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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
三章:世界と魔族と人間。
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その【都市】学術都市につき。: 前編

――◆第三章



徒歩で移動すること数十分程。

学術都市・トラメリアの城壁が視界を満たす。


街の門外へ到着した一同は、以前とは違う門から都市内部へ立ち入っていた。


印象がまるで違って見える光景に、皆同様、周辺の景色を見渡す。


幾重にもそびえる煙突、陽光が映える白亜の建築群――

住宅街のような雰囲気を漂わせる町並み。


学術都市は、街燈がぽつぽつと灯り始める頃合い。

光と影が交差し、幻想的な光景を生み出していた。


知識と叡智を凝縮したような、不思議な“知”を感じる景色。


「ほんの少し前に来たはずなのにねぇ……!

 なんだかすごく久々に感じるね?」


「本当ですね…とっても不思議な感覚、です……!」


ノア、セラは、感心するように周囲を見渡し、顔を綻ばせる。

なんとも言えない懐かしさを隠せずに、思わず瞳を細めていた。


一同は、慣れた足取りで中央街の大図書館へと歩みを寄せていく。


そろそろ夜の帳が降ろされるような黄昏時。

時間帯も相まり、すれ違う通行人は、黒ローブ姿の学生たちがちらほら。


学生たちは、大図書館兼、学びやの建物から出てきているようだった。


開けっ放しにされている、大図書館の扉を抜ける勇者ノアたち。

表の喧騒とは違い、大図書館は静寂が包み込む。


挿絵(By みてみん)


見通しも風通しも良いはずの空間だが、紙束独特の香りが漂う空間。


居るかどうかは不明ではあったが、階段下の司書部屋へと進む一同。


その道中では、時折学生たちがノアたちの前で軽く会釈。

その際に握手を求められたりもしたが、無事に司書部屋前へと辿り着いた。


皆を代表し、ノアが控えめに扉を打ち鳴らし、言葉を掛ける。


「勇者のノアです。 司書様はいらっしゃいますか?」


「はい、ご要件は【賢者(バルタザール)】様ですね? どうぞお気になさらず。

 そのまま禁書庫へ向かわれて下さいませ」


優しい年配の女声が扉越しから響く。

ノアたちは言われるがまま、司書部屋を抜け、禁書庫へと向かう。


禁書庫へと通じる分厚い鉄の扉を押し開け、中へ入る。

扉が開かれたと同時に突き抜ける、独特の長年蓄積されたような黴の匂い。


不思議な圧力を感じる空間を抜け、石造りの螺旋階段を下る。


階段を下った先にある空間――禁書庫内部の机と椅子に目を向けるが……。

普段であれば、賢者の〈技能(スキル)〉により、宙に舞い踊る紙束や本があるのだが――


禁書庫内には静謐が広がっており、彼の痕跡と言えそうなものが、確認できない。


しいて言うのであれば、机に乱雑に並べられた紙片や羽ペンのみ。


「あれれ? いつもならもっとこう……

 不思議な本たちが騒がしいはずだよね? バルタザールー?」


「“不思議な本たちって”なんだか可愛らしい表現ですねっ!

 すごく、ノアって感じがして、ほっこりしますっ!」


皆が賢者の姿を探すのだが、椅子の上にもおらず、書庫の隙間にも居ない。

一番ガタイが良い騎士が、ざっと見渡し、一角を指さし、場所を示す。


「ん? あっちに賢者がいるっぽいな。

 ソファに横になってるみてぇだ。 どうにもちょい、怪しい。」


パルテオンの示した先へと皆が向かう。

するとそこには、低空飛行する水桶と濡れたタオル。


その中心では、真っ青な顔をしたバルタザールがソファに横たえていた。


呼吸も荒く、苦しそうに咳き込む賢者の姿に、皆は驚愕。


「バルタザール! なにがあったの! しっかりして!」


ノアが駆け寄り、彼の身体に触れるが、身体が熱い。

宙に浮いたびしょ濡れのタオルを手に取り、タオルを絞り、ルルに渡す。


その間セラは目を瞑り、祈りの姿勢に入り、賢者に《治癒の祈り(サナティオ)》を祈った。


タオルを託されたルルは、ノアが何かを発言する前に手に魔力を集中。

即座にタオルの温度を調節し、賢者の額を拭い、甲斐甲斐しく看病。


賢者の周りでは勇者がそわそわと動き、ルルが彼の額や首を拭う。

セラが《祈り》を捧げ、周辺には聖光が溢れ、皆を照らし、包んでいた。


「す、すみませぬッ…!ごほっ……魔道具、なのですがッ…

 こ、故障しておりッ…してワタクシ自身も故障ッ…

 もとい、体調を著しく崩しッ、ごほっ……!」


薄目を開け、状況を確認した賢者ではあったが、彼は言葉と咳を同時に吐き出す。

ルルは見ていられなくなり、首を横に振ると、賢者に優しく声を掛けた。


「とりあえずさ。 黙って看病されんちゃい。」


ルルとセラの献身もあり、バルタザールの調子は少しだけ良くなった。


「とにかくさ、バルタザール。 どこかゆっくり…休める場所…。

 ベッドとか置いてある場所はないのかな? ここじゃ、休まらないよっ……!」


ノアが問いかけると、一冊の本がふよふよと宙に漂う。

まるで「こっちだよ」と示すように、ノアの周りを踊りだした。


「ほ、本にッ……ついて行ってッ……ごほっ!!」


ノアは「運ぶねっ!」と一言断りを入れ、賢者の身体を軽々と抱き上げた。

横抱きにされている賢者だったが、彼は何も言えず、ぐったりと身体を預ける。


一同が浮遊する本に付いて行くと、小さな扉に行き着いた。


扉を開けると、私室を思わせるような雰囲気の小部屋。

だが、そこには最低限の家具しか置かれていない、簡素な空間。


寝台に机と椅子。それと天井から吊るされたランタン。


たったそれだけの、あまりに質素を極めた部屋だった。


「バルタザール…ごめんね。 すぐに気が付いてあげられなくて。」


ノアはそっと彼を寝台におろし、そのまま彼の手を握りしめる。

寝台に横たわる賢者の側で、セラは再び《治癒の祈り(サナティオ)》を祈った。


必死に祈りを捧げる彼女の額からは、一筋の汗が流れ、頬を伝う。


荒く呼吸をしていた賢者だったが、セラの《祈り》もあってか――

顔色は落ち着き、呼吸もマシになったのか、咳き込むことはなくなった。


ノアやパルテオンに出来ることはなく、ただ見守るしか出来ない。


結局のところ、この場では聖女頼り。

セラは額に落ちる汗を拭うこと無く、賢者の快癒をひたすらに祈るのだった。





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