その【買出】千思万考につき。――聖女編
その後――二人は二手に分かれた。
セラは露店街へと、ノアは職人街へと赴いたのだった。
改めて露店街を見回すが、あれこれと興味を惹かれる物が沢山で、目を回す。
何度も何度も、あちらこちらへと足が引っ張られそうになるが――
どうにか耐え、旅の役に立ちそうな物は無いか?と目を回し見て回る。
「本当に色々なものがあるんですねぇ…! 学術都市だからですかね…?
やたらと、小さな本が置いてあるお店が、多い気がしますが…。」
珍しい鉱石がはめ込まれた装身具や、これは一体何に使うのだろうか?
と思えるような、不思議な形状の玩具など。
そういった珍しい品物が多く並んでおり、感心しながらもゆっくり――
興味の赴くまま足を動かし、露店を見て回る。
だが、ふと目に留まったお面の露店。そこに並べられた一つの面――
釘付けになった真っ白なお面は、濃い赤紫色の流麗な模様が描かれた、狐の面。
(狐面…? なぜ?なぜこんなにも懐かしい気持ちが湧き上がるのです?)
どこかに置き去りにしてしまった、古い記憶を呼び覚ますような感覚。
その、脳を直接揺さぶるような不快感に、クラクラする頭。
思わず片手でこめかみを押さえていると、ふと店主の男から声が掛かった。
「――珍しいよなぁ……そのお面。」
と、ぶっきらぼうにだが聖女へと語りかけ、小さく息を吐き出し――
そのまま言葉を続ける店主の男。
「それな、北方の国で造られたお面なんだってよ。
なんやら、神子がどうのこうのって話だそうだ。」
「あんた、聖女さんだろ? 気に入ったなら持っていってくれっ!
……の方が、この面も喜ぶつーもんだ。」
「あの、えっと、さすがに頂くのは申し訳がたちません。
お代はお支払いさせてください。」
セラは革袋を漁り、銅貨と銀貨数枚を差し出した。
しかし、店主の男は「ハハッ!」と笑い、手で硬化を選別。
「そんないらねえぞ。そんな高価なもん、ここには置いてねぇからなっ!」
「銅貨だけ受け取るぜ」と、店主の男は銀貨をセラへと押し返す。
銅貨を一枚だけ受け取り、格安で狐面を譲ってくれたのだった。
申し訳なさを感じながらも、小さく謝罪を伝え、店主から狐面を受け取る。
その後は店を後にし、他の店も周り巡っていくセラ。
次に目に入ったのは、様々な“薬品”を取り扱う露店。
これはいったいなんの薬なのだろうか?とそちらにも目を向ける。
視線を移すと“媚薬”が目に止まり――
思わず先日の事が脳裏を過ぎり、顔が赤面し咄嗟に顔を覆う。
(こんなおおっぴらな場所で売るとか!!最低ッ!!)
(間違えて子供が買われたらどうするんですか!!! もうっ!!)
慌てて視線を逸らして真っ赤な顔を隠し、他の薬品に目を移す。
なにやら面白い謳い文句が書かれ、大々的に宣伝されている薬が目に留まった。
セラはなんとなく、何気なく、声に出して読み上げる。
「“これ一本で気分爽快スッキリ労働、元気百倍”…? なんですこれ…。
ふむふむ、労働者向けのお薬…? 怪しすぎません…?」
「ってこれ…賢者様が開発に携わった薬品なのですか……?
バ、バルタザール様……。 これは後で叱っておきませんと……。」
その薬品には確かに“賢者監修”との記載があり、セラはガックリと肩を落とす。
薬品は不要だろうと判断し、セラは店から離れ、今度の露店は人形の店。
不気味な人型の人形が沢山陳列されている、謎が多い露店。
(これ、なんでしたっけ。 ほら、あのあれですよあれ……!)
(そう!! 呪いの人形!! ブードゥー人形!!)
頑丈そうなガラスのケースに飾られた細部が違う、人形たち。
並ぶ姿はどこか異様な雰囲気を漂わせ、その効果を確かめるべく、札を見る。
“ハゲ防止”や“擦り傷防止”“転倒防止”といった効果、それに加え――
“味覚変更”や“色覚調整”“感覚鈍感化”等、多種多様。
色々な効果の物があるのだな、と感心し人形を見ていると、ひときわ目立つ人形。
それは、周囲の人形とは違い、厳重に保管されており禍々しい雰囲気を纏う。
やや大きめで、おおよそ小動物程度はあろうかという人形だった。
形状も人型というより、どこか、動物的な流線形状で、嫌に目を引いた。
何事なのかと目を通すと――“致命傷避けの形代”と書かれているではないか。
思わず店主へと声を掛けるが、店主から返ってきた返答は――
「あー!それか!」と頭言葉の後に、鼻を鳴らし自慢げに語ってくれた。
「そいつはな!ウチの看板商品だ! どんな致命傷でも肩代わりする!
しかし、一度限り! すっげぇ貴重な代物だぜ! ウチじゃ金貨五枚だが――
装身具とかになると、もっとすっげぇぞ! ハハハ!」
店主はセラに手招きし、耳打ちするようにひそひそと語った。
「あんた、聖女様だろ? 聖女様はなにかと大変だよなぁ……?
魔物とかもそうだがよ、貴族連中に目をつけられてるって、物騒な話も聞くぜ?
どうだ? 安心を金で買えるなら、これ以上の事はねぇだろ?」
指を折り、指し示した数字は“三”で、恐らく金貨三枚まではまけてやると。
店主の意図は理解できるが、セラは自身の革袋の残金を確認し、項垂れた。
「も、申し訳ありませんっ…! とっても有難い申し出なのですが…!
その、手持ちがなくって…っ! うう…!」
店主は「ハハッ!」と笑い声を上げ、気にする様子はなく、手を差し伸べた。
軽く握手を交わすと「気にしなさんなっ!」と明るく返し、店から退散。
勇者一行の主な資金管理は、一番安全だろうと言うことで――
満場一致で、ノアが管理をしているのだ。
こうして、別々で行動する時のみ、一部を渡すという資金繰り。
故にセラは手持ちが無く、泣く泣く店を後にするしか無かったのだ。
店主にペコペコと頭を下げ、遠くなる店を背後に、足早に立ち去る。
やや疲労感を感じ、空を見上げてみると、気がつけばいつの間にやら空は暗い。
暗いと言ってもまだ日は傾きかけ。これから暗くなると言った様子だ。
空が茜色に染まり始める頃合いともなり、セラは狐面を抱えて息を付く。
これから暗くなる事も考慮し、足早に露店街を抜ける。
中央に聳える大図書館へと向け、急ぎ足でそちらの方面へと向かった。
(ニヴェイシア閣下から頂いたあの腕輪型の護符って…お幾らだったの…?)
(なぜでしょうか。 聞いてしまった暁には、卒倒してしまいそうです。)




