頁:47 その【夜会】収穫につき。◆挿絵有り
そうして迎えた夜会――
きらびやかな仮面舞踏会の会場は、様々な紳士淑女で溢れかえっていた。
幾重にも吊り下げられたシャンデリアから落とされる七色の光。
人々のひしめきの中、主催を務める聖女は緊張の面持ち。
勇者がついているとはいえ、社交界に出なかった自身が主催――
考えることや不安が纏わりつくが『なるようになる』と活を入れ壇上へ。
壇上へたどり着けば、人々の視線が一斉に注がれる
(こういう時は、人間を野菜に見立てるのです……ふう。)
「本日はこのような夜会にお集まりいただきまして、感謝申しあげます。
私――【聖女】セラフィーナ・ヴァイオレットの名のもとに――」
「日々を与えてくださる神々の恩恵と、その御慈愛に感謝を捧げ……。」
「この国に生きる全ての民の平穏と、今宵訪れる奇跡を祈念し――
今ここに……祝福の夜会の幕開けを、宣言いたします。」
言葉と共に両手を胸の前に組み《祈り》を捧げる聖女。
『天にあらす我らが主よ、冥きを灯す明星の燦然たる輝き――
星霜を超え、我らに福音を与え給う――』
『――《祝福の祈り》』
言葉を落とすと同時に、聖女の身体は淡い金色の光に包まれ――
やがて爆ぜるような虹色の粒子が周囲へ漂い、人々を照らした。
聖女の《祝福の祈り》が会場を包みこみ――
かくして、鮮やかな聖光と共に、聖女主催の夜会が無事開催したのだった。
開会の宣言をした後、セラはすぐに壇上から下り、控えていたノアと合流。
「セラっ!お疲れ様!とっても素敵だったよ!思わず見惚れちゃった!」
「あ、ありがとうございます。ですがどうにも――人が集まる場所はやはり……。
どうにも落ち着きませんねっ……ふう、これからだと言いますのに。」
現在――勇者の姿は普段の服装とは違う。
夜会用に急遽用立てされた衣装に身を包み、彼の姿はまさに『王子様』――
淡く柔らかな金色の毛髪。青空のような澄んだ碧灰色の瞳。
仮面で半分は顔が隠れてはいたのだが、その仮面のせいで妙な色気を放つ。
(これは――仮面は逆にまずかったのでは――?恐ろしい勇者様……。)
王子様のような彼とは対照的に、セラはとてもシンプルな装い。
華美な衣装ではあったが――生成り色の簡素な作り。
一見すると地味なのだが、それでもさすがは聖女主催の夜会。
勇者の姿もあるというだけあり、会場全体から妙な熱気が湧き上がる。
紳士たちは聖女に一声かけようと注目し――
淑女たちもまた、勇者にどうにか見てもらいたいのかそわそわ。
しかしそういった注目を浴びるような場所に慣れていなかった聖女。
悲しいかな――彼女は緊張で喉が乾いてしまい、身体が水分を欲していた。
勇者に断りを入れ、水分補給のため、一度彼から離れた聖女。
(緊張で舌が乾いている……カラッカラ……飲み物……はあちらかしら?)
(ノアは――ああなんてこと。囲まれてらっしゃる……ごめんなさいっ……!)
聖女という防波堤を失ってしまった勇者の周辺には人だかり。
主に貴族子女や令嬢が押し寄せ、彼の姿は頭しか確認できない。
勇者はたじろいでいるが、それでも微笑は絶やしていないようだ。
「まぁ、勇者様……!お若いのになんて凛々しさなのでしょう……!」
「剣の鍛錬の秘訣をぜひわたくしに、お教えくださいましっ!」
「お好きなお花はありますのかしら……? 贈り物の参考にぜひに……!」
勇者に向けられるのは、黄色い視線と声。令嬢たちから押し寄せる質問の嵐。
「こんなにも――多くのお嬢様方に、お声がけいただけるだなんて……。
勇者冥利に尽きるというもの……僕はなんて幸福なのでしょう……!」
勇者の声はとても澄み切った声色。それでいて、花の蜜のように甘ったるい。
(なんて素晴らしい声音なのでしょう……! たまりませんわ……!)
(勇者様と目があってしまいました! わたくし、今日が命日ですのね……。)
一斉に息を詰まらせる令嬢たち――ふらつくものまで現れる始末。
困ったような微笑で令嬢たちを見回した後、言葉を続ける勇者。
「それゆえに……あなた方にひとつだけ、お尋ねしてもよろしいでしょうか?
――『ニヴェイシア』という家名の貴族について、ご存知の方は?」
場の空気が一瞬固まるが、返ってきた言葉は口々の否定。
――『しらない』や『聞いたこともない』といった言葉ばかり聞こえてくる。
令嬢たちは互いに目を合わせ、口元を扇で隠し、各々で「ヒソヒソ」と語る。
やがて一人の令嬢が控えめの挙手の後、ノアを見つめ――声を届けた。
「『ニヴェイシア』――ですのよね? でしたら確か……薬学に長けた家系と。
そう聞いた覚えがございますわ。 研究家のお家柄でしたはず……ですわ。
滅多に社交界へはお出ましにならない家系でして――」
「わたくしも詳細を知るところではございませんの……ただ――
とても見目麗しい家系――と、お耳にしておりますわ。」
はっとした表情を浮かべた、別の令嬢が口元を隠し言葉を重ねる。
「――確か、交易都市のヴァルメリアにて、お屋敷を構えてらっしゃるとか。
いつだったか、お父様からそうお聞きしましたの。」
小さく頷いた後、令嬢たちに優雅に一礼をするノア。
洗練された美しい所作の勇者――令嬢たちから声が湧き上がる。
彼が少しでも何か行動をすると、周囲からは抑えきれない吐息が漏れていた。
「ご教示いただき、心よりの感謝を……お嬢様方。
僕がこれ以上ここに居ては、この場を乱してしまいますね?それでは――
可憐な妖精の皆さま――どうか、心ゆくまで楽しんでいってくださいねっ」
ノアは無意識にとんでもない色気を振りまき、令嬢たちはふらり――
一斉にため息をつき、頬や胸を抑えるもので場は混沌を極めていた。
そんな令嬢たちを一歩引いた目で見つめ、そそくさとその場から立ち去る勇者。
(びっくりしたぁ……まさか聖剣さんが僕の口を借りるだなんて――)
(でもお陰様で助かったから……何も言わないでおこう……っ!)




