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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
三章:世界と魔族と人間。
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その【小人】難解至極につき。



時は少し遡り――武器新調の為、鍛冶屋街へと赴いたルルの様子。

彼女は軽い足取りで、手頃な鍛冶屋を見つけ、扉を押し開け入店。


熱した鉄の香りがそこら中に漂う空間。金属独特の香りが鼻をつく。


店の奥では煌々とした火の明かりが確認でき、金槌で鉄を打ち付ける音が響く。


店内には人の気配は無く、恐らく店主は鍛冶場に居るであろうことが察せる。

ルルは店内をじろりと見回し、短杖(ワンド)を手に取り、魔力を流し込む。


しかし手に取った短杖(ワンド)は、どれもこれも魔力が伝わらない。

ガックリと肩を落とし、ぶつぶつと愚痴を零した。


「やっぱ作ってもらうっきゃないよねー…。 しゃーないんじゃけど…。」


一軒目に訪れた店は店主不在の為、とりあえず店を出る。


二軒目、三軒目と転々とするが、やはり目ぼしい短杖(ワンド)は無く項垂れる。

武器屋はそこそこあるが、そもそも杖が置いてある店が少なかったのだ。


歩き回り数軒回った後、疲れ果てた結果一軒目に逆戻りするしか無くなった。


絶望しながらも鍛冶場に向かい、声を上げてみるルル。


「ちわー、お邪魔しまー。 さっきも来たんじゃけど、店主さんおる?」


彼女が声を落としたと同時に、金槌を打ち鳴らす音が止み、声が返ってきた。


「邪魔すんねやったら帰れや~……って嘘やで嘘。 んで、なんの用や?」


特徴的な西の森の言葉遣いに、ふと懐かしさを覚えたルル。

瞳に光を灯し、店主が出てくるのを待った。


鍛冶場から出てきたのは、胸元まで伸びたヒゲを蓄えた、頑固そうな親父。

まさに“鍛冶屋”という言葉が似合いそうなドワーフ族。


「おっちゃん、もしかして西の森(ヴィドステラー)出身?えろー言葉遣いじゃねー?

 あっちの方って言葉遣い独特じゃけー、同郷のもんじゃって分かるわー。

 ひっさびさに、あっち出身のヒト見たわー。」


「武器作ってほしゅうて来たんじゃけどさ、やーたまげたわ。

 同郷のモンに会えると思うとらんかったーぶちやばーー!」


いつも通りの無表情ではあったが、瞳は嬉しさからか輝きを帯びる。


「んなモン、こっちがびっくりやで~ なんや思たら……

 人間のガキちゃうんかいな。 チビ、小人族やろ?」


「で? チビが何しに来たんや? 小人族ちゅうたら弓か?吹き矢か?

 ワイに何作らせたいんや? こんなトコまで武器頼みに来るちゅう事は……

 チビ助…なんか訳ありやろ? ちゃう?」


彼女は「違う違う」と返し、店主に短杖(ワンド)が欲しい理由を伝えた。


後に、自身が魔力持ちである事、すでに数軒程店を見て回った事。

だが、お目当ての代物は見つけられなかった事。


それゆえに、結局ここに戻ってきた事を、店主へと語った。


「……って事なんよ。 じゃけぇ、あたし魔力伝導率がええの探しとんよ。

 長杖(ロッド)はあるんに、なんでか知らんけど短杖(ワンド)だけ無いんよ!

 差別じゃ差別!短杖(ワンド)差別!!ぶーーー!」


「そらそうなるやろな~…こん国で魔力持ちちゅーたら、そうおらへんで?

 魔力持ち向けの長杖(ロッド)あっても、短杖(ワンド)はあらへんやろ。」


ドワーフ族の店主は、店の奥へと姿を消したかと思えば、短杖(ワンド)を手に戻ってきた。


「ワイが作ったヤツでもコレだけしかあらへんしな。 んで?

 チビ助はどないなんが欲しいん? 魔力の通りだけ重視するんやったら――

 こっちの短杖(ワンド)でもええかもしらんけど、属性の相性とかあるやろ?」


店主は顎のヒゲをもじゃもじゃと指で遊び、ルルに尋ね、ルルはそれに答える。

身振り手振りで、あれやこれやと説明をし、それに頷き提案する店主。


「魔力の通り殺してもかまへんねやったら、この鉱石が芯やな。

 んで~先っちょにこの錬金石組んだら威力出るで。魔力の通りやったら――

 せやな…こっちの宝石仕込んだら、通り良ーなるで? 話ついてこれる?

 中間地点選ぶんやったら…せやなぁ、値段も無難やしコレとコレやな。」


店主は机に金属や宝石、魔石を並べて熱く語り、ルルは真剣に傾聴。

同郷同士ということも有り、西の大森林の話題で大盛り上がり。


小人族とドワーフ。一見親子にも見える二人は、どこか愉しげに語り合った。


◇ ◇ ◇


その後――禁書庫の一室。

そこは賢者の為だけに用意された小部屋。簡素を極めた一室だ。


賢者の元へ一番手で戻ってきたのは、小人族の魔法使い・ルルリカ。


彼女の小さな手には紙袋が抱えられており、中身は街角の屋台で購入した物。

焼き立ての硬いパンに、野菜たっぷりのヘルシーなスープ。


病弱な賢者の為にと、彼女なりに考慮した食事。


彼女の足取りはこころなしか軽やかな足取りで、賢者の元へと駆け出す。

賢者の籠っているであろう、部屋の扉を軽く打ち鳴らして彼の元へ。


「ちょりーす。 調子はどんな? あれからしばらく経っとるけど。

 ちゃんと寝たん? 薬はいらん感じ?」


賢者の彼は寝台に横たえるでもなく、何故か机に突っ伏し、睡眠を取っている。

本と紙束に囲まれたまま眠っており、彼の目の形状は見事な“3”――


起床したのか眉間に皺を寄せまくり、慌ててメガネを探す賢者。

ルルが彼のメガネを渡すと、賢者はぴしゃりと姿勢を正し、軽く咳払い。


「ルル嬢ッ! お早う御座いますッッ!」


「ワタクシ、司書としての業務を全うしていたのですがッ……!

 どうにも変な時間に睡魔に襲われ……そのままくたばっていたようデスッ!」


ルルは「おっつー」と軽く返答を投げると、紙袋の中身を賢者に渡した。


「ほい。 賢者ちゃんってがっつり食わんじゃろ? じゃけ、野菜の汁物。

 んで、あとパン。 これなら食が細くても食えるじゃろー?

 んで今日は特別に、なーーんと――」


「このとっても可愛いルルリカちゃんが、賢者ちゃんに食わせちゃるぜっ!」


無表情であるはずの彼女。だが、どこか笑顔にも感じられるような弾んだ声。


しかし賢者の眉間には深い皺が刻まれ、困惑と疑念の表情。

喉を振動させ、若干慌てた仕草を見せると、なんとか言葉を絞った。


「ワ、ワタクシ流石に一人で食事はできますぞッ!

 一体、どのような意図がありッ――」


「んだよー…お固い事いわんのー。んなもん、あたしの集落じゃったら――

 当たり前の光景なんじゃけぇーさ? 文化交流ってやつだぜー」


「ほらほら、あーんってしろよあーん。 口開けんちゃい。 なー?

 それとも、あたしみたいなチビがやるんじゃ不服なんー?

 賢者ちゃんは、セラちゃんみたいんが好みなんかー? あーん?」


ルルはパンをちぎると、それをスープに浸し、賢者の口元へ押し付ける。


「女性の好みは分かりませぬッ…! なんせ機会が――」


言いかけるが、ルルはじっとりとした視線を賢者へと投げていた。

賢者は戦意喪失し、恐る恐る「あぁ…」と情けなく口を半開きに。


結局抵抗する暇も与えられず、されるがままに食事を強制。

もぐもぐと咀嚼をするが――彼のその顔は、かなり赤面していた。


挿絵(By みてみん)


眼鏡が曇る勢いの熱気を帯びているのだが、ルルは満足げ。


「お恥ずかしいッ! ワタクシ二十三にもなって食事の補助などッ……!」


「同い年じゃろ? 別にええじゃん。 細けー事気にすんなって。

 んで、このパン美味くね? あたし、ぶちうめーって思って買うたんよ。

 ほれほれ、どう? ちょーっとだけ甘くて、美味いじゃろ?」


賢者は咀嚼をしていたが、疑念に思ったことがあったのか、首を傾ける。

やがて食事を飲み下した後に、ルルに対し、自身の疑念を投げた。


「とても美味しいのですがッ…その、気になったので質問をッ!

 その言葉遣い、ずっと気になっていたのですがッ……」


「以前ッ、小人族だというお話はお伺いした所ですッ!

 ルル嬢はもしや…西に広がる大森林――ヴィドステラーご出身でッ?」


ルルは嬉しそうに「おっ」と声を上げ、瞳を輝かせた。

ウンウンと首を上下にさせ、全力で頷き、その後――


賢者はルルに食事の介助をして貰い、西の大森林での文化やいざこざ……。

様々な事情を聞き、穏やかな食事の時間を過ごしていった。


色々な会話をしていたが、やがて行き着いた話題は、貴族の話題。


そこから更に、ニヴェイシア邸での日々の話へと移り変わった。


「んでさ、胡散臭い子爵ちゃんとこで、でっかい風呂入ったんよ。

 もうねーぶちきもちえがった。 やばいよあれ。

 賢者ちゃんも入ってみ? 超スッキリするぜー!」


バルタザールは眉を下げ、困ったような表情を浮かべ、歯切れが悪い。


「うーむッ…そうしたいのは山々ですがッ…ワタクシ、病弱ゆえッ!

 すぐにのぼせてしまうのデスッ! 湯船に浸かった事は無く――

 いつも湯浴みで済ませておりましてッ!! それと目も絶望的でして…ッ」


「長湯などはとてもですがッ…叶いそうにありませぬッ…!」


「んじゃさ。あたしと一緒にはいろーぜ? あたしが手伝うし!

 それで解決じゃろ? ど、名案っしょ?」


親指をぐっと立て、自信満々のドヤ顔を、無表情ながらも披露してくれたルル。

まるでそれが、彼女にとって最善の策であるかのような、見事な言いっぷり。


一拍の間を置き「ブボボッ」と言う謎の音を立て――

バルタザールの鼻からは、一筋の赤い線が弧を描き、鮮血が咲き乱れた。


「ちょ、おまっ……うそじゃろっっ!?

 こんくらいで鼻血出すとか、きょーびおらんじゃろ…どうなっとん……」


呆れた声を上げ、慌てて懐から手巾を取り出し、賢者の鼻に当て介抱。


彼女は本気で理解することが出来ず、一体自身の発言の何が悪かったのか?

と、本気て首を傾げていたのだった。





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