回し、即座に嘔吐していたに違いない。


ルルはジトりとした目を、肉汁を滴らせる騎士(パルテオン)へと向ける。

半ば呆れ半分に、ぽつりと吐き捨てた。


「――賢者ちゃんが起きとったら、まじで吐いとったじゃろうね……」


禁書庫の一角――

その片隅、賢者の私室では、ベッドでぐっすり眠るバルタザール。


その付近では、肉との決闘に勤しむ騎士の姿があった。





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