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その【聖女】転生者につき。~祝福?チート?……いいえ、呪いです。~  作者: お餅憑き
三章:世界と魔族と人間。

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その【買出】千思万考につき。――勇者編



聖女と離れた勇者ノア。

彼は道具や防具、武器が置いてある職人街へと赴いていた。


武具を取り扱う店へと誘われるようにふらりと入り、様々な武器を見つめる。


斧や短剣、パルテオンが扱っているような大盾など――

あらゆる武器防具を、好奇に満ちた瞳で一つ一つ、マジマジと見つめていた。


一振りの長剣を手に取り、関心しながらも眺めていたノア。

しかしそんなノアに対し、不意に腰の聖剣から声が響く。


『頂けないな、ノア。 (わたし)という聖剣がありながら……

 そのような、何処の馬の骨とも分からぬ長剣にうつつを抜かすなど。』


聖剣から響く冷たく澄んだ女声は、どうやら嫉妬をしているらしい。

声色からでも伝わるその様に、ノアは慌てて長剣を戻した。


『ち、ちがくてっ! 他の武器ってどんな感じなのかな?って!

 そう思っただけなんだよっ! 本当だよっ!』


剣を見ていては駄目だと判断したノアは、そそくさと場所を移す。

誤魔化すように、装身具が置いてある場所へと足を運ばせていたその途中――


『時にノア…。』と再び聖剣がノアへと語りかけ、ノアが聖剣を見つめる。


『先程の聖女への対応に関してだが…あれは、無い。 些か甘すぎる。

 ――違うな、これだとノアには伝わらぬであろう。』


『そうさな、あれは恋仲にある者同士で行うようなものだ。 心得よ。』


ノアは目を見開き「えっ!」と声に出し、周囲からの視線が刺さる。

周囲の人たちからすれば現在のノアは、ひとりでに慌てる不審者そのもの。


『嘘ッ! そうなの?! ど、どうしよう……

 だからセラ、あんなに真っ赤になってたんだぁ…僕に怒ってたんだね…』


聖剣の柄に触れ、慌てたと思いきや、肩を落としガックリと項垂れる勇者。

周囲の客は、どんどんノアから離れていくが、彼は気が付かない。


なにげなく歩いていたノアだったが、ふと透明なケースが目に入った。

ガラスのケースの中には、金銀に煌めく装身具型の魔道具。


腕輪、足輪、指輪に首輪――耳飾り等、あらゆる装身具が飾られてある。

その一つ一つに目を向けるが、ノアは所々しか文字が読めず、瞳を細めた。


(んー…どうしよ。 多分魔道具…だよね? 文字が読めない……。)


困ったように項垂れていると、聖剣から再びため息交じりの声が届けられる。


『読めないのであれば、(わたし)が読む。 どの文字を読めば良いか伝えよ。』


ノアは指差し聖剣へと尋ね、効果を確認していくが――

機敏性に補正効果、魔物からの認知を歪める、痛み軽減効果。


他には、時間感覚を早める、聖性及び祝福の付与、匂いが消える等……。

多種多様な効果ではあったが、どれもぱっとせず、ノアは余計に唸る。


(んー…どれも聖剣さんからの守護でイマイチ良さがわかんないや…)


一つ一つ眺めていると、不思議と目が吸い寄せられた、一つの装身具。

それは銀色の指輪。華美過ぎない装飾に、中央には藤色の光を放つ宝石。


藤色の宝石の周囲には、ぐるりと囲うように散りばめられた、紅い石たち。

小さな紅色のそれが、キラキラと煌めきを放っていた。


どこか、ルルやセラ……仲間を想起させる色合いの、可愛らしい指輪。


(これ、なんだかセラの瞳の色にそっくり! 周りの赤はルルの瞳の色…!)


意図せず指先が伸びてしまい、ケース越しにじっと見入ってしまったノア。

そんな彼に対し、女性の店員がにこやかな笑みで声を掛けてきた。


「お客様。 そちらの指輪なのですが、効果は安眠や快眠といったものです。

 中央の紫色の宝石は、錬金術師が加工したものでして…周りの赤色は――

 安眠の効果を安定させるといったものなのです。」


「ドワーフの職人が仕上げた一品でして、見た目もとっても可愛らしいですよね!

 もし、彼女さんへの贈り物なのでしたら…こちら、おすすめですよ?

 現品限りですので、お買い求めでしたらお声掛けお願いしますね。」


営業的な微笑を浮かべた店員は、手で口元を隠し、柔らかい口調で伝えた。

ノアは店員の顔と指輪を交互に見つめ……あれこれと頭の中で、思考が渦巻く。


(現品限り!? 安眠と快眠!! えっと!!どうしよう!!)

(セラにぴったりって思ったんだけどっ…!でもセラは仲間で…!!)


ノアは、女性店員の『彼女さん』という言葉に引っ張られ――

思考力が著しく低下。結果、値段や効能を考慮し、購入を決めてしまった。


女性店員に言い含められた勇者……彼は、残念ながら買い物上手では無い。


良く分からない間に購入してしまったが、後の祭り。


げっそりとした表情で店から退店し、次なる道具を探しに向かうが――

その道中で、問題が発生してしまった。


「ちょっと!そこのお兄さん! すっごく可愛い! ウチで遊んでかない?」

「お安くしとくからさぁ~ 坊やもど~お~? おまけも沢山しちゃうっ♪」

「ソコの顔の良い兄ちゃん、どうだ! ウチで働かないか?」


気がつけば勇者は、薄暗い路地に迷い込んでしまっていた。

時間帯も悪く、今現在は黄昏時ということもあり、丁度間が悪かったのだ。


“そういった刺激”を求めた人たちが、集まり始める時間帯故――

妖艶な色気を纏う女性たちからの“お誘い”が、これでもかと掛かった。


ノアは困り果て、どのようにしてこの場を切り抜ければいいか、分からない。


だが困っているのは、どうやらノアだけでは無かったようだった。


絹のような銀髪。淡い赤色を帯びた毛先に、左右非対称の赤と金の瞳。

小柄で、見るからに年若そうな女性。


黒色に、濃い灰色のフリルが美しいドレスを身に纏った貴族子女。

少女のようにも見えるが、落ち着いた雰囲気からは大人びた印象を受ける。


銀髪の女性もまた、客引きに捕まっているらしく、困り果てていた。

嫌悪を隠さず、棘のある言い回しで言葉を吐き散らす。


「あたくし、みだりにふしだらな事を致したりしませんの。

 離して下さらない? はぁ…これだから人間は嫌なんですの。

 すぐに身体を重ねたがる…まるで、欲に溺れた獣のようですわね。」


銀髪の女性の事情など知らない客引きは、それでも手を引くのを辞めない。

女性は視線を彷徨わせ、ノアを捉えると、勇者の元へと駆け出した。


不思議な微笑を浮かべ、彼の側まで行くとそっと手を取る。


『丁度良かったですわ、勇者。 あたくしと一芝居うって下さらない?』


そっと囁きを落とす女性に、ノアは無言で頷きを返し、女性の言葉を待つ。

黒いドレスを翻し「カツン」と靴音を鳴らし、女性は堂々と宣言。


挿絵(By みてみん)


「あたくし、これからこちらの殿方と共に“休憩街”へ参りますの。

 それ以上は野暮ではなくって? よろしいかしら?」


「あたくしの道の邪魔でしてよ? 通して下さらない? さぁ……

 お退きになってくださいまし? ふふっ!」


「これから彼女と楽しんでくるのでっ! じゃ、行こっか!」


周囲にいた客引きたちは若干怪訝な顔を浮かべるも、何も言えず散り散りに。

危機をなんとか脱し、道中、ノアは女性に頭を下げようとするが、止められた。


「まだですわ。 ああいう手合はしぶといんですのよ? 勇者……

 おまえは中央の大図書館へ向かうのでしょう? こちらが近道ですわ。」


女性はノアの腕を引き、裏路地を抜け、やがて中央部へと戻ることが出来た。

安堵のあまり、ノアは盛大に溜息を吐き出し、改めて女性に感謝を伝える。


「た、助かったよー… あのままだと僕、変な場所で強制労働だった…」


「あたくしも助かりましてよ? では、勇者。

 あたくしはこれにて。 また何処かでお逢いいたしましょう?」


銀髪の女性はドレスを持ち上げ、カーテシの後、何処かへと去っていった。

しかしノアの心には妙な突っかかりがあり、首をひねる。


どうにも初対面ではないような気配があり、不思議な気持ちにさせられた。


外の景色を見渡すと周囲はもう暗く、結構な時間の経過を物語る。

後悔はあったが一息付き、その場から跳躍し、屋根から屋根へと飛んで移動。


目指す先は中央の大図書館。目的地へと向かう為、ノアは宙を駆け抜けて行った。





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