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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
二章:誘われるままに。
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その【陰謀】大成功につき。



屋敷へと戻り、男三人、ノア、パルテオン、アメトはと言うと――

彼らはスライムの体液を落とす為、颯爽と足早に浴室へと向かっていた。


彼らが浴室に向かうのを見届けた女性陣。ルルがふと、聖女へと疑問を投げる。


「なー、思うたんじゃけどさ。 ノアちゃんとパルちゃんって――

 替えの装備あるんじゃろうか? いっつも同じ服じゃない?」


「そうですね…? いつも同じ見た目な気がします…。

 どうしてらっしゃるのかしら……?」


セラとルルは互いに顔を見合わせ、疑問符を浮かべる。

男たちはそんな女性陣の疑問を背に、湯殿へそそくさと赴いていた。


ニヴェイシア邸の広い浴場にて、ノアは身体を洗った後湯に沈む。

温かな薬湯に身を鎮め、側で同じように湯に浸かっている騎士(パルテオン)へと話しを振った。


「ねぇどーしよパル…。 あの服、国から支給された物だったのに…。

 替えの装備、ちゃんと用意しておくんだったね…困ったねぇ……。」


指先で湿った髪をかきあげ、やたらと色っぽい仕草で心配そうに呟く。

湯船にどっしり浸かった騎士(パルテオン)は、ずるりと背を沈め溜息混じりの言葉を吐いた。


「俺もだ。 俺のは騎士時代からの愛用品だったんだがな……

 まさかあんな呆気ない終わり方するなんてよ…。 ッハァ~……。」


騎士(パルテオン)の横顔はどこか哀愁が漂っており、長年愛用した軽鎧――

それが無惨に汚され、呆気なく無駄にされてしまった怒りと悲しみ。


彼の憤りや複雑な感情は、計り知れない。


「そういえばアメトさーん。 ヴァルメリアの近郊の迷宮――

 例のあの、真っ黒の泥の石! あれがあったんだ。 何か知らない?」


唐突に話題を振られ、アメトはぴしゃりと固まった。

彼はこれでもかと、丁寧に自分磨きをしていたのだがその手を止める。


しかしすぐに手を動かし、濃密な泡を手に、ノアの問いに答えた。


「?? アビサルエロー迷宮にあの石? ボクここ数年立ち入ってないケド。

 ボクが居るのに? なんで? 置く理由が分からないのだケド。」


彼の態度からは、とても嘘を言っているような雰囲気ではない。

ノアとパルテオンは互いに顔を見合わせ、怪訝そうに眉を寄せた。


「もしかしたら、ボクは既に同族に見限られているのかもしれないネー。」


アメトは淡々と、スライムの体液の残滓を拭う為、入念に洗っていた。

どうやら相当、スライム体液の“ぬめり”が不快だったらしい。


きめ細かな泡で、指先から髪の毛の一本に至るまで、丁寧に洗い込んでいた。

さながら、高級スパの極上サービスを自身へ施しているかのような、丁寧さ。


「アメトさんにも分からないんじゃ、僕たちに分かるはずもないよね……。

 困ったけれど、地道に調べるしか無いね。」


「そういえばさ、パルっ! パルのもすっごく立派だけど――

 アメトさんのも、すっっごく、立派なんだよっ!」


ノアの落とした言葉に、一瞬凍りつくアメト。眉を跳ねさせるパルテオン。


「ガッハッハ!!そりゃ良いことだな! 男なら立派じゃねえとなッ!」


弾む彼らの声にアメトはというと、ゆっくりと彼らに視線を投げる。

湯船に浸かる彼らに怪訝な視線を送るのだが、彼らは笑い合っていた。


「……ネェ、何のコト? キミら、何の話してるの?」


泡だらけの身体を抱え、彼らの言葉を待つ半魔(アメト)は、どうにも腑に落ちない様子。

しかしアメトの問いに、豪快に笑い声を上げながらも騎士(パルテオン)が答える。


「ガッハッハ! 子爵が何の想像してるか分からんが、筋肉の話だろ?

 筋肉が立派なのは良いことだ! 男であれば尚の事! ハハッハ!」


アメトは湯気の中沈黙を貫き(筋肉?)と真剣に思考し、そっと目を伏せた。

身体を隈無く丁寧に洗い上げ、ぬめりが無いかを真剣に確認した後――


アメトは湯船に浸かることなく、彼らを無視し、大浴場を後にした。


脱衣場には、無表情の使用人が目を瞑ったまま控えており、手にはバスローブ。


「旦那様、お疲れ様でございます。 お召し物は本日もこちらで?」


「ンー、それで構わない。」


無表情のメイドは黙々とアメトの身体を拭き、バスローブを着せる。

何事も無かったように軽く一礼した後、そのまま何処かへ姿を消した。


(筋肉? なぜ筋肉の話しをあの場所で? 意味がわからない。)


バスローブを身に纏い、タオルを頭に被せ、脱衣所から立ち去るが――

彼の頭の中は、先程のノアとパルテオンの“筋肉”の話題で一杯だった。


◇ ◇ ◇


同じ屋敷内の別室、ルルはというと――


彼女は笑顔が印象的な使用人に、ホットミルクを用意させていた。

持ってこられたティーカップと、ホットミルク入りのポットを見つめる。


彼女は小瓶を片手に、紅い瞳には好奇の色を宿し「ふんす」と鼻を鳴らす。

カップは全部で五つ……怪しまれないように、全員分のを用意させていた。


この屋敷の主であるアメト用のカップにだけ、小瓶の中身を注ぎ込む。

手早く小瓶を懐に仕舞い、スプーンで緩やかに撹拌し、その時に備える。


彼女の好奇心は限界突破しており、これを飲んだらどうなるか?

という想像が忙しなく働き、彼女の脳内では軽いお祭り騒ぎ。


(ひゃーっひゃっひゃ! これであのニヤけ面がどうなるんか、見ものじゃ!)


悲惨な事に、彼女の思惑など、誰一人として、つゆ程にも知らない。


そんな中、広間へのこのこ姿を現してしまったアメト。

刻一刻と、惨事へのカウントダウンが始まっていた。


「お疲れ様チビっ子チャン。 浴室だけれど、まだ勇者サマたちがいるヨ。

 入るなら、もう少し時間を開けたほうがいい。 それで、それは?」


ルルは一見すると完全にいつもの無表情。その感情を読み取ることは困難。

また、アメトは彼女が“呪い”により、表情が出せない事を知らない。


その事が功を奏してしまい、内心ホックホクの小人族(ルル)だったが――

この半魔が気がつくことは、残念ながら……無い。


最&高(さいっこう)のタイミングで戻ってきやがったな! ひゃひゃ!)

(子爵ちゃん、あたしの実験体になってもらうぜ! じゃあの。)


「これハニーミルク。 あたし特製の甘みばっちりのやつ。

 疲れとる身体には甘味っしょ? はい。 これ子爵ちゃんの分。

 甘味だけに甘くみとったら……痛い目あうぜー?」


アメトは先程の浴室での一件があり、筋肉の話が未だに脳を支配。

故に、彼女の思惑を見抜けない――普段の彼であれば、警戒するところだった。


しかし、天運はルルに味方し、彼は何も考えずにカップを手に取る。


「ン、ドーモネ。」と、感謝の言葉を伝え、カップの中身を一気に煽った。

溜息一つ、疲れた微笑を浮かべ、アメトは屈み込みルルの頭を撫でる。


そのまま立ち上がり、盛大な溜息のおかわりをした後、広間から消えた。


ルルは完全に大勝利を噛み締め、したり顔のような瞳で彼を見送る。

勝利を宣言し、彼女の脳内では勝ち鬨を上げ、祝杯の祭りが催される始末。


複数の小さなルルが脳内で踊り、ガッツポーズを決め、カーニバル真っ最中。


(あーー!! あたしに表情筋が死んどる呪いあってよかった!!!)

(精霊神様ー!!ありがと!!精霊神様のせいじゃないけど!!!)

(この“呪い”の名前、付けてくれた人に感謝感激雨霰ーーッ!!)


彼女は自身の作成した“秘薬”の効果以上の興奮状態にあった。

人知れず、不思議な小躍りを披露する程のテンションの上がり具合。


その後はパタパタと小さな足音を響かせ、セラの元へ駆け出すルル。

何も知らない【聖女(セラ)】は、お腹に抱きついてきたルルを抱きしめ返す。


「セラちゃん! あたしと一緒にお風呂はいろ! 洗いっこしよ!」


「はいっ! 分かりましたぁっ! ノアたちが戻ってきたら、ぜひに!」


セラは何事かとルルの頭を撫で、元気に返答を返すが――

ルルはというと、セラの腹部で無表情ではあったが、瞳には悪い輝き。


完全にクソガキのソレで、この時、この瞬間だけは――

この悪戯小僧のような小人族・ルルリカの為に世界が回っていた。


あまりにタイミング良く、残りの男性陣が、浴室から上がってくる。

彼らはバスローブ姿で広間へと現れ、項垂れながら、セラたちに声を掛けた。


「これ、メイドさんに貸してもらったやつなんだけどねぇ……

 本当はアメトさん用のだから、僕が着るとこんな有様で……えへへ。」


ノアのバスローブ姿は、裾が床につきそうな程で、また胸元が開けていた。

故に色気が凄まじく、セラはドン引きでルルは平然。


「ノアの今の姿……。ちょいやべーよな。 女子には見せられん……」


パルテオンはやや呆れた調子で語り、そのまま彼らは交代。


「んじゃ、次あたしら風呂入ってくるけー。 セラちゃんおるけーって……

 覗いちゃダメだぜー? あ、それと――」


「机の上にホットミルク用意しとるけぇ、飲んでねー!デュワーッ!」


彼女はそれだけ言い残すと、セラの腕を引き、何故か急ぎ足で広間から離れた。


パルテオンはルルの様子に若干の違和感を覚えていたが――

きっと触らぬ神に祟りなしと、そう判断し、机に並べられたカップへ目を向ける。


どかりとソファに腰掛け、ノアもまた腰を落ち着かせ、二人で溜息を吐き出す。


「なんだかルル、すっごく楽しそうだったねぇ!

 そんなにお風呂入りたかったのかな? 気持ちがいいもんねぇ…!」


「なんか俺ァ…すっげえ悪寒がしてる。 嫌な予感がするぜ…!」


その後、男性陣は今後の服をどうするかの話し合いをするのだった。


◇ ◇ ◇


場面は再び大浴場へと移るが――

今度は男性陣と違い、むさ苦しくない実に華やかな空気。


だが、どういう理由なのか、セラはルルに身体の隅々まで洗われていた。


「ど、どうしちゃったのです? ルルちゃんっ…!!! ちょ……っ!

 脇腹は擽ったいですよ? 前は自分で洗いますからっ…!」


普段は無表情一辺倒の彼女の表情が、何故か今はどこか――

楽しそうな瞳の輝きで、気持ち口角も上がっているように見える。


どこか得意げに、セラの身体を丁寧に撫で回し、いけしゃあしゃあと声を上げた。


「日頃のお礼ーあとスライム液がついとらんか心配じゃったけぇさー?

 んじゃけ、こうやって丁寧に洗っとんよー。」


「なんかの拍子であのスライム液、付着しとったらさ、嫌じゃん?

 じゃけぇこうして、ねぇ…? ぐへへ……」


「わ、笑い方が怖いですよ…? ともかく有難うございますっ…!

 んっ……わ、脇腹は、脇腹はやめてくださいっ……!」


セラは顔を赤らめさせ、されるがままにルルに丸洗いされていた。


洗い終わると、二人でゆっくり湯船に浸かり、程よく身体が温まっていく。

しっかりと身を清めた後、濡れた身体のまま脱衣所へ。


セラの艶のある髪を、ルルが魔法で温風を送り、梳きながら乾かす。


「セラちゃんの御髪すっごいきれーだな…! この辺じゃあんま――

 見かけん色な気がする。 めっちゃ目立ちそう。」


「そうですね…。確かに煌陽国では珍しい髪色かもしれませんねぇ…?

 ふぅーー……。 その温かい風、すっごく気持ちいい……」


髪の毛を乾かし終えると、セラの髪を梳かしながら、ルルが口を開いた。


「きもちえがったー? ならよかった! あたし超万能!

 そいやさ、子爵ちゃんがなんかセラちゃんを自室に呼んどったよ?」


「え?閣下が私を? 私、何か変なことをしてしまったのかしら…。

 それとも魔族に関する大事なお話でしょうか……分かりました。」


セラは全くといっていいほど、ルルを疑う様子は無く、完全に信じ切っていた。

小首を傾げ、真剣に頭を捻る様子にルルは若干、良心の呵責に苛まれる。


しかし後の祭り。ルルはセラの髪を整え、眠そうに欠伸を噛んでいた。


「ふいー! ばっちし髪型もきまっとるぜ! んじゃあたしは――

 身体温まったら、眠なったけぇ寝るわー。 じゃあのー。」


ルルはそのまま、脱衣所を後にし、姿を消し、セラは一人残される。

先程ルルから伝えられた「子爵が呼んでいる」という言葉に多少の疑念を覚えた。


(閣下から私を呼びつける用事……何かしら…? 粗相したのかしら、私…。)


小首を傾げ、セラはルルに唆され、屋敷の主の自室へと、向かっていった。


――それがルルの罠だと、つゆ知らず。





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