頁:55 その【一行】金欠につき。
市場の商店街を抜け、丘が見えるような場所へと歩き出した勇者たち。
屋敷の場所を確認するまでもなく、遠方に見えるのは白亜の邸宅。
「あれがニヴェイシア子爵さんのお屋敷だよね?」
「他に近くに屋敷っぽいのねーし、あれじゃろ?」
その後――
屋敷の場所も確認し、勇者たちは一旦宿を探そうということに。
――……が、宿を探して早数件。
どこも『本日は満室。』との回答で門前払いの勇者一行。
どの宿も回答は同じで、理由は『お祭りが近いから。』という理由。
門前払いの度、ノアの肩はどんどん下がり、心なしか表情も暗い。
「困ったねぇ……お祭りなら仕方がないんだけれど……。
どこのお宿も満室って……僕たちどうすればいいんだろう……。」
「とりあえずよ、根気よく探せば一軒くらいは見つかんだろ。」
そうして歩き回ること数時間。夕日が街を赤く染める頃合い。
十数件目にしてようやっと空き部屋を見つけたのだが――
「――た、たた……た……たっかいよ……???」
声を裏返し、嘆くように財布と全員の顔を見つめ項垂れる勇者。
提示された料金は、一泊一人当たり白銀貨一枚、それと銀貨が二枚。
財布をひっくり返し、残金の確認をしながら嘆く勇者。
「一泊一人当たり……えっと? この間までいた町での一泊が――
たしか、銀貨一枚と銅貨数枚。 だから……ええーーっと……??」
指折りで計算しているようだが、頭がこんがらがっているらしい。
誰が見ても、彼の頭の上には疑問符が浮かんでいるのが見て取れる。
困っている彼に対し、セラが彼の隣に向かい、小さな声で告げた。
「つまり一人当たり、一泊銀貨七枚です。 全員合わせると、そうですね。
金貨一枚……それと銀貨三枚ってことですね。 少なくとも――
前のお宿では四、五日ほど滞在出来るほどのお宿です……。」
小さな声のつもりだったが、全員の耳に届けられていたようだ。
パルテオンががっくりと項垂れ『かぁーッ……。』と天を仰ぐ。
「一流のお宿様ってこったなぁ……。 しっかしよ、全員分だろ?
連泊できたとして……精々二日分が限界じゃねぇか?」
いまいち貨幣価値を分かっていないルルだけは、平然としているが――
勇者一行の由々しき事態――『金欠』という場面に直面していた。
結構な大ピンチで、互いに顔を見合わせ困り果てる勇者一行。
「恐らく連泊は無理ですね、その前にパルテオンさんの食費で底をつきます。」
「ど、どうしよっ……!僕たちの旅が終わっちゃう……金欠だねぇ……。」
今にも泣き出しそうな表情で財布の中を必死に覗き込む勇者。
しかしそんなことで残金が増えるわけではない。
哀愁すら漂う彼の姿はよもや【勇者】ではなく、まるで“憂者”の佇まい。
暗い顔をする勇者に騎士から明るい言葉が投げられた。
「だったら、冒険者ギルドに顔を出してみねぇかっ!?」
「依頼を受けて達成すれば成功報酬をもらえて路銀を稼げるッ!
それにだ、ああいう場所には情報が集まるってもんだ!どうだッ!」
「俺にしてはなかなかの良案じゃねぇかッ!?それに俺たちには――
学術都市の迷宮で地道に拾ってきた戦利品があるッ!」
「ああー……あたしが拾っとったあの汚い布とか、スライムの玉とか?
それ売って――金にするってことじゃろ?」
騎士と小人族の言葉に『なるほど』と頷く勇者。
「冒険者ギルド――そういえば僕、行ったことがなかったよ……!」
「あの――冒険者組合って――私、冒険者登録をしておりませんが……?
それに星律教導の聖女って、冒険者登録、可能なのでしょうか?」
不安そうな表情で騎士へと尋ねる聖女だったが、彼の返答はシンプル。
「んなもん、現場に行けばどうにかなんだろッ!」
聖女以外の全員、興味津々といった様子。
結局――それ以上は何も言い出すことが出来ず口を閉ざしてしまった。
「それじゃっ!冒険者ギルド、行ってみようー! しゅっぱつしんこーっ!」
弾んだ声――進行方向を冒険者ギルドへと定め、歩き出した勇者一行。
勇者の言葉に『しんこー!』と小人族が復唱し、実に楽しそうだった。
西の空は茜色から群青色に溶けかけた時間帯。
宿探しには敗北。彼らを襲う『金欠』というのっぴきならない事情――
余裕がない彼らは、冒険者ギルドへ向かうしか選択肢が残されていない。
こうして彼らは――
吸い込まれるように冒険者ギルドの建物の中へ消えていった。




