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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
三章:誘われるままに。

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頁:43 その【情報】精査につき。



 学術都市・大図書館内部――とある一角の会議室。


 大図書館という場所だが、その場所に置いてある物は本棚ではない。

 代わりにあるのは、静かに学業に励めるようにと工夫された空間。


 窓から射し込む優しい陽光に、窓の側には観葉植物。

 シンプルな丸いテーブルに、座り心地の悪そうな木の椅子。


 そこに集まった勇者たちと、学術都市の賢者。

 しんと静まり返った空間。賢者が全員の姿を確認し頷いた。


 ガサゴソと音を立て荷物をまさぐり、一つの道具を取り出した賢者。


 それは――この場に相応しくない、ランタンのような小道具。


「こちらは防音・遮音の効果が施された魔道具デスッ!!

 迷宮にしかない特殊な鉱石を使用し錬金術師による特別な加工がッ――」


 唐突に始まりかけた賢者のウンチクではあったが――

 隣にいる小人族から「ぺしょり」と頭を小突かれ、言葉を中断。


 掻い摘めという彼女からのありがたいお言葉。


 彼、賢者の説明によると、取り出されたランタン形の小道具。

 それは魔道具といわれる代物だそうで、なにやら使用すれば音を通さないとか。


 秘密の会話をするのに最適な道具なのだそうだ。


 説明ほどほどに、ランタンのつまみを回すと、たちまち周囲に広がる光。

 緑色のドーム状の膜が広がり、音が反響しない空間を生み出した。


「それではッ!各自情報収集の成果をッ!進行役はこの禁書庫が司書――

 賢者バルタザールめが務めますぞッ!」


 高らかな声で宣言していたが、さすがは魔道具。

 彼の声量は抑えられ、声は響かない。


 静けさが広がる中――騎士が小さく挙手し、椅子から立ち上がった。

 腰に下げている皮のポーチから一枚の紙を取り出し、無言で机に広げる。


「んじゃまずは俺からいかせて貰うぞ――?」


「鍛冶屋で盾の修理ついでに、冒険者ギルドで情報を集めてきた。

 ニヴェイシア子爵についてだが――こりゃどうにもきな臭ェぞ。」


「っと、肝心の情報だが、すげー顔が良いってのと……

 あと、十年経っても容姿が変わらんとかそんなとこだ。」


「それと、初代から現当主まで同じような顔だった――とか、んなとこだ。」


 騎士の言葉に耳を傾けていた聖女。そっと瞳を閉じ――

 教会でのあの一件――あのとき近くで見た彼の顔を思い描く。


 温度の感じない白肌、人形めいた不気味な美しさ。

 微笑の裏に隠れた本性――秘匿されたような……言い知れない感覚。


(ひっかかる……なぜ……なぜあの方は……。) 


「フムフム――なるほど、世代を跨いでも変わらぬ容姿……ッ。」


「人族の地で爵位を得ているが容姿が変わらないとなると、失礼ですが――

 ニヴェイシア子爵が長命の種族である可能性はッ?」


「誠に申し訳がないのですが――公式記録には種族までの記載はなく……ッ!

 また虚弱体質であったと風聞を耳にしたことはありますが――ッ……!

 こちらは信憑性も根拠もない噂話でして……ッ!」


 賢者の質問に対し、騎士が頭を掻きながらも答えた。


「ああ……その話なんだがよ。情報を提供してくれた令嬢――

 吟遊詩人の『ゼクス』ちゅー嬢ちゃんが語ってくれたが……。

 エルフかなんかの血が混ざってんじゃねぇのかって話だそうだ。」


 ――『んなところだ』という言葉で締めくくり、騎士は静かに着席。


 彼が椅子に腰掛けたと同時、ルルがぴょんと立ち上がるが――

 彼女の帽子の上にはあの謎の毛玉・キューの姿。


 いったい何時からいたのか、何処にいたのか、まるで不明の謎生物。


『あのッ……!あの小さな生き物はいったい……なんなのですかッ――!?』


 あまりにも不可思議な生物に、賢者が隣にいる勇者に耳打ち。

 しかし勇者にもその生物の素性はわからない。分かるはずもない。


 ゆえに、彼の回答はさっぱりとした『さあ?』という絶望的なもの。


 まるでバケモノでも見るかのような瞳を謎の生き物へ向け――

 視線を再び小人族の彼女へ戻した。


「んじゃあたしらね?あたしらが調べとったのは公式記録とかばっか。

 あとは、すげえ信憑性の欠片もねぇ噂話とかばっかり。つまりってーと……」


「あたしらの成果はなーんもねぇってこと! ふっふーん!」


 彼女の言葉が落とされると同時――賢者は机に項垂れ突っ伏した。

 涙こそは流していないが、舞台役者さながらの大げさな動作で。


 そうして騎士や小人族の視線は自ずと勇者へと向けられた。


「あれ?僕の番……?期待してるところごめんねぇ……僕は特に何も――

 情報っていう情報を持ち帰ってないんだぁ……聖剣さんとお散歩してて!」


「それじゃ、セラの番だね?どうだった?教会に行ってきたんだよね?」


 話を振られ、全員の視線を浴びるが、彼女ははっとした表情で苦笑。

 まるで不安が指先に宿るように、視線を泳がせ、ぎこちなく微笑む聖女。


「あの――私も何も情報は持ち帰っておりませんの……。ごめんなさい。」


 彼女はまるで、何かに怯える小動物のように小さく震え――

 泳いでいる視線。それは『何かを隠している』かのような動作そのもの。


(セラちゃん……嘘つくん下手くそすぎじゃろ……不安と恐怖の感情?)

(記憶は……心閉ざしてんなー……心配をかけさせたくない……もあるか。)


「とりまさー……あたしおなかすいとるんよ、ご飯たべたい。」


 聖女の内情を汲み取った結果――小人族の彼女なりの今できる最大限の配慮。


 その後――賢者は記録をまとめるとのことで図書館へ居残り。

 それ以外の全員、勇者たちは大図書館を後に街へと繰り出した。


 食事を摂るためと街へ出たのはよかったが――セラは依然として俯いたまま。


 彼女の様子は明らかにいつもと違うのだが、ノアたちは踏み込めずにいた。


「あのさ、セラ。調子が悪いのなら一旦宿に戻ろう?顔色も――

 あんまりよくないし、君って元々身体が弱かったって……ね?」


 なるべく当たり障りないように、優しく語りかけたつもりだった。

 しかし勇者の言葉は今の聖女にとっては毒そのもの。


 彼の真っ直ぐな瞳と優しさが、逆に深く突き刺さる結果となり――


「だ、大丈夫なのです――ッ!迷宮での一件を思い出してッ!それで――ッ!

 私は、平気なの、です……ッ!平気、です……から……。」


 明らかに無理をしているのだろうが……彼女は頑なだった。

 ルルがノアのマントをちょいちょいと引き――首を横に振る。


 結局――その後はルルの説得後に、セラは宿で待機することに。


 ノアたちは三人で行動する運びとなった。





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