頁:51 その【情報】超重要につき。
翌朝早朝――宿の一室へと集まった勇者一行の四人。
「あ゛あ゛……クッソォ……頭が……割れる、割れちまう……。」
集まったと同時、騎士から落とされる言葉。勿論全員無視。
三人で顔を見合わせ、視線を交わし……口を開いたのは勇者のノア。
「さて!今日の予定なんだけれど、バルタザールの様子が気になってて。
とりあえず、皆さえよければ禁書庫に向かおうかなって……どうかな?」
ルルの『あたしは賛成』という声に続き、セラも首をこくりと頷き賛同の意。
彼女らを尻目にパルテオンが唸りつつも『おう……?』と疑問の声を洩らした。
「なんか昨日の皆が寝とるくらいの時間に、あの耳飾り?あれからさー……。
めっーちゃ音が漏れとったんよ。ノアちゃんが禁書庫行きたい理由――
賢者ちゃんが心配じゃけー、それで、向かおうって話。」
誂うような声色でパルテオンへと説明をするルル。
彼女は『ったく。』と吐き捨てると、更に言葉を彼へ投げた。
「パルちゃんはしーっかり、夢ん中におったんじゃねー?おめでてーぜ。」
彼女の言葉に『るせー……』と文句を垂れるパルテオン。
彼の足取りはやや重いらしく、どうにもおぼつかない様子。
そうして一同は、中央の大図書館へと向かう運びになった。
大図書館へ到着し、禁書庫へ通じると重厚な鉄の扉をゆっくりと開け――
黴臭い匂いに囲まれ、螺旋階段を下る。
下りた先には賢者の姿があったが――彼はいつからそこで待っていたのか。
浮遊した書物や資料。羽ペンたちに囲まれ机に突っ伏す賢者の彼。
「おお……勇者一行のみなみなさまッ…… ワタクシ、おまちして……ッ」
彼の声が途切れると同時、椅子から転げ落ちそうになる賢者。
身体が投げ出され「はっ」と息を呑むセラとルル。
が――間一髪といったところでノアがバルタザールの身体を抱きとめた。
事なきを得たが、それでも賢者の顔色は悪く、脂汗も滲んでいる。
「ちょっと!何があったの?!バルタザール! しっかりしてッ!!
セラッ!! ごめん……! 君にお願いしてもいいかなっ!」
勇者の腕に抱かれている賢者の顔は――まるでゾンビの形相。
目には深い隈が刻まれ、頬はげっそりとこけており、今にも朽ち果てそう。
「ま、またなのですかっ!? 分かりました!ノアはそのまま抱きかかえて!
すぐ私が治癒を祈りますからっ! 全くもう……世話の焼けるッ……!」
慌てて二人に駆け寄り、緑色の顔色をした賢者へ、祈り始める聖女。
賢者の身体に触れ――瞳を閉じ真剣に《治癒の祈り》を祈った。
彼の顔色は徐々に緑色からやや不健康な肌色へ――
それでも集中を絶やすことなく、彼の回復をひたすらに祈り続ける。
傍らでは騎士がチラチラと視線を聖女へと移しているが――
彼もまた、体調が悪い一人なのだ。機嫌も気分も悪そうに二人を見つめる。
「ノアちゃん、セラちゃん。 賢者ちゃん、あっちに休ませたげよ。
ほら、あっちにソファあるけぇ。 とりあえず寝かせんちゃい。」
少しの間ではあったが、姿を消していたルル。
どうやら彼女は、賢者の彼が休ませられそうな場所を探していたようだ。
「そうですね。とりあえずは《治癒の祈り》は祈りましたが……。
全く……夜ふかしは自業自得なのですよ……? 神様方もびっくりです。」
彼女の言葉を受け、勇者が賢者の身体を抱きかかえ――
彼の身体をソファへと横たわらせ、その直ぐ側でルルが看病。
賢者の額に手巾を添え、優しい手つきで頭を撫でため息をもらした。
「昨日の話、聞きたかったんじゃけど、これじゃ無理じゃね……。」
「仕方ないですね……またバルタザール様が起きた時に……ですね。」
彼女たちが賢者の容態を確認している傍ら――
やたら『ああ』やら『うう』やらと呻き、自身の存在をアピールする騎士。
彼は片目で彼らの様子を確認し、視線を聖女へと投げ――
「なぁよぉ……俺やべぇ……もうだめかもしれねぇ……。」
「頼む、セラ……《浄化の祈り》を俺に祈ってやってくれぇ……。 ぅぷ。」
泣き言を洩らした騎士だが、そうは問屋が卸さない。
呆れたような表情を浮かべ、セラは頬を膨らませると「ぷい」と顔を背けた。
「確かに《浄化の祈り》で酔いは回復できますが、飲みすぎも自業自得!
そんな自業自得の騎士様には祈ってあげませんっ! そもそもですっ!
私たち神職者は『星律の教え』で酒酔いの方への浄化はご法度ですっ!」
――『反省してくださいませっ!』とむくれた顔で語る聖女。
可愛らしい仕草ではあったが、騎士にとっては死活問題にも等しい。
が、頑なな聖女の態度にただ唸るしか出来ず、彼は……諦めた。
禁書庫内を観察していたノアから『ねぇちょっと。』と声が掛かり――
何事かと全員がノアの元へと向かうと、視線の先は先程まで賢者がいた机。
本や書類に紛れ、雑な筆致で書かれた書き置きが目に留まった。
インクが滲んでいる様子から、賢者が書き殴ったことが見て取れる。
ノアが手に取り、それをセラへと渡し――彼女が黙々と読み上げた。
――魔石とは、主に魔族領で造られる加工品の石の総称である。
魔道具、生活補助に用いられることが多く、流通量は多くない。
――“黒い靄”“黒い泥”を生み出すという魔石の記録は確認できない。
ゆえに勇者たちが話していた“瘴気の石”は魔石とは異なる。では何か。
――約二年ほど前から“黒い靄”を帯びた石の報告があることは確認済み。
しかし、石付近で顔に穴が空いた、魔物の特殊個体の存在は確認出来ず。
また石は最大でも小動物程度。迷宮で発見された巨石と合致しない。
――既存の鉱石や宝石の情報にそのような歪な石の存在は記載されていない。
読み終えたセラは困惑の表情を浮かべていた。
ノアもまた困ったように眉を寄せ、全員の顔を確認する。
「あれれ……?なんだかとっても重要そうなことな気がするけど――
バルタザールは僕たちに、伝え忘れていたのかなぁ……?」
勇者の顔からは『なぜ話さなかった』といった色が垣間見える。
賢者の書き置きをそっと机に戻し――セラは一息つき、疑問を投げた。
「それで、その……これからどうするのでしょうか……?」
「そうだね。とりあえず……交易都市のヴァルメリア――
その場所に向かって、アメトリクスさんに会いに行こうっ!」
勇者の言葉に反対意見など無く、全員が満場一致で頷き合う。
気絶する賢者のために、軽食と飲み物。それと直ぐ側には書き置きの紙片。
――“バルタザール様へ。 私たちはヴァルメリアへと向かいます。
どうかご無理はなさらず、ゆっくり休んでくださいませ。
軽食と飲み物をご用意いたしました、召し上がってください。
徹夜は、ほどほどにしてくださいませ? セラフィーナより”――
かくして、勇者一行の四人は決意を胸に抱き、学術都市を後にした。
新たな旅路へと、歩みを進めるのだった。




