その【火照】別物につき。
夢を、見ていた。その夢の中はとても暗く、上下も、前後も分からない闇。
その中に、背を向けて膝を抱え込んだ女の子が一人、佇んでいた。
気になって、女の子の側に身体を寄せると、私に良く似た髪色の女の子。
何があったのか、分からない。けれど、とりあえず「大丈夫?」と声を掛ける。
女の子はすすり泣くような声を押し殺し、震え、掠れた声で、語りかけた。
「こんな、大変な事、大変な身体を、押し付けてしまって……
ごめんなさい。 わたしの、せいで。 わたしの、わたしの……。」
泣いている理由も、言葉の意味も、私には理解することが出来ない。
それでも「どうして…?」と、言葉を返してみる。
女の子は、それ以上は何も言わず、嗚咽を我慢するような音を響かせる。
「大丈夫だよ。 私は辛くないから。 だから…だからね?
どうか…泣かないで? 二人で一緒に、これからも頑張ろうね。
私が付いてるから。 だからわたしは泣かなくっても良いんだよ。」
意識的な言葉ではなく、何故かそう、口が勝手に動いていて。
言葉として、無意識に落とされた言葉。でも、不思議と嫌ではない。
理由もなく、ただ思考に流れ込んできた言葉。それを口が勝手に紡ぐ。
安心を分けてあげたくて、小さな背中を、後ろから抱き締める。
よく口ずさんでいた調べを、小さな女の子に聴かせてあげた。
すると――自身の内部に、温かい何かが、流れ込む感覚。
気がつけば真っ暗だった場所は、虹色の粒子に囲まれた、温かな場所。
温もりに抱かれ、心地よい熱に、ついうとうとし、微睡んでいく思考。
気がつけば、私は、意識を手放していた。
◇ ◇ ◇
セラの知らぬ所で、とんでもない目に遭遇し、しばらく後――昼過ぎ頃。
薄いカーテン越しに、暖かい光が部屋の全体を照らし出す。
勇者ノアたちと、寝台に横たわるセラを柔らかく包み込んでいた。
彼女の呼吸は、苦しさから解放されたのか、幾分かマシに。
すうすうと寝息を立て、寝台に横になり、三人に凝視され見守られていた。
頬はまだほんのりと、赤らみを帯びてはいる。
しかし薬の効能なのだろう、顔色は随分と良くなり、セラはうっすらと目を開く。
側には心配そうに見つめる、ノアたち三人の姿。
ぎょっとしたが、自身の身体に感じる体調の悪さに、合点がいった。
上体を僅かに起こし、掠れた声を小さく零し、一同に問いを投げるセラ。
「んっ…。 あ、あれ…? みなさま…どう、されたの…?
あの、わたし…身体が重くって…。 いったい、何が起こったの…?」
セラが全員に風邪が移ってはいけないと気を遣い、口元を隠し語りかける。
しかし、ノア、パルテオンの顔は赤く、理由が不明で、何事かと目を見開く。
ルルは無表情。しかし瞳からは、楽しそうな雰囲気を感じ取ることが出来た。
「ノア…? パルテオンさん…? ルルちゃん……?
あの…私。 またご迷惑をお掛けしたのでしょうか……?」
セラは、未だに万全な状態では無い。
頬を赤らめ、おずおずと三人に問いかけるが、何故か、無言。
自身が気を失っている間に、一体何が起きたのか?と、不安に駆られるセラ。
続けて側にいたルルへと顔を向けるが、ルルは目を細める。
「うん。 聞かん方が、ええとおもう。 あたしはそう思う、うん。」
ルルの言葉の意味が理解できず、頭には複数の疑問符が並ぶ。
ノアとパルテオンに再び顔を向けてみるが、彼らは依然として沈黙。
理由はさっぱり分からなかったが、埒が明かないと諦める事に。
一先ず、自信の記憶している範囲で、何があったかを、皆へと共有したセラ。
ノアが「なるほど…」と呟いた後、今朝方の出来事を、セラに簡単に説明。
しかし彼は、何故か時折しどろもどろになり、頬も赤く、セラは混乱。
小首を傾げ、納得は出来なかったが、ツッコミたい気持ちを押さえるセラ。
「ゴホッ……。 大体は、分かりました。 それではええっと――
ここまで運んで下さったのは、ニヴェイシア閣下だったのですね?
それで、薬を飲ませて下さった、と…」
「――で、それで?? その後は??」
「うん……うん。 セラを運んだのはアメトさん。 薬も…うん。
僕たちはただ、看病するしか出来なかったんだ……あはは……。
あとで僕から、アメトさんにしっかり、お礼を伝えておくからねっ!」
ノアは頑なに、セラの『その後』の問いには答えず、パルテオンも無言。
ルルに至っては無表情故に、何を考えているか、さっぱり分からない。
そんなやり取りをしていた直ぐ側――唐突に部屋中に落とされた轟音。
まるで、雷鳴が轟くような凄まじい爆音に、ノア、セラ、ルルは肩を上げる。
『ギュググルルルッ』という、凄まじい咆哮のような、騒音。
騎士が慌ててお腹を押さえつけ、顔を歪めていた。
全員が目を剥き、一斉に音の主・パルテオンへと、視線を向ける。
「びびったーー……。 なんかー思うたわ……。
魔物の鳴き声…? お腹の音よね…? ほんまに人間の音なん?」
「わっ…わりぃ! 朝食抜いて看病してたからよっ!!
セラが起きて、それで気が緩んじまって! ガハハ!」
「わりぃ! もうだめだ! 俺の腹が限界みてぇだ! ガッハッハ!」
腹部をさすり、堂々と潔く言い放った騎士に、皆は吹き出した。
その後、彼らは食事を食べに行くと言って、セラの寝室を後にしてしまった。
セラは寝台の上で一人ぼっち。布団の中で、不自由な身体を動かしていた。
薬のお陰もあり、熱は少しずつ下がってはいたのだが――しかし。
じっとりとした汗が、着用している衣類を濡らし、肌に纏わりつく。
それ故に、大変な不快感を生んでおり、おまけに身体も怠いと来た。
動くのも一苦労という有り様で、人知れず助けを求め、身動ぎをするセラ。
「うう…汗で服が貼り付いて気持ち悪い…。 ルルちゃん…助けて…」
貼り付く衣類。自身から湧き出る汗で、布団は湿気を帯びている。
彼女にとっては地獄で、なんとか不快感を拭おうと、身をよじるが――
布団を動かすと、涼しすぎる風が肌を刺すようで、どうにもならない。
不快感との戦闘真っ只中――そんな中、セラの耳に届けられる、扉を叩く音。
「失礼します、聖女様」という言葉と共に扉が開かれ、無表情のメイドが入室。
「ご気分は如何でしょうか。 旦那様から、こちらを召し上がるようにと。」
彼女は眉一つ動かさず、淡々と言葉を紡ぎ、彼女の部屋の机へそっと盆を置く。
「こちらは当屋敷の薬草園にて、管理されている薬草と野菜……
それと、穀物を使った、スープにございます。」
「病床に伏せっていても食せるようにと、配慮して作られております。
毒物等は含まれておりません。 ご心配でしたら、私が毒見をいたしますが。」
「あ、ええっと…」
セラが何か言いかけるが、メイドは既に退出の姿勢を取っており、セラに一礼。
「申し訳有りませんが、私は仕事がありますので、これで――」
「お、おまちくださいっ! ルルさんを…! 呼んでいただければ…!
お仕事中にごめんなさいっ…! どうか……どうかっ…!
おねがい、します……っ!」
どうにかメイドに伝えるのだが、メイドは眉を寄せ、何やら不思議そうな表情。
一礼をした後「承知いたしました。」と残し、足早に去っていってしまった。
セラはまた一人取り残され、ぼーっとした頭で、瞳を細めた。
体調の悪さも相まって、途端に心細くなり、小さく溜息を吐き出す。
どうにか起き上がろうとするが、膝も腕も鉛のような重たさ。
それでも、なんとか上半身を起こし、布団から脱出。
机の上に配膳された食事へ向かおうと、藻掻くのだが、外気が肌に触れ――
肌を刺すような刺激……急速に冷やされる身体に、項垂れる。
(せ、せめて、食事を摂らねば…! 身体を元気にしないと…)
立ち上がったまでは良かったが、足元は覚束ない上、感覚が鈍い。
それでもどうにか、机まで距離を縮め、あと数歩といった所で――
部屋の外から靴音が響き、次いで、部屋の扉を打ち鳴らす音が聴こえてきた。
藁にも縋る思いで、扉に視線を向けるが、聴こえてきた声は軽薄な男声。
「ヤッホー」という、あまりに軽い調子の声色に、肩がびくりと跳ねる。
扉が開かれ、銀白金の長髪を揺らし、屋敷の当主が姿を現した。
彼は相も変わらぬ胡散臭い微笑を湛えたまま、小瓶を片手に、扉を閉める。
あまりの事態について行けず、セラは驚愕。
驚いた拍子に、足を取られ、ふらりと床に身を投げ出しそうになるセラ。
目を瞑り、反動に備えるが、しかし――尻もちを付く前に、ふわりと身体が宙へ。
何事かと、自身の身体へと目を向けると、屋敷の主が、身体を抱きとめていた。
突拍子過ぎる出来事に、頭の理解が追いつくはずもない。
ぱくぱくと口を開閉させ、何か言おうとするのだが、セラは言葉が出なかった。
「あーゴメンゴメン。 驚かせてしまってすまないネ。
てかアイリスは何やってんのサ……ボクに面倒押し付けて……。」
「というかサ。 こんな当たり前のコト、言いたくはないケド――
ボクじゃなくて、お仲間さん呼びつけた方が良くなぁい?
まぁ彼ら、今食事中な訳なんだケドね。 ヒヒッ!」
アメトは言葉を投げながらも、セラの身体を横抱きにし、寝台へ。
セラはというと、羞恥でうまく声を出すことが出来ず、顔を真っ赤に。
抵抗しようにも、身体は重く、されるがままに、寝台に横に。
「わ、私っ! ルルちゃんを、呼んで欲しいって……
そう、使用人の方には、お伝えしたのですっ……!」
「あー。 ウチの使用人。 というかボクもだケド。
誰がその“ルル”ってのか、知らないワケだけれど。 まぁ察するヨ。
あの道化師のチビっ子チャンが“ルル”って子だネ?」
「さて……スープは……ン…? 手つかず? アイリスは何やってんのサ…。
はぁ……。 ウチの使用人がすまないネー、聖女サマ。」
彼は困ったように笑い、スープを乗せた盆をセラの側まで運んだ。
匙を手に取り掬い上げると、微笑みを浮かべ、セラの口元に無言で運ぶ。
セラは視線を逸らし「ええと。」と小首を傾げ、困惑の表情。
しかしアメトは胡散臭い微笑を浮かべたままで、微動だにしない。
「ボクにこうして貰うの、やっぱり嫌? だケド、お仲間サンは今食事中。
今動ける女性の使用人は、アイリス一人でネ。」
「他の使用人といったら、エルドリック…あのおじいちゃんネ。
それと、料理番と庭師の二人だケド。 今は現在彼らは休憩中。
それなら動けるボクが、キミを介助した方が効率的デショ?」
淡々と言葉を紡ぎ、匙を口元に押し付け、食べないのか?と態度で催促。
アメトはやや呆れ気味の表情で、瞳を細めると、更に言葉を続けた。
「お仲間サン待つのも良いケド。 それならボクが来た意味がないよネ?
ほら、良いから食べなヨ。 キミは気にしてもボクは気にしない。」
胡散臭い微笑で、スープに手を翳すアメト。
するとたちまちスープからは湯気が立ち込める。
ルルと似たような魔法を使ったのか、スープの温度を変えたのだろう。
セラは抵抗をやめ、言われた通りに匙に乗るスープを口の中へと入れた。
塩味が薄く、優しい味付けで、香草や薬草の香りが鼻を通り抜ける。
弱った身体に染み渡るソレに、セラの表情も思わず綻んだ。
「ニヴェイシア閣下のお手を煩わせてしまい、申し訳が立ちません。
それに、とても情けないです。 私、もう大人ですのに……。」
「スープ、とても美味しいです。有難うございます……。」
「何度も言うケド。 ボクのコト名前で呼びなヨー?
家名で呼ばれるの、なんだかすっごく他人行儀って感じー。 ヒヒッ!
ま、強制はしないケド。 スープは美味しい? なら良かったヨ。」
「ほら、まだ全然あるからサ。 ちゃぁんと食べて。
はい、あーんして。 ナニ恥ずかしがってんのサ。」
淡々と、セラの口にスープを運ぶアメト。しかし、セラは気が気ではない。
羞恥に喘ぎ、なんとか完食し、やり遂げた――と、セラは肩を落とした。
食べ終わった匙を器に投げ、盆を机の上に運ぶアメト。
彼は退出するでもなく、軽い足取りで寝台に腰を掛けるセラの元へ。
「ちょっと失礼。」と一言断りを入れ、顔が唐突に近づけられる。
セラは目を瞑っており、何が起きたのか理解するのに時間を要してしまった。
気がつけば、ほぼ眼の前に顔が来ており、セラは驚きのあまり、身体を押し返す。
「ちょちょ!! なんなのですか!! まっ……待って下さいっ!!
顔!!! 顔が近すぎます!!! なんなのですかもうっっ!!!」
「ン? あー。 ゴメンゴメン。 体温確認だヨ。
もしかして聖女サマ……ボクにキスされるとでも思った? ヒヒッ!」
「シて欲しいならいくらでもするケド?
あと言い訳になるケド、脇と額って言ったら、額の方が良いデショ?」
アメトは立ち上がり、薬瓶の一つを、セラの元へと投げ渡した。
「そんな怒んないでヨー。 キミ、感情ダダ漏れで分かり易いネ? ヒヒッ!」
セラは言われるまで気が付かなかったが、相当、睨みを利かせていた。
怒りもそうだったが、セラはこれだけは、伝えねばと――
アメトの袖口を小さく引っ張ると、あまりに小さな声で、彼に言葉を掛けた
「す、すみません。 あの。 汗がすごく、て。 か、身体を……。
身体を拭いて頂きたいので、ルルちゃんを、呼んで欲しくて……」
「ボクが拭いたげよっか? ヒヒッ! 冗談冗談。
そのお薬、解熱鎮痛のだからサ。 辛いならちゃんと飲んでネー。
それじゃ、チビっ子チャンだネ? 呼んでくるヨ。 チャオー。」
彼は最後まで、胡散臭い微笑と軽薄な調子で、部屋から立ち去る。
セラはまだなにか言い足りなかったが、看病してくれた手前、口を閉ざす。
ルルが来るまでの時間、羞恥と怒り――それと僅かな感謝の気持ち。
様々な感情が混ざり、情緒が大変、忙しい事になっていたのだった。
(人が弱ってる時にあんな軽口…! 私を誂って……! 許せないっ……!)
(それはそれとして、ご飯とお薬のお礼は言わねば……! 悔しいっ……!)
◇ ◇ ◇
屋敷の主が立ち去り、しばらくした後……軽い足音が、部屋の外から響く。
部屋の扉を打ち鳴らすこともなく――バンッと爆ぜるような音を響かせる。
扉を開け放ったのは、無表情が極まった道化師服の小人族・ルル。
「っ待たせたなぁー!!セラちゅわぁんっ!」
無表情、謎のキメポーズ。妙に弾けた声の彼女が、部屋に飛び込んできた。
セラは泣きそうな瞳でルルを見つめ、駆け寄る彼女を小さく抱き締める。
「ルルちゃん…! ごめんなさいっ……!
服を脱ぎますので、どうか、身体を拭いてください…!
まだ、自由に身体が動かせなくって……!ごめんなさいっ……!!」
「ほーん? なんで子爵ちゃんに頼まんかったん?
多分子爵ちゃんは気にしねーぞ? それかメイドちゃんとか。」
「あの無表情のメイドちゃんとかはー?」
ルルは既に用意されてあった水盆とタオルを机に置くと、魔法で水を生成。
程よく温めた後に、タオルを濡らし、セラの元へと身を寄せる。
「ど、どうしてルルちゃんも、閣下も、私を押し付けるのでしょうか…。
私、そんなに嫌われてるのです? それとメイドさんもなんだか…。」
「閣下以上に頼み辛いと言いますか…。 どっちもどっちと言いますか…。」
確かに、屋敷の使用人のうち、一人の事務的な無表情メイドは……と納得。
ルルは「あーね」と小さく零し、セラの衣類を脱ぐのを手伝う。
濡れタオルを手に、汗ばんだセラの背を、拭っていく。
「あたしは押し付けとるつもりは、ないんよ?
セラちゃんが動けるんならそれが一番なんじゃけど」
「ほら、あたしの体格じゃったら、一人でセラちゃん脱がせんじゃん?
ノアちゃんとパルちゃんは、セラちゃんの身体には絶対触れんし。
メイドちゃんの冷たい方は……多分嫌がりそうじゃん?」
「消去法で考えたら、適任ってあの子爵ちゃんなんじゃねって。
ああいう手合ってのは合理的じゃけぇさー? それだけだぜー」
言いながらも、ルルはセラの身体を優しく拭っていく。
汗ばんだ身体を整え、塗れたタオルがじわりと、体温を調節していった。
「頭では理解しては、いるのですっ……! 閣下が気にしないのも分かります!
ですが……それが妙に釈然としないと言いますか……! 複雑です……。」
ルルは淡々とセラの身体を拭っていき、ようやくスッキリしたセラ。
彼女は安堵の息を零し、ルルが満足気に「ふう」と一息。
拭き終えたタオルを水盆に投げ、ルルはふとした爆弾を投下した。
「なー。 セラちゃんってさ、あの子爵ちゃんの事……
いうほどスッゲー嫌いって訳じゃないんじゃろ? なんつーか…
好意まではいかんでも、嫌悪は無いっぽい感じするんじゃけど。 ちがう?」
ルルの言葉に、服を中途半端な状態で着用し、固まるセラ。
頭の中では(嫌い?好き?)と、ゲシュタルト崩壊を起こしていた。
「えっと? 先程はなんだかんだ言いつつではありましたが……
こんな私に、お世話を焼いてくださいましたし……。」
「そんな方を嫌いになるだなんて、私には到底できません……!」
ルルがセラの中途半端な衣服に手をかけ、着用を手伝う。
相変わらず無表情で、彼女は何を考えているのかさっぱり分からない。
セラの手は相変わらず止まっていたが、不意に柔らかい笑顔を浮かべる。
「それに、なんだか……横顔がとても、素敵だなと、昨晩はそう感じて……
寂しそうにみえるのに、全然寂しそうじゃなくって…って、矛盾してますね。
何か裏があるのでしょう。 信頼も信用も出来ません。 ですが――」
セラは自分では気が付いていなかったが、その言葉を落とす声色は――
語る彼女の表情は、どこか慈愛に溢れた、暖かく柔らかいものだった。
だが流石に、自身の発言に思う所があったのだろう。小首を傾げるセラ。
「ふーん…? なんがあったか、よー知らんけど。 それってよ――」
(それってちょい、あのうさんくせーのに、惹かれとんじゃない?)
(ま、それを伝えるんは野暮じゃろうね。 あたしの中に留めとこ。)
途中で言葉を止め、衣類を整えると、ルルはスタスタと部屋の扉へ。
「すまんすまーん。 嫌悪とか好意とか、変な事言ってさーせん。
セラちゃんはどうにか、子爵ちゃんを信用しようと、しとんじゃろうね。
わりーな、変なこと言っちまってー。 あたし、コレ片してくるー」
熱により、汗ばんで火照っていた身体はたしかにスッキリした。
しかし、それでも何故か、釈然としない火照りが身体を包み込む。
妙に早打ちする鼓動。理由が分からず、セラは自身の身体を抱きしめる。
(し、心臓が……! もしや…不整脈!? そんな……!)
(熱も収まってない……薬の効果が切れて、熱がぶり返しているのやも…!)
セラは動けるようになった身体を動かし、机の上に置いてある薬瓶を手に取る。
小瓶の中身は白く濁る妙過ぎる液体だったが、それをぐいと飲み干した。
「に、にっがぁぁいッッ!」
思わず大声を出してしまう程、口に広がる不快な苦み。
眉間に皺を寄せ、苦みに狼狽えながら、その日は安静にするセラだった。




