その【小人】難解至極につき。
時は少し遡り――武器新調の為、鍛冶屋街へと赴いたルルの様子。
彼女は軽い足取りで、手頃な鍛冶屋を見つけ、扉を押し開け入店。
熱した鉄の香りがそこら中に漂う空間。金属独特の香りが鼻をつく。
店の奥では煌々とした火の明かりが確認でき、金槌で鉄を打ち付ける音が響く。
店内には人の気配は無く、恐らく店主は鍛冶場に居るであろうことが察せる。
ルルは店内をじろりと見回し、短杖を手に取り、魔力を流し込む。
しかし手に取った短杖は、どれもこれも魔力が伝わらない。
ガックリと肩を落とし、ぶつぶつと愚痴を零した。
「やっぱ作ってもらうっきゃないよねー…。 しゃーないんじゃけど…。」
一軒目に訪れた店は店主不在の為、とりあえず店を出る。
二軒目、三軒目と転々とするが、やはり目ぼしい短杖は無く項垂れる。
武器屋はそこそこあるが、そもそも杖が置いてある店が少なかったのだ。
歩き回り数軒回った後、疲れ果てた結果一軒目に逆戻りするしか無くなった。
絶望しながらも鍛冶場に向かい、声を上げてみるルル。
「ちわー、お邪魔しまー。 さっきも来たんじゃけど、店主さんおる?」
彼女が声を落としたと同時に、金槌を打ち鳴らす音が止み、声が返ってきた。
「邪魔すんねやったら帰れや~……って嘘やで嘘。 んで、なんの用や?」
特徴的な西の森の言葉遣いに、ふと懐かしさを覚えたルル。
瞳に光を灯し、店主が出てくるのを待った。
鍛冶場から出てきたのは、胸元まで伸びたヒゲを蓄えた、頑固そうな親父。
まさに“鍛冶屋”という言葉が似合いそうなドワーフ族。
「おっちゃん、もしかして西の森出身?えろー言葉遣いじゃねー?
あっちの方って言葉遣い独特じゃけー、同郷のもんじゃって分かるわー。
ひっさびさに、あっち出身のヒト見たわー。」
「武器作ってほしゅうて来たんじゃけどさ、やーたまげたわ。
同郷のモンに会えると思うとらんかったーぶちやばーー!」
いつも通りの無表情ではあったが、瞳は嬉しさからか輝きを帯びる。
「んなモン、こっちがびっくりやで~ なんや思たら……
人間のガキちゃうんかいな。 チビ、小人族やろ?」
「で? チビが何しに来たんや? 小人族ちゅうたら弓か?吹き矢か?
ワイに何作らせたいんや? こんなトコまで武器頼みに来るちゅう事は……
チビ助…なんか訳ありやろ? ちゃう?」
彼女は「違う違う」と返し、店主に短杖が欲しい理由を伝えた。
後に、自身が魔力持ちである事、すでに数軒程店を見て回った事。
だが、お目当ての代物は見つけられなかった事。
それゆえに、結局ここに戻ってきた事を、店主へと語った。
「……って事なんよ。 じゃけぇ、あたし魔力伝導率がええの探しとんよ。
長杖はあるんに、なんでか知らんけど短杖だけ無いんよ!
差別じゃ差別!短杖差別!!ぶーーー!」
「そらそうなるやろな~…こん国で魔力持ちちゅーたら、そうおらへんで?
魔力持ち向けの長杖あっても、短杖はあらへんやろ。」
ドワーフ族の店主は、店の奥へと姿を消したかと思えば、短杖を手に戻ってきた。
「ワイが作ったヤツでもコレだけしかあらへんしな。 んで?
チビ助はどないなんが欲しいん? 魔力の通りだけ重視するんやったら――
こっちの短杖でもええかもしらんけど、属性の相性とかあるやろ?」
店主は顎のヒゲをもじゃもじゃと指で遊び、ルルに尋ね、ルルはそれに答える。
身振り手振りで、あれやこれやと説明をし、それに頷き提案する店主。
「魔力の通り殺してもかまへんねやったら、この鉱石が芯やな。
んで~先っちょにこの錬金石組んだら威力出るで。魔力の通りやったら――
せやな…こっちの宝石仕込んだら、通り良ーなるで? 話ついてこれる?
中間地点選ぶんやったら…せやなぁ、値段も無難やしコレとコレやな。」
店主は机に金属や宝石、魔石を並べて熱く語り、ルルは真剣に傾聴。
同郷同士ということも有り、西の大森林の話題で大盛り上がり。
小人族とドワーフ。一見親子にも見える二人は、どこか愉しげに語り合った。
◇ ◇ ◇
その後――禁書庫の一室。
そこは賢者の為だけに用意された小部屋。簡素を極めた一室だ。
賢者の元へ一番手で戻ってきたのは、小人族の魔法使い・ルルリカ。
彼女の小さな手には紙袋が抱えられており、中身は街角の屋台で購入した物。
焼き立ての硬いパンに、野菜たっぷりのヘルシーなスープ。
病弱な賢者の為にと、彼女なりに考慮した食事。
彼女の足取りはこころなしか軽やかな足取りで、賢者の元へと駆け出す。
賢者の籠っているであろう、部屋の扉を軽く打ち鳴らして彼の元へ。
「ちょりーす。 調子はどんな? あれからしばらく経っとるけど。
ちゃんと寝たん? 薬はいらん感じ?」
賢者の彼は寝台に横たえるでもなく、何故か机に突っ伏し、睡眠を取っている。
本と紙束に囲まれたまま眠っており、彼の目の形状は見事な“3”――
起床したのか眉間に皺を寄せまくり、慌ててメガネを探す賢者。
ルルが彼のメガネを渡すと、賢者はぴしゃりと姿勢を正し、軽く咳払い。
「ルル嬢ッ! お早う御座いますッッ!」
「ワタクシ、司書としての業務を全うしていたのですがッ……!
どうにも変な時間に睡魔に襲われ……そのままくたばっていたようデスッ!」
ルルは「おっつー」と軽く返答を投げると、紙袋の中身を賢者に渡した。
「ほい。 賢者ちゃんってがっつり食わんじゃろ? じゃけ、野菜の汁物。
んで、あとパン。 これなら食が細くても食えるじゃろー?
んで今日は特別に、なーーんと――」
「このとっても可愛いルルリカちゃんが、賢者ちゃんに食わせちゃるぜっ!」
無表情であるはずの彼女。だが、どこか笑顔にも感じられるような弾んだ声。
しかし賢者の眉間には深い皺が刻まれ、困惑と疑念の表情。
喉を振動させ、若干慌てた仕草を見せると、なんとか言葉を絞った。
「ワ、ワタクシ流石に一人で食事はできますぞッ!
一体、どのような意図がありッ――」
「んだよー…お固い事いわんのー。んなもん、あたしの集落じゃったら――
当たり前の光景なんじゃけぇーさ? 文化交流ってやつだぜー」
「ほらほら、あーんってしろよあーん。 口開けんちゃい。 なー?
それとも、あたしみたいなチビがやるんじゃ不服なんー?
賢者ちゃんは、セラちゃんみたいんが好みなんかー? あーん?」
ルルはパンをちぎると、それをスープに浸し、賢者の口元へ押し付ける。
「女性の好みは分かりませぬッ…! なんせ機会が――」
言いかけるが、ルルはじっとりとした視線を賢者へと投げていた。
賢者は戦意喪失し、恐る恐る「あぁ…」と情けなく口を半開きに。
結局抵抗する暇も与えられず、されるがままに食事を強制。
もぐもぐと咀嚼をするが――彼のその顔は、かなり赤面していた。
眼鏡が曇る勢いの熱気を帯びているのだが、ルルは満足げ。
「お恥ずかしいッ! ワタクシ二十三にもなって食事の補助などッ……!」
「同い年じゃろ? 別にええじゃん。 細けー事気にすんなって。
んで、このパン美味くね? あたし、ぶちうめーって思って買うたんよ。
ほれほれ、どう? ちょーっとだけ甘くて、美味いじゃろ?」
賢者は咀嚼をしていたが、疑念に思ったことがあったのか、首を傾ける。
やがて食事を飲み下した後に、ルルに対し、自身の疑念を投げた。
「とても美味しいのですがッ…その、気になったので質問をッ!
その言葉遣い、ずっと気になっていたのですがッ……」
「以前ッ、小人族だというお話はお伺いした所ですッ!
ルル嬢はもしや…西に広がる大森林――ヴィドステラーご出身でッ?」
ルルは嬉しそうに「おっ」と声を上げ、瞳を輝かせた。
ウンウンと首を上下にさせ、全力で頷き、その後――
賢者はルルに食事の介助をして貰い、西の大森林での文化やいざこざ……。
様々な事情を聞き、穏やかな食事の時間を過ごしていった。
色々な会話をしていたが、やがて行き着いた話題は、貴族の話題。
そこから更に、ニヴェイシア邸での日々の話へと移り変わった。
「んでさ、胡散臭い子爵ちゃんとこで、でっかい風呂入ったんよ。
もうねーぶちきもちえがった。 やばいよあれ。
賢者ちゃんも入ってみ? 超スッキリするぜー!」
バルタザールは眉を下げ、困ったような表情を浮かべ、歯切れが悪い。
「うーむッ…そうしたいのは山々ですがッ…ワタクシ、病弱ゆえッ!
すぐにのぼせてしまうのデスッ! 湯船に浸かった事は無く――
いつも湯浴みで済ませておりましてッ!! それと目も絶望的でして…ッ」
「長湯などはとてもですがッ…叶いそうにありませぬッ…!」
「んじゃさ。あたしと一緒にはいろーぜ? あたしが手伝うし!
それで解決じゃろ? ど、名案っしょ?」
親指をぐっと立て、自信満々のドヤ顔を、無表情ながらも披露してくれたルル。
まるでそれが、彼女にとって最善の策であるかのような、見事な言いっぷり。
一拍の間を置き「ブボボッ」と言う謎の音を立て――
バルタザールの鼻からは、一筋の赤い線が弧を描き、鮮血が咲き乱れた。
「ちょ、おまっ……うそじゃろっっ!?
こんくらいで鼻血出すとか、きょーびおらんじゃろ…どうなっとん……」
呆れた声を上げ、慌てて懐から手巾を取り出し、賢者の鼻に当て介抱。
彼女は本気で理解することが出来ず、一体自身の発言の何が悪かったのか?
と、本気て首を傾げていたのだった。




