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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
三章:世界と魔族と人間。
54/63

その【邂逅】一期一会につき。



翌朝、まだ早朝の涼しさを感じる時間帯。

セラとノアの二人は、石畳の大通りを埋め尽くす露店街を回っていた。


威勢良く声を張り上げる商人たちの声に、露店から香る様々な食事の香り。

音と匂いという情報がこれでもかと入り混じり、市場特有の熱気を作り上げる。


二人は人と情報量の多さに目を回しながらも、市場を見て歩いていた。


「黒いローブ姿の学生さんが多いねぇ…!それになんだか……

 男女の二人組みがすっごく多いねぇ?」


「ですね…! 人もそうですが、色々な匂いでクラクラしちゃいます……。

 バルタザール様の仰ってました、魔導技師…? の職人様って――

 どこに向かえば会えるのでしょうか? 詳細な位置が分かりませんね……。」


二人してまるで、初めてのお使いに出た子どものような仕草で見回す。


そんな中、見兼ねたであろう人影が二人へと身を寄せる。

黒いローブを纏った二人組みの女性が、勇者と聖女に歩みを寄せた。


ノアとセラに対し、恐る恐るだが距離を縮め、緊張した様子で声を掛ける。


「あのっ…! 勇者様と聖女様でしょうか……?

 わたしの勘違いでしたらごめんなさいっ…! その、お困りですか……?」


「お困りでしたら、わたしたちでよければお話だけでもっ……!」


きっと勇気を持って話し掛けてくれたであろうことは、見て取れる。

女学生の一人は、ぱっと身で分かる程顔を赤面させていた。

手指をそわそわと動かし、ノアとセラの返答をまっている様子。


そんな彼女に対し、ノアは朗らかな微笑を湛え、優しく答えた。


「僕たちの事知っていてくれているだなんて、少し恥ずかしいねぇ?ふふっ!

 ええっとね、魔導技師さん? って職人さんを探しているんだ。

 でもこの辺りに来るのは初めてで…どこに行けば会えるのかな?」


「もし、知っているなら是非案内してほしいなっ!」


話し掛けた女子生徒は、勇者の瞳に見つめられ、赤面した顔が更に染まっていく。

隣に居る友人であろう女子生徒に急かされ、なんとか口を開いた。


「えっと! わ、わたしたちで良ければ案内を…! いいよね?リリィ?」


「わたくしはそれで構いませんわ。 ほら…しゃんとなさいな?ノインっ!」


挿絵(By みてみん)


リリィと呼ばれた女子生徒は、ローブ姿で軽くカーテシを披露。

綺麗に整えられた笑顔で自己紹介を始めた。


「お初にお目にかかりますわ。 勇者様、聖女様。

 わたくし、リリィシア・ローゼンハインと申しますの。

 どうぞ、よろしくお願いいたします。 ほら、あなたもなさいな?ノイン。」


「あっ、ええっと! ノインです! 家名はありません! 平民なのでっ!」


ノアが朗らかに微笑むと、どこで覚えたのであろうか、綺麗な動作で一礼。


「ご丁寧にありがとっ! 僕は勇者のノア。 僕も家名は無いんだよ?ふふっ!

 それで、こちらの女性は――」


「ご紹介に預かりました…聖女のセラフィーナ・ヴァイオレットです。」


自己紹介を終えると、ノインたちに連れられ、魔導技師の居る店に案内。

何軒か教えて貰い、その際にノアは気になっていた大図書館での話しを聞く。


トラメリアの学術院では、十歳から二十歳までの十年間を、学びに当てる。

最初の五年は学業が優先、その後の五年は貴族と平民で道が違うらしい。


貴族は紳士淑女の教育と、婚約の為の社交界マナーを学ぶのだとか。

市民や、それ以外の者は、働きながらも学んでいくとの事だった。


セラは本来、学術院に通うはずだったのだと、なんとも言えない表情で語る。


「羨ましいです。 私…聖女でなければ、本来ここの学生だったので……」


「僕には縁が無いお話だねぇ。 あはは……学び舎だなんて立派な所――

 考えたことも無かったよ。 にしてもノインさんはすごいねぇ!

 学校に通えるだなんて…僕、少し羨ましいよっ!」


その言葉を拾い、リリィシアがノインの手を取ると、優しく微笑んだ。

手を取りながら、ノアたち二人に話しかける。


「ノインはわたくしの推薦ですの。 貴族の推薦がありますと――

 学費が多少ですが、免除されることになっておりますのよ?

 優秀な人材であるなら、尚の事。」


「ノインは一見ぼけっとして見えるかもしれませんが……

 とぉーーっても、優秀で可愛らしいんですのっ! ね? ノイン。」


「ゆ、優秀だなんてそんな! リリィが推薦してくれなかったら、わたしはっ!

 えっと! 今はリリィのお屋敷で働きながら通ってるんです…!」


「リリィはわたしと同い年なのに、すっごく立派で優しくって…!

 わたし、恩を返したくって…リリィのお役に立ちたくって…! ううん。

 人のお役に立てることが、とっても嬉しいの! だから、そのっ……!」


ノインは言いにくそうに顔を染め、リリィシアの後ろに隠れてしまった。

「んもう……。」とリリィシアに促されるように、ノインは言葉を続ける。


「勇者様と、聖女様はわたしの憧れなんです……!」


心臓が穿たれたように、彼女の、ノインの言葉が深く突き刺さったセラ。


これまでの旅路や、自身の身を襲った死線――

色々な出来事で、彼女自身忘れかけていた、自身の根源の気持ち。


自身もまた、同じような目的で【聖女】としての修行に長年耐えた事。

胸に妙なチクリとしたものを感じ、セラは胸元を抑えていた。


その後、女学生の二人に一通りの案内をされた勇者と聖女。

しかし、楽しい時間はそう長く続かず、別れの時が訪れてしまった。


彼女たちは互いに視線を交わし、ふっと微笑みを返しあった。

リリィシアが勇者と聖女に近づくと、柔らかな口調で語りかける。


「ほんの少しの甘味[パウルム・ドルチェ]という甘味処……

 是非、尋ねてみてくださいましっ!」


「学生向けの小さなお店ではありますが――

 安価で、とても美味しいお菓子が置いてございますの。 ふふっ!」


「わたくしのお気に入りの、オススメの場所なんですのよ?

 ではお二方! またどこかでお逢いしましたら、その時は是非っ!」


貴族令嬢的な微笑で、彼女たちはそのまま大図書館の方角へと歩いていく。

ノアとセラは彼女たちを見送り、視線を交わし、くすりと笑いあった。


その後、教えて貰った魔導技師の店を尋ね――

無事に魔道具を修理へと出したのだった。


ノアとセラは、その後リリィシアが言っていた店へと向い、店内へと入店。

……が、何ということだろうか。そこには男女の二人組み。


もとい、カップルが大量発生していたのだった。


ノアは特段気にする様子を見せること無く、堂々とした足取りで入店。


何食わぬ微笑を浮かべ、カウンターにつき、商品を注文。

代金を支払い、商品を受け取り、朗らかな微笑でセラの元へ。


空いている席を見つけるとノアはセラを促し、セラはおずおずと着席。

セラが着席した後、スコーンを切り分け、一口サイズに。


朗らか過ぎる、爽やかな微笑を向けるノア。


(いやあの。 これ、恋仲にある学生さんたちの溜まり場では???)

(私たち完全に場違いですよね??? 勇者と聖女ですよ???)


「ノ、ノア。 ノアは気にならないのですか? その、周辺の感じとか…。」


「え?どうして? セラはいつも無理してるからさっ!

 だからこうやってたまにはうーーーんと甘やかさないとっ!

 これ、蜂蜜漬けの果実が乗ったスコーンだって!ほら!とっても美味しそう!」


何気なく、あまりに自然に“あーん”を促すノアに、セラはたじろぐ。

躊躇していると「食べないの?」といった様子を見せるノア。


まるで、甘え盛りの子犬のような瞳で見つめてくる始末。


(そうでした。この勇者様…ノアという人は、感性がアレなのでした。)


「有難うございます、ノア。 では頂きますね…?」


若干引きつった笑顔ではあったが、なんとかスコーンを齧る。

さくりとした食感に、はちみつの甘さがじわりと広がる。


果実独特の爽やかな香りが口いっぱいに広がり、思わず顔が綻ぶセラ。


口の中の水分がすべて奪われ、喉の渇きを覚えたセラは、続けて茶に口を付ける。

茶はハーブティーらしく、スッキリした清涼感。


調和の取れたスコーンと茶に、思わず舌鼓を打つセラ。

市場では様々な匂いに囲まれていた為、その茶の香りは、心を落ち着かせた。


「とっても美味しいですっ…! 蜂蜜と果実の甘さ――

 それにさっぱりしてるスコーンとハーブティー…! 幸せですー…」


「セラ…口元に果実が付いてる! ほら、ここ! 取っちゃうねっ!」


ノアは無邪気な微笑で、セラの口元についた果実を指で掬い取り――

躊躇うこと無く、そのまま口に放り込み、セラは唐突の事態に困惑。


事態を把握した後……一気に顔面へと血液が集中していった。


(うっ、嘘でしょ!? なんて恥ずかしいことを平然と!!!)

(この勇者様……怖い!!なんて恐ろしいのでしょう!!)


周りの視線は、聖女と勇者の仲睦まじい姿に釘付けになっていた。

女子生徒に至ってはセラに対し、羨望の眼差しを向けている。


……しかし、そんな視線などノアには知った事ではなかったのだった。





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