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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
三章:誘われるままに。

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43/127

頁:41 その【令嬢】吟遊詩人につき。◆挿絵有り



 その後――

 令嬢に誘われるまま、備え付けの個室酒場へと場所を移した二人。


「念のためになのだ。貴族の話をかたるゆえの配慮というヤツなのだ。」


「人の耳があっては困ろうて?貴様も貴族の端くれであればこそ――

 理解してくれるであろう?なぁ……煌陽国(セレスタリア)が元・騎士……。」


「『パルテオン・バルムンク・ヴァルクレスト』卿よ――ククッ!」


「――マジでおめぇさん、どこまで知ってやがんだ?

 単なる噂好きのお遊び吟遊詩人令嬢――ってわけじゃねぇだろ?」


 ジョッキに注がれている酒を一気に飲み干し、くすりと笑う令嬢。

 小さな鞄を漁り、鞄の大きさにそぐわない紙と羽ペンを差し出した。


「書き置きを残しておいたほうが良いと、我はそう睨んだが。

 いらぬならそれでもよいが――必要であれば我に感謝せよ!ククッ!」


「して我はただ――記憶力が優れているだけのか弱い吟遊詩人なのだッ!」


「早速本題だの……ニヴェイシアに関する事柄――心して聴くがよいッ!」


 吟遊詩人を謳うだけあり――彼女の言葉はまるで詩がごとく紡がれた。



 曰く、子爵はその名を轟かせた頃から奇跡のような美貌であった。

 曰く、時が経っても皺一つ増えない様は、まるで人ならざる不気味な姿。

 曰く、黒い噂一つ無い賢人のような存在で、人々から慕われていた。

 曰く、神出鬼没で、彼の者がどこで何をしているのか、誰にも分からない。

 曰く、ニヴェイシアの名を継ぐものは、皆瓜二つの容姿であった。



 一呼吸を置いて――『クククッ……!』と、怪しい微笑を浮かべた令嬢。


「白金(プラチナム)子爵(ヴィコント)……かの幽玄の白雪(ニヴェイシア)は先祖代々同じような顔つきだったと――」


「そう、風の噂が流れているようだが……我は直接この目で見ておるからな?

 ――ククッ!あれは『エルフ』か『ナニカ』長命の種族であろうて……。

 我と同じ長命特有の香りを――っと……これ以上は有料なのだっ!」


 羽ペンを走らせていた騎士だったが、その手が止まった。

 今、彼女はなんと言った?……『長命特有』彼女も、同じなのか――?


「なぁに……そう、むつかしい顔をするでないのだー。簡単な話なのだ!

 我は半分の血がドワーフというだけのこと。」


「あれだけ酒を呑んで、示唆してやったというに……ヴァルクレスト。」


「貴様さては……鈍感であるのか?」


 酒を片手に『クーッカッカ!』と――豪胆に笑う令嬢。


「まぁよい……次は我が記憶している国の公式記録を紡ぐとしようっ!

 しかと――我の美声を!その耳に!その心にッ!刻むとよいのだ――ッ!」



 ――王歴、六百六十八年にて叙爵。王国の勅命として子爵位を賜る。

 ――王歴、六百九十七年に功績を残し初代没。以降二代目に継承。

 ――王歴、七百二十四年に功績を残し二代目没。以降三代目に継承。



「ふう――……。さて……かの子爵の情報はこの辺りかの……っと。」


「そうであった。これも記録として残っておるが、かの『幽玄の白雪(ニヴェイシア)』――

 子爵当主は代々『アメトリクス』という名を継承しているそうだぞ?」



 ため息を吐き出し、雑な書き置きを見直した後に令嬢の瞳を見つめる。

 懐疑的な色を孕んだ強い眼差しを彼女へと向ける騎士。


 令嬢は頬杖をつき、瞳を細めて酒をちまちまと煽っていた。


挿絵(By みてみん)


「んでもってよ――おめぇさんは結局何者(ナニモン)なんだ?」


「半ドワーフってのは分かったが……貴族令嬢のお遊びで吟遊詩人やってる……。

 ってわけじゃねぇんだろ?どうしてそんな貴族情報に詳しい?」


「はぁ……最初に言ったではないか。我は噂話と酒が好物なだけだと。

 酒の場では様々な話が聞けるでな?吟遊詩人はただのおまけにすぎぬ。

 して訂正だ……我はもう――『貴族令嬢ではない』のだ。」


「今の我は……『ゼクス』そう――家名など疾うの昔に捨て去った。」


 彼女の名乗った『ゼクス』――偽名であることは理解できる。

 しかしそれ以上、彼女の領域に踏み込むことは野暮だと判断した。


 令嬢に感謝を伝え、彼女が注文した酒の十杯分の硬貨を机に並べ――

 酒を一気に煽り、冒険者ギルドを後に、大図書館へと身を寄せるのだった。





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