頁:45 その【作戦】名案につき。
――◆第四章
賢者に別れを告げ、大図書館を抜けて都市を並んで歩く勇者たち。
時刻はすでに夜を回っており、宿までの道中確認できるのは街燈の灯り。
近場の市場からは、雑多な食事の香りが立ち込め、鼻腔を擽った。
何気ない会話を交わし、宿で軽い食事を済ませ――
聖女の待っているであろう一室へと向かった三人。
部屋へ戻ると、聖女は寝台へ腰を掛け、落ち着いている様子を見せていた。
「おかえりなさいませ、みなさま。」
「うん、ただいま!――さて、それじゃあ……お話があります!」
全員、なんとなく腰を落ち着かせ――勇者の動きを待つ。
彼は腰に下げていた皮のポーチを漁り、賢者から受け取った物を取り出した。
机に「かちゃり」と音を立て並べられたのは、銀色に輝く耳飾り。
「あの……そちらの耳飾りは……?説明を頂いても?」
「あー、これね?これは――……ってこと。
賢者ちゃんと離れとっても、会話できるやつらしーぜ。」
全員が耳飾りを手に取り――視線を交わし、頷き合う。
耳たぶへと装着し、動作確認をするまでもなく、その瞬間の出来事だった。
最初は「ガタッ……」という、小さな音。
ガラン!……ドダドダドダッ!!――ガタンッ!
…………ガッシャーーーンッ!――……ドゴンッ……。
全員の耳に流れ込んでくるのは、現実味がある騒音。
謎の生活音が場の空気を支配し、全員『なんだこれは』と顔を見合わせた。
雑音というよりは完全に騒音。ゆえに全員しかめっ面。
騎士は早速耳飾りを遠ざけるが――僅かに耳に届く音。
『ス……スミマセヌッ……装着早々耳飾りが耳たぶから離れ転げ落ち――』
『慌てて取ろうと念動を行使した結果、机の上の本をひっくり返し――
あらゆる物体がワタクシに牙を向き、あのようなァッ――!!』
恐らくは禁書庫内にいるであろう、賢者の声だが……情けなさすぎる。
「あのさ――あーた……そこで生活、しとらんよな?」
無表情ではあったが、僅かに瞳を細め、賢者へと尋ねたルル。
しんとした沈黙が流れ――賢者からの返答は一切ない。
沈黙が指し示すのはつまり――『そこで生活をしている』という肯定。
状況を理解してしまったノアとパルテオン。
彼らは肩を震わせ、必死に笑いを堪え――なんとか口を開いた勇者。
「と、とりあえず――そのままでいいからさ……ふふッ!
作戦会議に参加してもらっても、いいかな?」
『勿論ですともッ!勇者殿!なんなりと、ハイッ!!!』
なぜだろうか、彼の返答は妙に芝居がかっている。
小さな咳払いの後、ノアが真剣な面持ちで皆へと目を向けた。
「えーっと、これは『僕たち』が考えた提案なんだけれど――
とりあえずは聞いてもらってもいいかな?」
ノアの言葉に全員が無言で頷き、賢者からも『ハイッ』と返答が投げられる。
「それじゃ……僕は勇者って立場があるのは、皆の知る所だよね?」
「それで、セラは聖女様で貴族の令嬢さんなのは……知ってるよね?
それで『僕たち』が考えたんだけど、同じ貴族のニヴェイシアさん。」
「その人の情報を探るなら、社交界に出るのがいいかなって思ったんだっ!
――で、ここで僕たちの出番っ!僕たちが社交界で貴族の情報を探るっ!
まぁ、僕が考えた作戦じゃなくて、聖剣さんが考えた作戦だけどね……。」
語り終えたのか、ノアは『どうかな?』と全員に対し同意を求めた。
勇者に視線を投げられた全員が頷き、賛成の意思を見せる。
「あたしは概ねさんせーい。 それでええと思う。」
「俺も賛成だ――俺は、騎士の友人に当たってみる。」
「私も賛成です。ノアと同じようなことを考えておりましたので……。」
全員の賛成意見に賢者も『良き案かとッ!』との返答を投げた。
「んじゃーさ、あたし一人になるけぇ淋しいし、賢者ちゃんの助手やるわ。
あたしは女子、女児じゃない――ぜっ……っぷ。」
軽いノリで吐き出されたルルの言葉に、部屋の温度が下がった。
しかし誰も――何も言わず、賢者ですら沈黙を貫く。
寸瞬の間ではあったが、賢者が助け舟を出すように反応を示してくれた。
『で、ではワタクシの助手をお願い致しますッ!!ルル嬢ッ!
一人より二人の方が断然効率的でありますからなッ!!』
「それじゃ……決まりだねぇっ!」
ノアの一言を最後に、短い作戦会議は無事に終了。
その後――男性と女性に分かれ、それぞれ借りている部屋へと向かった。
が、一部……禁書庫の賢者の様子はとても騒がしかったようだ。
全員が耳飾りを外しているにも関わらず、届けられる禁書庫の音声。
それは書き殴る音であったり、書物の倒れる音であったり――様々。
あまりにうるさすぎる音漏れ。しかし誰もツッコまない。
その後は部屋越しに就寝の挨拶が交わされ――
各々の部屋で寝台に身を沈め、部屋のランタンの明かりが消えていった。
落ち着いた静寂……皆が寝静まった夜半頃。
耳飾り越しに響くのは、賢者から届けられる騒音。しかし悲しいかな。
――彼が奏でる騒音に気がつくものは、誰一人いなかった。




